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THEME 理論/技術

連載・コラムデータサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第11回

アナリティクスを人事の現場に普及させたい

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スターツリー株式会社 代表取締役 山田隆史氏は、一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会の副代表理事である。同協会の上席研究員を務める弊社入江より、日本企業におけるピープルアナリティクスとHRテクノロジー導入の現状や今後について伺った。

人事の方々が自分たちだけでデータ分析をするのが理想の姿

入江:自己紹介をお願いします。

山田:新卒でIT企業に勤めた後、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)に入り、ピープルアナリティクスやHRテクノロジーに出会いました。修了後、2015年にスターツリー株式会社を起業し、人事データ分析を中心にビジネスを展開してきました。並行して、一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会の副代表理事として、普及活動や業界指針を示す活動にも従事しています。

また、2018年には株式会社Bloomを共同創業し、タレントプール活用型キャリア採用サービスを展開し、採用を変えるビジネスにもチャレンジしています。さらに、早稲田大学・大湾秀雄研究室の研究員として、「人事情報活用研究会」の活動にも携わっています。

こうして多角的に活動するなかで自分の想いを実現していくのが、私のやり方です。ただ、だからこそ中途半端にならないよう、やりたいことにコミットすることを心がけています。

入江:御社の強みはどこでしょうか?

山田:スターツリーでは、企業の人事データ分析のお手伝いをしています。最大の強みは、多様なプロジェクトの経験を通じて、人事データ分析のノウハウやパターンを蓄積していることだと思います。採用・配置・リテンション・評価・人材育成などの全人事テーマで、的確かつスピーディーに分析を進められます。また、多様な業界の他社事例を数多く知っていますから、コンサルタントとして、その企業の状況を相対的に判断し、客観的に意見することもできます。

入江:最近何に力を入れていますか?

山田:アナリティクス内製化の支援が増えています。私が分析しつつ、並行して人事の方々にノウハウを教え、最終的には自分たちでデータ分析ができるようになっていただくサービスです。R、Pythonなどの使い方も詳しく教えます。私は少しずつアドバイザー的な関わりになっていくことが多いです。

内製化支援に力を入れているのは、現場の人事のみなさんが自ら、課題意識に基づいてデータを分析し、業務に生かすのが理想の姿だからです。私の大きな目標の1つは、ピープルアナリティクスとHRテクノロジーの健全な発展・普及であり、内製化支援はその手段でもあります。思った以上にうまくいくケースが多く、手応えを感じています。

上流工程とチームに注目すればよりスムーズに導入できる

入江:ピープルアナリティクスやHRテクノロジーを導入する際、人事のみなさんが注目すべきことは何ですか?

山田:大きく2つあります。1つは「上流工程が大事だ」ということです。目的・課題を明確化して要件を定義し、プロジェクトを設計するプロセスです。この後にデータの前処理を行い、分析を実行する作業がありますが、どんなデータで、何の傾向を把握・予測し、結果を何に活用するかを意識しながら分析を進めていけば、失敗することはあまりありません。この際の仮説出しと、活用方法の検討は、人事の専門性が生きる部分でもあります。ですから、人事の方が初めてピープルアナリティクスを行う際には、外部の専門家と協働しながら、上流工程を進めるノウハウを身につけていくのが上達の近道です。

もう1つは、「チームを組む」ことです。ピープルアナリティクスを行うには、ビジネス力(人事や現場のドメイン知識など)・データサイエンス力・エンジニアリング力の3つが大事なのですが、すべてを兼ね備える方はほとんどいません。何人かでチームを組み、体制を整える必要があります。

人事知識は心配ないでしょうし、人事システムを開発・運用していれば、エンジニアリング力のあるメンバーもいるかもしれません。多くの場合、不足しているのはデータサイエンス力だと思われます。異動・採用・兼任・外部人材の活用などで統計の素養があるメンバーを引き入れられれば、よりスムーズに進められるはずです。

今後は高い倫理観をもってデータを利活用する姿勢が重要

入江:日本のピープルアナリティクスの現状をどのように見ていますか?

山田:この数年で認知が広まり、かなり浸透してきたと感じています。スターツリーを始めた2015年頃は、先進的な企業が試験的にデータ分析をするだけでしたが、今や多くの企業が実践的に活用しています。最近増えているのはメーカーのお客様です。東京以外の地域での案件も増えています。

同時に、ピープルアナリティクスやHRテクノロジーの現実や限界も理解されてきました。数年前は誤ったAI万能論が広まり、データさえあればなんでもできるという誤解もありましたが、今では、人事データ分析は、分析結果を現場でどう解釈するかが重要だというのが共通認識になりました。

テーマ面では、「配置転換」や「新人の初期配置」が少しずつ多くなっています。また近年、コミュニケーションデータや行動・ふるまいデータの「集団分析」をするケースも増えています。健康経営のためのパルスサーベイなども浸透してきました。ピープルアナリティクスやHRテクノロジーが、エンゲージメントを高めたり、退職者・休職者を減らしたりすることで、コスト削減や生産性向上などに寄与することも理解されてきました。

入江:今後、注力したいことや注目していることは何でしょうか?

