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共創型リーダーシップ開発プログラムJammin’レポートvol.6 Jammin’Award

37の切磋琢磨の頂点に輝く新規事業案とは

  • 公開日:2020/04/06
  • 更新日:2024/04/10
37の切磋琢磨の頂点に輝く新規事業案とは

今年度から始まった共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」。先が見通せない混迷の時代に活躍できる次世代リーダーを、他社の人材との交流を通じて育成する、というプログラムだ。
プログラムの核になっているのが、新規事業案の作成である。しかも作って終わりではなく、巧拙を競い合い、グランプリを決する。当事者は真剣にならざるを得ない。
去る2月14日、東京ミッドタウン日比谷のBASE Qで午後1時から行われたJammin’Awardの模様をレポートする。

社会の「不」を起点とし、新規事業を考える
インバウンドにAI、ヘルスケア、ドローン、SDGs
中身がシンプルで、かつ圧倒的価値があるか
VRに地方創生、ブロックチェーン、産学連携、マッチング
公共性が高いがゆえに主体が問題になる
磨けば磨くほどよくなるプラン
防潮堤の身になって考えてみた

社会の「不」を起点とし、新規事業を考える

会場はほぼ満員で、始まる前から人いきれがしていた。150名は優にいるだろう。前方には大きなスクリーンが2つかけられ、その前に受講者グループが2列になって陣取る。会場後方には、彼・彼女らを送り出した各企業のオーナーや関係者が座っている。

流れていたジャズ音楽がひときわ高く鳴り響くと、照明が落とされ、司会の2人が登場、いよいよイベントの幕が切って落とされた。

社会の「不」を起点とし、新規事業を考える

最初に、司会の1人で、Jammin’の企画責任者でもあるリクルートマネジメントソリューションズの井上功が説明を行う。「各社から派遣されたリーダー候補人材がテーマごとに10クラスに分かれ、さらにそのなかで3~5名のグループを作った上で、演習とフィールドワークを繰り返し、約半年で担当テーマに即した新規事業案を作成してもらった。その数、37にもなった。今日は各クラスで一番という評価を獲得したグループが一堂に会してプレゼンを行い、頂点を決めたい」

このJammin’では社会における「不」、つまり不満、不便、不安といった困りごとを見つけ、その解消策という形で、事業案が作られる。未だ顕在化していない不を発見することと、当事者の身になって、その解消を図る過程をいかに事業にしていくかが肝となる。

続いてゲストが紹介される。経済産業省産業創造課の鈴木裕也氏、大手企業とスタートアップのマッチングを図るCrewwの創業者兼CEOの伊地知天氏、リクルートの執行役員で、スタディサプリの発案者でもある山口文洋氏の3名で、それぞれが簡単な自己紹介とあいさつを行った。

インバウンドにAI、ヘルスケア、ドローン、SDGs

午後1時14分、本日の目玉である事業案のプレゼンがスタートする。持ち時間は各10分で、その時間を過ぎると強制終了となる。すべてが終わったところで、リアルタイムにWEB上でアンケートを取り、会場からの得票数が最も多かった事業案がグランプリを獲得する。そのほかに、伊地知氏、山口氏が選ぶ特別賞が計2グループに贈られる。

さて、トップバッターとなったのはインバウンドコースのグループで、壇上に4名が上がった。その内容は増大する訪日外国人旅行者が抱える、ある不を解消するというものだ。メンバーは街で外国人への突撃インタビューを繰り返し、その不を発見した。その解決策として、駅などに近い交通至便の場所に、ある施設を設ける。プレゼン時間は10分ちょうど、4名が交替で話し、チームワークのよさを実感させた。

続く2番手は、AI(人工知能)コース所属のグループで5名が壇上に上がる。こちらの事業案も旅行に関するもので、何かと不便が発生しがちな家族旅行をサポートする有料サイトの立ち上げだ。その仕組みの背後でAIを最大限に活用する。メンバーが実感していた不でもあったが、中身を掘り下げるため、こちらも当事者へのインタビューを実施し、内容を深めた。「旅行の想い出を輝くものに」というのがそのサイトのコンセプトだ。

3番手はヘルスケアコース所属のグループだ。「2025年には3人に1人が高齢者」という未曽有の状況を踏まえ、このグループは、高齢者が自身の健康状態を正しく把握できてないことを、解消されるべき不として取り上げた。その結果として、健康を維持するための正しい行動をとることができない。たとえできても長続きせず、ふと気づいたら、重篤な病気にかかっていることが判明してしまう。それを防ぐために、定年退職者を対象にした健康・予防のためのプラットフォームを創設し、個人向け、企業向けに提供するというプランである。

ドローンという機器をテーマとしたのが4番手のグループだ。発表したのは、人命損失の可能性が高い危険な仕事などにそのドローンを活用するというBtoBビジネスの事業案である。そうした仕事の従事者にも話を聞きに行った。「初期投資をお願いしたい」という言葉でプレゼンが締めくくられた。

