- 公開日:2026/07/13
- 更新日:2026/07/13
三菱UFJ信託銀行株式会社の人事部は近年、人事データの分析で大きな成果を上げている。彼らが分析業務に取り組む原動力は何か。そして、分析への取り組みを継続するためにどんな努力をしているのか、人事部企画グループ 上級調査役である君島康昭氏と野田陽平氏に伺った。
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第34回
- 分析成果を簡明に伝え人事データの可能性を共有する仲間を増やす
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- 従業員の本音をAIが引き出すことでエンゲージメントを向上
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第31回 夜久真也氏/山内智氏/佐久間祐司氏
- 360度評価に潜むバイアスをアルゴリズムで除去
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- HRBPとCoEが連携し人事データの活用を「社内文化」にする
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- ピープルアナリティクス浸透のカギは文化とリーダーシップ
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- データ活用の際に人事に必要な調査リテラシーは何か
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- 定量・定性の両面から現場にアプローチして人と組織を理解する
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- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第21回 土橋隼人氏
- 社員の「ワクワク感」を高めるEX観点を日本の常識にしたい
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第20回 鹿内学氏
- 「信頼」を科学してイノベーションを生み出す日本にしたい
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- 「人事の脱エクセル」が進む可視化中心のピープルアナリティクス
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- 負荷を増やさずに人事データを民主化し意思決定を変える
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- 「統計モデリング」には人事のあり方を変える力がある
まずはデータ分析が経営に役立つ感覚をもってもらうところから始めた
入江:まずは、君島さんのバックグラウンドについて教えてください。
君島:大学院では心理統計学を専攻し、共分散構造分析なども学びました。
入江:君島さんが人事データ分析に本腰を入れたのはいつ頃でしたか。
君島:私が人事部に配属された翌年の2022年くらいからです。週1回行われるパルスサーベイの結果を可視化したのが最初でした。
そして2023年に社内でヒットしたのが、部門別の人員構成を可視化する試みでした。全社の人口ピラミッドは当時も存在していましたが、私は事業部門ごとの人員構成をグラフで図示。すると、「ある部門はベテランと若手はたくさんいるが、中間層が少ない」などの状況が明確になりました。
入江:人事データの分析が経営課題の可視化につながり、評価されたのですね。ところで、御行は金融機関ということもあり、データ活用には積極的な印象がありますがいかがでしょうか。
君島:お金にはデジタルデータの側面がありますから、社風的にデータ分析に対する親和性はあると思います。ただ、近年私たちが行っているような複雑な分析をいきなりぶつけても、経営層などは戸惑うかもしれません。そこで、まずは分かりやすい成果を発表して「人事部がやっているデータ分析は経営に役立ちそうだ」と考える人を増やし、それから徐々に複雑な分析を公表するステップを踏んだのです。
働き方や採用候補者の実態を分かりやすく可視化した
入江:君島さんはその後、どんなデータ分析に取り組まれましたか。
君島:2024年には、勤怠や働き方データ、パルスサーベイスコアなどを一覧できる「働き方ダッシュボード」を作りました。生産性やエンゲージメントを高めるため、OutlookやTeamsにおける社員の行動履歴を可視化したのですが、最初は約100種類の指標をそのまま管理職に提供して戸惑われました。そこでエンゲージメントやパフォーマンスのスコアと働き方指標の相関を探り、「管理職は自組織のこの指標だけ確認すれば大丈夫」というシンプルなダッシュボードを完成させたのです。
入江:情報が多すぎると読み手は混乱するので、分かりやすい指標だけを見せることにこだわったのですね。
君島:このプロジェクトで面白かったのが、部外・社外の人とひんぱんに連絡を取り合う人の方が、パフォーマンスやエンゲージメントが高いことでした。これは管理職にとっては意外な事実だったのではと思います。
入江:確かに。一方で、データの収集や分析についてはご苦労も多いのではないかと思いますが。
君島:いいえ、こうした仕事にストレスは感じません。私は仮説を立て分析を深掘りするのが好きですし、データ分析が会社を変えるという信念もありますから、楽しみつつ働いています。
入江:なるほど。ところで、野田さんが人事部に異動してきたのは「働き方ダッシュボード」の完成後だそうですね。野田さんのバックグラウンドはどのようなものでしょうか。
野田:大学院では数学専攻です。入社後は、人事制度コンサルタントとして顧客の人事データ分析を手掛けていた時期もありました。
