連載・コラム
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第27回
テクノロジーに精通したヒューマニストでありたい
- 公開日:2024/10/07
- 更新日:2024/10/07

パナソニックは、2021年にピープルアナリティクス専門組織を発足し、2年後にDigital HR Competition2023のファイナリストに選ばれたピープルアナリティクス先進企業だ。その特徴や考え方を推進リーダーであるパナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社の萩原章義氏に伺った。
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第28回
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- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第27回
- テクノロジーに精通したヒューマニストでありたい
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第26回
- 仏教×データ分析で働く人の幸福度を高め企業創りを支援する
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第25回
- 生成AIが普及したら人間ならではの仕事を行う姿勢が大事になる
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第24回
- データ活用の際に人事に必要な調査リテラシーは何か
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第23回
- 定量・定性の両面から現場にアプローチして人と組織を理解する
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第22回
- 適性タイプ分類モデルでバランスよく多様な人財の採用に成功
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第21回
- 社員の「ワクワク感」を高めるEX観点を日本の常識にしたい
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- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第19回
- 「人事の脱エクセル」が進む可視化中心のピープルアナリティクス
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- 経営と目線を合わせたピープルアナリティクスが今後の鍵になる
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- 負荷を増やさずに人事データを民主化し意思決定を変える
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第15回
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- アナリティクスを人事の現場に普及させたい
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- NAONAで1on1ミーティングをもっと良いものに
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第8回
- 伝え方次第でデータの効果は0にも100にもなる
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- 人事系データの分析課題の多くは「可視化」で解決できる
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- 最後のフロンティア“脳”の計測技術が生活の質を向上させる
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第4回
- 人事部門に必要なデータ活用には特有の難しさがある
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- ピープルアナリティクスで人財ポートフォリオの転換、社員の活躍促進を目指す
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第2回
- これからの人工知能はパーソナル化して“感性”に最適化される
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第1回
- 「統計モデリング」には人事のあり方を変える力がある
専門組織をもつ最大の強みは「機動性」の高さ
入江:まずはピープルアナリティクス課の紹介をお願いします。
萩原:パナソニックのピープルアナリティクス専門組織は2021年に発足したのですが、私たちが社内研究活動を始めたのは2016年です。翌年、プレ組織の「HRラボ」を創設し、グループ各社からメンバーを募りワーキング活動を行い、どこを目指すか、何から始めるかといったことを話し合い、合意形成しました。この活動を踏まえ、私たちは2018年にピープルアナリティクスプロジェクトを立ち上げ、データ分析などに取り組み始めました。そしてさまざまなことが形になってきた2021年、専門組織を発足したのです。
入江:ご自身の紹介もお願いします。
萩原:私は2004年にパナソニックに入社して、最初の10年は社内IT部門で人事システム全般の構築・導入・運用を担当するSEでした。そのなかで、人事に直接関わりたいと思うようになったのです。社内公募に手を挙げ、2015年に人事に異動しました。
入江:ピープルアナリティクス課は何をしているのでしょうか?
萩原:私たちは、「データとテクノロジーの力で、個人と組織の未来を紡ぐ」というミッションを掲げ、パナソニックグループにおける人事データ活用のあり方を構想しながら、人事関連統合データベースの構想・開発・運用、アプリケーション開発、データ分析やソリューション提案、関連領域の学術的研究・業界リサーチなどを行っています。
もちろん、グループ各社の多種多様な相談に乗り、人事データを活用して彼らの悩みを解決することが、私たちの主な役割の1つです。また、データの民主化を推進すると共に、社内の人事機能全体のデータリテラシーを向上させる施策にも力を入れています。
入江:社内にピープルアナリティクスの専門組織をもつ強みは何ですか?
萩原:最大のメリットは、機動性の高さです。2024年6月現在、当課には7名の専門家がおり、相談を受けたら、すぐに初動を起こせる体制を整えています。もちろん、大規模プロジェクトは外部の力を借りますが、私たちだけで完結できることも多くあります。人事データを活用し、迅速に課題を解決できることが一番の強みです。
なお、人事一筋の経歴をもつ者は1人もいません。私のようにテクノロジーやデータ分析の知見のある者が、強い志をもって人事知識を身につけているケースが多いです。そういったメンバーが社内のHRBPなどとタッグを組むのが現状ではベストだと考えています。
最も大事なのは高度かどうかではなく「効果」だ
入江:何に取り組んでいますか?
