- 公開日:2026/04/13
- 更新日:2026/04/13
住友生命保険(以下「住友生命」)は職員のウェルビーイング実現を目指し、幅広い施策を実行中。そこで鍵を握っていたのは、戦略人事とデータサイエンティストによる「データ×対話」のスタイルだった。詳しいお話を、同社の土屋 実友衣氏(写真左)と門口 佳奈恵氏(写真右)に伺った。
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職員のウェルビーイング向上に取り組む背景
入江:住友生命では職員のウェルビーイング向上を目指し、さまざまな取り組みをされていますね。まずは、その背景から教えていただけますか。
土屋:当社は生命保険事業という本業に加え、健康増進など新たな付加価値を提供できる企業に変わろうとしています。そして、「より良く生きる価値」はお客さまだけでなく、職員にも提供すべきだと考えたのが、取り組みの出発点でした。その実現に向け、当社では、人の価値を高めて共に育つ「人財共育」という理念を掲げています。
入江:貴社がエンゲージメントサーベイのデータ分析に注力しているのは、その理念をかなえるためですか。
土屋:はい。現・取締役 代表執行役社長の高田(幸徳氏)が社長に就任し、人的資本経営とデジタル化の加速を宣言した2021年度からエンゲージメントサーベイを導入し、2024年度から因果分析ツールを使った分析に取り組み始めたのもその一環です。
入江:高田社長は、土屋さんが所属する「人財共育本部」の本部長も兼ねていらっしゃるのですね。
土屋:そうです。こちらは考課や採用に携わる人事部とは別に設けられている部門横断型の組織で、経営と連動した人財戦略の立案、企業文化の醸成などを手がけます。この部署を社長が自ら陣頭指揮するほど、当社は人財共育に力を入れているのです。そしてそれは、職員のウェルビーイング実現の取り組みにも直結しています。
入江:ところで、門口さんをプロジェクトに加えたのはなぜでしたか。
土屋:エンゲージメントサーベイの開始直後は、私がExcelで集計を行っていましたが、データ分析の専門家ではないために限界を感じたのです。もっと深い分析を行い、どのデータがエンゲージメントに影響を及ぼしているのか知りたかったので、専門家である門口の手を借りることにしました。
門口:2020年入社の私はデータサイエンティストとして、運動状況や健康診断などに応じて特典が得られる保険商品「Vitality」で、運動と健康の相関性を分析していました。そうしたなか、先輩である土屋から声をかけてもらい、エンゲージメントサーベイの分析も担当することになったのです。
AI 因果分析ツールの導入で報告の説得力が高まった
入江:エンゲージメントサーベイの分析はスムーズに進みましたか。
門口:いいえ。最初はDID(差分の差分法)やRDD(回帰不連続デザイン)などで因果分析を試みましたが、いろいろな制約があり難航していました。
プロジェクトが飛躍したのは2024年で、AI技術を使った因果分析ツールの導入が転機です。おかげで、どの要素がどの要素に影響を与え、最終的にエンゲージメントにどう結びつくかを視覚的に示せるようになりました。
入江:ツールで「因果」が見えるようになったことで、経営層や管理職層へのレポーティングは変わりましたか。
土屋:劇的に変わりました。それまでは表層的な報告で終わりがちでしたが、今は「この職種にはこの因子が強くきいているので、この施策をやるべきです」などとストーリーを語れるようになりました。その結果、私たちの説明は説得力が増し、おかげで進んで協力してくれる人も増えました。
入江:レポーティングの際、お二人はどのような役割分担で動くのですか。
門口:私がデータを出し、土屋が人事として培ってきた「肌感覚」や定性的な情報をもち寄って、すり合わせをします。仕事をするフロアが近いこともあり、サーベイの分析に取り組む時期にはほぼ毎日会って話しますね。
土屋:最初の頃は、門口が使う言葉のなかに知らないものがたくさんあったのです。その際、「私に分からないことは現場の管理職も分からない」と考え、徹底的にかみ砕く作業をしました。
データで証明できるものはしっかり伝え、一方で「肌感覚」的なものは可能な限り言語化する。その両輪を並行して回すことを大事にしています。
エンゲージメントに影響する因子を因果分析で見出した
入江:エンゲージメントサーベイの解析によって得られた発見と、そこから生まれた施策を教えてください。
土屋:分析結果に基づき、職種別研修を企画・実施したことがあります。
