連載・コラム
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第15回
人的資本投資の開示・マネジメントツールISO30414
- 公開日:2021/08/06
- 更新日:2024/05/17

「ISO30414」を聞いたことがあるだろうか。日本ではまだほとんど知られていないが、今後、上場している企業には大きく関係してくる規格だ。ISO30414を日本に紹介している、一般社団法人 ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 加藤茂博氏、小澤ひろこ氏に詳しく伺った。
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ISO30414は人材開発投資・コストの情報開示を強く求める
入江:まず、「ISO30414」とは何か、簡単に説明していただけますか?
加藤:ISO30414は、国際標準化機構により定められた人的資本に関する情報開示の国際的なガイドラインです。2018年に発行されましたが、日本ではまだその存在自体があまり知られていません。
しかし、米国ではすでに2020年から上場企業に対して人的資本に関する情報開示が義務化されました。海外投資家は今後、日本企業にも情報開示を求めてくるでしょう。2021年春、私たちピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会と日本規格協会が、協働して対訳版を発行しますので、海外投資家との関係が深い企業の人事の皆さんは、ぜひお読みいただくことをお勧めします。
入江:どのような内容なのですか?
加藤:ISO30414は、ダイバーシティやリーダーシップ、企業文化など人的資本に関する58の指標から構成されます。
ただ、個々の指標以前に、全体メッセージを理解していただくことが重要です。ISO30414は、企業に「人的資本強化のための投資の情報開示」を強く求めています。なぜなら、投資家の多くは、各企業の人的資本の将来価値を投資の判断材料の1つにしたいからです。しかし、有価証券報告書は人的資本に対する投資内容が明示されていないケースが多く、投資家に不評です。ISO30414は、そうした投資家の不満を解消するために作られた側面があります。
小澤:日本企業の多くは、OJTを盛んに行っているため、人的資本に対する投資を把握し、公表するのが難しい状況にあると思います。しかし、投資家の60%が人的資本を重視していたり(生命保険協会の調べ)、米国では証券取引委員会が上場企業に対して開示を義務化したりするなど、今後、人的資本に関する情報開示の要請は高まり、投資家は、投資先企業に対して、どの程度の投資を行い、どのようにトレーニングし、どうスキルを伸ばしたのか、また、伸ばそうとしているのかを具体的に教えてほしい、と言うでしょう。
ISO30414のもう1つの大きな特徴は、情報開示だけでなく、内部報告にも活用できる点です。例えば、次のリーダー人材群のうち、1~3年、4~5年、それぞれに準備が整う人材の割合という指標があります。この指標を採用することで、次世代リーダー育成の進捗状況を把握することができます。このように、ISO30414は、経営者が人的資本に関する実態を知る上で役立ちます。
海外企業は設備、研究開発と同レベルで人的資本を重視
入江:なぜ今、ISO30414が注目されているのでしょうか?
小澤:一昔前の投資家の目線は、財務的数値に焦点が当たっていました。しかし最近、彼らは投資先企業のビジョン、価値観、そして人的資本にも目を向けだしました。戦略の成否を左右するのは人的資本であるという認識が広がっているからです。全員がビジョンや価値観を共有し、継続的に力を磨いている会社は強い。そうした企業は、レジリエンスが高く、大変革のなかで成長を手にすることができると考えているのです。
海外では、取締役会のダイバーシティが重要視されています。例えば、英国の某上場企業では、議長の重要な責務に、戦略の遂行に必要なスキルが取締役会に備わっているかどうかを評価し、不足があれば対応策を立て改善するといった、取締役会レベルの人的資本投資があると聞いています。
日本では、2015年にコーポレートガバナンス・コード原案が公表されてから、組織のあり方が徐々に変わっていますが、道半ばです。2022年に新設されるプライム市場では、新たなコーポレートガバナンス・コードの適用が決まっています。プライム市場の上場企業は、海外企業と競うべく人的資本を重視していくことになるでしょう。ISO30414をぜひ、経営管理や外部報告に活用いただきたいと思います。
人的資源から人的資本へ
入江:海外投資家・海外企業の意識が変わった背景を教えてください。
小澤:私が以前勤めていた英国に本部のある国際統合報告評議会では、10年ほど前から「人的資源から人的資本へ」ということをよく話題にしていました。
長期的成長のためには人材への継続的な投資が欠かせないと考えている企業は、欧米でも少なくありません。しかし、従来の国際資本市場は、短期志向の影響もあり、人材を資源と捉え、利益の調整弁にしてきました。市場が短期的な利益水準の向上を求めたために、企業は長期的な人材開発を諦め解雇せざるを得ないという側面があったのです。
資本市場の行きすぎた短期志向を問題視した英国発の長期志向化の流れから、人材を資本の1つであり価値の源泉であると捉える動きが生まれてきました。ISO30414もその思想を継承していると私は認識しています。
加藤:ISO30414は、雇用する社員だけでなく、請負者などの外部人材も人的資本と捉えることを求めています。人的資源から人的資本へと全面的に考えを改めることを求める規格なのです。
経営が本気で人的資本と捉えれば、自然と事業戦略と社員のスキル向上が同じくらい重要だと考えるようになるはずです。例えば、ビジネス環境が急変する現代では、業績の高い社員が今後も同様の成果をあげられるとは限りません。ISO30414は、優秀人材にもしっかりと育成コストをかけているかどうかを問うてきます。そのくらい真剣に、経営が人的資本への投資を議論することを求めてくるのです。
ジョブディスクリプションの導入から始めなくては
入江:日本企業はどう対応したらよいのでしょうか?
