データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第2回 これからの人工知能はパーソナル化して“感性”に最適化される

「人工知能が未来を変える」といわれて久しいが、実際にいま、人工知能はどのように社会を変容させようとしているのだろうか。感性を学習する「SENSY」は、その最前線に生まれた人工知能だ。今回は、SENSYを生み出した渡辺氏に、弊社HAT Lab マネジャー 入江がお話を伺った。


感性を学習する「パーソナル人工知能」SENSY

入江:渡辺さんたちが開発したSENSYで、どのようなことが実現できるのでしょうか。詳しく教えてください。

渡辺:ごく簡単にいえば、SENSYは、ユーザー一人ひとりの「感性」を学習する「パーソナル人工知能」です。

私たちが最初にビジネスの場として選んだのは、アパレル業界です。エンドユーザー向けのパーソナル人工知能アプリSENSYは、利用者が選択・購入したファッションアイテムの特徴をディープラーニングすることによって、その方のファッションセンスを学習し、5000を超えるブランドのなかから、その方に似合う服装のコーディネーションを考え、提案できます。アプリに「今日はフォーマルなコーデをお願いしたい」などと入力すれば、すぐに画面上にアイテムの組み合わせを表示してくれるのです。

2016年からは、「味覚」の分野も始めています。個人がある銘柄のワインやビールなどを飲んだときの味覚表現を入力することで、個人の味覚を学習する「SENSYソムリエ」を開発し、大手百貨店などに提供しています。

今後、私たちはSENSYをさまざまな分野に応用していきます。コスメ、ヘルスケア、旅行、音楽……。数年後には多分野の感性を学習・理解できるパーソナル人工知能がきっと実現するでしょう。

スモールデータ分析こそ私たちのユニークネス

入江:その人に合った商品を紹介する「レコメンドエンジン」は、すでに多くのECサイトが搭載しています。このレコメンドエンジンとSENSYは、どこがどのように違うのでしょうか。

渡辺:最も一般的に使われているレコメンドエンジン「協調フィルタリング」との比較をお話ししたいと思います。

協調フィルタリングは、Aさんの購買ログと似たような購入パターンのBさん・Cさん……を発見して、Bさん、Cさんなどが持っているけれど、Aさんは持っていない商品をAさんに紹介するというレコメンド手法で動いています。

対して、SENSYが行っているのは、パーソナル情報のディープラーニングです。例えば、Aさんが買った商品の画像・説明文・価格など、商品に紐づく情報を深く辿り、さらにAさん本人に紐づく情報も収集した上で、Aさんがどのようなロジックでその商品を選んだのかを人工知能で解析していきます。 SENSYは、そのロジックに合わせて、商品をレコメンドしているのです。

つまり、協調フィルタリングが購買ログを利用した比較的簡便な手法なのに対して、SENSYは商品選択・購入の背景にある情報をディープラーニングすることで、その人の感情や行動の複雑なロジック、つまり「感性」を解析し、学習・理解するレコメンド手法なのです。

入江:性能の上で、両者にはどのような違いがあるのでしょうか?

渡辺:最初に、私たちの弱点を1つお話しすると、SENSYは、協調フィルタリングとは比較にならないほど、計算量が膨大です。その計算量のコストは、確実に私たちの方が高くなります。

しかし、レコメンド精度に関してはSENSYの方がはるかに上だと自信をもって言えます。例えば、現在のSENSYは、個人のたった10着ほどの選択・購入情報があれば、その方の感性をある程度読み解くことができます。10着の情報をとことん深く辿り、その方の感性モデルを形成できる独自の画像解析エンジンや自然言語処理エンジンを開発し、磨きをかけ続けてきたからです。これはいまのところ、他のどの人工知能ももたない能力ではないかと思います。

入江:いまは誰もが「ビッグデータ」に焦点を合わせていて、少ない情報を処理する人工知能に注目している方は、あまり見当たらない気がします。

渡辺:そうですね。私たちは、これを「スモールデータ」と呼んでいます。スモールデータ分析こそ、私たちのユニークネスであり、強みなのです。

マーケティングの世界をSENSYで変えることができる

入江:ビジネス上では、SENSYにはどのような可能性があるのですか?