次はSDGsコースである。新規就農者向けに、農業の細かなスキルを教えるデジタルサービスの開発が提案内容だ。例えば、VR・AR・AIなどのデジタル技術を用い、果樹の剪定方法を詳しく教える。こうしたニーズは農家へのヒアリングを通じて浮かび上がってきた。日本のみならず、海外への普及も視野に入れる。

インバウンドにAI、ヘルスケア、ドローン、SDGs

中身がシンプルで、かつ圧倒的価値があるか

ここで、司会の井上が「ヘルスケアとインバウンドコースに同席していたが、どちらの事業案もプレゼン含め、最後に聞いた時と比べ、相当、ブラッシュアップされている」と話す。

さらに3名のゲストのコメントが続く。鈴木氏は「どの案もデータ分析からしっかり始め、課題を探索し、ソリューションを練るという意味で共通していた。新規事業の壁になりがちなのが、行政が設けた規制だが、それがあるからうまくいかないという姿勢だけは取っていただきたくない。規制に直面したら、それを行政と話をするきっかけにしてほしい」とまとめる。

リクルートの山口氏は新規事業を審査する時、中身がシンプルでありながら、「これは絶対あった方がいい」という圧倒的価値を有しているものを評価するという。そう述べた上で、5つに対し詳細なコメントを発表した。「競合研究はきちんと行われているか」(ヘルスケア)「大企業の新規事業というより、独立してスタートさせた方がいいのでは」(SDGs)という実践的なアドバイスが耳に残った。

伊地知氏の第一声は「エキサイティングで楽しい」。インバウンド関連の事業案に対し、「その不ではなく、別の形で不を捉えることはできないか」、ドローンのグループに対し、「オリジナルの開発ではなく、既存のドローンは使えないのか」といった投げかけが印象的だった。

続いて会場からも発言があった。まずは農家向けのデジタルサービスの開発について、農家だけではなく、昨今増えているレンタル農地利用者もターゲットにしたらどうか、という内容だった。

もう1つ、この後に控えたVRコースの代表チームの受講者から「SDGsコースの事業案は、VRも活用するようだ。自分たちのお株が奪われないよう、プレゼン内容に少し手を加えた」という言葉が発せられると、会場に笑いが漏れた。

中身がシンプルで、かつ圧倒的価値があるか

VRに地方創生、ブロックチェーン、産学連携、マッチング

約10分の休憩を挟み、後半、5グループの発表となる。
6番目に壇上に上がったのはVR(ヴァーチャルリアリティ)コースの4名である。発表したのは、誰もが無縁ではない、ある疾患にかかった当人が外界をどう認識しているかを、VRを使って疑似体験できる企業向け研修の事業案だ。単なる動画ではないVRを使うと、自分が罹患したかのように、その状態がリアルに体験できる。4名全員、身近に罹患者がいたことが発想の原点で、当事者やその周囲の職場の人にインタビューを重ねて案をブラッシュアップさせた。

続いて地方創生のグループ。他のコースとは違い、実際に東日本大震災の被災地でもある宮城県石巻市雄勝町に逗留し、住民たちと触れ合うなかで、不を発見していった。

その不とは思いがけないものだった。津波から町を守るために設置された、コンクリート製の巨大な防潮堤が、「海が見えなくなった」「町の景観を損ねる」「いざという時、役立つと思えない」といった理由で、町民たちから“嫌われ者”になっていたのだ。

4名は知恵を絞り、防潮堤の機能を保ったまま、それをあるものに転用させることで、マイナスの価値をプラスに変え、地域復興にもつながるプランを思いつく。

プレゼン内容も盛りだくさんで、規定の10分で終わらず、途中退場を余儀なくされる。「僕たちの思いは十分伝わったものと思います」という最後の言葉に会場から拍手が寄せられた。

さて、次のグループのテーマはブロックチェーン。ビットコインで注目を浴びた新しいデータベース技術だが、中身を理解するのも難解なそれを、この発表クラスは、昨今需要が高まる災害ボランティア向けのサイトに活用する案を発表した。それによって、「どの地域に、どんなスキルを持った、どんな人間を欲しがっているか」という情報が不足しているボランティア参加者の不、「思うような数の、思うようなスキルを持った人が来てくれない」という被災地の不、「ボランティア募集の情報は紙で管理するしかない」という社会福祉協議会の不、その3つの解消を図るというものだ。

さて残るは2グループとなった。
9番目の産学連携コースの代表グループは、ある国立大学の教授の研究成果を用い、介護士の適性や勤務の現状把握などに活用することで、早期離職や燃え尽きを防止するというものだ。顧客は介護士を雇用する病院や社会福祉法人などだ。うまく事業が立ち上がれば、看護師や保育士にも応用を効かせることができるという。