当社の職員は、将来の幹部候補である「総合キャリア職」、専門性を生かして各地域で活躍する「ビジネスキャリア職」、主に都市部で法人営業や個人のお客さまへの保険提案を行う「総合営業職」、各地域でお客さまに保険の提案を行う「営業職員」の4つに大別できるのですが、ウェルビーイングの構成要素であるエンゲージメント指標に強く影響する因子が、それぞれ異なると分かったのです。そこで、成長実感がエンゲージメントに直結しやすい総合キャリア職には、キャリアアップにつながる研修を数多く行う。一方、転勤がないために職場環境を重視する傾向が強いビジネスキャリア職には、コミュニケーション研修に力を入れるなどの取り組みを行いました。こうした工夫により、特に若年層のエンゲージメントスコアは、3年間で10ポイント以上も向上しています。
入江:因果分析に基づいて施策や打ち手を工夫し、効果を上げたのですね。
ところで、お二人はお互いに対話を大切にされていると感じますが、お二人から他部門に対しても同様ですか。
土屋:もちろん大切にしています。そしてここ数年で、対話しやすい雰囲気が社内に広がったと感じています。
以前の当社には、トップダウン型の傾向がありました。しかし、人財育成の分野で上から押しつけるやり方を選ぶと、やらされ感が出てしまいます。そこで2021年以降は、ブランドコミュニケーション部が中心となり、全国の職員が参加するオンラインイベント「ブランド・ライブ」の開催、イントラネットでの積極的な情報発信などによって、双方向のコミュニケーションを活性化させようとしています。
門口:2022年のオフィス移転を機に導入されたフリーアドレス制も、フラットな社風づくりに役立っています。また、異なる部署の職員同士が一緒に昼食をとる「シャッフルランチ」といった仕組みも定着してきました。
入江:コラボレーションを加速させる取り組みが盛んだからこそ、社内の対話もスムーズになるわけですね。
では最後に、これから取り組みたいことがらは何か教えてください。
土屋:人財共育本部事務局としては、ウェルビーイングの実現に向けた取り組みを今後も進めていきます。社長と管理職が直接対話する「タウンホールミーティング」、当社が掲げる「人財共育」の理念を広める「エバンジェリストチーム」の全国派遣などにより、組織内に横方向のコミュニケーションをさらに拡大させたいです。
門口:データサイエンティストとしては、これまでに構築した因果分析のソリューションがエンゲージメントサーベイの分析にしか使われないのはもったいないと感じています。そこで、他部門が行っている社内アンケートを分析するなど、他プロジェクトでも応用できないかと挑戦している最中です。
入江:お二人が生み出した「データ×対話」のスタイルが、社内にどんどん広がればいいですね。
【text:白谷 輝英 photo:伊藤 誠】


人的資本の情報開示が進むなか、エンゲージメントを開示項目に含める企業も少なくありません。そのようななか、「エンゲージメントを高める要因は何か」を明らかにするための取り組みをされていたり、始めようとしたりする企業も増えているのではないかと推察します。今回の土屋様と門口様の取り組みは、そのようなチャレンジに取り組む皆様にとって、参考になるものと感じました。
特に、対象となる人によって異なるエンゲージメント向上要因を丁寧に把握するアプローチ、人事とデータサイエンティストが協力して現場に対して分かりやすく伝えるコラボレーション、複合的な施策展開など、取り入れられる工夫が多いのではないでしょうか。もちろん、簡単なことではないと思いますが、ぜひ、皆様の取り組みに生かしていただければと思います。
※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.81連載「データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 連載第33回」より転載・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
PROFILE
土屋 実友衣氏
住友生命保険相互会社 人財共育本部事務局
門口 佳奈恵氏
住友生命保険相互会社 情報システム部
システム業務室主任兼新規ビジネス企画部主任
データサイエンスオフィサー付
- データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第33回
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