イノベーション研究 第29回 「東京マルシェ」 日本の高齢化リスクを減らせるか? 八百屋とヨガの意外な組み合わせ

執筆者情報
HR企画統括部
リサーチ&デザイン部
シニアコンサルタント
井上 功

本研究では、組織の中でのイノベーション創出のヒントを得るために、イノベーターの方々にインタビューを実施しています。

第29回は、アグリマス株式会社代表取締役の小瀧歩氏にご登場いただきます。

小瀧氏は、アグリマスの社長に至るまでに、13社もの企業を渡り歩いてきました。そのキャリアは厳しさと可能性の連続でした。主に金融の、いわば、資本主義のど真ん中で過ごしていたときに、自ら日本各地の過疎の村との出合いを創ります。そこからがイノベーションの始まりです。金融業界から身を引き、野菜の引き売り、カフェの軒先八百屋、八百屋ヨガ、介護ヨガとイノベーションは段階を追って進化します。

なぜ、金融業界から野菜の引き売りに? どうすれば、介護とヨガが繋がるの? 疑問は尽きません。そして、小瀧氏はその先に、「高齢者向け健康テレビ局」という構想も打ち立てているのです。

百聞は一見にしかず。早速、行動の塊ともいえる小瀧氏のイノベーションストーリーをご覧ください。


デイサービスが受けられ
野菜も買えるヨガスタジオ

東急池上線池上駅から徒歩5分の場所に、大きな遊具が置かれ、子供の声がこだまする公園がある。周囲は閑静な住宅地。その目の前にある建物の1階にあるのが「東京マルシェ」だ。中に入ると、薄暗い。ビートルズが流れるなか、高齢者が茶飲み話に興じていた。ほどなく、若い女性インストラクターが現れると、みんなが車座になり、呼吸の話が始まった。

そう、ここはヨガスタジオ。ヨガといえば若者のイメージがあるが、平日の午前中は高齢者ばかりだ。なぜなら、介護保険を使ったデイサービスの一環として、ヨガを教わっているからだ。名付けてエイジング予防ヨガ。高齢者は介護保険を使って、定期的に通ってきており、ヨガの後は有機の産直野菜をたっぷり使った手作りの昼食が供される。

面白いことに、ここ東京マルシェは、野菜販売スペースというもう1つの顔をもつ。デイサービスのない平日の午後や土日には産地直送の有機かつ機能性野菜が市価の3〜4割引きで売られている。もちろん、その時間帯もヨガはでき、料金は1時間1000円。こちらも市価の半額程度だ。ヨガに来た人が、身体に優しい美味しい野菜を買っていくというわけだ。

ヨガと野菜を組み合わせた不思議な店舗、東京マルシェは、現在、この池上店のほかに、目黒不動、田園調布、それに千葉県柏市と、合計4つの直営店舗がある(デイサービスを行っているのは池上店のみ。他に提携店舗が赤坂と八丈島にある)。

ヨガと八百屋の結びつき
最初は過疎村訪問から始まった

イノベーションは一見、何の関係性もないものを結びつけるところから始まる。新結合の実践だ。ヨガと野菜がなぜ結びついたのか。

東京マルシェを展開するのはアグリマスという会社で、創業社長が小瀧歩氏その人である。アグリはアグリカルチャーで農業のこと、マスは「いただきます」から来ている。農業いただきます、というわけだ。

現在47歳の小瀧氏の経歴がユニークだ。大学卒業後、不動産会社を皮切りに、計13社を渡り歩いてきた。税理士の資格を生かして、主に手掛けてきたのはベンチャー支援だ。それだけに徹していたら、“楽しい仕事”が続いたかもしれないが、2003年、火中の栗を拾う選択に出る。

当時、大阪証券取引所(大証)が創設した新興市場、ナスダック・ジャパンが上手くいかず、本家アメリカのナスダックが出資を引き上げ、消滅することになった。怒ったのはそこで上場した各社だ。株価が下がった、市場がなくなるのはおかしい、責任をとってくれ、という怨嗟の声があがった。

小瀧氏はその危機を救うため、請われて大証に転職、ナスダック・ジャパンに代わる新興市場の創設に力を尽くす。それがヘラクレス市場である。しかも大証自体の再生も含む、胃がきりきり痛むような仕事だった。

その後も厳しい仕事が続く。2006年には会計ソフト会社の弥生に役員として入り、親会社のライブドアが自らの再建のため、投資ファンドに弥生を710億円で売却するディールを成立させた。その際、100人の社員をリストラせざるを得なかった。確かに前代未聞のビッグ・ディールだったが、誰からも「ありがとう」と感謝されなかった。残った従業員からこう言われた。「お前たちが来て、会社がぼろぼろになった」

