データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第3回 ピープルアナリティクスで人財ポートフォリオの転換、社員の活躍促進を目指す

日立製作所のシステム&サービスビジネス統括本部は、日本のHR TECH活用のパイオニアだ。2017年4月にPeople Analytics Labを立ち上げ、社内のみならず、現在トライアル的に社外のピープルアナリティクスも受託を目指している。その中心人物である中村亮一氏にお話を伺った。


従来とは違うタイプの新入社員を増やすことができた

入江:まずは、「People Analytics Lab」を立ち上げるに至ったストーリーを簡単に教えてください。

中村:私は、2004年の日立製作所入社以来、ずっと人事総務部門におり、そのうち7年採用を担当していました。2015年、情報通信事業などを統括するシステム&サービスビジネス統括本部の採用担当となってから、ピープルアナリティクスをスタートし、最初に本部内の新卒採用のタイプを変えることに挑戦しました。その成功を受けて、2017年にPeople  Analytics Labを設立したのです。現在は、社内はもちろん、社外のピープルアナリティクス受託ビジネスの検討を進めています。

入江:どうやって本部内の新卒入社者のタイプを変えていったのでしょうか?

中村:私がシステム&サービスビジネス統括本部に来たときは、ちょうど事業転換のタイミングでした。それなら、これまでと同じタイプの人財ばかりを採用していては良くないのではないかと声を上げ、ピープルアナリティクスを活用して、新たな採用スキームを提案・実行しました。

具体的には、私たちは人財の性格タイプをA・B・C・Dの4象限に分けて定義した上で、応募者データだけでなく、従業員1300名ほどの性格データをとって分析しました。そうすると、応募者・社員ともにDタイプが極端に多いことが分かりました。しかし、今後のビジネスで理想的なのは、A・B・C・Dが多様に在籍していることです。そのためには、D以外にも存在する「とがった人財」や「優秀な人財」を増やすことが重要だという結論になりました。

ピープルアナリティクスで、こうしたロジックを弾き出した上で、私たちはA・B・C各タイプのとがった人財、優秀な人財を採用するために、面接時の選考ポイントを絞り込むなどして、選考スタイルを変革したのです。その結果、母集団のタイプ比率はほぼ同じだったのですが、内定者はDタイプが20%ほど減り、その分AタイプやCタイプが増えました。なお、性格タイプ以外の基礎能力などの判断基準は変えていません。

入江:なぜそうしたことをいち早く実現できたのでしょうか。

中村:最大の要因は、私がピープルアナリティクスに興味をもったとき、それを具現化できる環境があったことです。特に、情報通信部門に優秀なデータサイエンティストが何名もいたことが鍵だったと思います。人事データを扱う際には個人情報やプライバシーを守る必要があるため、そのうちの1人に人事部に入ってもらい、専任のピープルアナリティクスマイスターになってもらいました。また、部下のなかには人事データをしっかり管理できるデータマネジャーもいましたし、データマネジメントプラットフォームなども整っていました。そうした環境があったからこそ、比較的早く一歩を踏み出せたのだと思います。

ベテラン人事の勘や経験はだいたい正しいと感じている

入江:今回の新卒採用のピープルアナリティクス活用で苦労したことは?

中村:最初にさまざまなデータを入れたところ、すっきりとした分析結果が出ませんでした。最終的には、シンプルに性格だけで分析したら、分かりやすい結果が出たのですが、そこに至るまではいろいろと試行錯誤がありました。

入江:社内を説得する上での苦労はありませんでしたか。

中村:意外かもしれませんが、組織内の抵抗や反発はほとんどありませんでした。なぜなら、私たちの分析結果が、以前から経営幹部が何となく感じていたことと合致していたからです。むしろ彼らも腹落ちして、新卒採用の改革に踏み切ろうと後押ししてくれました。

実は、こうしたことは珍しくありません。今私たちは、社外のさまざまな業界のデータ分析をさせていただいていますが、多くの場合、私たちの分析はクライアントの経営層やベテラン人事の考えを裏付ける結果になります。彼らの経験や勘は素晴らしいナレッジで、だいたい正しいのだと感じています。彼らは、自分の考えが可視化されたことに喜び、味方になってくれます。もしピープルアナリティクスなど信用しないと言っている上司がいたら、試しに1つ分析して上司に提出することをお勧めします。反応がガラリと変わるはずです。

