連載・コラム
さあ、扉をひらこう。Jammin’2022 session report vol.3
グローバル環境下でリーダーシップをどう開発したらよいのか〈オーナーセッション2〉
- 公開日:2023/02/27
- 更新日:2024/05/16
共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」は、4年目のJammin’2022を行っている最中だ。40社・273名の次世代リーダーが、約半年にわたって事業案の立案に取り組んでいる。同時並行で、オーナー(人事)の皆さんが参加するオーナーセッションも開催している。 2022年12月の第2回オーナーセッションには、大学院大学至善館 准教授・副学長の吉川克彦氏が登壇した。Jammin’グローバルコースのグローバル専門トレーナーも務めている吉川氏と共に、「グローバルビジネス環境下でのリーダーシップ開発」について考えた。その内容の一端を紹介する。
問1:グローバルに活躍するリーダーに求められるものとは?
講師プロフィール
吉川 克彦(よしかわ かつひこ)氏
大学院大学至善館 准教授・副学長
早稲田大学グローバルストラテジックリーダーシップ研究所招聘研究員
リクルートにて、人材・組織に関する研究とコンサルティングに従事したのちアカデミアに転身。2017年より上海交通大学(中国)にてアシスタントプロフェッサー。2019年より現職。京都大学経済学部卒、London School of Economics and Political Scienceより修士および博士(ともに経営学)を取得。
今回のオーナーセッションでは、吉川氏からオーナーの皆さんに3つの問いが出された。第1の問いは、「グローバル環境下で活躍するリーダーには、何が求められるでしょうか?」だ。
最初にオーナーの皆さんは、ブレイクアウトルームでこの問いについて対話した。対話後の情報共有では、「覚悟」「多様性・異文化への理解」「視野の広さ」「ロマンや情熱」「英語力」「コミュニケーション」「自分の意見を持ち、自分が何者かを語れること」などの答えが出された。
以上の対話を受けて、吉川氏は次のような説明を加えた。
「グローバル経営の本質は、グローバルでの統合とローカルへの適応の両方を、同時に行うことにあります(図表)。
グローバルでの統合とは、世界で均質な製品・サービスを提供し、最善の品質・コストを追求することです。グローバル統合に軸足を置く企業では、グローバル本社が方針を立て、研究開発を行い、知識・ノウハウを生み出します。海外拠点は、本社で決定されたことの実行組織となります。集中と統制によって、規模の経済性を追求するわけです。
しかし一方で、世界は依然として多様です。経済の発展度合い、固有の文化、法システムなどが国・地域ごとにかなり異なります。ですから、国や地域ごとの違いに適応することで、優位を実現したり、脅威に対応したりする必要があります。そのためには、現地の経済や文化や法律を深く理解し、現地でネットワークを構築し、現地で即座に判断することが欠かせません。それがローカルへの適応です。こちらに軸足を置く企業は、自律的で、起業家精神にあふれた国別海外拠点をつくっていきます。海外拠点が各地で起業家精神を発揮し、ローカルなイノベーションを行うのです」
吉川氏によれば、多くの産業において、「グローバル統合」と「ローカル適応」という、一見相反する2つを同時に行う必要が高まっている、という。
「典型的なパターンは、かつてはグローバル統合に軸足を起き、世界中で同じ製品・サービスを提供してきた企業が、世界各地で競合企業と競ううちに、ローカル適応にも力を入れざるを得なくなる、といった事例です。
反対に、映画・ドラマ・バラエティ番組などの映像エンターテインメントは各国の文化に根づいたローカルビジネスでしたが、最近はある国の人気コンテンツの形式を国外に持ち出し、他国で再生産するグローバル事例が増えています。また、リテールバンキングなどの金融ビジネスは法規制が厳しく、従来はローカル企業が有利でしたが、最近はどの国の金融機関も、グローバル規制やグローバル金融に対応する必要性が増しています。ローカルだけではなく、グローバルも考えざるを得なくなるわけです。
組織としてグローバル統合とローカル適応を同時に行っていくためには、どちらか一方だけではなく両方の視点で考えることができるリーダーが必要です。しかも、本社にも、海外拠点にもそうした人材を育てる必要があります。また、世界各地にユニークな役割を担う拠点を育成すること、そのうえで、本社も含む各地のリーダーが協同的に意思決定を行うプロセスと文化を育むことが必要です。
この時代のリーダーには、複雑性に耐える力や、異なるバックグラウンドの仲間たちと一緒に働けるマインドが欠かせません」
<図表> グローバルな競争における本質的な挑戦
問2:未来志向で事業・組織を動かすリーダーはどうやれば育つ?