小瀧氏は決意する。もう止めよう、この世界から足を洗おうと。何をやるか、心は決まっていた。

実は大証で胃の痛い仕事に奔走していた時期、小瀧氏は疲れた心と身体を癒やそうと、暇をみつけては、日本各地の過疎村に出かけていた。山があって、田んぼがあって、川が流れている。そうした日本の原風景を見るだけで、満足だった。そのうち、仲間が欲しくなり、「週末は過疎村に行こう!」というメルマガを毎週発信することに。1年で会員が1500人にまでなった。

余勢を駆って、ロハスクラブネットワークという株式会社を仲間と設立し、農業ツアーなどを開催。さらには長野県小諸市と提携して市内の廃校を取得、小諸エコキャンプビレッジと名付けて農業体験教室を主宰するなど、都会人と農村人との交流の場を整備する。

小瀧氏が振り返る。「そうした活動を続けていくうち、野菜の宅配で有名な、大地を守る会の藤田和芳社長と知り合いになり、大いに励ましていただいたんです。君たちみたいなビジネスマンが、農業振興や農村の活性化を手掛けることは大いに意味がある、と。出資もしてもらいました。そんな方が活動に興味を示しお金まで出してくれたので、弥生の件で疲弊したとき、金融マンとの二足のわらじではなく、こっち一本で真剣にやるべきじゃないかという気持ちが強くなっていたのです」

人生をやり直そう
リヤカーで野菜の引き売り

農村交流はまったくお金にはならなかった。では何をやるべきか。

小瀧氏が出した答えがリヤカーを使った野菜の引き売りだった。名前は東京マルシェ。商標登録もできた。野菜を供給してくれる農家はそれまでのつながりから山ほどあった。

2010年8月から、当時、事務所を構えていた麻布十番を中心に、西麻布、広尾近辺で実際にリヤカーを引いた。「リヤカーによる野菜売りは、一回、素に戻ろう、戻って、やり直そうという修行の意味合いもありました。でもなかなか野菜が売れない。1日の売上げがせいぜい数万円です。しかも野菜は鮮度が命ですからロスが出ます。余ったら家に持ち帰り、家族みんなで食べました。そんなことは、以前はできませんでした。それも含めて、人生のやり直しという感じでした」

引き売りは1年で止め、カフェの軒先を借りた仮店舗形式に移行する。それでも売上げははかばかしくない。そこで考えたのが、八百屋ヨガだった。小瀧氏自身、10数年来のヨガ愛好者だった。ヨガも八百屋も、小瀧氏のなかでは同じ健康というキーワードでくくることができた。

八百屋とヨガスタジオを組み合わせ、ヨガに来た人に、より健康になるための安心・安全な野菜を買ってもらえれば、十分に事業として成り立つと考えたのだ。

2011年5月、「東京マルシェヨガ」を目黒不動尊商店街にあった空き店舗を利用して開設。全9坪の小さな店で、入り口付近の2坪が野菜スペース、後ろの7坪がヨガスペースだった。ヨガインストラクターを募集すると、100人もの応募があり、そこから10名に絞った。その人気に驚き、八百屋とヨガの組み合わせは案外いけるかもしれない、という感触を得る。翌年3月には同様の店舗を田園調布にも出した。

現場からの声でひらめく
デイサービス仕様のヨガを

頭で考えるだけではなく、行動してみると何かが分かる。そこから新たな道が開ける。当初は、ヨガは野菜を売るための客寄せの一部のように考えていたが、どうもヨガの方がよさそうだという感じになっていった。「どちらの店舗でも、ヨガ会員がどんどん増えていったんです。しかも、古くからの商店街なので、特に高齢者の方が多い。ある日、お客様がこう尋ねてきたんです。“介護保険は使えないの?”と。それではたと目覚めました。私の母親は実は介護福祉士を長年やっており、介護は身近な世界だったのですが、介護保険が使えるヨガスタジオという発想はまったくありませんでした」

小瀧氏は実現の可能性を探り始める。といっても、本を買い込んだわけでも、ウェブで検索をしたわけでもない。介護ヨガをやりたいと、いろいろな場面で、自ら情報発信を始めたのだ。

