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共創型リーダーシップ開発プログラムJammin’2020オーナーセッションレポートvol.3

「当たり前」や価値観を揺さぶり、成長と共創の実現を目指す「越境」の取り組み

  • 公開日:2021/05/24
  • 更新日:2024/05/20
「当たり前」や価値観を揺さぶり、成長と共創の実現を目指す「越境」の取り組み

2019年度からスタートした共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」。
2020年9月から始まったJammin’2020から、今回は11月6日(金)にオンラインで開催した第3回オーナーセッションの模様をお伝えする。オーナーセッションとは、Jammin’に人材を送り出している人事(オーナー)向けのプログラムだ。

第1回第2回に続いて第3回は、桜井武寛氏(東京海上日動火災保険株式会社 人事企画部 人材開発室 能力開発チームリーダー)に、東京海上日動の「越境」の取り組みを詳しく紹介していただき、その後に参加者間で対話を交わしていった。なお、進行役は井上功(弊社シニアコンサルタント)藤澤理恵(弊社主任研究員)である。

社員のイノベーションマインドを高めるために越境を用意
海外や社会貢献で非日常・修羅場・リアルな題材を体験する社外越境
部門・場所・年次を超えた社内コミュニケーションの場「Learning to cross borders」
エバンジェリストに手を挙げた社員が想定以上に多かった

社員のイノベーションマインドを高めるために越境を用意

オーナーセッションは、Jammin’にリーダーを送り出す人事の皆さんが参加し、ゲストの講演と、オーナー同士の対話を通して、リーダー開発や組織変革の知見を交換しながら考えを深めていく場だ。特に重要なのは、「自社に共創型組織へのシフトを起こすために何ができるか?」という問いである。オーナーが、こうした問いに自分なりの答えを出し、自らを変え主体的に行動を起こしていくことで、組織は変革される。だからこそJammin’では、オーナーセッションをリーダーセッション同様に重要なものと位置づけている。

第3回ゲストの桜井氏は、「次代に向けた人づくり、組織づくり~東京海上日動における『越境』の取り組み~」と題して、自社の「越境」の取り組みについて話してくださった。東京海上日動は、多くの日本企業と同様に、日本の人口減少による既存ビジネスの中長期的な縮小を想定している。さらに、自動運転やシェアリングエコノミーの進展によって、自動車保険のマーケットも長期的には縮小が見込まれるだろう、と桜井氏は語る。「今後、私たちに求められるのは、既存ビジネスの収益性を確保しながら、新たなマーケットやビジネスを創造していくことです。そのためには、社員の変革力とイノベーションマインドの向上が欠かせません。私たちがいま越境に力を入れている背景の1つに、まさにこの社員のイノベーションマインドを高めたいということがありました」。

桜井武寛氏
2001年東京海上火災保険(現・東京海上日動火災保険)入社。12年ほど営業を経験し、商品部門でロンドンに駐在した後、2018年から人事部門で能力開発・人材育成の責任者を務める。Discovery Cards(後述)で選んだ3枚は「ユーモア」「一体感・チームワーク」「共感」。

イノベーションマインドの向上は、東京海上日動社員の課題の1つなのだという。「研修講師など、社外の皆さんからは、当社社員はロジカルな思考や素直さ、丁寧な業務遂行能力、協調性などの強みがある一方で、同質性が高く、変革力・創造性が相対的に弱いと指摘されることがありました。私たちも、自分たちが『金太郎飴』ではありませんが同質性が高いこと、『失敗したくない』というマインドが強いこと、異質なものを『お手並み拝見』する傾向があることに課題を感じています。こういった同質性、過度な慎重さを変えていく場と機会として越境を用意したのです。私たちにとって、越境は、当社の『当たり前』を揺さぶる場であり、社員の成長の機会であり、『共創』に向けた仕掛けでもあります」(桜井氏)

当社における「越境」の位置づけ

東京海上日動の越境施策は、「社外越境」「社内越境」「組織開発・理念教育」の三位一体で作られている。「社外越境が主な越境経験の場ですが、社外越境の機会はどうしても限られてしまいます。そこで社外越境を補完する場として社内越境を用意し、できるだけ多くの社員に「越境」を体感してもらう機会を提供しています。また、越境施策と並行して組織開発・理念教育を進めており、越境してきた社員を受け入れ、活かし合う風土の醸成も進めています」(桜井氏)。

海外や社会貢献で非日常・修羅場・リアルな題材を体験する社外越境

社外越境のポイントは、「バリエーション」と「非日常・修羅場・リアルな題材」だという。「リーダーシップ開発・イノベーション力向上・経営スキル習得・女性活躍推進・その他専門スキル習得など、目的に応じて、多種多様な社外越境プログラムを用意しています。既存の外部プログラムに派遣するケースもあれば、私たちが独自に作り込んだプログラムもあります。その中でJammin’は、リーダーシップ開発とイノベーション力向上の重要なプログラムと位置付けています」(桜井氏)。

