共創型リーダーシップ開発プログラムJammin’レポートvol.1 イノベーションとリーダーシップを考える

今年度から始まった共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」。先が見通せない混迷の時代に活躍できる次世代リーダーを、他社の人材との交流を通じて育成する、というプログラムだ。興味深いのは、別途、人材を送り出す側である各社の人事(オーナー)向けのプログラムも組まれていることだ。去る2019年5月某日、東京ミッドタウン日比谷BASE Qで行われた、初回のオーナーズ・セッションの模様をレポートする。


本人だけでなく社内の変革も不可避のプログラム

ガラスが緩やかなカーブを描く円形窓を背景に、大きなスクリーンが天井から下がっている。その前に、参加者が弧を描くように3列になって座る。いずれも大手企業の人事で、その数、24名。さっきまで降っていた雨が上がり、窓から見える丸の内のオフィスビル群の姿がより鮮明になった。

オーナーズ・セッションは午後3時半からスタートした。最初にリクルートマネジメントソリューションズ代表取締役社長の藤島敬太郎があいさつし、リーダー開発という課題の難しさを語った。

続いて、このプログラムの企画者である、同社エグゼクティブプランナーの井上功が進み出た。
「本プログラムの愛称であるJammin’はJapanese Method for Mastering Innovationの頭文字を取ったものだが、ジャズの即興演奏を意味するJammin’ともかけている。異業種メンバーで、正解のない社会課題解決に向け、新価値を創造していくリーダーシップ・プロセスを即興演奏に見立てた。このプログラムを受講した人材が活躍するためには、人材マネジメントという受け皿の変更が必要になるかもしれない。そうした意味で、人事の皆様に向けたセッションを並行して設けた」

はじめに主観ありき

本編のスタートとなった。登壇したのは、一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏だ。演題は「人を活かす組織人事戦略とリーダーシップ―知的機動力の経営」である。

野中氏はまず、今日、最大の経営資源となった知識の本質から話しはじめた。「科学の基礎にあるのは直接経験である。客観的知識の前提として、まず人間の主観がある」(野中氏、以下同)

長椅子に足を伸ばして座り、窓の外を自らの左目で眺めている現実を描いた有名なエルンスト・マッハ(オーストリアの物理学者・科学史家・哲学者)の絵がある。そこには、「いま、ここ、わたしだけ」の一瞬の質感が表現されている。「それは皆さんも日々経験している、生き生きとした主観的な直接経験ではないか」。一方、物が見えるメカニズムを「その物から反射した光が目に入り、電気的信号が神経を通って脳に伝わる」と説明するような、「いつでも、どこでも、だれもが」持ち得る客観的経験は、一切の質感を排除して抽象化した三人称、つまり客観である。「いまの時代、日常が数学化しすぎているが、数値自体には意味はない。もう一度自己の主観、自分にしか見えない意味、価値というものをベースに普遍化する必要があるのではないか」

この直接経験が、暗黙知の源泉となる。言葉や数式によって表せない、独自の思いやノウハウなどだ。そのようないわゆる暗黙知と、形式知の相互転換による組織的な知識創造のプロセスが知識創造(SECI〈セキ〉)モデルである。

相互主観性と知的機動力経営

このモデルを内に組み込み、そのサイクルをすばやく回していくのが「知的機動力経営」となる。

その原点という意味で重要になるのが、相互主観性である。他者の主観と全人的に向き合い、共感し合うときに成立する、自己を超えた「われわれの主観」をいう。SECIモデルの始まりである「共同化(S=Socialization)」プロセスそのものである。

その相互主観性を高め合う場として、京セラで行われているコンパ(飲み会)や、ホンダが得意とする個と個がぶつかり合う議論の場、ワイガヤが説明された。「京セラのコンパは畳の上に座り、鍋を囲むのが基本だ。手酌は厳禁、他の人に酒を注ぎまくれば、誰かが注いでくれるだろうという利他の精神が貫徹している。そこでは個の殻を破った本質的議論が繰り広げられ、豊かな相互主観性が醸成されている」

戦略はプロットとスクリプトに分かれる

野中氏は戦略を、「生き方を問う物語り(ナラティブ=語ること)」と定義する。それは、外部環境に適応するためのツールでも、現在の能力や資源に制約されるルールでもない。未来をつくり上げる「創造的な指針」に他ならない。「変化する状況に対応していくための手段でもあるから、予期できない変化を許容する自由度が必要だ」

物語りとしての戦略は、プロット(筋立て)とスクリプト(台本)の2種類に分けられる。より重要なのは後者だ。「ある特定の状況における対処法を記した行動規範とも言い換えられる。スクリプトの代表格が全78項目にわたる京セラの京セラフィロソフィであるが、けっして一般的あるいは形式的な内容ではなく、稲盛哲学の長年の蓄積がレトリックを駆使して結晶化されており、『物事の本質を究める』『利他の心を判断基準にする』といった、日常の仕事において各自が折に触れて参照し、実践を通じて身体知化していける本質的な内容になっている」

