データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第10回 創造性を科学し社会価値創造のエコシステムを作る

独自の合意形成アルゴリズムを開発し、人間の創造性や目利き力、アイデア自体の価値を定量化したVISITS Technologies。「ideagram」や「デザイン思考テスト」がもつ特徴とその可能性について、創業者でCEOの松本勝氏に伺った。


独自の合意形成アルゴリズムで創造性を定量化

入江:なぜ起業されたのか、から教えていただけますか?

松本:最初は起業というよりも、教育を変えたいと思っていました。当時、大学で金融工学の授業を担当する機会があり、学生のキャリア支援もするなかで、お手本がなくても自分でビジョンを作ったり、どういう体験があれば人は幸せになれるのかから逆算してビジネスを考えたり、自分の日々の行動を変えていったりするような人材の育成が必要だと考えるようになったからです。そのために、創造性やデザイン思考のプロセスを科学的に解析してみようと思い、現在に至ります。

入江:創造性やデザイン思考というと、データサイエンスとは縁遠い世界だと思われている方も多いと思います。具体的にはどんな技術が使われているのでしょうか。

松本:基本的にはネットワーク理論を使っています。私たちのコア技術をCI技術(コンセンサス・インテリジェンス技術)と呼び、これは特許もとっています。簡単に言うと人の創造性、目利き力、アイデアの価値などを、独自の合意形成アルゴリズムにより定量化する技術です。

私は、イノベーションは、「こういうアイデア」という教師データがあるわけではなく、人々の共感が結果的に生み出していくものと考えています。よって、ブロックチェーンのもとにもなっている合意形成アルゴリズムを用いています。といっても、単なる多数決ではイノベーションのアイデアが埋もれてしまうかもしれません。そこで必要となってくるのが、相互評価のプロセスです。

具体的には周囲からの評価が高いアイデアを出す人は、創造性が高く、かつ、創造的なアイデアを目利きする力も高いとします。そして、その人が行う他者に対する評価をより重要なものと扱うように、1票の重みづけをします。このような工夫により、アイデアの価値の評価と、個人の創造性の評価を同時に行っています。

私たちが開発した「ideagram」では、このコア技術を使うことにより、たとえ他の90%の評価者がダメなアイデアだと評価しても、10%の目利き力がある評価者が良いアイデアだと評価すれば、きちんと評価されるということを可能にしています。同じコア技術を使って個人の創造性の測定に特化しているのが、「デザイン思考テスト」。みんなが共感するメッセージやビジョンを探索し、組織づくりにも応用できるのが「visiongram」です。

入江:これまでいいアイデアやメッセージだと思われていたものと、「ideagram」「visiongram」を使った結果出てきたものとでは違いますか。

松本: もともと目利き力のある人が選んでいたのであればあまり変わらない場合もありますが、会社のなかで単に職位が高く目利き力のない人が選んでいたのであれば、まったく違う結果が出てきます。

入江:実際、どのような企業が導入しているのでしょうか。

松本:各業界で時価総額トップの企業がほとんどです。業界トップ企業はやはり自分たちが日本を背負っているという気概もありますし、イノベーションに対する危機意識も強いです。

ロジカルなステップを踏めば誰でも創造的になれる

入江:「ideagram」を特定の企業内で用いる際、その企業固有の視点の偏りが問題になることはないのでしょうか。

松本:そこは問題になりません。私たちの技術はデザイン思考のプロセスに従っています。ペルソナへの共感からスタートして目的をデザインし、バイアスをフリーにしてさまざまなシーズ(技術、ネットワークなど)を組み合わせることで、目的を実現することをデザインする。ここで重要なのは、ペルソナがあるシーンに置かれたときにどれだけ心が動くかです。ここは企業人というよりも一個人、またはユーザーとしての感覚になるため、人間の本質的欲求に近くなるからです。

私たちの技術がユニークなのは、ロジカルなステップを踏めば誰でもクリエイティブになれるという、再現性を重視している点です。数学的に解けるということは、すなわちロジカルであるということ。日本のいわゆるエリートといわれる人たちは、極めてロジカルです。それをアンラーニングしてクリエイティブになれ、と言われてもできない。しかし私たちはそこを技術で橋渡しし、ロジカルな人たちがクリエイティブになれるアプローチをとっています。

入江:CI技術を使うことで、個人の創造性も上がるのですか。

松本:上がります。強制的にいろんなものを組み合わせることで創造性が鍛えられますから。伝統的なデザイン思考だと観察をベースにしていますが、さまざまなアイデアのうち、観察できるものってごくわずかしかないんです。これまでにない体験をゼロベースで作ろうとすると、観察できないものに対して共感できないといけない。そういう意味で「ideagram」や「デザイン思考テスト」は、0→1ベースの創造に挑戦しているともいえます。

