連載・コラム
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第28回
ピープルアナリティクス浸透のカギは文化とリーダーシップ
- 公開日:2025/01/27
- 更新日:2025/01/27

クニラボの武田邦敬氏は、富士通でHR分野のデータ活用チームを立ち上げて活躍した後、2023年に独立したデータ経営コンサルタントだ。ピープルアナリティクスの特徴、向いている人などについて詳しく伺った。
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第28回
- ピープルアナリティクス浸透のカギは文化とリーダーシップ
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- 目次
- ピープルアナリティクスの内製化支援に力を入れている
- 人事データ分析は「相関がない」が出発点
- 人事データ分析は論点がダイナミックに動く
- 他領域のデータ分析者が人事領域に合わないことは多い
- 探索的データ分析が好きな人は向いている
ピープルアナリティクスの内製化支援に力を入れている
入江:まず自己紹介をお願いします。
武田:私は2003年に富士通に入社し、前半はSEとして人事総務ソリューション開発に従事しました。2011年に、手を挙げて社内研究所に異動し、データサイエンティストへ転身しました。未経験で3年ほど七転八倒しましたが、最終的には機械学習を活用した新製品をローンチするまでになりました。
2018年、念願だったHR分野のデータ活用チームを立ち上げ、社内の人事データ分析プロジェクトに従事しながら社外コンサルティング活動を展開し、幅広い領域でピープルアナリティクスを経験。2019年より分析チームのマネジメントも開始し、データ分析初学者の実践的育成などを行いました。
そして、2023年よりクニラボを立ち上げ、データとITでビジネスに活力を与える活動を行っています。
入江:クニラボはどのような事業を展開しているのでしょうか?
武田:私が特に力を入れているのは、「人事データ分析チーム伴走支援サービス」をはじめ、ピープルアナリティクスの内製化支援の取り組みです。
具体的には、「人事担当者とデータ分析者の方向性を合わせるのに時間がかかる」「どのような分析をすれば業務に有用な知見を得られるか分からない」などの悩みを抱えるお客様に対して、論点を整理したり、分析チームのあるべき姿と課題を具体化したりするコンサルティングを行っています。
入江:内製化支援がうまくいくかどうかのポイントを教えてください。
武田:内製化支援の目的は、社内にピープルアナリティクスを浸透させることですが、社内浸透のカギは組織文化とリーダーシップにあります。分析結果を受け入れられる組織文化があるかどうか。人事部門トップや人事データ分析チームのマネジャーに、人事データを経営や人事の意思決定に反映させるという強い想いとリーダーシップがあるかどうか。この組織文化とリーダーシップがあれば、内製化支援はだいたい成功します。反対に両者が欠けている場合、私がいくら支援をしても、人事データ分析チームの成果がなかなか上がらず、うまくいきません。
人事データ分析は「相関がない」が出発点
入江:人事データ分析の難しさはどこにありますか?
武田:人事データ分析の場合、期待する相関関係が表れないことが圧倒的に多いです。例えば、エンゲージメントサーベイとパフォーマンスの相関関係があると推測して分析したが、相関がなかったといったことがよくあるのです。
私は、「相関がない」ことが出発点だと考えるようにしています。そこから他の変数を探ったり、他の仮説を立てたりして掘り下げていくと、何か分かることがよくあるからです。
ただ当然、相関関係が何もないこともあります。その場合は結果を正面から受け止めてもらうことが大事です。その上で、インタビューを通じ、別の変数を精査するとよいのではないかといったアドバイスをすることもあります。
人事データ分析は論点がダイナミックに動く
入江:武田さんは、ピープルアナリティクスもそれ以外の領域も経験が豊富ですが、人事領域のデータ分析にはどのような特徴がありますか?
武田:人事領域とそれ以外で明らかに違う点が1つあります。それは、人事データ分析では「論点がダイナミックに動く」ことです。
例えば、人事の皆さんと採用データ分析について話していたら、いつの間にか話題が配置や人材育成に移るようなことがよくあるのです。配置に関する相談から始まって、「一人ひとりにイキイキと働いてほしい」「上長に部下のキャリアをもっとよく考えてもらいたい」といった想いが次々に出てきて、マネジメント育成や主体的キャリア形成の話になったこともありました。
人事の皆さんは、それが普通だと感じるのではないかと思いますが、実は、これは他領域のデータ分析に関する議論とは性質がだいぶ異なります。
他領域のデータ分析者が人事領域に合わないことは多い
入江:人事の皆さんから、「他領域から人事領域に来たデータサイエンティストがフィットしなくて困っている」という悩みをよく伺います。この悩みは今の話と関係がありますか?
