連載・コラム
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第32回
従業員の本音をAIが引き出すことでエンゲージメントを向上
- 公開日:2026/01/19
- 更新日:2026/01/19
総合DXサービスを提供する株式会社SHIFTは、AIを活用して従業員の課題や悩みを聞き取り解決につなげる仕組みを構築。導入のねらいと得られた効果について、同社ピープルアナリティクスラボの所長である福山晋太郎氏に聞いた。
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第32回
- 従業員の本音をAIが引き出すことでエンゲージメントを向上
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第31回
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- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第30回
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- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第29回
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- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第28回
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- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第27回
- テクノロジーに精通したヒューマニストでありたい
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第26回
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- データ活用の際に人事に必要な調査リテラシーは何か
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第23回
- 定量・定性の両面から現場にアプローチして人と組織を理解する
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第22回
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- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第21回
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- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第19回
- 「人事の脱エクセル」が進む可視化中心のピープルアナリティクス
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第18回
- 経営と目線を合わせたピープルアナリティクスが今後の鍵になる
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第17回
- マーケットデザインとマッチング理論で適材適所を促進する
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第16回
- 負荷を増やさずに人事データを民主化し意思決定を変える
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第15回
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使うことに価値を感じてこそ従業員はAIツールを利用する
入江:SHIFTの成長速度はすさまじいですね。今の社員数は何人ですか。
福山:2020年度の連結従業員数は4800人でしたが、24年度には1万3600人になりました。現在も年2000名を超えるペースで人を増やしています。
入江:すると、人事部門の重要性はますます高まっていきますね。
福山:そう感じています。ただし人事のリソースには限りがありますから、技術を使って従業員のエンゲージメント向上やパフォーマンスアップを効率よく実現するのがわれわれ「ピープルアナリティクスラボ」の役割です。
入江:「第10回 HRテクノロジー大賞」(「HRテクノロジー大賞」実行委員会が主催する、日本のHRテクノロジー、人事ビッグデータの優れた取り組みを表彰する大会)の大賞に輝いたAIエージェント「mentai(メンタイ)」も、福山さんたちが企画・開発したものですね。親しみやすい博多弁のキャラクター「めん太くん」が従業員と対話し、抱える悩みや課題を生成AIで解析して面談などのアクションにつなげる仕組みだそうですが、まずはこちらの開発背景について教えてください。
福山:当社では、従業員が在籍中に生み出す利益額を指す「LTV(Life Time Value)」の最大化を目指しています。これには、全エンジニアの「価値創出力」を高めつつ、在籍期間を長くすることが欠かせません。そこで、AIを活用して一人ひとりの現状を的確に把握し、エンゲージメントを高める施策につなげたいというのがねらいでした。
入江:従業員の現状把握にはエンゲージメントサーベイなどの手法もありますが、それでは不十分でしたか。
福山:従業員から見れば、従来型のサーベイは「面倒で回答してもメリットを感じられないもの」です。また、質問が画一的ということもあり、得られる答えは無難で表層的なレベルにとどまりがちでした。一方、mentaiは一人ひとりの状況に応じた対話で話題を深掘りできますし、そのなかで従業員を褒めたり共感を示したりもします。その結果、従業員の皆さんは安心感や楽しみを抱いて、積極的に書き込みを行うのです。
入江:なるほど。使うことに価値を感じるからこそ、従業員は自然にAIエージェントを利用するわけですね。
