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THEME 理論/技術

連載・コラムデータサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第12回

スマートビルが横や斜めのつながりを増やして創発を促す

スマートビルが横や斜めのつながりを増やして創発を促す

今世界中で、IoTを活用した「スマートシティ」や「スマートビル」の開発が活発だ。企業がスマートビルに入居すると、ピープルアナリティクスは一体どのように進化するのだろうか。ワークプレイスイノベーション研究会のリーダーである株式会社日建設計 デジタル推進グループの中村公洋氏にお話を伺った。

屋内位置情報システム×ピープルアナリティクス

入江:まず自己紹介をお願いします。

中村:デジタル推進グループの前身であるIoT推進室に異動する前は、制御・セキュリティシステムを含めた電気設備設計に携わっていました。特に照明デザイン・制御を得意としており、100年以上の歴史をもち世界的に権威があるIES(北米照明学会)主催の「2019IES illumination Awards」では「Award of Distinction(最優秀賞)」を受賞しました。

それとは別に2018年から、入江さんも関わっているピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会で、経営課題に応えるワークプレイスを科学する「ワークプレイスイノベーション研究会」のリーダーを務めています。今回詳しくお話しするスマートビルについては、この研究会で議論を進めています。

入江:そもそも、なぜ中村さんはスマートビルに関わっているのですか?

中村:一言で言うと、私の仕事の1つがスマートビルの設計・デザインだからです。

この5年、ビルの電気設備の1つとして、ビル内にあるスマートフォンなどのデバイス位置情報を計測する「屋内位置情報システム」の導入を行っていました。また、私が関わっていないプロジェクトでもすでに「屋内位置情報システム」の導入がされていっています。端的にいえば、この屋内位置情報システムなどが入っているビルが、「IoTで多様なデータを取得・活用できるビル=スマートビル」の先駆けなのです。ですから、私が電気設備設計者としてスマートビルに関わるのは、ごく自然な流れでした。

入江:企業がスマートビルに入居すると、何を実現できるのですか?

中村:例えば、ある企業の総務部は、屋内位置情報システムを活用して、オフィス・会議室などのスペース利用人数を自動で計測しようとしています。それまでは手動で計測していたため、大幅な作業軽減につながる見込みということです。

また、パナソニックの100%子会社パナソニックLSネットワークスが「オフィス内のどこに誰がいるかがリアルタイムで分かるシステム」を開発しています。このシステムを活用すると、社内における「偶然の出会いやコミュニケーション」をいくつも誘発することができます。例えば、新プロジェクトの立ち上げにあたって、あるエンジニアの意見が欲しいと思ったとき、その人が「オフィスのどこにいるか」がタイムリーに分かります。どこにいるかが分かると、より気軽に声をかけることができますし、思いついたときにすぐに相談しに行けます。

このシステムの説明をすると、人事の方々の多くが興味をもってくださいます。今、多くの企業は、組織の縦割り構造を緩めて、このような「横や斜めのつながり」をできるだけ簡単かつ柔軟に生み出せる組織に変えていきたいと考えています。なぜなら、社内外のつながりの豊富さ・柔軟性・多様性こそが、画期的なイノベーションを創発する原動力になるからです。ピープルアナリティクスの世界的企業・米ヒューマナイズの組織ネットワーク分析は、これらを定量化することができます。

皆さんの反応を見ていると、イノベーティブな組織を作ることは、現代の経営・人事部の一大課題なのだ、ということを実感します。スマートビルの設計・デザインを通して、私は今後もイノベーティブな組織づくりに貢献していきたいと考えています。

もちろんその他にも、スマートビルのデータには多様な活用の仕方があり得ます。今後はデータサイエンティストの方々と共に、優れた活用方法の創発にも注力したいと思っています。

日本製の高品質なスマートビルプラットホームを構築中

入江:では、「ワークプレイスイノベーション研究会」はどのようなことをする場なのですか?

