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データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第25回

生成AIが普及したら人間ならではの仕事を行う姿勢が大事になる

  • 公開日:2024/04/22
  • 更新日:2024/05/28
生成AIが普及したら人間ならではの仕事を行う姿勢が大事になる

株式会社リフレクトの三好淳一氏は2023年3月、自らが開発する振り返り(日報・週報)ラーニングツール「リフレクト」に、ChatGPTを活用した「AIコーチ」(リフレクこ)を国内で初めて搭載して話題になった。その三好氏に、生成AIの具体的な強みや長所、生成AIが普及した後に起こること、そうなったときにビジネスパーソンに求められる姿勢などについて詳しく伺った。

AIコーチが瞬時にアドバイスや共感をしてくれる
AIコーチの共感や励ましが続ける原動力になる若手社員も
生成AIは人材マネジメントの相当部分をすでにカバーできる
私たち人間が最終的に「意思決定」をすることが大事
実は生成AIは日本の多神教文化に合っている

AIコーチが瞬時にアドバイスや共感をしてくれる

入江:三好さんが開発するリフレクトとはどのようなサービスですか?

三好:「リフレクト」は、ユーザーが日報・週報を書き込んで自らの行動や考えを振り返り、学ぶためのツールです。もともとは生成AIを搭載していませんでしたが、2023年3月にChatGPTを活用した「AIコーチ」(リフレクこ)を国内で初めて搭載しました。

AIコーチは、従来のお客様から好評を得ており、新規導入するお客様も急速に増えています。私たちは今もアジャイル開発を進めている最中で、AIコーチは日々進化しています。

入江:リフレクトのAIコーチについてもっと詳しく教えてください。

三好:リフレクトを利用して日報・週報を書き込むのは、主に新入社員や中途入社者です。彼らが日報や週報を書くと、ChatGPTのAIコーチが、膨大な知識からいつでもどこでも瞬時にアドバイスや共感や問いかけをしてくれる仕組みになっています。

従来の日報・週報ラーニングシステムは、上司が忙しくてアドバイスや共感や問いかけが遅れたり、十分に対応できなかったりすることが大きな問題の1つになっていました。そのために、日報・週報が形骸化する企業が多かったのです。AIコーチがその問題をカバーし、上司の代わりに即座にアドバイスや共感や問いかけをすることで、リフレクトの学習機能や業務支援機能が大きく高まりました。

2023年9月には、「AIコーチの評価機能」も搭載しました。ユーザーが日報や週報を書くと、AIコーチが経済産業省の提唱する「社会人基礎力12項目」に従って、日報の内容をリアルタイムに評価するのです。ユーザーはその評価を継続的に確認することで、自分の強み・弱みを客観的に把握することができ、日々の業務改善につなげられるようになりました。

もちろん、AIコーチだけでなく、上司や仲間たちが日報・週報にコメントをしたり、「いいね」ボタンを押したり、問いかけたりすることもできます。上司がAIのアドバイスや問いかけに追加してフォローしたり、AIとメンバーのやり取りを確認して「いいね」したりして、上手に関わっていくことで、さらに学習支援や新人支援の効果を高められる設計になっています。

なお、ChatGPTの業種・業界別プロンプトテンプレートは1000以上あり、さまざまな業務・業界・職種にスムーズに対応できるようになっています。さらに2023年12月には、AIコーチが自社内のPDFデータを読み込み、内容について回答する機能も実装しました。社内規定や自社製品・サービスの情報なども、AIコーチが社員に教えられるようになったのです。私たちは今後もこうした改良を続けていきます。

AIコーチの共感や励ましが続ける原動力になる若手社員も

入江:お客様からはどのような声が届いていますか?

三好:「AIコーチのアドバイスのおかげで、新人の言語化力、課題分析力、主体性などが高まっている」という具体的な声がすでに届いています。

例えば、ある工場で働く高卒新人社員は、最初は日報に「今日は疲れた」「今日は頑張った」といったレベルのことしか書けなかったそうです。ところが、AIコーチのアドバイスを聞くうちにさまざまなことを言語化できるようになり、AIの評価も高まったといいます。人事の方は、「リフレクトのおかげで、弊社の新人たちは明らかに成長している」とおっしゃっていました。

入江:AIコーチのおかげで、若手が長い文章を書けるようになったのですね。

三好:そのとおりです。AIコーチは一般的に若者と相性が良く、AIコーチにニックネームをつけて仲良くなったりするケースが珍しくありません。なかには、AIコーチの共感や励ましが仕事を続けるモチベーションになっている若手社員もいる、と聞いています。AIコーチを比較的優しい人格に設定していることもあり、良好な関係を築く若者が多いのだと思います。

それから、AIコーチのリアルタイムアドバイスによって、学習と行動のサイクルを即座に回せるようになったことが学習効果を高めています。AIコーチは「この学びを使って、今すぐにメールを書いてみてください」などと行動を促す仕立てになっており、学びをその場で実践するユーザーが多いのです。こうしてすぐ行動に移すことが、学習の定着に最も効果があります。

他に、「多忙な上司の負担を減らすことができて、本当に助かっている」というお客様の声も多いです。管理職の負荷軽減の面でも役立っていることを実感しています。

入江:お客様から要望をもらうことはないのですか?

