イノベーション研究 第31回 リクルート アプリ・事業開発に不可欠な“頭と足腰”

執筆者情報
HR企画統括部
リサーチ&デザイン部
エグゼクティブプランナー
井上 功

本研究では、組織の中でのイノベーション創出のヒントを得るために、イノベーターの方々にインタビューを実施しています。

第31回は、株式会社リクルートホールディングスの柄川麻美氏にご登場いただきます。柄川氏は、弱冠26歳。リクルートに入社して4年ほどしか経っていません。その間を非常にダイナミックに駆け抜け、イノベーションを着実におこしています。

きっかけは、リクルートの新規事業提案制度New RINGへのエントリー。入社2年目にして準グランプリを獲得し、自ら新規事業開発セクションに異動します。そこでのイノベーション開発は正に八面六臂の活躍ぶりといっていい。考えて考え抜き、徹底して行動する。結果を踏まえ、また考え行動する。それも非常に軽やかに。こんな働き方ができるものなのか、とある種のカルチャーショックを味わいました。

正に百聞は一見にしかず。さっそく、柄川氏のイノベーションストーリーをご覧ください。


新規事業提案制度から巣立った
カップル専用いちゃいちゃアプリ

2013年10月、どんどん広がるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の世界で、リクルートからとうとうこんなサービスが飛び出した。いちゃいちゃアプリと銘打ったカップル専用SNSアプリである。

Facebook上で、無料で登録・使用できる同アプリ。その特徴はカップル限定という点にある。チャットも写真のやり取りも2人限定で、特にお気にいりのチャットは保存して見返すことができる。しかも、自分たちの写真やプロフィールを他のカップルに見せられる機能がついている。閉じてしまいがちな2人の世界を外に広げ、カップル同士の交際に発展させられるというわけだ。

このアプリはリクルートの入社2年目の20代の女性2人が、自分たちの等身大の感覚をもとに発案した。その1人が柄川麻美氏だ。

よく知られていることだが、リクルートにはNew RING(ニューリング)という新規事業提案制度がある。1981年にRING(Recruit Innovation Group)として創設され、1990年から現在の名称に変わり、以降毎年実施されている。

進め方はこうだ。所属を問わずチームを作り、新規事業のアイデアをレポートにまとめる。書類審査、役員による審査を経て入賞案件が決まる。『ゼクシィ』、『R25』、『ホットペッパー』、最近では『受験サプリ』などがこのNew RINGから生まれている。

このカップル専用アプリも長年続くNew RINGから巣立ったサービスだ。

「不」の話は盛り上がらず
等身大の違和感が基点に

柄川氏は2011年4月にリクルートに新卒で入った。志望動機は「この会社に入ったら、3年後はもちろん、1年後の自分すら想像できない。未来が見えなくてワクワクする」ということだった。

小学生の頃は宇宙飛行士に憧れていた。高校に入ると、一家に一台置かれるような、可愛く優秀なホームロボットを作りたいと思い、東大工学部に進み、念願のロボット工学を専攻する。

ところが、いざ就職となると、教育関係の仕事に食指が動いた。大学時代はロボット研究のかたわら、大手教育系企業でアルバイトし、社員並みに働いていた。教育は人生の選択肢を増やす手段の一つである。当時からそれが持論だった。その話をしたら、その会社の社員が「選択肢を増やすことで人生の幅を広げるという事業をやっているのがリクルートだよ」と教えてくれ、初めてその存在を知った。受けたらとんとん拍子で内定が出た。

入社して配属されたのが結婚情報誌『ゼクシィ』の営業だった。ホテルや結婚式場、指輪ショップ、写真スタジオといったクライアントを廻り、広告を提案する仕事である。「ゼクシィの営業には希望して行きました。本当は教育部門に配属されて新規事業をやりたかったのですが、1年目から理想の仕事に行くのもどうかな、と思ったんです。それ以外のところも経験しないと、せっかく大きな会社に入った意味がないと思いました。ゼクシィを希望したのは、クライアントも、これから結婚式を挙げる読者も、ゼクシィ事業部で働いている人も皆、とても幸せそうだったから」

翌年8月、入社2年目の夏にNew RINGに応募するが、そこに行くまでには試行錯誤があった。一緒に応募を考えた同期の女性メンバーと、自分たちが日頃、感じている「不」を洗いざらい出してみた。不満や不足、不利、不条理など、新しいサービスのきっかけになるような満たされざるニーズが明らかになれば、と思ったのだ。「ところが出てきたのが、朝起きられない、満員電車が嫌だ、仕事が忙しくて早く家に帰れない等々、到底、事業の種になるとは思えないものばかり(笑)。そこでもう一度、原点に立ち返って考えてみたんです」

