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連載・コラム

データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第1回

「統計モデリング」には人事のあり方を変える力がある

  • 公開日:2017/09/15
  • 更新日:2026/06/01
「統計モデリング」には人事のあり方を変える力がある

「HR Tech」「HR Analytics」という言葉に代表されるように、人事でのデータ活用が注目されている。しかし、人事部にはこれまでデータサイエンスに縁がない方も少なくない。そこで、今回から始まる連載“データサイエンスで「個」と「組織」を生かす”では、その最前線を紹介していきたい。今回は、ベイズ統計学を専門とされる専修大学の岡田謙介先生に、弊社HAT Lab マネジャー 入江がお話を伺った。

本シリーズ記事一覧
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第33回
因果分析のデータと人事の「肌感覚」を対話ですり合わせる
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第32回
従業員の本音をAIが引き出すことでエンゲージメントを向上
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第31回
360度評価に潜むバイアスをアルゴリズムで除去
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第30回
HRBPとCoEが連携し人事データの活用を「社内文化」にする
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第29回
LLMでアンケートの自由記述回答分析を大幅に省力化できた
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第28回
ピープルアナリティクス浸透のカギは文化とリーダーシップ
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第27回
テクノロジーに精通したヒューマニストでありたい
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第26回
仏教×データ分析で働く人の幸福度を高め企業創りを支援する
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第25回
生成AIが普及したら人間ならではの仕事を行う姿勢が大事になる
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第24回
データ活用の際に人事に必要な調査リテラシーは何か
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第23回
定量・定性の両面から現場にアプローチして人と組織を理解する
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第22回
適性タイプ分類モデルでバランスよく多様な人財の採用に成功
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第21回
社員の「ワクワク感」を高めるEX観点を日本の常識にしたい
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第20回
「信頼」を科学してイノベーションを生み出す日本にしたい
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第19回
「人事の脱エクセル」が進む可視化中心のピープルアナリティクス
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第18回
経営と目線を合わせたピープルアナリティクスが今後の鍵になる
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第17回
マーケットデザインとマッチング理論で適材適所を促進する
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第16回
負荷を増やさずに人事データを民主化し意思決定を変える
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第15回
人的資本投資の開示・マネジメントツールISO30414
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第14回
データサイエンスとビジネスの橋渡しが最も大事で難しい
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第13回
他社が始めたから自分たちも、という意思決定でよいのか
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第12回
スマートビルが横や斜めのつながりを増やして創発を促す
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第11回
アナリティクスを人事の現場に普及させたい
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第10回
創造性を科学し社会価値創造のエコシステムを作る
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第9回
NAONAで1on1ミーティングをもっと良いものに
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第8回
伝え方次第でデータの効果は0にも100にもなる
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第7回
グローバル市場で技術力で勝つ日本企業を増やしたい
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第6回
人事系データの分析課題の多くは「可視化」で解決できる
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第5回
最後のフロンティア“脳”の計測技術が生活の質を向上させる
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第4回
人事部門に必要なデータ活用には特有の難しさがある
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第3回
ピープルアナリティクスで人財ポートフォリオの転換、社員の活躍促進を目指す
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第2回
これからの人工知能はパーソナル化して“感性”に最適化される
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第1回
「統計モデリング」には人事のあり方を変える力がある
注目されつつある「HR Analytics」
統計モデリングを行うことでデータから意味が抽出できる
採用テストも大学入試と同じように分析できるはず
統計にはさまざまな分野で活用できる可能性がある

注目されつつある「HR Analytics」

入江:連載の第1回目は、ベイズ統計学が専門の岡田謙介准教授にお話をお伺いします。先生にまず伺いたいのは、最近の統計学やデータサイエンスの流行についてです。

岡田:昨今、方法と手段が整ってきたこともあり、ビッグデータの分析が社会のあらゆるところで行われています。それに伴い、たとえば、企業のマーケティング部門、製薬メーカーなどで統計学の知見・手法を使いこなせる方が確実に増えています。また、その流れに合わせて、データサイエンス系の学部や専攻を新設する大学も相次いでいます。あと4、5年もすると、データサイエンスや統計学に詳しい社会人や学生が、日本にもかなり増えてくるのではないでしょうか。

入江:「人事」 の世界でも「HR Analytics」が注目されつつあるのですが、データ活用がまだ十分に浸透していません。そこで、ぜひ人事をはじめとするビジネスパーソンの方々に、統計的手法を使ってデータ分析を行う際のヒントをいただけたらと思っています。

岡田:実社会でデータを扱うにあたっては、「統計モデリング」を活用することで、現象の理解と将来の予測を同時に行うことができるようになります。

統計モデリングは、大量のデータと計算機の力を利用して分類や判別を行う「機械学習」的なアプローチと対比されます。ただ、機械学習がとりわけ有効となるのは、データが整然としていないもののその量が非常に大きい場合や、目指す結果が明確な場合です。前者の例としてはインターネット検索、後者の例としては囲碁や将棋が挙げられるでしょう。

一方で、テストや調査によって整理された形でデータが得られている場合や、現象を理解して一般的な知見を得たい場合には、統計モデリングによって、データが得られたメカニズムを反映しながら推論や予測を行うことが有効です。

統計モデリングを行うことでデータから意味が抽出できる

入江:では、統計モデリングについて、もう少し詳しく教えてください。

岡田:「統計モデリング」とは、ひとことで言えば、データが得られたメカニズムについての仮説や理論を表現できるモデルを構築することです。

統計モデリングを活用した例は、実は世の中に数多くあります。人事の方々に身近な例としては、TOEIC・TOEFLなどに使われている「IRT(項目応答理論)」でしょうか。IRTは、個人の能力値やテスト項目の難易度を推定できる統計モデルです。これを用いることで、異なる回のテストを受けた受験者たちを同じ基準で採点することができます。

