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連載・コラム

データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第1回

「統計モデリング」には人事のあり方を変える力がある

  • 公開日:2017/09/15
  • 更新日:2024/04/11
「統計モデリング」には人事のあり方を変える力がある

「HR Tech」「HR Analytics」という言葉に代表されるように、人事でのデータ活用が注目されている。しかし、人事部にはこれまでデータサイエンスに縁がない方も少なくない。そこで、今回から始まる連載“データサイエンスで「個」と「組織」を生かす”では、その最前線を紹介していきたい。今回は、ベイズ統計学を専門とされる専修大学の岡田謙介先生に、弊社HAT Lab マネジャー 入江がお話を伺った。

注目されつつある「HR Analytics」
統計モデリングを行うことでデータから意味が抽出できる
採用テストも大学入試と同じように分析できるはず
統計にはさまざまな分野で活用できる可能性がある

注目されつつある「HR Analytics」

入江:連載の第1回目は、ベイズ統計学が専門の岡田謙介准教授にお話をお伺いします。先生にまず伺いたいのは、最近の統計学やデータサイエンスの流行についてです。

岡田:昨今、方法と手段が整ってきたこともあり、ビッグデータの分析が社会のあらゆるところで行われています。それに伴い、たとえば、企業のマーケティング部門、製薬メーカーなどで統計学の知見・手法を使いこなせる方が確実に増えています。また、その流れに合わせて、データサイエンス系の学部や専攻を新設する大学も相次いでいます。あと4、5年もすると、データサイエンスや統計学に詳しい社会人や学生が、日本にもかなり増えてくるのではないでしょうか。

入江:「人事」 の世界でも「HR Analytics」が注目されつつあるのですが、データ活用がまだ十分に浸透していません。そこで、ぜひ人事をはじめとするビジネスパーソンの方々に、統計的手法を使ってデータ分析を行う際のヒントをいただけたらと思っています。

岡田:実社会でデータを扱うにあたっては、「統計モデリング」を活用することで、現象の理解と将来の予測を同時に行うことができるようになります。

統計モデリングは、大量のデータと計算機の力を利用して分類や判別を行う「機械学習」的なアプローチと対比されます。ただ、機械学習がとりわけ有効となるのは、データが整然としていないもののその量が非常に大きい場合や、目指す結果が明確な場合です。前者の例としてはインターネット検索、後者の例としては囲碁や将棋が挙げられるでしょう。

一方で、テストや調査によって整理された形でデータが得られている場合や、現象を理解して一般的な知見を得たい場合には、統計モデリングによって、データが得られたメカニズムを反映しながら推論や予測を行うことが有効です。

統計モデリングを行うことでデータから意味が抽出できる

入江:では、統計モデリングについて、もう少し詳しく教えてください。

岡田:「統計モデリング」とは、ひとことで言えば、データが得られたメカニズムについての仮説や理論を表現できるモデルを構築することです。

統計モデリングを活用した例は、実は世の中に数多くあります。人事の方々に身近な例としては、TOEIC・TOEFLなどに使われている「IRT(項目応答理論)」でしょうか。IRTは、個人の能力値やテスト項目の難易度を推定できる統計モデルです。これを用いることで、異なる回のテストを受けた受験者たちを同じ基準で採点することができます。

また、プロ野球が好きな方は、「セイバーメトリクス」という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。野球のさまざまなデータを統計学的に分析し、そのチームが勝ちを増やすためには、防御率を上げるのが効果的か、打率を高めればよいのかといったことを推論できる枠組みです。これも、統計モデリングによってデータを活用している好例です。

入江:なぜ統計モデリングが重要なのでしょうか。

岡田:統計モデリングを行えば、モデル同士を統計学的に比較したり、信頼性を評価することを通して、役に立つモデルを構築していくことができます。そして、データが得られるメカニズムを(人間である私たちが)論理的に理解し、これを活用して次の施策を打つことができます。もっと平たく言えば、統計モデリングをすると、そのデータの持つ意味を理解して役立てることができるのです。

たとえば、先ほどご紹介したIRTのバリエーションとして「認知診断モデル」があります。この枠組みで仕事・学習・スポーツなどのデータを分析すると、個々人がどのような点が得意なのか、苦手なのかを推定することができます。ここから、目標を実現する上でどこを改善すればよいかが具体的に見えてきます。つまり、認知診断モデルは、利用者を直接サポートできるのです。これなどは、人事の方々にも興味を持っていただけるのではないでしょうか。上手に使えば、従業員の業績アップ・能力アップにもきっと効果があるはずです。

採用テストも大学入試と同じように分析できるはず

入江:多くの企業で採用テストを行っているのですが、そのデータはあまり分析されていません。もし入社後の活躍状況と採用テストの成績を分析して、優れた統計モデルを生み出せたら、採用テストの効果を高められるのでしょうか。