とりとめもない話をしていくうちに、ある話題で盛り上がった。「ちょうど夏頃ですから、旅行先で撮ったと思われる写真がFacebookにたくさん投稿されていたんです。でもその大半が、女友達が1人で写っている写真や、料理や景色の写真ばかり。彼氏が写っているわけではないんですけど、雰囲気から、絶対恋人と一緒にいるって伝わってくるんです。女子会ではよく見せ合って盛り上がる恋人との写真も、SNSでは投稿しにくい。なぜだろう。この違和感で盛り上がったのです。そこから話が発展し、恋愛がもうちょっとだけオープンになったら、世界はもっとhappyになる!カップルがいちゃいちゃできる空間をSNSの中にも作ろう、と考えたのです」

意外性と思いの強さが評価され
みごと準グランプリ!

それはゼクシィの仕事での経験ともつながっていた。柄川氏は東京23区内にある結婚式場の営業担当だった。式場の利益はそこで式を挙げるカップルの数と密接に関係する。その数を増やすには、他の式場にはない魅力や打ち出し方を考える必要がある。「ライバルとなる式場を設定し、そこに優る魅力を伝えようと考え、広告を提案していましたところ、あるクライアントから言われたんです。そんなことより、結婚して式を挙げる人を増やして全体のパイを広げないとしょせんはゼロサムゲーム。本当はそこをリクルートに期待している、と」

結婚する人を増やすにはカップルが元気な世界を作ればいい。そう、いちゃいちゃアプリはマーケットにも必要とされていた。

カップル専用アプリの提案は、役員にも好評で、みごと準グランプリを獲得。2013年2月のことだ。その年の4月、このサービスの開発というミッションを携え、ゼクシィの営業から、新規事業開発を専門に行うMedia Technology Lab. (MTL)に異動。半年後の10月にアプリをリリースすると、日本のみならず、海外のカップルにも多く使われはじめた。

別のプロダクトの危機に
自ら手を挙げ、助太刀

そして2014年4月、転機が訪れた。当時MTLには約40人が在籍し、20のプロダクト(ほとんどがアプリ)を開発していた。その中で、ユーザー獲得に成功し、注目されていたのが「診断ティキット」というアプリ。「運命の人の名前診断」「中二病診断」「キスの上手さ診断」といった、手軽に楽しめて、思わず試してみたくなるようなユニークな診断が数百種類、用意されている(有名占い師のものなど、一部を除き無料)。

これが大当たりし、広告宣伝をまったく行わずに、「診断ティキット」は1年間にFacebook上で300万人の「いいね!」を獲得していた。それは国内Facebookページで、当時ナンバーワンの「いいね!」の数だった。

「いいね!」が多いということは、そのページを訪れるユーザーが多いということだ。次は本格的な事業化フェーズだとリクルートの上層部が判断し、突如、年間売上げと営業利益の高い目標が設定された。だがこの時、営業できる商品はなく、顧客が誰からも不明瞭で、本当に事業化が可能なのか、五里霧中の状況だった。

最悪なことが重なった。同じタイミングで、チームのリーダーが突然、退社してしまったのだ。つまり、3人チームのリーダーが抜け、残ったのはエンジニア2名……。柄川氏がここで登場する。「そこに私が手を挙げたんです。診断ティキットもやりますと。あまりに無謀な目標を聞いて、ワクワクしちゃいました」

唯一できた商品も一瞬で崩壊
1日30枚の商品案を書く

時間がない。当面、急ぐのは数字の達成である。1年で達成できなかったら、プロダクトもチームも存続が危うくなってしまうかもしれない。

自分たちの強みは何か。2人のエンジニアと話し合った。結論は明快だった。「いいね!」が大量にあること、「いいね!」を大量に集めるノウハウをもっていること。そこで、その強みを活かした商品を開発し、営業開始。蓋を開けてみると大当たり、想定以上に稼ぐことができた。

が、そこを悲劇が襲った。この商品を提供する仕組みそのものが、使えなくなってしまったのだ。唯一できた商品は、一瞬で瓦解した。

どうするか。うなだれている暇はない。もしかしたら目標達成できるかもしれない、と希望の光が見えてきた矢先の出来事だった。「唯一の商品がなくなっても、目標数字は1円も変わらず、ふりだしに戻った感覚でした。でも嘆く時間もなかったので、3人一緒に会議室に1日閉じこもり、ビジネスモデルを可視化する一種の企画書(リーンキャンバス)を30枚書きました。それをもとに、営業資料も作らず、翌日から企業にアポ取りして提案しまくりました。幸い、打率は結構よかったです。『それいい』と言っていただき、売れたものから開発していきました。まさに高速顧客開発でした」