越境プログラムで多いのは「海外」と「社会貢献」を絡めた施策だ。海外も社会貢献も、非日常・修羅場・リアルな題材を体験するのに向いている。例えば、「3年目グローバル研修」は、入社3年目のグローバルコース社員(150名ほど)が、1~2週間にわたって海外現地法人で働いたり、海外企業にインターンしたり、海外のフィールドリサーチを行ったりするプログラムだ。2020年に始めた「Tokio Marine 2100」は、日本と海外グループ会社、合わせて160名ほどの社員が、さまざまなトピックスで対話するオンライン研修である。「社会貢献」に携わる施策としては、若手社員が新興国のNPO等で一定期間働く「海外留職」や、新入社員研修の一環として実施している「地方創生プログラム」などがあげられる。(※2020年度は中止)。

海外や社会貢献で非日常・修羅場・リアルな題材を体験する社外越境

社外越境を成長につなげるため、桜井氏たちはアセスメントシートを用意している。「越境を一過性の体験に終わらせず、より深い気づきや学び、行動変容につなげるために、経験学習の内省のフレームワークを活用しています。フレームワークに基づいた自分なりの「問い」を立て、定期的に振り返ることを推奨しています」(桜井氏)。

部門・場所・年次を超えた社内コミュニケーションの場「Learning to cross borders」

一方で、社内越境の仕掛けとして2020年9月から始めたのが、ソーシャル経済メディア「NewsPicks」との共同プロジェクト「Learning to cross borders」だ。「Newspicksアプリ内に当社独自のタブを作り、当社社員だけがコメントし合える仕組みを構築しました。エバンジェリスト(社内ピッカー)が気になる記事をシェアし、参加する社員が部門・勤務地などに関係なくコメントし合うのです。任意参加にも関わらず、約2000名の社員が登録しており、想定以上の活発なコミュニケーションに良い意味で驚いています」(桜井氏)。また、アプリだけではなく、リアルイベント「Cross Borders Journey」を定期的に開催したり、アプリ内で盛り上がった話題に関する個別ミーティングをオンラインで開いたりもしているという。「目指しているのは、事務局が介在せずとも自然発生的に社内コミュニティが創出されていく姿です。近い将来、こういった社内越境が当たり前になる会社にしたいと思っています」(桜井氏)。

「社内越境」の新たな仕掛け

Learning to cross bordersは、部門・場所・年次を超えた社内コミュニケーションの場であり、社内の多様なタレント社員の存在を知り合う場であり、新たなアイディアや付加価値の共創につなげる場でもある。「Learning to cross bordersを活用した社内越境によって、視野を広げたり、思考を深めたりして成長する社員が数多く出てくることをねらっています。また、社外越境者がエバンジェリストとなって、社外で得た熱量を伝播したり、新たなアイディアをアウトプットしたりする場としても活用しつつあります」(桜井氏)。

東京海上日動では従来から、組織開発や理念教育にも力を入れている。社外越境・社内越境を活かし、下支えする風土をつくるためだ。例えば、社員がお互いの価値観を知り合うために「Discovery Cards」を用意した。50の価値観が記載されたカードから自身が大切にするものを数枚選び、周囲のメンバーと共有。また、心理的安全性を担保するための対話の「グランドルール」を定めたり、目的毎に対話をサポートするツールを用意したりしている。さらに、全世界グループベースで、経営理念・ビジョンについて対話する「マジきら会(まじめな話を気楽にする会)」を開いたりもしている。「目新しい特別なことをしているわけではありませんが、越境や組織開発の施策を愚直に実行しつづけることが、社員と会社の成長・変革を実現する近道だと考え、一つひとつ丁寧に取り組んでいます」(桜井氏)。

エバンジェリストに手を挙げた社員が想定以上に多かった

以上の基調講演を受けて、質疑応答を行った。例えば、「Learning to cross bordersのエバンジェリストはどうやって選んでいるのですか?」という質問には参加者の関心が集中した。桜井氏からは次のような答えがあった。「本人の手挙げ制を基本としつつ、取組みに共感してくれた熱量の高い社員にも個別に声をかけました。手を挙げた社員は想定以上に多く、特に、地方勤務社員の発信力の高さには多くの刺激をもらっています。なお、エバンジェリストには毎週1つ以上のニュースをピックアップしてもらっています」(桜井氏)。

エバンジェリストに手を挙げた社員が想定以上に多かった

質疑応答の後は、いくつかのブレイクアウトルームに分かれて、オーナー同士で対話を行った。1つ目の対話のテーマは、「次世代リーダーの越境で、組織に表れてほしい変化や成果は何か」という問いだ。対話後にあらためて全員でそれぞれの対話内容を共有した。「修羅場体験や、違うカルチャーで何かをつくり上げる経験を組織に持ち帰って、新たなアイディアを出せる風土づくりに寄与してほしい」「ただし、組織の方に彼ら彼女らを生かす土壌がなくてはならないと思う」といったことが共有された。

2つ目の対話のテーマは、「次世代リーダーに越境後に何をさせるとよさそうか」「越境したリーダーを受け入れるために、組織側に何が必要か」という2つの問いだ。オーナーがそれぞれ、話したいテーマを選んで対話に参加した。1つ目の問いについて対話した方は、「個人としっかり話したうえでアサインすることが大切だが、管理職の影響が強い点は注意が必要だと思う」と語ってくれた。2つ目の問いを対話した方は、「取り組みがいのあるアサインメントを工夫するなどして、何事もなかったかのように元の業務に戻さないこと、裁量を与えること、特別扱いをしないこと、越境経験を職場にシェアしてもらうことが大事ではないか」と共有してくれた。

【text:米川青馬、illustration:長縄美紀】

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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