三好:日々、本当にさまざまな要望をもらっています。例えば、AIコーチを優しい人格に設定していると言いましたが、逆にもっと厳しくしてほしい、褒めすぎないでほしい、アドバイスの分量を抑えてほしいといった要望があります。なかには、AIコーチが厳しめに問題点を指摘して、上司が褒める仕立てにしたいと望むお客様もいます。

一方で、「上司のコメントを評価してほしい」といった依頼も来ています。リフレクトを、新入社員だけでなく上司のマネジメント育成に使いたいという要望も多くあるのです。

それから、現在はAIコーチに過去データを入れていないのですが、長期記憶をもたせて、「1年前よりもずいぶん成長しましたね」などと評価できる機能もつけてほしい、といった要望も届いています。今後、これらの要望にどんどん対応していく予定です。

生成AIは人材マネジメントの相当部分をすでにカバーできる

入江:三好さんは、生成AIを活用したサービスを提供する当事者として、生成AIをどのように見ていますか?

三好:生成AIは、本当にさまざまなことができます。特にGPT-4になってから能力がぐっと高まりました。

例えば人材マネジメントでいえば、生成AIはこれまで語ったメンバーへのアドバイスや問いかけ、メンタルサポート、評価以外にも、人材育成計画を立てたり、業務進捗管理や目標設定をしたりすることが可能です。生成AIは、すでに人材マネジメント業務の相当部分をカバーできるのです。

他方で、私はリフレクトのWEBサイトや動画を自ら制作しています。生成AIと連携したコーディングツールや動画制作ツールを使えば、素人でも簡単にWEBサイトや動画を作れるのです。生成AIは多方面で多種多様な能力を発揮できるようになってきています。

入江:ピープルアナリティクスには、生成AIがどのような影響を与えると思いますか?

三好:現在の日本企業のピープルアナリティクスは、データ基盤構築やデータの可視化はある程度進んでいますが、データ分析に苦労している会社が多いと感じます。その一因に、「人事とデータサイエンスの両方を知っている人材が少ない」という問題があります。そのために、人事とデータサイエンスの間に分断が起こっているのです。

ところが生成AIによって、人事の皆さんがデータサイエンスを簡単に学びやすくなりました。これは大きなメリットだと感じています。今後は、人事の皆さんがAIを活用して、自らデータを加工したり、データ分析をしたりしやすくなるはずです。生成AIは、ピープルアナリティクスを進化させるのではないかと考えています。

私たち人間が最終的に「意思決定」をすることが大事

入江:生成AIが普及したとき、人間は何をしたらよいのでしょうか?

三好:私たち人間が、最終的に「意思決定」をすることが大事です。AIのアドバイスを受け入れるかどうかは、人間が判断しましょう。AIが作ったWEBサイトや動画など制作物の仕上げは、人間が行いましょう。これからのビジネスパーソンには、AI以上のアウトプットを出そうとするマインドが求められます。その姿勢がある限りは、専門家の仕事はすぐにはなくならないでしょう。私たちは、生成AIにすべてを任せきりにしてはならないのです。

リフレクトでも、上司がAIとメンバーのやり取りをきちんと確認して、メンバーのフォローやサポートをする努力は必要です。それを怠ったら、上司など必要ないということになってしまいますから。人と人の関係性を築くことは、人間がすべき仕事です。

もっと根本的なことをいえば、私たち人間が生成AIよりも明らかに優れているのは、中長期的な知見、個人的な体験や記憶、人間関係の情報、身体的情報などを生かして統合的判断をしたり、データに現れない課題を予想したりできることです。私たちは、すでにネット上の情報に関してはGPT-4に勝てません。その代わりに、インターネット上にはない情報を生かして勝負すればよいのです。生成AIが普及した後の世界では、こうした人間ならではの仕事を行う姿勢が大事になります。

入江:生成AIを活用する際のコツや注意点はありますか?