その1つの場が半蔵門にある社会起業大学だった。八百屋ヨガが軌道に乗り、その経験を話してほしいと、授業の講師として呼ばれたのだ。

そこで、起業ストーリーを話し、最後に「介護ヨガをやりたい」と締めた。拍手の後、何人かの受講者と名刺交換したところ、そのうちの一人が「私も介護分野で新事業を立ち上げたいと思っているので、相談に乗ってください」という。後日、詳しく聞くと、カフェが併設された次世代型のデイサービスをやりたい、ということだった。

渡りに船だった。そのカフェで野菜中心のメニューを出せばいい。ヨガは絶対、高齢者に受け入れられるはずだ。二人は意気投合し、小瀧氏はその青年を自社で採用する。

そこから、二人でプランを練り上げ、都の担当者に持ち込む。八百屋併設のヨガスタジオでデイサービス提供施設の認定を取りたいって? 最初は担当者もけんもほろろだった。だが二人はめげなかった。なぜ駄目なのか、どこを変えれば許可がもらえるのか、何度も食い下がった。

そうやって出来上がったのが、先に紹介したモデルだ。つまり、一般向けのヨガとデイサービス仕様のヨガを時間帯でしっかり区分けする。後者の時間帯は野菜も販売しない。それで許可が下りた。一方で、八百屋の看板は下ろさない。農業振興は創業以来の重要なミッションだからだ。

新しい酒を入れるには新しい革袋がいる。そこで開設されたのが、冒頭で紹介した池上店なのだ。2013年1月のことで、正式名称を「東京マルシェ ヨガ・アンド・ウェルエイジング・スタジオ」という。

資金繰りでつまずき
殺し文句で窮地を脱す

この池上店がスムーズにまわるまでには紆余曲折があった。資金がショートしかけていたのだ。あと50万円、あと30万円と通帳の残高が日々減っていく。銀行は相手にしてくれない。「八百屋にヨガ?おまけにデイサービス?何ですか」という反応だった。ベンチャーキャピタルも大同小異だった。スタッフにも事情を話し、「潰れるかもしれないが、そのときは就職先を世話するから」と言っていた。

小瀧氏は遂に奥の手を出した。自分のメンター、一番大切な友人の一人に出資してくれるかもしれない企業への仲介をお願いしたのだ。そのときに紹介してもらったのが、九州は福岡に本社のある調剤薬局チェーンの会社、トータル・メディカルサービスである。まずは財務の責任者に会わせてもらったが、出資は断られてしまった。

ところがその責任者の部下が小瀧氏を慕ってくれ、社のオーナーに会わせてくれたのである。それも、都内でのアポイントのため、羽田からの通り道の30分だけ、池上店に立ち寄ってくれたのだ。

小瀧氏はかねて準備していた言葉を口にした。介護予防を目標とし高齢者にヨガレッスンをデイサービスとして提供していること、ヨガが高齢者の健康保持に大きな効果があること、運転資金が枯渇し、とりあえず2000万円が必要なこと。最後に、殺し文句的にこう付け加えた。「薬に頼らずに実現する健康保持こそ、御社のような調剤薬局が目ざすべき本来の姿ではないか」と。

オーナーもさすがだった。「面白い。2000万円なんて小さいことを言うな。やるならがっちりやれ。2億、出そう」。それまでたった5分だった。

ヨガのライブ映像発信で
デイサービス体制の変革を

野菜の引き売り、カフェの軒先八百屋、八百屋ヨガ、介護予防ヨガと4段階に進化した小瀧氏のビジネスは次の段階に差しかかっている。

ヨガのライブ映像配信である。池上店で日々行っているヨガの映像を、インターネットを介してライブで配信するのだ。

配信先として想定しているのは、まずはスタッフ不足で運動プログラムがつくれない介護施設だ。入居している高齢者が映像を見て身体を動かせばいいから、運動の担当者が不要になり、参加者のアシストに回すことができる。

個人宅もターゲットとなる。ヨガは認知症予防にも効果があると言われており、ニーズは大いにあるはずだ。また、介護疲れのご家族のメンタルケア、リラックスなど、高齢者以外も対象となる。

企業の福利厚生需要も見込める。社員がリフレッシュしたいとき、ライブ映像を見ながら、空いている会議室でヨガができるのだ。「いろいろな可能性がありますが、まずやりたいのはデイサービス体制の変革です。今のモデルは運営資金の面で限界なんです。介護が必要な高齢者が今まで通りの頻度で、今まで通りデイサービスに通うとなると、社会保障費がパンクするのが目に見えています。われわれのライブ配信が上手くいけば、デイサービスにかかる費用を減らせるし、ヨガの力で要介護になるのを遅らせることができる。国も目の色を変えるでしょう。現に経産省が弊社のモデルに大いに関心を示しています」

何はともあれ、考えたことを試してみる。その結果によって、あるいは現場の声によって、新たな形に変わっていく。いや、変えていく。それが小瀧氏のやり方だ。

小瀧氏はこのヨガ映像のライブ配信を過疎地域から優先的に始める。村のスーパーや農産物直売所の一室に映像を配信しようというのだ。元気な高齢者が増えれば、地域は元気になる。過疎農村の活性化という小瀧氏の所期の目標は10年経って、「ヨガによる」という但し書きがついて実現することになるのだろうか。

総括

小瀧氏のイノベーション創出ストーリー、いかがでしたか?