何が商品になるかわからないので、営業も開発も多忙を極めた。標準化された商品がないからこそ、顧客のニーズを適切に汲み取った商品が開発され、結果、売上げも立ってきた。

一方、顧客開発と商品開発が同期したこのスタイルでは、1つの商品を開発し終わっても、新しい商品の開発が始まり、さらに広告運用の仕事も続く。柄川氏も慣れないプログラミングに携わり、徹夜も珍しくなかった。「案件が増えて忙しくなるのはしんどくなくて、逆にやり甲斐を感じていました。でも、すぐ売れてすぐ開発できる商品だけだと何も蓄積できず、事業も拡大しないことに気付いてしまったんです。このループを抜け出さなければまずいと危機感を抱き、長期的な施策を考えはじめました」

短期の課題と長期の戦略
どちらも走りながら考える

ところが、それは簡単なことではなかった。柄川氏は迷いの森に入ってしまった。リクルートがやる意義のある事業は、何だろう。考えても答えは出ず、考え抜くほど、前に進めなくなった。「このままでは本当にまずいと思いました。そんなとき、上司に言われたんです。走りながら考えろ、と」

走りながら考える。今期の目標達成と長期の戦略作りを並行して進めろ、という意味だ。この言葉が柄川氏を迷いの森から救い出した。頭の中で何度も反芻し、短期の目標達成と長期の戦略作りのどちらにも集中した。

最大の難題はチームのメンバーがたった3人ということだったが、朗報が入った。強力なアドバイザーがチームに加わってくれたのだ。早速、短期目標として2つの施策が定まった。

1つは、一社限りの提供で終わらない普遍性を担保しつつ、独自性もある商品の企画開発である。海外の同じようなサービスがどんな事業を展開しているかを調査した。取り入れられる要素は結構あった。

もう1つは、マーケティングの工夫である。「何に興味がありますか? 自分たちはこんなことができますよ」と客先に出向くよりも、クライアントから興味をもって近づいてくれた方が、営業効率が上がる。そのための仕掛けとして、昨年9月、リクルートとFacebook社が連携し、ソーシャルメディアにおける広告配信の最適化を検証する機関、アドテクノロジーラボを設立し、大々的に広報した。

FUNNY・LOVE・FANTASY
ちょっと変わった人たちが愛で繋がり、想像を超えた未来を創る

同時に、長期的な戦略作りも進めた。診断ティキットの資産は何なのか、を立ち返って考えてみると、「300万人を超す大量のユーザーを集めていること」という結論が出た。改めて市場を試算すると、年間数千億円の売上げが長期的に見込めることがわかり、そのための戦略を作った。

当初誰もが無謀だと思った売上げ目標と利益目標も、無事達成できた。「走りながら考えろ、と言ってくれた上司に感謝しています。短期実績だけでなく、長期を考えたからから大きな動きを起こせましたし、逆に長期戦略だけでなく短期実績を出していたから、長期の話も早く進められました」

入社後たった4年で、これだけ密度の濃い仕事を次々に担当した人はそうそういないだろう。それはリクルートだから可能なのか。それともITの世界ではこの密度とスピード感が当たり前なのだろうか。たった1年間、たった3人のチームで、誰しも無謀だと思った目標を達成し、数千億円の長期戦略を作って会社を動かしたのだから。

柄川氏が振り返る。「3人だけでは、この成果は出せませんでした。キーワードは、FUNNY・LOVE・FANTASYです。ちょっと変わった3人がおもしろいことをして成果を出していたら(FUNNY)、好きになってくれる仲間が増えていき(LOVE)、想像のつかなかった未来(FANTASY)をつくりだすことができました。この協働を進める上で、こっそりやってきたポイントも1つあるんですよ。仲間になってくれる人のことを、社内に説明するときは、あえて盛って期待値を高めておくんです。そうすると更に協力してくれる人が広がり、想像もつかなかったパワーを生み出せます」

リクルートは、「2020年に総合人材サービス領域でグローバルNo.1、2030年に人材領域・販売促進支援領域でグローバルNo.1」という中長期な戦略ビジョンを掲げた。その実現に向け、破壊的技術(Disruptive Technology)としてのAI研究に着目し、2015年4月1日にAI研究所が設立されたのだ。創業メンバーとなった柄川氏は、世界的権威をアドバイザーに迎える活動を水面下で行っていた。カーネギーメロン大学教授のTom M. Mitchell氏、Allen Institute for Artificial Intelligence CEO で元・米ワシントン大学教授のOren Etzioni氏など合わせて5名だ。ここでも柄川氏のFUNNY・LOVE・FANTASYの行動がいかんなく発揮されたのはいうまでもない。それは大胆かつ繊細。そして、とてつもないスピード感だったようだ。柄川氏のイノベーション創出の試みに、暫くは目が離せそうにない。

総括

柄川氏のイノベーション創出ストーリー、いかがでしたか?