勉強会で知見を発信しオープン・イノベーションを加速

入江:企業ニーズとしてはアイデア抽出よりも、アイデアを出す力を鍛えるために導入されるケースが多いのでしょうか。

松本:両方あります。デザイン思考研修などの効果測定に使われるケースもあれば、新規事業の創出で使用されるケースもあります。まず人を鍛えた方がいいアイデアが出るという判断から、最終的には人を鍛える方に戻るケースも多いです。

「デザイン思考テスト」では、その人の課題発見力とソリューション発見力、それとそれぞれに対する評価力が如実に出ます。例えば、課題発見力は高いけれどもソリューション発見力が低い人もいれば、その逆のケースもある。これにより誰と誰を組み合わせるとチームとしての創造性が高まるか、も解けてしまいます。

入江:今後の展開について教えてください。

松本:1つは得た知見を社会に発信していきたい。具体的にはすでに各業界トップ70社くらいが集まる「イノベーションテック・コンソーシアム」を作り、毎月、勉強会を開催しています。もう1つは私たちがもつデータやネットワークをもとに、オープン・イノベーションを加速させていきたいです。

私たちはSDGsのステートメントとそれぞれの企業のビジョンとの距離を空間で測る技術ももっています。特定のニーズに対しある技術を組み合わせると解けることが分かった場合、その技術をもっている企業と必要としている企業の橋渡し役を担うなど、企業が社会的課題に取り組むためのインフラを作っていきたいと考えています。

【text:曲沼美恵】

イノベーションについては経営学、創造性については心理学で、古くから研究が積み重ねられています。そのようななか、数理的な方法論を用いて、イノベーションや創造性を科学し、その再現性を高めようとしているVISITS Technologiesの取り組みは、非常にユニークなものであり、今後の応用可能性を感じました。

また、データやアルゴリズムの応用・開発の仕方について、深い示唆をいただきました。人による評価や共感という「主観」の力を引き出すアプローチは、これからさまざまな分野で加速するのではないでしょうか。

個人的には、「社会課題を解決するイノベーション」が求められるなか、アイデアを生み出すための技術開発にとどまらず、イノベーションを加速するためのコミュニティづくりなど、「社会課題解決のインフラづくり」を徹底されていることにも、非常に感銘を受けました。この場を借りて、松本さんに改めて厚く御礼申し上げます。

※HAT Labとは
正式名称HR Analytics & Technology Lab。リクルートマネジメントソリューションズが先進技術を活用して「個と組織を生かす」ための研究・開発を行う部門。中心テーマは、データサイエンスとユーザーエクスペリエンスの向上技術。所長は、2002年入社後、一貫して人事データ解析に関する研究・開発やコンサルティングに携わる入江崇介が務める。


※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.57連載「データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 連載第10回」より転載・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
松本 勝(まつもと まさる)氏
VISITS Technologies 株式会社 Founder / CEO

東京大学大学院修了後、ゴールドマンサックス入社。金利オプショントレーディングの責任者を経 て、2010 年人工知能を用いた投資ファンド設立。2014 年VISITS Technologies設立。社会課題とそのソリューションの可視化を、独自のマイニング技術 とブロックチェーンによりリアルタイムに実現する 研究を行う。

バックナンバー第1回 「統計モデリング」には人事のあり方を変える力がある(専修大学 岡田謙介氏)

第2回 これからの人工知能はパーソナル化して“感性”に最適化される(SENSY株式会社 渡辺祐樹氏)

第3回 ピープルアナリティクスで人財ポートフォリオの転換、社員の活躍促進を目指す
(株式会社日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部 ヒューマンキャピタルマネジメント事業推進センタ People Analytics Lab 主任 中村亮一氏)


第4回 人事部門に必要なデータ活用には特有の難しさがある(滋賀大学 河本 薫氏)

第5回 最後のフロンティア“脳”の計測技術が生活の質を向上させる(株式会社NeU〈ニュー〉長谷川 清氏)

第6回 人事系データの分析課題の多くは「可視化」で解決できる(株式会社イノヴァストラクチャー 三好淳一氏)

第7回 グローバル市場で技術力で勝つ日本企業を増やしたい(ファインディ株式会社 CEO 山田 裕一朗氏)

第8回 伝え方次第でデータの効果は0にも100にもなる(一般社団法人 日本スポーツアナリスト協会(JSAA) 代表理事 渡辺啓太氏)

第9回 NAONAで1on1ミーティングをもっと良いものに(株式会社村田製作所 モジュール事業本部 IoT事業推進部 データソリューション企画開発課 マネージャー 前田頼宣氏)

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