データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第9回 NAONAで1on1ミーティングをもっと良いものに

電子部品メーカーの村田製作所(ムラタ)が、センシングデータプラットフォーム「NAONA」の提供を始めている。なぜ今、新領域のサービスを始めたのか。NAONAはどのようなものなのか。NAONAの戦略立案を手掛ける前田頼宣氏に伺った。


1on1ミーティングを日々継続的に改善できる

入江:「NAONA」と「NAONA x Meeting」がどのようなものなのか、まずはその説明からお願いできればと思います。

前田:「NAONA」は、これまでデジタル化できなかった「関係性情報」、例えば人同士の会話量や人の感情の推移などを可視化し、データ化するセンシングデータプラットフォームです。

この説明だけでは抽象的で少々分かりにくいと思いますので、私たちが最近開発した「NAONA x Meeting」というサービスを具体例に使いながら説明したいと思います。

NAONA x Meetingは、1on1をはじめとする対話や会話のセンシングを行い、データを可視化することによって、1on1ミーティング効果向上などの課題解決をお手伝いするサービスです。会議室などにマイクを置いておけば、その場で行われる対話・会話データを自動的に拾い上げ、発言の回数や割合、会話テンポ(1回当たりの発言時間)などを可視化します。このとき、生データではなく処理データだけを取得しているため、会話内容のプライバシーは保護されます。

このデータから、例えば「1on1のコミュニケーションの状態」が分かります。上司・部下の1回当たりの発言時間が、2人とも長いと「議論」、上司が長くて部下が短いと「ティーチング」、逆の場合は「コーチング」、2人とも短いと「雑談」と、上司部下のコミュニケーションのモード判定が可能です。

1on1ミーティングで最も良いのは、雑談を起点にして、コーチングやティーチングに進むことだといわれています。逆にいえば、議論ばかりのミーティングは、お互いが合意状態ではないことを反映しているのであまり良くない場合があります。議論していることが自覚できれば、それを雑談に変えていくきっかけを作ることができます。NAONA x Meetingを使えば、このような形で関係性情報を得ることができ、それをきっかけにして、上司の傾聴スキル向上、部下の自己開示度向上、両者のコミュニケーションの改善などを図っていけるのです。

つまり、NAONA x Meetingを上手に活用すると、1人当たりではかなり低いコストで、継続的に1on1ミーティングの質と社員のコミュニケーションスキルを改善し続けられるのです。機密情報を含むため、現時点でどの程度の改善が図れるかをデータで示すことはできないのですが、日々繰り返しフィードバックを得られるというのは、他にない特徴だと思います。Off-JTのコーチング研修などの弱点は、どうしても時間が経つうちに効果が薄れていってしまうことですが、NAONAはまさにその弱点をカバーすることができるのです。

また、このような方法は、採用面談・対面販売などのトーク技術向上にも応用が可能です。

センシング方法としても「ウェアレスセンシング」にこだわっています。マイクを会議室に置くだけで、意識しなくてもデータを得られるのもメリットです。日常的に使うものだからこそ、放っておいてもデータが活用できる、というのは意外と大きいのです。

カメラなどの他デバイスも簡単に組み合わせられる

入江:なぜ、電子部品メーカーのムラタが「NAONA」を開発したのでしょうか。その経緯を教えてください。

前田:ムラタは以前から各種センサを作ってきましたから、IoTは気になる存在でした。そこで3年ほど前、IoTで何か新しい取り組みができないかと始めたのがNAONAです。

電子部品メーカーのムラタにとって、NAONAのようなデータビジネスに進出することは確かにチャレンジングです。ただ、実はムラタは、こうした挑戦を繰り返してきた会社です。現在村田製作所の売上全体の30%ほどを占め、1つの柱となっている通信モジュールなどの「モジュール事業(部品の集積化事業)」も、もとは新規事業として始められたものです。私は、ムラタの次のビジネスの柱の1つとしてNAONAを育て上げられればと考えています。

なお、各種センサなどの電子部品や、ゲートウェイなどのハードウェアを使っていますから、飛び地のビジネスとは考えていません。私たちは「レイヤーを上げたビジネス」と位置づけています。

入江:NAONAの強みはどのようなところにあるのですか?

前田:サービス面では、先ほどの説明のとおり、会話内容のプライバシーを守りながら、今まで得られなかった関係性情報を日々簡単に取得し、フィードバックできる、というのが強みです。

技術面では、ありとあらゆるデバイス、ライブラリを簡単に実装する仕組みを構築しているため、簡単にデータを組み合わせられることが大きな強みになっています。例えば近い将来、マイクだけでなくカメラも組み合わせたいと考えているのですが、その際には、すでに世の中に出ている360度カメラをすぐに取り付けられるのです。こうした技術力の高さは、ムラタならではだと思います。

人の“意図”をセンシングするプラットフォームを目指して

入江:今後、NAONAはどのような展開を考えているのですか?