入江:君島さんは心理学、野田さんは数学という切り口で分析しているのですね。さて、野田さんが加入されてからは何に取り組んだのでしょうか。
君島:文系学部に属する学生の理系素養を、採用活動時に行われる性格検査データを基に判定する「文理スコア」プロジェクトに取り組みました。
野田:当社では理系の優秀な学生もぜひ採用したいのですが、金融業界ということもあり、応募者は文系学部の学生が多数派です。ただ、そのなかにも理系の素養が豊かな人もいるはずで、そうした層を見極めるのが目的です。
入江:なるほど、文系学部にも「理系頭脳」の持ち主はいるでしょうね。
君島:はい。しかも最近の大学では文理の区分がつきづらい学部が増えていますから、理系素養を見極める仕組みはますます重要になっています。
野田:当社が採用過程で行う性格検査には、約70項目のスコアがあります。このうち、理系人材と文系人材で大きく差が出る項目を抜き出して相関関係を確認。また、潜在クラス分析(データを統計的に処理し、隠れたグループを推定する手法)を使うことで、「文系学部に在籍しているが理系っぽい人」を抽出できるようになりました。
君島:ただし、この「文理スコア」はあくまで補助情報です。これだけで採用を決めたりせず、面接時に深掘りするための材料という位置づけです。
今後は各事業部の現場でも人事データ分析が行えるように
入江:君島さんは2025年まで、コツコツと人事データ分析の取り組みを進めてきました。そこに野田さんが参加された経緯を教えてください。
君島:当時の野田は人事コンサルタントとして、高いデータ分析能力を発揮していました。私はもっと高度な人事データ分析に取り組みたかったので、人事部に異動してきた野田に、力を貸してほしいと声をかけたのです。
野田:私も分析業務が好きですし、君島から望まれたこともあって、一緒に仕事をすることになりました。
君島:人事の業務量は少なくありませんから、データ分析専門チームの結成など難しいケースも多いはず。私たちも、分析に興味をもつ2人だからこそやれている部分があると思います。
入江:とすると、君島さんや野田さんが何らかの事情で人事部から離れた場合の持続性が心配になります。
野田:そこは大きな課題ですね。そのため私たちは、データ分析の有用性を社内に広めることを「裏ミッション」と考えています。データって面白そうだ、分析すると会社が良くなりそうだと感じてくれる社員が増えれば、皆を巻き込みやすくなりますし、継続性も高まるのかなあ、と。
入江:そういえば、「働き方ダッシュボード」は2024年、「文理スコア」は2025年のDigital HR Competition*1で発表されていましたね。
*1 一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会が主催する、データと技術を用いて人事を進化させた企業を表彰するコンペティション
君島:はい、どちらもファイナリストに選んでいただきました。これも、人事データ分析は役立つことを社内に広める取り組みの一環です。
入江:一方で、人事データというものはデリケートな存在でもあります。どこまでオープンにできるかという点について、難しさは感じていますか。
野田:ご指摘のとおり、人事は機密情報を取り扱います。活用すればユニークで有効な分析が可能ですが、結果をどこまで公開するかは悩みどころです。
入江:やはり、そこは難しいですね。では最後に、今後お二人が取り組みたいことを聞かせてください。
君島:当社は2025年度、タレントマネジメントシステムを導入しました。ここで情報を一元化することで、現在は私たちが行っているような人事データ分析を、各部門でも行えるようにしたいですね。そこで私たち人事部は、データ活用支援や社内教育などの役割も果たそうと考えています。
野田:社内の各部署で生じている課題をデータサイエンスの知見を活用して解決するのが、私の目標です。そのためには、論文を読むなどしてアカデミックな知見を積もうと思います。
【text:白谷 輝英 photo:伊藤 誠】


人事基本情報である要員の可視化、メールやカレンダーの情報といったワークスタイルデータの分析、そして、潜在クラス分析のような高度な統計解析。人事データ活用の幅広さ、それぞれがもつ価値を、お二人のお話からうかがい知ることができました。
お二人の話で印象的だったのは、データやデータ分析の結果を活用する人の特徴や立場を考え抜かれている点でした。これは、現場への精通、人事の専門性、分析の専門性、それらがそろってこそのものだと思います。
これらを兼ね備えることは、容易ではありません。だからこそ、複数人でのコラボレーションが大切だと思います。
ぜひ、読者の皆さんも、社内・社外の仲間を見つけ、ご所属の組織でのデータ活用推進に挑戦してみてください。
※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.82連載「データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 連載第34回」より転載・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
PROFILE
君島 康昭(きみじまやすあき)氏
三菱UFJ信託銀行株式会社
人事部企画グループ 上級調査役
大学院では心理統計学を専攻。三菱UFJ信託銀行入社後は企業年金や事業企画などの領域でキャリアを積んだ後、2021年から人事部。
野田 陽平(のだようへい)氏
三菱UFJ信託銀行株式会社
人事部企画グループ 上級調査役
大学院では数学を専攻。三菱UFJ信託銀行入社後は企業年金や人事制度のコンサルティングなどを担当し、2025年から人事部。
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第34回
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