渡辺:最も大きいのは、SENSYは、消費者へのレコメンデーションだけでなく、企業側のマーケティングや商品開発にも利用できるということです。

なぜなら、一人ひとりの感性モデルを形成するということは、消費者一人ひとりが何を考えているかが分かるということだからです。それらのモデル情報を集めて分析すれば、今後どのような商品を開発すればよいか、どのくらい用意すればよいかが見えてくるのです。

それどころか、私たちは、SENSYを使えば、マーケティングの世界を変えることができるとすら思っています。マスマーケティングには、小さな声やニーズを無視せざるを得ないという欠点があり、それが機会損失につながってきた部分があります。その点、SENSYを使えば、商品数を細かく調整したり、こまめにプライスダウンを仕掛けることができ、かなりのビジネスインパクトが出ているという報告を受けています。

入江:なぜ渡辺さんたちが、いちはやくSENSYを実現できたのでしょうか?

渡辺:私は、2005年から人工知能研究に取り組んできました。「AI冬の時代」と呼ばれ、まったく注目されていなかった時期です。その頃から研究を進め、慶應義塾大学・相吉英太郎先生、千葉大学・岡本卓先生、東京工業大学・奥村学先生、東京大学・中山英樹先生とも共同研究や技術アドバイスをいただきながらSENSYを開発してきた成果が表れているのだと思います。さらに現在では岡本先生にはSENSY株式会社のCROとして入社しAIチームの責任者として率いていただいています。

キャリアマッチングサービスや働き方マッチング解析も

入江:今後はどのような分野に進出したいと考えていますか? 例えば、HR領域はいかがでしょうか?

渡辺:HR領域にも興味があります。例えば、SENSYを使って、個人の感性・行動モデルと、企業や職種の特徴を解析して、両者のマッチ度を測るキャリアマッチングサービスは実現可能性があると思います。また、一人ひとりがどのような環境や働き方のもとで最もパフォーマンスが上がるのかという「働き方マッチング解析」にもいずれ挑戦したいと思っています。

また、教育分野にも惹かれます。なぜなら私たちは、ものの覚え方、間違えやすいポイント、忘れやすさなどが一人ひとり違うからです。そうした「学習の感性」を解析すれば、一人ひとりに合った教育コンテンツや学習法を提案できるのではないかとも想像しています。

こうしてSENSYの対応範囲を広げていけば「、何でもアドバイスできるパーソナル人工知能」が実現できるでしょう。私は、その人工知能を1人1つクラウド上に持ち、皆がさまざまなデバイスから気軽に人工知能につながる時代が、近いうちにやってくると考えています。ビッグデータ時代だけでなく、「スモールデータ時代」や「パーソナルデータ時代」も、実は間近に迫っているのです。

ビッグデータの活用が進むなか、その分析のために人工知能の活用も急速に進んでいます。人工知能は、分析を自動化することによる「効率化」だけでなく、「人にはできない発見をする」という面でも強力なツールです。人事領域でも、離職者予測やエントリーシート自動採点に人工知能を活用した事例が出てきました。

「個を生かす」ためには個人個人に合わせたアプローチをしていくことが大切ですが、渡辺さんのお話を伺い、 SENSYの「個人の特徴を少数のデータから把握する」技術は、まさにそれを手助けしてくれるものだと感じました。対談にあった、個人の習熟度や適性に応じて提供する学習コンテンツを変える「アダプティブ・ラーニング」での応用などが楽しみです。

※HAT Labとは
正式名称HR Analytics & Technology Lab。リクルートマネジメントソリューションズが先進技術を活用して「個と組織を生かす」ための研究・開発を行う部門。中心テーマは、データサイエンスとユーザーエクスペリエンスの向上技術。マネジャーは、2002年入社後、一貫して人事データ解析に関する研究・開発やコンサルティングに携わる入江崇介が務める。

【text :米川青馬】


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.48 「データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 連載第2回」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。


PROFILE
渡辺祐樹(わたなべゆうき)氏
SENSY株式会社※ 代表取締役CEO

2005年、慶應義塾大学理工学部卒。システム工学を専攻、人工知能アルゴリズム研究に従事。フォーバルを経て、IBMビジネスコンサルティングサービスにて戦略コンサルタントとして製造業・サービス業の事業戦略策定、組織再編、業務変革などに従事。2011年カラフル・ボード株式会社を設立、2017年11月SENSY株式会社へ社名を変更。代表取締役CEO現職。

※旧社名カラフル・ボード株式会社

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