また、プロ野球が好きな方は、「セイバーメトリクス」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。野球のさまざまなデータを統計学的に分析し、そのチームが勝ちを増やすためには、防御率を上げるのが効果的か、打率を高めればよいのかといったことを推論できる枠組みです。これも、統計モデリングによってデータを活用している好例です。

入江:なぜ統計モデリングが重要なのでしょうか。

岡田:統計モデリングを行えば、モデル同士を統計学的に比較したり、信頼性を評価することを通して、役に立つモデルを構築していくことができます。そして、データが得られるメカニズムを(人間である私たちが)論理的に理解し、これを活用して次の施策を打つことができます。もっと平たく言えば、統計モデリングをすると、そのデータの持つ意味を理解して役立てることができるのです。

たとえば、先ほどご紹介したIRTのバリエーションとして「認知診断モデル」があります。この枠組みで仕事・学習・スポーツなどのデータを分析すると、個々人がどのような点が得意なのか、苦手なのかを推定することができます。ここから、目標を実現する上でどこを改善すればよいかが具体的に見えてきます。つまり、認知診断モデルは、利用者を直接サポートできるのです。これなどは、人事の方々にも興味を持っていただけるのではないでしょうか。上手に使えば、従業員の業績アップ・能力アップにもきっと効果があるはずです。

採用テストも大学入試と同じように分析できるはず

入江:多くの企業で採用テストを行っているのですが、そのデータはあまり分析されていません。もし入社後の活躍状況と採用テストの成績を分析して、優れた統計モデルを生み出せたら、採用テストの効果を高められるのでしょうか。

岡田:十分に可能だと思います。私がそう考えるのは、採用テストと似た分野に「大学入試」があるからです。日本の大学でも、専門のセンターや部局を設けて、エビデンスに基づいて入学者の選抜を行う取り組みが近年本格化してきています。たとえば、入学後の学生を追跡調査して、入試成績と入学後の成績との間、大学入試基準と社会が求める能力との間の関係などが定量的に調査されています。採用テストでも同じようなことができるのではないでしょうか。大企業が有する採用テストのデータ量は膨大ですから、もし優れた統計モデルを開発できれば、インパクトは大きいでしょう。

入江:ただ、企業のデータ分析の難しいところは、入社後の活躍状況を測る指標、つまり人事評価が必ずしも信頼できない点です。企業の人事評価はどうしても評価基準がブレてしまったりすることが多いのです。たとえば、3期連続で最低評価だと降格のルールがある会社では、3期目は恩情で評価が甘くなるといったことがよく起こります。

岡田:もし、3期目は評価が甘くなりがちといった傾向がわかっているのであれば、統計モデリングによってその影響を取り除くことは十分に可能です。

統計にはさまざまな分野で活用できる可能性がある

入江:採用テストの改善や能力向上のほかにも、離職率の低下など、統計にはさまざまな分野で活用できる可能性があります。それが、多くの人事の方に伝わればと思っています。

岡田:実際、マーケティングに携わる方々の仕事内容はビッグデータ分析が主流になってから変わったと思います。同じようなインパクトが人事領域に起きても何の不思議もないと思います。

入江:今後、データ活用がさらなる進化を遂げることもありそうでしょうか。

岡田:そうですね。少し難しい話になりますがご紹介をすると、ベイズ統計がいま注目を浴びている大きな理由は、「マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC法)」の発展にあります。 MCMC法を使うと、ベイズ統計の枠組みで現象に合わせた柔軟な統計モデリングができ、活用範囲が大きく広がるのです。これは、複雑な実社会のデータ分析でベイズ統計的アプローチがよく使われるようになった大きな理由です。統計学はこのようにどんどん進歩していることを、最後に知っていただけたらと思います。

【text:米川青馬】

KEY WORD
HAT Labマネージャー入江の解説

人事データのなかには、他者に対する評価、自己評価など、さまざまな「歪み」を伴うものが少なくありません。また、採用テストであれば、入社者はそのテストによってスクリーニングされた人だけになるというように、人事慣行に伴う特有の現象が起きます。

このような性質をよく理解した上で、ふさわしい方法を選択することによって、人事データからより有効な情報を引き出すことができます。

ソフトウェアを使えば簡単にデータ分析ができる昨今だからこそ、安易に、適切ではない分析を行ってしまうリスクがあります。分析対象となるデータや検証したい仮説に合わせた手法を選択する「統計モデリング」が重要であるという岡田先生のご指摘は、今後ますます重要になってくるように思います。

【インタビュアー:HAT Lab マネジャー 入江崇介】

※HAT Labとは
正式名称HR Analytics & Technology Lab。リクルートマネジメントソリューションズが先進技術を活用して「個と組織を生かす」ための研究・開発を行う部門。中心テーマは、データサイエンスとユーザーエクスペリエンスの向上技術。マネジャーは、2002年入社後、一貫して人事データ解析に関する研究・開発やコンサルティングに携わる入江崇介が務める。

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.47 「データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 連載第1回」より抜粋・一部修正したものです。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
岡田謙介(おかだけんすけ)
専修大学 人間科学部 准教授 博士(学術)

2004年東京大学教養学部卒業。2009年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。専攻は心理統計学・ベイズ統計学。著書に『伝えるための心理統計』(共著・勁草書房)、『非対称MDSの理論と応用』(共著・現代数学社)、『統計学のための数学教室』(監修・ダイヤモンド社)などがある。

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