岡田:十分に可能だと思います。私がそう考えるのは、採用テストと似た分野に「大学入試」があるからです。日本の大学でも、専門のセンターや部局を設けて、エビデンスに基づいて入学者の選抜を行う取り組みが近年本格化してきています。たとえば、入学後の学生を追跡調査して、入試成績と入学後の成績との間、大学入試基準と社会が求める能力との間の関係などが定量的に調査されています。採用テストでも同じようなことができるのではないでしょうか。大企業が有する採用テストのデータ量は膨大ですから、もし優れた統計モデルを開発できれば、インパクトは大きいでしょう。

入江:ただ、企業のデータ分析の難しいところは、入社後の活躍状況を測る指標、つまり人事評価が必ずしも信頼できない点です。企業の人事評価はどうしても評価基準がブレてしまったりすることが多いのです。たとえば、3期連続で最低評価だと降格のルールがある会社では、3期目は恩情で評価が甘くなるといったことがよく起こります。

岡田:もし、3期目は評価が甘くなりがちといった傾向がわかっているのであれば、統計モデリングによってその影響を取り除くことは十分に可能です。

統計にはさまざまな分野で活用できる可能性がある

入江:採用テストの改善や能力向上のほかにも、離職率の低下など、統計にはさまざまな分野で活用できる可能性があります。それが、多くの人事の方に伝わればと思っています。

岡田:実際、マーケティングに携わる方々の仕事内容はビッグデータ分析が主流になってから変わったと思います。同じようなインパクトが人事領域に起きても何の不思議もないと思います。

入江:今後、データ活用がさらなる進化を遂げることもありそうでしょうか。

岡田:そうですね。少し難しい話になりますがご紹介をすると、ベイズ統計がいま注目を浴びている大きな理由は、「マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC法)」の発展にあります。 MCMC法を使うと、ベイズ統計の枠組みで現象に合わせた柔軟な統計モデリングができ、活用範囲が大きく広がるのです。これは、複雑な実社会のデータ分析でベイズ統計的アプローチがよく使われるようになった大きな理由です。統計学はこのようにどんどん進歩していることを、最後に知っていただけたらと思います。

【text:米川青馬】

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HAT Labマネージャー入江の解説

連載第3回の経験は「多様な価値観の人と仕事をする経験」です。
ここでいう多様な価値観は必ずしも外国人との仕事の経験でなく、協力会社や他社、異業種の方と一つの課題にともに取り組むことも指します。
本連載の主人公である佐々木は、システムサポートのリーダーとして、シンガポールの現地法人にたった1人で出向します。ここで佐々木は、日本人とは異なる仕事の価値観、進め方に戸惑い、更に未経験のオフショア開発でのシステム改修を進めるために、中国との連携も求められました。当初佐々木は、孤軍奮闘しますが、半年経つ頃には現地での仕事を進めるためのコツをつかみ、また一皮向けて頼もしくなりました。

さて、このような海外赴任経験は、グローバル化が進展していくなかで決して珍しいものではなくなってきていますが、人材育成の観点でこの「多様な価値観の人と仕事をする経験」はなぜ重要なのでしょうか。前回同様、経験と学びに関する弊社の調査結果を見てみましょう。

HRDコンサルタントの解説

最も関連性が深いのは、当然ですが「多様性を理解する力」です。
2番目、3番目は、「組織・チームを運営する力」「他者の協力を得る力」となっています。
これは一つの解釈となりますが、この代表例が海外赴任経験である場合、日本にいるときよりも1~2段上の役割を担うことが多いため、中堅社員であれば、現地法人で管理職級の職務を担うことになり、チーム運営を経験することになります。また、多くの場合、リソースが潤沢にあるわけではないので、日本本社をはじめとした各部門の協力を仰がなければ仕事が進みません。これらのことから、「組織・チームを運営する力」「他者の協力を得る力」が鍛えられると考えることができます。

実際に調査でインタビューを行うと、
・「現地法人には社長と自分だけ日本人であとは現地採用のスタッフが3名だけで、与えられたミッションを全うするにはどうにもリソースが足らない」
・「とにかく他部門の協力を得られるかが生命線。そのためにはどんな工夫でもした」
といったコメントが多く寄せられました。

組織体制や階層別の役割が整備されている日本では、なかなか担うことのできない仕事が任され、やりきることが求められることで成長が促されることこそ、この経験の人材育成上の意味といえるでしょう。
しかし、現在グローバル化が進展するなかで、現地法人の体制も強化され、現地採用のプロパー社員のリーダー育成に取り組む企業が増えています。そのため、以前のように若手・中堅社員を派遣し、経験を積ませる機会が減ってきており、それに加えて赴任するタイミングが以前より遅くなっている傾向もみられます。
このような状況で経験をデザインしていくには、海外赴任以外の機会を検討することが重要になります。冒頭で、国籍の多様性以外にも多様な価値観は存在することを申し上げました。海外赴任は多様性の極地ですが、他社や協力会社、グループ会社などの間にも多くの違いはあります。そのような環境でミッションを遂行する経験を積ませることも一つの大切な成長経験となり、リーダー育成には有効だと考えます。

次回は、「権限が及ばない人を動かす経験」です。シンガポールにいる佐々木に大問題が降りかかります。

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