吉川氏からの第2の問いは、「皆さんの社内における、リーダー育成の課題とはどのようなものですか?」だ。
オーナーの皆さんは再びブレイクアウトルームで対話した。対話後の情報共有では、「プレイングマネジャーのマネジメント力をどう育成するか」「次世代リーダーを早期にセレクションすべきか」「リーダー意識をいつどのように醸成するか」といった課題が語られた。
吉川氏は、Jammin’グローバルコースを運営していて感じる問題意識を次のように語った。
「受講者の皆さんの英語力は年々上昇しています。異なるバックグラウンドの仲間と協働してやり切る姿勢にも好感を持っています。しかし、“事業”という視点が欠けている受講者が多いように見えます。例えば、事業全体としてどんな価値を顧客に提供しているのか、どう競争優位を実現しているのか、なぜ儲かっているのか、そういう視点です。
日頃、一生懸命“仕事”をするなかで、自分の担当の業務のことはよく考えているし、真面目に取り組んでいる。しかし、”事業”という視点でものごとを考える機会が少ないのだと思います。さらに、事業の外、すなわち、世界で何が起きているのか、経済や社会の変化がどのように起こるのか、というところにもっと視野と興味を広げる必要があると思います。世界が大きく変化しているわけですから」
これからの時代に求められるリーダーとは、グローバル統合とローカル適応の両方の視点を持つことに加えて、世界、社会に目を向けて、未来を構想し、事業の創造や変革に取り組める経営リーダーだ。
「そのような人材をどれだけ育成できているでしょうか?正直に申し上げて、理想と現実には大きなギャップがあるように思います」
では、そのギャップを埋めて、優れたリーダーを育てていくにはどうしたらよいのだろうか。
「私は、リクルートワークス研究所と共同で“部長の役割”研究をしました。その成果として、“あらまほしい部長(未来志向で事業・組織を動かすリーダー)”は、次の4つの要素を経ている傾向が強いことがわかりました。
(1)経営幹部として成長する期待(ポテンシャル)に基づく登用
(2)経営者から直接指導・アドバイスを受ける経験
(3)事業責任者を務める経験
(4)事業経営の方法論を学ぶトレーニング
この4点を見て分かるとおり、未来に向けて事業と組織を動かす人材を育てるのに必要なのは、経営を巻き込んだ総合的な取り組みです。
経営幹部としてのポテンシャルを見極める、事業経営の視点からアドバイスをする、思い切って事業を担う責任を持つ立場を任せる、いずれも経営を巻き込むことが必要でしょう。トレーニングも、経営が関わることで経営視点のものとすることが有効です」
ただし、これらの経験を全員に積ませるのは不可能だ。
「やはり何らかのセレクションは必要です。ただし、入れ替えもあるべきです。思わぬところからスターが登場することも珍しくありませんから。セレクションしながら、一方で可能性を広く見ることが大切です」
問3:リーダー育成を誰と、どうやって進める?
第3の問いは少し長い。「御社の10年後を想像してください。事業の広がりを考えたときに、経営リーダーの顔ぶれはどのようになっているべきでしょうか? そのために、今、どのような人材の育成に取り組む必要がありますか?」というものだ。
吉川氏は、この問いの前提として、日本企業の現状について触れた。
「顔ぶれについて考えていただく上で、一つ見ていただきたいデータがあります。日本企業、米国企業、欧州企業の海外拠点トップにしめる、本社からの赴任者が締める比率の比較です。
日本企業は、海外拠点トップに占める本社からの赴任者の比率が、米国企業や欧州企業に比べて段違いに高いのです。しかも、過去数十年、この傾向はあまり変わっていません。つまり日本企業は、圧倒的に日本人頼みでグローバル経営をしているのです。私が行った研究からは、日本の組織では阿吽の呼吸が求められること、日本人が文化的に身内志向が強いこと、さらには英語が苦手なこと、などが要因になっている、ということが示されています。
先程、グローバル統合とローカル適応をすすめるには、本社にも海外拠点にも、両方の視点で考えられる人材が必要だ、と申し上げました。ここには、日本人も含まれますが、海外の人材も含まれるでしょう。
しかしこのままでは、海外の人材に任せられないから、海外の人材がなかなか育ちません。そして、日本人を送り続けるから、本社もなかなか変わりません。このニワトリとタマゴの問題を乗り越えて、グローバルに経営リーダー候補を育て、登用する仕組みを誰と、どう構築したらよいでしょうか。皆さんの意見を聞かせてください」
ブレイクアウトルームでの対話を経て、オーナーの皆さんからは次のような意見が出た。「リーダーは育てるのではなく、勝手に出てくるものではないか。問題は、優れたリーダー候補を外から見つけてくるのが難しいことだ」「問題は、特定領域に強い人材は多いが、そこから全社を束ねるリーダーが出てこないことではないか」
吉川氏は、以上の意見に対して、このように答えた。
「ポテンシャルのある人材を見つけて登用すること、そして、様々な分野、さらには本社と海外拠点といった異なるを経験してもらうこと、それらはもちろん重要です。
ただ、優れた次世代リーダーを見つけて抜擢するのは、それが社内の人材であれ、社外の人材であれ、難しいことです。なぜなら、ポテンシャルに基づく登用とは、リスクを取ることにほかならないからです。事業上のリスクを飲み込んだ上で、あえてポテンシャルに期待して任せる。それは経営者にしかできないことであり、経営者の意思決定がまさに試される場面です。
リーダーを育てるには、リーダー候補者をコンフォートゾーンから動かす必要があります。この課題は世界共通で、日本だけでなく、欧米でも自らコンフォートゾーンを出る人材は決して多くありません。だからこそ、ストレッチアサインメントがポイントとなります。コンフォートゾーンから動かさないと、“コインの裏側が見える人材(世界やビジネスを広く見渡せる人材)”は育たないのです。
新たなリーダーをつくるには、リーダー候補たちに専門性を超えた経験を積んでもらい、そのなかから全体の意思決定を行う立場に挑戦したい人材を引き上げるほかにないのです。だから、経営リーダーの育成は、経営者が関わって進めるべきものなのです」
【text:米川 青馬、illustration:長縄 美紀】
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
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