萩原:私たちは取り組みを「データ活用の3ステージ」に分けています(図表1)。第1ステージが、HRダッシュボードなどの「データの収集・可視化」。第2ステージが、エンゲージメント分析・経営幹部候補人材分析のような「データの分析」。第3ステージが、労務構成シミュレーションなどの「データの予測」です。ステージが上がるほど技術は高度になり、時間と労力が必要となります。
ただ、私たちは高度であればよいとは考えていません。最も大事なのは効果です。実は、第3ステージは、コストの割に効果が薄かったり、失敗したりすることも多いのです。私たちは社内相談を受けたとき、相談してきた人たちと一緒に課題仮説を立て、その仮説に合ったデータ活用をするようにしています。データ収集・可視化やデータ分析でスピーディーに解決できるなら、それに越したことはありません。
代表事例は「ポストと人のマッチング予測AI」
入江:具体的な事例を教えてください。
萩原:とはいえ、第3ステージの取り組みは重要です。その代表例として「活躍度予測機能」を紹介します。機械学習(AI)を使い、配置・任免時の「ポストと人のマッチング予測」を行うサービスです。AIが「そのポジションにはこの人材が適しています」と提案するのです。Digital HR Competition2023のファイナリストに選ばれました。
実は、「活躍度予測機能」は4年ほどかけて形にしたサービスです。高度な取り組みで、社内でも「いきなり一番難しい山に登ろうとしている」と言われました。私たち自身もそう感じていますが、なぜ取り組んだかといえば、第1に、「パナソニックで活躍するのはどんな人材か?」を分析できるようになるからです。これは私たちにとって極めて重要なことです。第2に、他にも今後必要となる多くのデータが拡充できると考えました。第3に、私たちの人事部で最も多いのが、配置・任免に関わるメンバーだからです。このサービスは、人事部に与えるインパクトが大きく、より多くの人事社員にデータドリブンの世界観を体感してもらう意味でも効果的だろうと考えたのです。いずれの面でも一定の成果がありました。
開発上、私たちが特に注意したことが3点あります。1つ目は、置換ではなく「補完」だということです。これはあくまでも人の判断を補完するサービスであり、配置・任免をすべてAIが行うということではありません。私たちは、ベテラン人事社員の知見による判断は精度が高いと思っています。ただ、全員がベテランではなく、熟達には時間がかかります。そこで経験を補完するためにAIを活用してもらいたいのです。
2つ目は、「社員にAIの特性を理解してもらう」ことです。例えば、AIが得意なのは過去の延長線上での予測であり、これまで社内にいないタイプの人材に光を当てるときにはあまり役に立たない可能性があります。AIは決して万能ではないのです。こうした理解を広めてリテラシーを高めるのも、私たちの仕事の1つと捉えています。
3つ目は、「人材のポジティブ面だけを提示する」ことです。人材のネガティブ面を提示することも可能ですが、それは極めて危険です。長所にフォーカスして、人材の可能性を広げるAI、組織にポジティブなスパイラルを起こすAIを開発することが倫理的に肝要だと考えています。
人事データ活用でさらに経営に貢献したい
入江:今後の方針や展望について教えてください。
萩原:ピープルアナリティクスは未来への投資であり、経営のコミットメントが欠かせません。私たちはデータ活用で経営に貢献したいと考えています。パナソニックは今、「一人ひとりが活きる経営」「一人ひとりのポテンシャルをUNLOCKすること」を目指し、また、「幸せの、チカラに。」というブランドスローガンを掲げています。私たちは、ポテンシャルの解放や人々の幸せのためにデータを活用するにはどうしたらよいか、より深く追求していきます。
ピープルアナリティクスは、データと同時に人の心を大事にすることが欠かせません。人事データを扱う者には、データの先に一人ひとりの人生があることを常に意識することが求められているのです。私は「テクノロジーに精通したヒューマニストでありたい」と常に思ってきました。今後も個人に寄り添うデータ活用を心がけ、ピープルアナリティクスを推進していきます。
【text:米川 青馬 photo:伊藤 誠】

萩原さんは、ご自身の強みであるシステム×HR×データサイエンスという3つの視点から、非常に示唆に富むお話をしてくださいました。最も印象的だったのは、システムやデータサイエンスに精通しているからこそ、その限界を理解し、「個人と組織の未来を紡ぐ」ための人事データ活用のあり方を真摯に考えられている点でした。
データ活用にのめりこむと、「高度であるかより、効果があるかにこだわる」ことや、「置換のためのツールではなく、補完ツールであるという意識をもつ」ことなどが、つい疎かになってしまうこともあるのではないでしょうか。
データは、「誰のために」「どのように」扱うかの考え方次第で、薬にも毒にもなります。ぜひ、より良いデータ活用を考えるために、今回の萩原さんのお話を参考にしていただければ幸いです。
※HAT Labとは
正式名称HR Analytics & Technology Lab。リクルートマネジメントソリューションズが先進技術を活用して「個と組織を生かす」ための研究・開発を行う部門。中心テーマは、データサイエンスとユーザーエクスペリエンスの向上技術。所長は、2002年入社後、一貫して人事データ解析に関する研究・開発やコンサルティングに携わる入江崇介が務める。
※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.75連載「データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 連載第27回」より転載・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
PROFILE
萩原 章義(はぎわら あきよし)氏
パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社
エンプロイーサクセスセンター HRテクノロジー統括室
ピープルアナリティクス課 企画ユニット ユニットリーダー
大学でITを学んだ後、2004年パナソニック入社。社内IT部門にて人事システム全般の構築・導入・運用を10年経験した後、人事部門へ社内公募で異動。2015年よりHRIS戦略、グローバルHRPlatform構築、PeopleAnalyticsによる人事部門DX牽引などを幅広く担当し、今に至る。
バックナンバー
第23回 定量・定性の両面から現場にアプローチして人と組織を理解する(株式会社デンソー 人事企画部 制度企画室 担当係長 藤澤 優氏)
第24回 データ活用の際に人事に必要な調査リテラシーは何か(独立行政法人 労働政策研究・研修機構 人材開発部門 主任研究員 藤本 真司氏)
第25回 生成AIが普及したら人間ならではの仕事を行う姿勢が大事になる(株式会社リフレクト 代表取締役 三好 淳一)
第26回 仏教×データ分析で働く人の幸福度を高め企業創りを支援する(株式会社Interbeing Chief Analytics Officer/Co-Founder 大成 弘子)
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