中村:ワークプレイスイノベーション研究会は、日本の「スマートビルプラットホーム」のあるべき姿を考え、提言し、構築する集まりです。私たちや米ヒューマナイズ、パナソニックのほか、日本を代表するディベロッパー、ゼネコン、電機メーカー、IT企業、オフィス家具メーカーなどが参画しています。

この研究会がなぜ必要かというと、これから日本中にスマートビルを広めていくにあたって、スマートビルの「共通基盤」づくりが必須だからです。基幹プラットホームシステムの構築・運用を行ったり、環境センサーの規格を統一したり、セキュリティ基準を作ったりする必要があるのです。また将来的には、AIの導入も想定しています。これらを形にするのは、1社では不可能で、関係する多くの企業が話し合いながら決めていくプロセスが欠かせません。この研究会はそのためにあります。

共通基盤づくりがうまくいかないと、一時期の日本の携帯電話のように、各社の規格やルールが乱立する「ガラパゴス化」が起こってしまいかねません。それはなんとしても避けたい、というのが、私たち全員の思いです。そのために日々、粘り強く話し合っています。

反対に、このタイミングでしっかりとした共通基盤を構築できれば、日本製スマートビルプラットホームの海外展開も十分に可能だと考えています。多様なステークホルダーが存在することもあって、高品質な共通基盤づくりは決して簡単ではないのですが、近いうちに必ず実現したいと思っています。

すべての人が自己実現できる未来社会を作りたい

入江:中村さんは、なぜスマートビルにそこまで注力しているのですか?

中村:なぜなら、個人的に実現したい未来社会のビジョンがあるからです。

それは、「すべての人が自己実現できる社会」です。この社会に生きる誰もが、自らの特性・適性・相性に合った仕事や人間関係や生活環境を得て、気持ちよく仕事や生活に没頭し、自分なりの能力を存分に発揮して、日々幸せを感じながら暮らせる社会を作りたい。それが私の切なる願いです。

スマートビルを増やし、スマートシティを形成することで、最終的には、建物や街が人の幸福につながる指標を計測できるようになるだろうと考えています。その指標を高める行動をとっていけば、自然と自らの特性・適性・相性を見極めることができ、最適な仕事・人間関係・生活環境を得て、自己実現に成功し、より幸せな人生を送れる。そのような仕組みを用意したいのです。私が今行っているのは、そうした理想的な未来社会を構築するためのインフラづくりなのです。

入江:最後に、人事の方々に向けて、ピープルアナリティクスに関するアドバイスをいただけると嬉しいです。

中村:偉そうなことは何も言えませんが、第一歩を踏み出す際には、ピープルアナリティクスのパッケージを活用するのがよいのではないかと思います。最近は、マイクロソフトの「MyAnalytics」やFacebookの「Workplace」など、ピープルアナリティクスサービスがあらかじめ実装されたツールが増えています。そうした機能を気軽に使うところから始めてみてはいかがでしょうか。

【text:米川青馬】

「すべての人が自己実現できる社会」というビジョンをもち、その実現に向けてさまざまな場に参画し、社会のインフラづくりに精力的に取り組まれている中村さん。本文では割愛していますが、対談のなかで中村さんから、「照明は、ヒト・モノ・コトを照らすことで、それらを引き立てたり、助けたりするもの。自分の考えにも、そういうものが根付いているかもしれない」というお話があり、その根幹を感じました。

リモートワークが急速に進んだコロナ禍のなか、オフィスというリアルの場にどのような意味・機能をもたせるか。それらを高い次元で発揮するために何をするか。総務と人事の間にあるこれらの問いに対し、「スマートビルとピープルアナリティクス」という中村さんの観点は両者をつなぐものとして、非常に参考になるものでした。

※HAT Labとは
正式名称HR Analytics & Technology Lab。リクルートマネジメントソリューションズが先進技術を活用して「個と組織を生かす」ための研究・開発を行う部門。中心テーマは、データサイエンスとユーザーエクスペリエンスの向上技術。所長は、2002年入社後、一貫して人事データ解析に関する研究・開発やコンサルティングに携わる入江崇介が務める。


※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.59連載「データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 連載第12回」より転載・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
中村 公洋(なかむら きみひろ)氏
株式会社日建設計 デジタル推進グループ

2010年、日建設計に入社。それ以来、一貫して電気設備設計に携わってきた。得意領域は照明のデザイン・制御。最近は、スマートビル・シティの設計・デザインを担当。2018年から、ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会で、ワークプレイスイノベーション研究会のリーダーも務めている。ほか、主な社外活動は以下のとおり。
・スマートシティ官民連携プラットフォーム
・Society 5.0国際標準化国内検討委員会 委員
・東大グリーンICTプロジェクト BIM基盤ワーキンググループ 主査・照明学会 環境制御におけるAI技術の活用に関する研究調査委員会 オブザーバ
・リンクトイン スポットライト2019受賞、リンクトイン・クリエイター(LinkedIn News編集部認定)

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