福山:そうです。その結果、企業側は従業員からリアルな本音を聞き取れます。そして、その場でAIが助言を与えて課題や悩みを解決したり、上司との1on1につなげてエンゲージメント向上をもたらしたりできるのです。
mentaiの導入により、退職の危険性がある従業員の予測精度は高まりました。また、退職リスクが高かった従業員の7割以上が、前向きな心理状態に変化したという結果も得ています。
経験の浅い管理職をAIツールが力強く支援
入江:「めん太くん」にはいくつかのモードが用意されているそうですね。
福山:はい。AIに癒やしや優しさを求めたいときは柔らかな口調の「たらこモード」、厳しい意見がほしいときは「辛子明太子モード」などを気分に応じて選べます。また、AIとの1on1では進行状況をバーで表示するなど、離脱しにくくする工夫も凝らしています。このあたりは現場で利用者の声を拾い、地道に改善を繰り返しました。
入江:そのあたりは一般のプロダクトと同じで、使いたいとユーザーに感じさせるUXを意識したのですね。
福山:そうです。それに、mentaiにはプロメンターのインタビュー技術を学ばせ、従業員が良い仕事をしたと伝えてくれたら、それに対していいタイミングと自然な言い回しで承認できるよう調整しています。利用者に寄り添い、彼らに満足度の高い体験を与えようと心がけているのです。
入江:急成長中の御社には、転職したばかりで部下の状況をつかみ切れていない管理職もいるはずです。そうした人にとって、部下の状況把握を支援するmentaiは強力なツールですね。
福山:おっしゃるとおりです。それに当社は以前から、各従業員の強みやスキル、経験した案件、目指すキャリアなど約450項目の情報を集約した人材マネジメントシステム「ヒトログ」を整備してきました。ここから得られる定量データと、mentaiから得られる対話データの双方を生かしたレコメンデーションの仕組みは、マネジャーをしっかり支えていると思います。
部下との対話という「ラストワンマイル」は人が担当すべし
入江:聞けば聞くほど、mentaiは従業員と企業の双方にとって、非常に優れた仕組みだと感じますね。
福山:ありがとうございます。でも、はじめからうまくいったわけではありません。ハルシネーションをどうやって防ぎながら業務に実装できるか、AIエージェント導入に合わせて社内の制度をどう変えるかなど、幅広い場面で試行錯誤と検証を繰り返しながら現在の形にアップデートしてきました。
入江:それにしても、mentaiが従業員との対話から退職予測の分析作業までこなしてしまうと、人に残された仕事は何だろうかと考えてしまいます。
福山:上司には「対話のラストワンマイル」という重要な役割があります。
当社では1on1を「①準備、②対話、③記録、④分析・予測、⑤アクション」の5段階で考えています。以前は①~⑤のすべてを上司が行っていたため、上司の負担は重く、ノウハウの属人化も起きやすかったのです。ところが、mentai導入後は①~④をAIがカバーするようになり、上司や人事担当者はAIでは扱えない重要課題の解決に集中できるようになりました。
入江:AIを導入しても、最終的な責任は人がとる仕組みなのですね。
福山:そうです。特に人事の領域では、最後の部分はAI任せにせず、人が扱うべきだと考えています。
入江:今後ですが、どのようなチャレンジを考えていますか。
福山:ここまで退職予防の部分で大きな成果を出すことができましたが、今後はもっと広い領域でもmentaiの活用を目指しています。例えば、mentaiから得られた情報とエンジニアやコンサルタントの成果を比較し、どの指標が売上に寄与するかを確かめる。mentaiを壁打ち役として従業員が自分に合った目標を設定できるようにする。現在社内で行っている各種アンケートをmentaiに切り替えるなどですね。
マルチエージェント化にも取り組んでいます。現在は、mentaiで得た情報をデータサイエンティストが手作業で要因分析しているのですが、これをAIエージェントが一定程度まで自動化する仕組みを作っているところです。
入江:要因分析の自動化などが実現すれば、人はさらに「人にしかできない仕事」に集中できますね。
福山:そう願っています。ただ、最初から完成度の高い仕組みを作ることは不可能ですし、完成度を高めるには泥臭い仕事をたくさんこなす必要もあります。AIは魔法ではありません。もちろんポテンシャルはとても大きいのですが、過度な期待は禁物です。
現状における人とAIとの違いは「情熱の有無」ではないかと思います。AIが秘める可能性と、人だけがもつ情熱をうまく組み合わせ、地道に実装することが大切だというのが、現時点での私の結論です。
【text:白谷 輝英 photo:伊藤 誠】


今回福山さんには、「mentai」という先端的なAIエージェントの話にとどまらず、ピープルアナリティクスの取り組み、その根底にある人的資本経営の考え方など、さまざまなことを伺いました。
本文には載せられませんでしたが、「会社経営は街の運営。人口を増やし、全員を輝かせ、流出を最小化する」というSHIFTの人的資本経営を象徴する言葉がありました。このように会社を「コミュニティ」と捉え、その住民である従業員に何ができるかを「情熱」をもって徹底的に考える姿勢があるからこそ、従業員体験を向上する仕組みが奏功しているのだと感じました。
福山さんの取り組みを、読者の皆様の組織に合ったAIエージェントの活用方法、その根底にある人的資本経営のブラッシュアップの参考にしていただければ幸いです。
※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.80連載「データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 連載第32回」より転載・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
PROFILE
福山晋太郎(ふくやましんたろう)氏
株式会社SHIFT ピープルアナリティクスラボ 所長
新卒入社した日本郵便で経営企画や新規事業開発、グループ全体のDX戦略策定などを担当。2021年、JTに転じてピープルアナリティクス組織を立ち上げ、AIを活用したデータドリブン人事の推進で成果を上げる。2024年にはSHIFTに移り、「ピープルアナリティクスラボ」を立ち上げて所長に就任。AIや統計学を活用した人事改革を進める。
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