三好:生成AIは、前提条件によってアウトプットが大きく変わります。例えば、売上アップという目標は同じでも、当然ながら小売業と製造業では方法が異なります。扱う商品・サービスによっても最適解は違います。そうした前提条件を細かく入力しないと、AIはうまく動きません。その前提条件をどのように発想するかが、AI活用の上手・下手を分けるでしょう。結局、活用する側のアイディアが問われるのです。

それから、機密情報の扱いにはおおいに注意すべきです。ただ、機密情報やプライバシーなどに配慮するあまり、生成AIに過度な規制をかけることには賛成できません。生成AI活用の世界的な流れは止まりませんから、生成AIを積極的に活用しなければ、日本の国際競争力は下がるばかりだと思います。

実は生成AIは日本の多神教文化に合っている

入江:最後に、これから生成AIを活用する読者の皆さんに、何かアドバイスをお願いします。

三好:私は、生成AIを初めて使ったとき、自信を失いました。私が「ある企業の退職予測をして」と書いたら、ChatGPTがものの数分でサンプルコードを完成させたからです。データサイエンティストとしての私は早晩必要なくなると思い、愕然としました。

しかし数週間後には、「生成AIを使いこなした方が楽しい」と考えるようになっていました。AIの力を借りれば、素人の私でもWEBサイトや動画やいろいろなものを生み出せると気づいたからです。皆さんも一時的には自信を失うかもしれませんが、生成AIをどんどん活用する方向に向かうのがよいのではないかと思います。

私は、実は生成AIは日本人に合っている、と感じています。なぜなら、生成AIには多神教的、アニミズム的な傾向があるからです。生成AIの活用が進むと、例えば冷蔵庫やコップが話し出すようになるわけです。山川草木にも魂が宿ると考える日本の多神教文化に生まれ育った私たちは、そのような「話すモノ」を受け入れやすいはずです。

いずれにしても、近い将来、生成AIは私たちの価値観を大幅に変えるでしょう。それは間違いありません。

【text:米川 青馬 photo:伊藤 誠】

KEYWORD
HAT Lab 所長 入江の解説

今回は、本連載の第6回にご登場いただいた三好さんに、自身が展開するサービスの開発や提供の経験をもとに、生成AIの活用についてお話を伺いました。

2022年に米国OpenAIによってリリースされたChatGPTに衝撃を受けた人は多いと思います。三好さんは、そのポテンシャルを感じ、振り返りラーニングツール「リフレクト」に、いち早くChatGPTを活用したAIコーチ機能を搭載されました。

お話を伺ったなかで印象的だったのは、学習に関するさまざまな理論や研究を参照した上で、「学習効果を高めるための生成AI活用」にこだわって、サービスの開発をされていた点です。

新しい技術を導入する際には、導入することが目的化し、思ったような成果が得られなくなってしまうこともあります。そのようなことが起こらないよう、理論や研究の知見を活用したり、実証を重ねたりしながらより良い利活用を進めている取り組みは、まさにwith AIのお手本となる事例だと思いました。

三好さんがおっしゃるように、これからは生成AIを活用しながら、私たちはより「人間ならではの仕事」を行うことが大切になると思います。私たちも、今後、AIを活用した仕事や働き方について、洞察を深めていきたいと思います。

※HAT Labとは

正式名称HR Analytics & Technology Lab。リクルートマネジメントソリューションズが先進技術を活用して「個と組織を生かす」ための研究・開発を行う部門。中心テーマは、データサイエンスとユーザーエクスペリエンスの向上技術。所長は、2002年入社後、一貫して人事データ解析に関する研究・開発やコンサルティングに携わる入江崇介が務める。

※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.73連載「データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 連載第25回」より転載・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE

三好 淳一(みよし じゅんいち)氏
株式会社リフレクト 代表取締役

ヤフー・バリュー・インサイト、マクロミルなどを経て、2014年イノヴァストラクチャーを設立し、HR領域のデータサイエンスコンサルティングなどに尽力。2021年リフレクトを設立。ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会上席研究員。著書に『ピープルアナリティクスの教科書』(共著・日本能率協会マネジメントセンター)、『Tableauデータ分析』(共著・秀和システム)。

バックナンバー

第20回 「信頼」を科学してイノベーションを生み出す日本にしたい(株式会社シンギュレイト 代表取締役 鹿内学氏)

第21回 社員の「ワクワク感」を高めるEX観点を日本の常識にしたい(PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 土橋隼人氏)

第22回 適性タイプ分類モデルでバランスよく多様な人財の採用に成功(株式会社横浜銀行 人財部 部長 仁平 純一氏、株式会社横浜銀行 人財部 企画グループ ビジネスアシスタントリーダー 高原 大輝氏、株式会社浜銀総合研究所 情報戦略コンサルティング部 副主任研究員 中村 友紀氏)

第23回 定量・定性の両面から現場にアプローチして人と組織を理解する(株式会社デンソー 人事企画部 制度企画室 担当係長 藤澤 優氏)

第24回 データ活用の際に人事に必要な調査リテラシーは何か(独立行政法人 労働政策研究・研修機構 人材開発部門 主任研究員 藤本 真司氏)

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