では、さっそくイノベーション研究モデルを踏まえながら柄川氏のイノベーションを振り返ります。

注目するのは、【思いつく】【磨く】【事業化】までの流れとスピードです(図表01参照)。思いつき、磨き、事業化に至る流れがとてつもなく速い。WEBサービスの世界ではそれが当たり前なのかもしれませんが、それにしても速い。インタビューしていても、何かヒントとなることに気付いたら、頭のなかでまったく別のことを考えているような感じがしました。そして、その行動力も凄まじい。考えて行動するのではなく、走りながら考える。いや、全速力で疾走しながら冷徹にコンピューターを回している、という感じでした。

それでは、さっそく、柄川氏の行動を深掘っていきましょう。

図表01 イノベーション研究モデル

敢えて今までとは異なる道をゆく
不安定さを徹底して楽しむ

柄川氏の人生の選択ポイントにはある特徴があります。それは、敢えてそれまでとは異なる、変化が生まれる道を選ぶ、ということです。ホームロボットを作ろうと東大工学部にまで進みます。研究を続けるか、どこかの大手機械メーカーに入りロボットを開発するか、そんなキャリアを描くことは十分可能だったでしょう。しかし、柄川氏の選択は異なりました。人生の選択肢を増やす教育事業をやっているリクルートを選ぶのです。その理由が独創的です。「想像がつかないからワクワクする、めちゃくちゃ面白そう」

配属希望も柄川流です。教育部門の新規事業が当初の希望でしたが、「大きな会社は色々な仕事があるのだから、今まで経験したことのないことを敢えてやろう」との気持ちで、ゼクシィの営業に手を挙げるのです。リクルートの営業は、一見華やかに見えるところがあるかもしれませんが、実はとても泥臭い。いまだに一部のセクションでは飛び込み営業も行っています。そんな厳しい世界に自ら飛び込んでいったのです。

人は概して安定を望みます。安定した生活。安定した仕事。安定した会社。安定した収入。

しかし、安定が幻想であることもまた事実です。磐石だった大手企業が突然倒産し、誰もが信じて止まなかった経済成長が弾け消え、絶対的に安定した職業が脆くも崩れ去る。安定は永続しない。それは、環境が変化するからです。変化に対して対応することができること、変化に敢えて身を投じること、そこで自らの意志で徹底して動くこと。こうしたことが、安定につながるということもできるのです。

この研究インタビューの第13回で、株式会社アイスタイル代表取締役社長の吉松氏が話していたことが思い出されます。吉松氏は、常に新しい発想を生むために不安定な組織を創りつづけています。不安定な状態、カオスとも言うべき状況こそが、安定させるために何かが生まれたり動いたりすることにつながるのです。

柄川氏は不安定さを軽やかに楽しんでいるように見えます。カオスの中心にいるのです。

「不」からイノベーションはおきない?
きっかけはカップルの「不思議」

この研究インタビューにおいて、イノベーションを『経済成果をもたらす革新』と定義しています。それは、「不」の解消からおきていることが多い。「不」とは、不便、不満、不安、不利、不足、不条理、不具合、不潔、不測、不幸、不快、不十分、不自然、不健康といったものです。

リクルートの新規事業コンテストであるNew RINGにエントリーしようと、同期の女性メンバーと柄川氏も「不」を考えます。そこに出てきたのは前述したような不平ばかり。このような多くの不平も、もしかしたらイノベーションにつなげられたかもしれません。解決できない「不」はないと信じたい。しかし、「不」によっては、法律や社会慣習・文化、社会構造といった強固な壁が厳然と立ちはだかるのも事実です。

原点に立ち返り、偶然のなかで注目したのが、彼氏を巡る女子会とSNSでの扱いの差だったのです。女子会では彼氏の写真は見せてくれるのに、SNSでは彼氏は出てこない。変だね。なぜだろう? それは正に「不思議」です。

その「不思議」さは、ゼクシィの仕事経験と接続され、New RINGに提案されます。準グランプリを獲得し、事業のゼロサムゲームからの脱却を促すカップル専用アプリ開発につながります。「不思議」という「不」からイノベーションが創出されたのです。

イノベーションの絶対条件
想いの強さで前に進む

イノベーションを加速させるには、資源投入が必須です。人・モノ・カネ・情報・時間・技術・ノウハウ・顧客基盤等々。これらの資源を投入する意志決定は、企業の中でのイノベーション創出に限っていうと、経営者が行います。

では、イノベーションの意志決定をするために、経営者はどのようなことを知りたいのでしょうか?