加藤:1つの大きな問題は、多くの日本企業にジョブディスクリプションがないため、誰にどの程度のスキルがあるのかが把握できないことです。これでは人的資本投資を明確にするのは難しいでしょう。日本企業は、ジョブディスクリプションの導入から始めなくてはならないと思います。
小澤:誰しも、得意不得意や好き嫌いがあります。個々のメンバーの特性を見抜き、得意や好きを中心にしてスキルを伸ばすサポートをするのが、人的資本経営の時代のマネジャーの役目ではないでしょうか。しかし、多くの場合、マネジャーは、タスク管理に焦点を当てていて、メンバーのスキルを十分伸ばせていないように思います。今後の日本企業に強く求められることの1つに、人材マネジメントプロセスのトランスフォーメーションがあると見ています。
加藤:また、人事の皆さんには、マネジャーと協働し、社員が社外で通用する実力をもつかを継続的にチェックする仕組みを構築していただけたらと思います。社員を人的資本として見るとは、社外でも活躍できるように育て上げるということですから。
最後にお願いがあります。私たちは今後数年かけて、日本発の原案起草や標準提案活動を実現したいと考えています。関心のある人事の方には、私たちの輪に加わり、積極的に意見を寄せていただけたらうれしいです。未来のISO30414をぜひ一緒に作っていきましょう。
【text:米川青馬】


情報開示、そのための基準というと、「行わなければならない、守らなければならない」という印象が強いかもしれません。しかし、小澤さんと加藤さんにお話を伺うことで、それは誤った印象だということが分かりました。
ISO30414は、情報開示のガイドラインではあるものの、同時に企業の持続的成長を支える、人的資本投資の可視化・マネジメントのためのツールでもあるということが今回の学びです。ぜひ一度、皆さんも日本語版に目を通してみてください。
一方、具体的な内容に目を向けると、企業の持続的成長という観点では、足りないものも少なくないとのことでした。より良い基準にすべく、提案活動を進めたいということだったので、ご関心がある方は、ぜひ意見交換等へのご協力をよろしくお願いします。
※HAT Labとは
正式名称HR Analytics & Technology Lab。リクルートマネジメントソリューションズが先進技術を活用して「個と組織を生かす」ための研究・開発を行う部門。中心テーマは、データサイエンスとユーザーエクスペリエンスの向上技術。所長は、2002年入社後、一貫して人事データ解析に関する研究・開発やコンサルティングに携わる入江崇介が務める。
※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.62連載「データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 連載第15回」より転載・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
PROFILE
加藤茂博(かとうしげひろ)氏
一般社団法人 ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 副代表理事
リクルートにて、HR 領域のビジネスに長年携わる。その傍らで、ミシガン大学 HRコース、MIT People Analyticsコースをそれぞれ修了。ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会の設立に携わり、副代表理事を務める。
小澤ひろこ(おざわひろこ)氏
日本シェアホルダーサービス株式会社 チーフコンサルタント
一般社団法人 ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 研究員
会計監査法人系ファームを経て、新日本有限責任監査法人に入所し、企業情報開示のアドバイザリーを担当。2012年5月~2018年9月、国際統合報告評議会の日本事務局を兼務。2018年10月より、現職にてSR/IRに関するコンサルティングに従事。米国公認会計士。ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会研究員も務める。
バックナンバー
第10回 創造性を科学し社会価値創造のエコシステムを作る(VISITS Technologies 株式会社 Founder/CEO 松本 勝氏)
第11回 アナリティクスを人事の現場に普及させたい(スターツリー株式会社 代表取締役 山田隆史氏)
第12回 スマートビルが横や斜めのつながりを増やして創発を促す(株式会社日建設計 デジタル推進グループ 中村公洋氏)
第13回 他社が始めたから自分たちも、という意思決定でよいのか(慶應義塾大学 システムデザイン・マネジメント研究科 特任助教 佐藤 優介氏)
第14回 データサイエンスとビジネスの橋渡しが最も大事で難しい(三菱ケミカル株式会社 人事部 労制・企画グループ 大村 大輔氏)
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第28回
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