山田:1つは、データ利活用の「ポリシー」です。最近、ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会では「人事データ利活用原則」を公開しましたが、そこで重視しているのは、従業員の権利保護、社会的倫理や公平性です。これからの企業には、企業と従業員がWin-Winの関係を築くために、高い倫理観をもってデータを利活用する姿勢がより一層求められるでしょう。

そのことともつながりますが、私は、従業員を家族のように大切にする会社が今後栄えるという仮説をもっています。そうした会社になるためのベストプラクティスを生み出し、公開するような仕事もできたらと思っています。

入江:今後の展開を教えてください。

山田:コロナの影響下における働き方を、データを活用することで支援したいです。テレワークやWEB会議が当たり前になり、働き方改革やDX(デジタルトランスフォーメーション)が結果的に実現した一方、在宅ワーカーの生産性をどう向上させていくか、ストレス状況の高い従業員をどうケアするかといった課題も生じており、人事や総務の役割が拡大してきています。対面の機会も減っているなかで、勘や経験則のみで重要な意思決定をすると、不幸を生む可能性があります。今まではピープルアナリティクスは投資として実施されることも多かったですが、従業員の労働時間・成果・コンディションを把握し、迅速に意思決定を行うためにも、人事データの適切な活用は必須になると思っています。そこに踏み出そうとしている企業のサポートをしたいです。

また、ピープルアナリティクスは企業のマネジメント領域だけでなく、個人が働き方・暮らし方・生き方の改善に活用することも有効だと思います。そういったセルフマネジメント領域にも普及させていきたいです。

【text:米川青馬】

協会などを裏方で支えている山田さん。ぜひ、表に出てほしいと思い、取材させていただきました。

「現場の人事の方々が、自分で分析するのが理想の姿」という言葉がありましたが、私もそう思っています。

もちろん、さまざまな業界や企業のデータから標準的な傾向を出すこと、第三者の視点でアドバイスをすることなど、外部のパートナーにも固有の価値があります。しかし、現場の課題意識に基づき、小さなPDCAを高速で回すためには、人事の方々、人事のチームがHRアナリティクスの実践者となることが効果的です。将来的には、まさに「現場」の管理職や従業員の方々にも、データを活用いただける世界が理想です。そのための事例やナレッジの蓄積を、弊社として、また協会とも協力して、今後も進めたいと考えています。

【インタビュアー:HAT Lab 所長 入江崇介】

※HAT Labとは
正式名称HR Analytics & Technology Lab。リクルートマネジメントソリューションズが先進技術を活用して「個と組織を生かす」ための研究・開発を行う部門。中心テーマは、データサイエンスとユーザーエクスペリエンスの向上技術。所長は、2002年入社後、一貫して人事データ解析に関する研究・開発やコンサルティングに携わる入江崇介が務める。


※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.58連載「データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 連載第11回」より転載・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
山田 隆史(やまだ たかふみ)氏
スターツリー株式会社 代表取締役

大学卒業後、IT企業を経て慶應義塾大学大学院経営管理研究科(KBS)でHR アナリティクスなどを研究。2015年スターツリー株式会社を創業。2018年株式会社Bloomを共同創業。一般社団法人ピープルアナリティクス& HR テクノロジー協会 副代表理事、早稲田大学組織経済実証研究所客員次席研究員(大湾秀雄研究室)も務める。

バックナンバー第6回 人事系データの分析課題の多くは「可視化」で解決できる(株式会社イノヴァストラクチャー 三好淳一氏)

第7回 グローバル市場で技術力で勝つ日本企業を増やしたい(ファインディ株式会社 CEO 山田 裕一朗氏)

第8回 伝え方次第でデータの効果は0にも100にもなる(一般社団法人 日本スポーツアナリスト協会〈JSAA〉 代表理事 渡辺啓太氏)

第9回 NAONAで1on1ミーティングをもっと良いものに(株式会社村田製作所 モジュール事業本部 IoT事業推進部 データソリューション企画開発課 マネージャー 前田頼宣氏)

第10回 創造性を科学し社会価値創造のエコシステムを作る(VISITS Technologies 株式会社 Founder/CEO 松本 勝氏)

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