時計の針はもうすぐ4時となり、いよいよ最後のグループの発表となった。意外な出会いを演出するマッチングコースのグループである。壇上に勢ぞろいしたのは、何と11名。元のメンバーは4名だが、同じコースの別のグループの受講者が、「これは面白そうだ」と4名加わった。さらに、事業案に賛同し、パートナーとなることを了承した2つの企業の3名が登壇したので、計11名の大所帯になったのだという。

発表されたのは、保育園・幼稚園の場を使い、子供向けのあるサービスを展開するという案だ。保育園・幼稚園がそのまま使えるため、親は面倒な送迎をしなくても済む。一方、子供向けサービスの事業会社にとっても、平日昼間にビジネスを展開できることは大きなメリットとなる。発表者は最後、会場に呼びかけた。「グランプリを取ろうと思って今日ここにやって来た。投票はぜひうちの案にお願いします」

VRに地方創生、ブロックチェーン、産学連携、マッチング

公共性が高いがゆえに主体が問題になる

後半5つの事業案に対しても、ゲストがコメントする。鈴木氏、山口氏が共に「いずれも公共性が高いプランばかりだ」と共通の感想を述べた。その上で山口氏は「公共性が高いがゆえに、いずれも誰が主体になるべきかが難しい」と述べた。最後、マッチングコースの案に対しては、「私立保育園・幼稚園ならともかく公立の保育園・幼稚園の場合、実現が難しいのではないか」と、辛口のコメントも。

伊地知氏も各案に対して真摯なコメントを発表する。「すぐにでも取り掛かるべきだ」という案が2つあった。ブロックチェーンコースの案に対しては、WEB検索をすることが、植林につながるベルリン発祥の検索エンジン「エコシア」について説明し、案を磨く上で参考になるとアドバイスした。

さて、ここですべての案が出揃ったことになり、聴衆はWEBアンケートで、よかった事業案、応援したい事業案を1人3つ、投票する。最も得票数が多かったものがグランプリを獲得する。

公共性が高いがゆえに主体が問題になる

その間、会場からの発言を司会が促すと、マッチングコースのグループの1人が挙手し、先ほどの山口氏の疑問に答える形で、公立の保育園・幼稚園での導入に関して補足情報を述べた。

磨けば磨くほどよくなるプラン

午後4時40分、いよいよ受賞案の発表だ。まずは特別賞で、ゲストの伊地知氏、山口氏がそれぞれ選んだ計2グループに贈られる。

伊地知氏が選んだのは、ブロックチェーンコースの災害ボランティアのためのサイト事業である。「この案は磨けば磨くほどよくなる。頑張って実現させてください」と総括した。「大変光栄だ。ゲストのお二人には辛口のコメントをいただき、賞を取れないと思っていたので余計に嬉しい」と代表者が述べた。

磨けば磨くほどよくなるプラン1

一方の山口氏が選んだのはマッチングコースの保育園・幼稚園活用プランである。山口氏が言う。「事業案の中身ももちろんだが、質疑応答での対応がよかった。私の疑問に対し、そうじゃないですよ、と言い返すところに本気度を見た」

壇上に上がった代表者が「本当はグランプリをもらいたかったが、本当は山口さんのような優れた事業家が選んでくれたこの特別賞の方が欲しかった」と言うと、「負け惜しみですか」と司会の井上が突っ込む。

磨けば磨くほどよくなるプラン2

防潮堤の身になって考えてみた

そして、注目のグランプリを獲得したのは、地方創生コースのグループだった。代表者がこう述べたのが印象的だった。「防潮堤も嫌われたくてそこに建てられたわけではない。防潮堤の気持にもなって、住民と対立ではない、別の価値を生み出したかった」

防潮堤の身になって考えてみた

最後、ゲストの3名がそれぞれこう総括した。「それぞれの案が素晴らしいビジョンを備えていた。今回、たまたま3つが表彰されたが、他の7案含め、ここで終わるのはもったいないものばかりだ。引き続き、実現に向けたブラッシュアップをお願いしたい」と伊地知氏が言えば、山口氏は「異業種の人たちと協力し、事業案をゼロから作るという体験は、ご本人たちにとって非常に貴重な学びになったはずだ。そこで得た経験や物の見方をぜひ元の職場に持ち込み、組織をどんどん変革していってほしい」と別の視点からコメントした。鈴木氏は、この4月にスタートするオープンイノベーション促進税制について言及、こうした場を通じて、大企業発のイノベーションが増えることへの期待を語った。


時刻はもうすぐ規定の午後5時半になろうとしていた。中身が詰まった、あっという間の4時間半、というのが関係者含め、聴衆の感想だろう。Jammin’の趣旨は人材育成であり、新規事業開発はそのための手段なのだが、発表当事者はもちろん、ゲストの姿勢も真剣そのもので、今回のアワードは本来の趣旨を忘れてしまうほどの、迫熱した新規事業コンテストという趣きだった。
何かに本気で取り組まないと、人は育たない。育成のための育成ではない、Jammin’の魅力はそこにあるのだろう。
Jammin’は2020年度、さらにパワーアップした形で催行される。

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