では、さっそくイノベーション研究モデルを踏まえながら小瀧氏のイノベーションを振り返ります。

注目するのは、【組織外の情報、知識】と【思いつく】の間の領域の高速回転です(図表01参照)。小瀧氏は現地・現物・現場・現実に対応し続けます。対応というより、即応と言ったほうが相応しいかもしれません。しかし、単にその場対応を繰り返しているのではない。小瀧氏には、医療費を中心とした社会保障費が限界に近づいていることを踏まえた、日本のあるべき未来の姿が想起されているのです。それは治療医療より予防医療、平均寿命より健康寿命が大事にされる姿です。

そんな、大義ある小瀧氏の行動を深掘っていきましょう。

図表01 イノベーション研究モデル

行動が機会を創り
好機が行動を加速する

小瀧氏はとにかく行動の人です。新卒で不動産会社に入社して以来、13社を渡り歩いてきたそのキャリア自体も、極めて行動的です。それ以上に印象的だったのが、「週末は過疎村に行こう!」というメルマガを配信することになったくだりです。もともとの健康に対する興味やロハス志向が行動を加速したのだと思いますが、小瀧氏はとにかく動きます。

過疎の村は、その殆どが都心から離れたところにあるといっていい。休日のたびに実際に足を運ぶことだけでも、相当なエネルギーが必要です。ましてや、メルマガを配信し、ロハスクラブネットワークという株式会社を設立し、小諸市と提携し、著名な農業振興の経営者と知り合いになり、出資もしてもらう。ごく普通のサラリーマンにはほぼできない行動量でしょう。

行動は機会を創ります。新しいことを見聞きすると、自分自身はもとより、関係する人との間で何かしら得られるものがあるものです。異論・反論、同意・確認、納得・理解、共鳴・共振……、さまざまな気持ちが生じます。時として相手や自身の怒りを呼び覚ますことがあるかもしれません。それもすべて、小瀧氏にとっては新たな機会なのでしょう。行動が機会を創り、新たな機会によって行動が加速する。行動と機会の相克がイノベーションを生んでいるということができます。

機会を表す英単語に、ChanceとOpportunityの2つがあります。Chanceは、ラテン語の「cadens(偶然に倒れること)」、すなわち「偶然」という意味に由来しているそうです。そこには、努力をして自分の手で掴んだ機会ではなく、棚からぼた餅のように偶然手にしたものという意味があります。一方、Opportunityには「自分で引き寄せた好機」という意味があります。自分の努力次第で、どのような結果にもすることができる、という意志を含んでいるのです。小瀧氏が行動から獲得している機会は、正にOpportunityであり、好機ということなのです。

現地・現物・現場・現実
対象に入り込み、『不』を掴み、発信する

イノベーションを育む際に、対象物に入り込む、棲み込むことが、重視されます。対象物とは、現地・現物・現場・現実です。小瀧氏は、正にそれらを大切にしながら行動します。

野菜の引き売り、カフェの軒先八百屋、八百屋ヨガ、介護ヨガ、これらはみな、4現そのものといっていい。そこからさまざまな『不』を掴んでいきます。農家の不、都市生活者の不、ヨガインストラクターの不、高齢者の不、起業家の不……。このような不をどう繋ぎ、どう解消していくのか、を考え抜くのです。

その際の小瀧氏の特徴があります。それは、情報収集ではなく情報発信を重視する、ということです。もちろん、現地・現物・現場・現実に入り込むことで、五感をフルに活用して情報収集をしているのでしょう。しかし、収集だけでは誰かと繋がりません。小瀧氏は、情報を発信することに徹するのです。その場は、メルマガのようなソーシャルメディアであったり、社会起業大学のようなリアルな場だったりします。発信すると、受信する人がうまれます。受信者のなかには、共感する人も出てきます。そして、問題・課題・アイデア・計画が、仲間によって磨かれていくのです。