武田:もちろんです。他領域のデータ分析では、問いや仮説をロジカルに突き詰め、シャープなイシューを発見することが重要です。それができなければ、分析はたいがい失敗します。
例えば、製造系のデータ分析では製造工程上のボトルネックを論理的に推測し、課題発見や解決に必要なデータ分析ソリューションを提供するのが一般的です。また、WEBマーケティングの世界ではKPIをロジカルに決めることが重要で、KPIを明確に設定してから分析と効果検証に入っていきます。
ところが、ピープルアナリティクスの場合は、先ほど話したように人事の皆さんとさまざまな話をするうちに突然本音が出てきて、イシューが決まることが多いのです。ですから、採用データ分析の相談に乗っていたのに、配置のデータ分析をすることになった、というようなことがよくあります。
人事領域では、このような一見回り道に見える拡散的な対話に対応できるかどうかが問われます。
探索的データ分析が好きな人は向いている
入江:ピープルアナリティクスに向いている人の特徴はありますか?
武田:ピープルアナリティクスで最も多用するのは、データ可視化・相関分析・クラスター分析・主成分分析などの「探索的データ分析(EDA)」です。私のようにEDAが好きな人は向いています。
反対に、少なくとも現状はピープルアナリティクスで本格的なAIや機械学習を活用するチャンスはあまりありません。AIだけをやりたいという方は他領域を選んだ方がよいかもしれません。
なお、人事領域はデータ量が少ないと言われがちですが、それは偏見でむしろデータは多い方です。採用・配置などのデータが何年分も蓄積されているからです。ただし、データ加工に手間がかかることはよくあります。
入江:人事がデータ分析できるようになるのが理想だと言われることがありますが、どう思いますか?
武田:確かに、人事業務知識があり、人事特有の対話も得意でしょうから、その点では理想的です。ただ残念ながら、全員がピープルアナリティクスに向いているわけではないと思います。
一方で、お話ししたとおり、データサイエンティストも人事領域向きの人は限られます。ですから、データサイエンティストと人事の両方から適性の高い人を見つけ、専門家として育成する必要があります。私はいずれ専門家育成にも注力したいと考えています。
人事データ分析に取り組みたい人事の方は、最初はちょっとした疑問をデータで確認するところから始めるとよいと思います。何よりも興味関心を大切にして、データ分析を楽しんでください。そうすれば、少しずつ掘り下げていけるようになるはずです。
【text:米川 青馬 photo:伊藤 誠】


俯瞰的な視点からピープルアナリティクスを捉えるために、今回はさまざまな領域のデータ活用に精通するクニラボ武田さんにお話を伺いました。
武田さんのお話から浮かび上がってきたピープルアナリティクスの特徴は、物事が複雑に絡み合っているからこそ現れる、分析の過程で論点がダイナミックに動くことや、簡単には関係性の発見ができないということです。
だからこそ、多くの試行錯誤や、多様な人との対話が、インサイトを得る上での要となります。これらのことは決して簡単なことではなく、時には時間もかかります。このようなプロセスを歩み続けるために大切になってくるのは、武田さんのおっしゃるとおり、「データ分析を楽しむ」ことです。ぜひ、1人ではなく、社内や社外の仲間を作りながら、データ活用に挑戦してみてください。
※HAT Labとは
正式名称HR Analytics & Technology Lab。リクルートマネジメントソリューションズが先進技術を活用して「個と組織を生かす」ための研究・開発を行う部門。中心テーマは、データサイエンスとユーザーエクスペリエンスの向上技術。所長は、2002年入社後、一貫して人事データ解析に関する研究・開発やコンサルティングに携わる入江崇介が務める。
※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.76連載「データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 連載第28回」より転載・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
PROFILE
武田 邦敬(たけだ くにひろ)氏
クニラボ
富士通で人事総務ソリューション開発に従事後、社内研究所に異動しデータサイエンティストへ転身。2018年HR分野のデータ活用チームを立ち上げ、2019年より分析チームのマネジメントを開始。2023年よりクニラボを立ち上げ、データとITでビジネスに活力を与える活動を行う。
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