入江:ところで、これまでのタイプ比と異なる新入社員の様子はいかがですか。

中村:正直、新入社員の20%が変わっても、最初は分かりやすい変化など起きないのではと思っていたのですが、実は私たち以上に経営幹部がタイプの変化を敏感に察知しており、会議などでよく話題になります。また、入社式などで質問が途切れず、時間が足りなくなるといった目に見える変化も起こっています。

幹部には、「この新卒採用改革は劇薬かもしれず、一時的には問題が増える可能性もあります」と事前に説明したのですが、そうしておいてよかったです。

入江:People Analytics Labの受託ビジネスのことも教えてください。

中村:採用→配置・配属→育成→生産性アップ→採用……と回る「人財バリューチェーン」の各ポイントを可視化するツール(尺度)を開発し、人財バリューチェーンの変革を支援するのが、私たちのビジネスです。

例えば私たちは今、配置・配属のフィット感、ホワイトカラーの生産性を心理学的に計測し、可視化を目指しています。すでに社内外の4000名近くに試用してもらい、妥当性の検証を進めている最中で、近々社外に提供していく予定です。このデータに行動ログや人事データなどをAIを用いて掛け合わせると、さまざまなことが見えてくるはずです。

「従業員の幸せ」のためにデータを活用するのが大前提

入江:ピープルアナリティクスを行う際のポイントは何でしょうか。

中村:ピープルアナリティクスで成果をあげたいなら、分析の目的を明確にすることが欠かせません。今回の例で言えば、新卒入社者のタイプ比を変えるという目的がありましたが、同じように退職率を下げたい、生産性を高めたいといった目標を定め、KPIを設定した上で分析して、PDCAを回していく必要があります。この観点が欠けてしまうと、いつまで経っても成果につながりません。

また、私が最も重要だと思うのは、「従業員の幸せ」のためにデータを活用する姿勢です。データはどのようにでも扱えます。だからこそ、従業員にプラスになる活用をしていただきたいのです。そのために私たちができることがあれば、ぜひ力になりたいと思います。

ピープルアナリティクスを進める上では、人事の知見とデータサイエンスの知見、双方が求められます。しかし、1人の人間が両方をもつことは簡単ではありません。そこで重要になるのが、人事の専門家とデータサイエンティストの協働です。また、新たな取り組みであれば、経営幹部や従業員といった、社内のステークホルダーの理解も欠かすことができません。

それらを実現するためのヒントが、中村さんのお話にはありました。「データありき」ではなく、「従業員の幸せ」のためにデータを活用すること、そしてさまざまな関係者の立場に立ってアクションを起こすことは、これからピープルアナリティクスをスタートする皆様もぜひ大切にしていただければと思います。

※HAT Labとは
正式名称HR Analytics & Technology Lab。リクルートマネジメントソリューションズが先進技術を活用して「個と組織を生かす」ための研究・開発を行う部門。中心テーマは、データサイエンスとユーザーエクスペリエンスの向上技術。所長は、2002年入社後、一貫して人事データ解析に関する研究・開発やコンサルティングに携わる入江崇介が務める。

【text:米川青馬】


※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.49連載「データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 連載第3回」より転載・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら


PROFILE
中村亮一(なかむらりょういち)氏
株式会社日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部 ヒューマンキャピタルマネジメント事業推進センタ People Analytics Lab 主任

2004年日立製作所入社。関西支社へ配属され人事総務業務に幅広く従事した後、2010年から東京本社へ異動して技術系の採用業務に携わる。2015年2月より、IT部門の人事担当として採用などを担当する他、データアナリティクスを実施。2017年にPeople Analytics Labを立ち上げ、現職。

バックナンバー

第1回 「統計モデリング」には人事のあり方を変える力がある
専修大学 岡田謙介氏


第2回 これからの人工知能はパーソナル化して“感性”に最適化される
SENSY株式会社 渡辺祐樹氏


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