情報発信は、『訊く』ということかもしれません。『訊く』は『問う』というニュアンスに近い。普段からきこえているものをきくのは、『聞く』。心からきくのは『聴く』。「私はこう考えるのですが、あなたはどう考えますか?」が『訊く』です。それは、仮説がないとできません。

仮説の発信は、相手に考えを促します。次第に相手は巻き込まれていきます。小瀧氏のイノベーションは、現地・現物・現場・現実を軸にして、『訊く』を繰り返しながら進んでいるのです。

意味・意志・方法・環境
4つの連鎖がイノベーションを加速する

人の組織における行動を促進する要素として、意味・意志・方法・環境という4つがあると考えられます。

 ●その行動の意味が分かっているか?
 ●その行動をするための方法が分かっているか?
 ●その行動を支援するための環境があるか?
 ●その行動をする意志があるか?

野菜の引き売りのときから、小瀧氏は明確な意味、つまりその必要性を考え抜いていたのでしょう。産地直送の新鮮な野菜を都市生活者が食べることができる、そして農家は新しい流通ルートを確保することができる。双方の『不』を繋ぐことで、引き売りの意味を見出していたのです。

それは、現在取り組んでいるヨガのライブ配信でも同様です。介護とヨガを組み合わせて高齢者の予防医療に取り組む。ライブ配信をすることで、運動プログラムがつくれない介護施設のニーズを充たす。ヨガの力で要介護になる状態を遅らせることができる。ひいては日本全体の健康増進に繋がっていく。小瀧氏は行動の意味を噛み締めながら事業を進めているのです。

方法についてはどうでしょう。イノベーションを興す方法は、分からないことだらけです。あるやり方が上手くいったからといって、その方法を抽象化して他に展開しても、成功する保障はありません。そんななか、小瀧氏は、行動することで機会をつくる、という状況対応型イノベーションの本質を、方法論として理解しているに違いありません。対象に棲み込むことで、次の機会を掴んでいく。それを繰り返すことで機会が磨かれ、新たな価値に繋がる。現地・現物・現場・現実に対処するという方法を、日々徹底して磨いているのです。

環境とは、組織側の支援体制のことを意味します。大企業では、組織の中からイノベーションを興すのに必要な、人・モノ・カネ・情報・技術・時間・ブランド・顧客基盤などの経営資源を用意することができます。アグリマスではそうもいきません。そこで、小瀧氏は動きます。運転資金が枯渇した際の、出資者とのコミュニケーションのくだりは圧巻です。当座に必要な額の何倍もの資金を調達することに成功するのです。小瀧氏は、環境を自ら創っているのです。

最後は意志です。意志はすべてを支えます。意志がないと、物事は進みません。ましてや、上手くいくか分からない、非常に不確実要素の高いイノベーションの過程は、単なる意志ややる気だけでは乗り越えられない壁だらけです。

小瀧氏は介護福祉士の母親を持つことで、もともと福祉や介護が抱えている課題についての手触り感を得ていたのでしょう。加えて、過疎の農村の『不』や、身近な高齢者の『不』などが、この領域に対するイノベーションの意志を強化していった。そして、意志を軽々と越え、執念、いや情念に変容していったに違いありません。

意味・方法・環境・意志。小瀧氏のイノベーションは、この4つの連鎖と相互作用で加速していくのです。高齢者や過疎地域、そして日本の未来を見据えながら。

【総括(文):井上功 /インタビュー(文):荻野進介】

PROFILE

小瀧 歩(こたき あゆむ)氏
1967年5月24日生まれ。早稲田大学商学部、亜細亜大学院法学研究科卒業。
2000年金融機関からプライスウオーターハウスクーパースTAX部門にて税理士、株式公開コンサルタント。2003年ナスダック・ジャパン撤退報道を受けて、新興市場ヘラクレスの立ち上げに参画、ヘラクレス本部長に就任(2006年度新規上場会社数・過去最高を達成)。2007年弥生株式会社の経営企画・内部統制・CSR担当 執行役員に就任。弥生株式会社自体のM&Aプロジェクトの実務責任者、710億円のLBOを実現。2008年3月31日付弥生を退社、(食品偽装後の)赤福グループへコンサルタントとして赴任。8月より東京に戻り、株式会社イデアインターナショナルにてオーガニックコスメの専門子会社立上げ、取締役就任。2010年4月、農業支援、医農連携、エイジング予防の事業化を目指して独立。アグリマス株式会社 代表取締役 就任。2012年1月、ベルグアース株式会社(ジャスダック上場 苗販売数量日本一)社外取締役就任。
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