前田:直近の展開からお話しすると、現状のNAONA x Meetingはマイクだけですが、そこに今お話ししたように360度カメラなどのデバイスを組み合わせていきたいと考えています。360度カメラを組み合わせれば、例えば、プレゼンテーションを評価し、プレゼン能力の向上を促せるようになるでしょう。カメラの映像を通して、どれだけの人が真剣に聞き入っているのかを関係性情報として捉えることができれば、プレゼンテーションの評価が可能なのです。

また、大日本印刷様では、NAONAのデータと部屋の照明設備を連動させて、会話状況に応じて、壁や明かりの色が変わっていくといったサービスを企画されています。何らかの形で対話者にリアルタイムにフィードバックできれば、コミュニケーション改善により効果があると思います。他にも、現場の方々が必要としている新サービスをいろいろと開発している最中です。

一方で、私たちが将来目指しているのは、複数のセンサソースを利用して、人の“意図”をセンシングするプラットフォームです。一例をお話しすると、「この画面を向こうの壁に映して」という曖昧な指示だけで、「向こう」がどこかを理解して、すぐに思いどおりの場所に画面を映し出してくれる、というようなサービスに利用できるようなデータを提供することを構想しています。可動式プロジェクターや可動式モニターがまだ世の中にないので、このサービスは現時点では不可能なのですが、デバイスさえ進歩すれば十分に実現可能でしょう。

最終的には、そうやって仕事や生活の幅広いシーンで使われるサービスを開発し、皆さんの仕事や生活をもっと楽に、もっと楽しくできたらと考えています。NAONAは、そうした未来を実現できるだけの可能性を秘めたプラットフォームです。

【text:米川青馬】

人事領域では最近、「行動データ/客観データ」の活用に注目が集まっています。また、個人個人の特徴ではなく、集団の特徴を捉えることにも関心が高まっています。そのなかで、対話などの「集団」の「行動」特性を捉えるNAONAは、今後利用価値が高いツールになると思いました。

利用者の体に身に付けるウェアラブルではなく、「身に付ける必要がないウェアレス」というのも、私たちの日常の自然な振る舞いを捉える上で利点になると思いました。私たちも、いろいろな実証実験にチャレンジしたいと思います。

今後は人事領域に限らず、前田さんの目指す、「人の“意図”をセンシングする」ことを通じて、私たちの仕事や生活をより魅力的で快適なものとするツール・サービスを開発していただくことが非常に楽しみです。

【インタビュアー:HAT Lab 所長 入江崇介】

※HAT Labとは
正式名称HR Analytics & Technology Lab。リクルートマネジメントソリューションズが先進技術を活用して「個と組織を生かす」ための研究・開発を行う部門。中心テーマは、データサイエンスとユーザーエクスペリエンスの向上技術。所長は、2002年入社後、一貫して人事データ解析に関する研究・開発やコンサルティングに携わる入江崇介が務める。


※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.55連載「データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 連載第9回」より転載・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
前田 頼宣(まえだ よりのぶ)氏
株式会社村田製作所 モジュール事業本部 IoT事業推進部 データソリューション企画開発課 マネージャー

2008年村田製作所入社。電子部品の材料開発に4年間携わった後、ゼロ・エネルギービルディングに関する新規事業企画と開発リーダーを担当。企画系人材育成プログラム立ち上げを経て、IoT事業推進部に合流。NAONAプラットフォームのコンセプト立案に初期構想段階から参画、現在は戦略立案を担当。

バックナンバー第1回 「統計モデリング」には人事のあり方を変える力がある(専修大学 岡田謙介氏)

第2回 これからの人工知能はパーソナル化して“感性”に最適化される(SENSY株式会社 渡辺祐樹氏)

第3回ピープルアナリティクスで人財ポートフォリオの転換、社員の活躍促進を目指す
(株式会社日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部 ヒューマンキャピタルマネジメント事業推進センタ People Analytics Lab 主任 中村亮一氏)


第4回 人事部門に必要なデータ活用には特有の難しさがある(滋賀大学 河本 薫氏)

第5回 最後のフロンティア“脳”の計測技術が生活の質を向上させる(株式会社NeU〈ニュー〉長谷川 清氏)

第6回 人事系データの分析課題の多くは「可視化」で解決できる(株式会社イノヴァストラクチャー 三好淳一氏)

第7回 グローバル市場で技術力で勝つ日本企業を増やしたい(ファインディ株式会社 CEO 山田 裕一朗氏)

第8回 伝え方次第でデータの効果は0にも100にもなる(一般社団法人 日本スポーツアナリスト協会(JSAA) 代表理事 渡辺 啓太氏)

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