図表02 経営者の質問

図表02は、新規事業を提案するときの必要最小限の構成要素と、経営者からの質問を考えたものです。New RINGのような新規事業提案コンテストは、皆さんの会社でもあるかもしれません。そこでは経営者が、「その事業は一体何? 一言で説明して」「その事業を行う理由は何? なぜ行うの? お客様は誰? 不は一体何?」「果たして市場はあるの?あるとしたらどの位?」「その事業でどのくらい儲かるの?」「競合企業はどこ?競合に勝てる?」「うちの会社でできるの? 技術やノウハウ、人はある?」といった矢継ぎ早の質問を投げかけます。仮にその質問に淀みなく答えられたとしましょう。

そして、概ね最後に出される質問がこうです。「これ、本当にやる気あるの? 明日から新規事業開発セクションに異動してもらうけど、それでもいい?」

イノベーションは、うまくいくかどうか分からないことに対して資源を投入し市場を創らなければいけない、という二重の矛盾を抱えています。上述した「その事業は一体何?」に始まるイノベーションの計画自体には、成功の保障はどこにもありません。未来の責任は本来的には誰もとることができないのです。しかし、経営者はそうはいかない。不確実で不安なものに対して意志決定をしなければいけないのです。

そこで、経営者は求めます。図表02の下にある、主体者の「やる気」「本気」を。

10代20代女子の共感度や、カップル専用アプリに対する想いの強さでは、柄川氏は経営者を絶対的に凌駕していました。その強さが経営者の首を縦にふらせたのです。想いの強さで前に進む。柄川氏の力の源ともいえるでしょう。

新規事業創出のプロセス
リクルートのNew RING

リクルートのNew RINGは、組織の中からイノベーションを創出することを促し、支援する装置でありプロセスです。2012年に持株会社と7つの事業会社に分社したのち、New RINGは、事業会社が独自に運営する新規事業提案制度と、リクルートホールディングスが主催するNew RING Venturesに分かれて運用されています。

そのNew RING Venturesは、毎月実施されています。総エントリー数は、2014年度で200件程度。一時通過案件数は11件。その中から4件の最終審査通過案件が生まれました。

この仕組み自体はオープンなものです。社外メンバーのみでのエントリーはできませんが、社外からメンバーに参加することは可能です。それは、オープン・イノベーションの座組みといってもいい。外の知恵を組織内に取り込むための装置といっても過言ではありません。

プロセスには客観的な評価基準があります。一定期間でスケールしなければ、撤退するというルールを設けています。そうでないと、人や組織のしがらみにまみれることになる。このようなことを避けるためにも、透明性の運営を担保しているのです。

私は入社して約30年余りずっとリクルートにいますが、営業や研究開発の立場で社外の方々とも常に接してきました。その経験則から類推すると、New RING Venturesや、各社のNew RINGが成立する前提は、人です。社会に対して問題を提起したい、社会課題を解決したい、ビジネスを創りたい、世界を本気で変えたい。野望のサイズは人それぞれですが、リクルートには何かしらの問題意識持ち、自律して動くことを厭わない社員が多い気がします。

その根底には、現在は不文律となっているリクルートのDNAがあります。

「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」

創業者江副浩正氏によって創り出された言葉が、連綿と受け継がれています。柄川氏もそのDNAを受け継いでいるのです。

【総括(文):井上功 /インタビュー(文):荻野進介】

PROFILE

柄川 麻美(えがわ まみ)氏
「可愛くて生活に役立つホームロボットを作りたい」一心で、東京大学へ入学。工学部に進学してロボット工学を専攻、研究テーマは「人とロボットの共生」。
2011年に新卒でリクルートに入社し、配属されたのはゼクシィの営業。都内の結婚式場を担当した。2012年の夏に、社内新規事業コンテストで準グランプリを獲得して事業化が決定、プロダクトオーナーとしてホールディングスのR&D組織へ異動。スタートアップのような組織のなかで、ゼロからのマネタイズなど事業開発を牽引。
2015年より、新設されたAI研究所で、エンジニアを束ねAI開発や事業接続に邁進中。

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