人事である前に知的体育会系たれ 

野中氏の話をまとめると、物語り戦略を軸にした知的機動力経営を行うための重要な役割を人事が担うべきだ、ということになるだろう。

そんな野中氏は、アメリカの動画配信大手、ネットフリックスに注目している。「一人前の大人だけを雇用する」「考課制度を廃止し、成果についてありのままを話す」「人事は人事である前にイノベーターであれ」といった同社における人事の原則を評価する。強調したのは、イノベーティブなリーダーを育成するには、人事こそがまずイノベーターにならなければならないという点だ。野中流にいうと、「思索家であり実践家でもある知的体育会系の人材」となる。

クリエイティビティとイノベーションの違い

小休息を挟んで、IMD北東アジア代表の高津尚志氏が登壇する。IMDはスイスに本部がある著名なビジネススクールであり、演題は「IMD流 Innovation/Leadership」。

高津氏は自己紹介の後、参加者に立ち上がってもらい、3、4人のチーム単位で、このプログラム「Jammin’」に対する期待と不安について話してもらう。

「期待」としては「異業種の人たちと切磋琢磨できる」「会社の外に視野を広げるきっかけになれば」、一方の「不安」としては「受講生が退職してしまわないか」「長丁場の内容なだけに、受講生たちが欠かさず出席できるだろうか」といった内容が挙げられた。

こうして、その場の雰囲気が和んだところで、高津氏の話が始まる。

まずはイノベーションについて、IMDの教授、ビル・フィッシャー氏と議論した内容が紹介された。奇しくもフィッシャー氏は野中氏の知識創造理論を熟知し、野中ファンを自認しているという。

具体的には、「イノベーションは社会的現象だ」「イノベーションとはアイディアを動かすこと」といったことで、それらを阻害する要因も説明された。

高津氏はクリエイティビティとイノベーションの違いを強調した。「クリエイティビティ自体は、議論だけでも成立する、アイディアの領域の話。一方、イノベーションは、アイディアが実現し、収益を生み出すという『形』になることを指す」(高津氏、以下同)

続いて、IMDがMIT(米マサチューセッツ工科大学)と共同で開発した、経営リーダー向けのイノベーション推進プログラムが紹介された。

これからのリーダーシップとは

イノベーションとリーダーの関係に話題が移ると、高津氏は興味深い話をする。「リーダーシップがイノベーションを導くのではない。その逆で、リーダーシップを導くガイドがイノベーションなのだ」と。

イノベーションによって導かれる結果、リーダーシップのあり方も激変する。高津氏はその中身を「コントロールを減らす」「発見よりも探索」「決めるより試す」「より速く」「気前のよさ」というキーワードで説明した。

特に大企業の場合、1人の優れたリーダーがいくら頑張ったとしても、イノベーションという変革を実現するのは難しい。既存の事業が大きな桎梏(しっこく)となり、新しい事業の創出を邪魔してしまうからだ。「IMDとMITのプログラムにせよ、Jammin’にせよ、そこで学んだ受講生が会社に帰り、イノベーションを起こそうと思っても、そのためのリソースが調達・活用できなければ、到底、不可能だ」

オーケストラの指揮者が必要

そこで、必要になるのが、社内の各部門に分散した経営資源を、イノベーションや新規事業のために確保し、それらを統合するという行為だ。IMDはそれを「トランスフォーメーション・オーケストラ」と呼ぶ。その責任者、つまりリソースをつなげて変革のシンフォニーを奏でる指揮者がCTO(最高トランスフォーメーション責任者)となる。

CTOには、従来のチェンジリーダーとは異なる要件が求められる。4つの要件が挙げられた。謙虚さ、順応性、ビジョン、エンゲージメント(聴くこと、対話すること)である。

高津氏はこの4つに「共感」を付け加えた。「先頃、世界の経営者が集う会議に出席した。20名ほどのメンバーが異口同音に話していた言葉が共感(empathy)だった。野中先生も強調されるように、この共感という言葉は今後の経営や人材育成を考える際、最も重要であるのは間違いない」

高津氏は最後にこう念を押した。「Jammin’で学んだ受講生が開花するには、プログラムの最中と修了後における、あなた方、人事のフォローが鍵を握る。受講生を社内で孤立させず、しかるべき支援を絶やさないでください」と。

時計の針は定刻の6時半を指そうとしていた。再びこのプログラムの企画者である井上が壇上に立ち、こう締めくくった。「大企業は組織が硬直的だからイノベーションが起こりにくいといわれるが、それは正しくない。一人ひとりがそれにチャレンジできれば、社員数の多い大企業の方が、有利な立場にあるといえるだろう」

片や、理論重視、学習モードいっぱいの野中氏、片や、現場重視、参加者への問いかけが巧みな高津氏と、同じテーマを巡り、好対照の内容だった。2人の共通点は、人事への熱い思いを隠さなかったことだろうか。野中氏は大学卒業後に就職した富士電機において、人事の仕事に従事していた。高津氏は人事向けのコンサルティング業務に従事していたことがある。終了後の雰囲気から察すると、2人の思いは参加者にしっかりと伝わったようだ。

【text:荻野進介、photo:畑上照夫】

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります

※共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」は、異業種交流を通じた次世代リーダー育成を望む複数企業が集い、今年度より取り組みを開始した。大企業において、新しい価値を創造するリーダーシップと人事の役割を探究し、当サイト上でも発信活動を行っていく

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