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連載・コラム共創型リーダーシップ開発プログラムJammin’2020新価値創造セッションレポートvol.3

DX時代の「不」はテクノロジー抜きでは解決できない〈テクノロジーセッション〉

DX時代の「不」はテクノロジー抜きでは解決できない〈テクノロジーセッション〉

2019年度からスタートした共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」。いよいよ9月から、Jammin’2020新価値創造セッションがスタートした。今回は、全コースの参加者を対象として、10月に開催された「テクノロジーセッション」を紹介する。

現代の新価値創造に不可欠なテクノロジーの「いま」を知る

Jammin’は、社会課題を解決する新規事業案の検討を通して、新たな価値を創出するプロセスを学び、リーダーシップを磨くプログラムだ。参加者は、社会課題に関するテーマごとに、10のコースに分かれて、4〜5名ずつのチームで事業案を作る。事業案の検討にあたっては、世の中の「不」を基点にして事業を検討することを重視している。「不」とは、不安・不満・不公平など、「世の中にある誰かのお困りごと」を指す。特定のステークホルダーの「不」を解消しながら、そのインパクトを広げ、社会課題の解決につながるよう事業をデザインすることが、Jammin’流の新価値創造プロセスだ。

現代では、ビジネスの大半はテクノロジーを抜きにしては成り立たない。Jammin’で新規事業を創出する際も、分野に関係なく、DX・AI・ブロックチェーン・ドローン・VRといったテクノロジーを何かしら活用する可能性が十分にある。いまや、新価値創造にはテクノロジーの知識が欠かせないのだ。そのため、Jammin’2020では、全コースの受講者を対象とした「テクノロジーセッション」をオンラインで開催した。4時間にわたって5名の専門家が次々に登場し、テクノロジーの基本知識をレクチャーしてくれる場だ。専門家は次の方々である。

●DX:DIGITALBCGの日本リーダー・高部陽平氏(ボストンコンサルティンググループ Managing Director & Partner)
●AI:DX戦略とAIビジネスの現場の両方に精通する・佐久間隆介氏(株式会社ABEJA PaaS事業部 Director)
●ブロックチェーン:日本でいち早くブロックチェーンの実証実験を始めた・山藤敦史氏(株式会社日本取引所グループ 総合企画部フィンテック推進室長 兼 IT企画部 企画統括役)
●ドローン:世界有数のドローンサービス企業の経営者・徳重徹氏(テラドローン株式会社 代表取締役社長)
●VR:ビジネス領域へのVR導入を牽引する・武井勇樹氏(株式会社Synamon 執行役員 VP of Business Development)

それでは、専門家の皆さんに語っていただいた内容をごく簡単に紹介したい(なお、各レクチャー後には活発な質疑応答が行われたが、その内容はここでは省略する)。

【DX】デジタルとトランスフォーメーションはもう切り離せない

高部 陽平氏

ボストンコンサルティンググループ Managing Director & Partner
高部 陽平氏

高部:私の認識では、デジタルとトランスフォーメーションはもう切り離せなくなりました。IoT/モバイル、ビッグデータ、AI/機械学習の登場によって、業務遂行を人からデジタルへ置き換えることが可能となったからです。いまやデジタルは、事業・組織を横断するマネジメントイシューそのものです。ビジネスモデルの決定、マーケティング戦略、オペレーション戦略、データ戦略、そしてビジョン策定。すべてにDX、つまりデジタルが欠かせません。いま皆さんが取り組んでいる新規事業創出も例外ではなく、デジタルを知らなければ、新規事業を生み出せない時代になったのです。

私たちは、DX成功のポイントを、価値創出の基礎編「DX1.0」と応用編の「DX2.0」に分けて考えています。DX1.0は、「e2e(部門横断・クロスファンクション)」「X(エクスペリエンス=カスタマージャーニーやエンプロイ―ジャーニー)」「Agile(業界首位が1年で変わるデジタル界の動きについていく機敏さ)」の3つで、DX2.0は、「eco-system(他社との連携)」「@scale(成功手法の全社展開や自動化)」「Innovation & Disruption(事業開発やビジネスモデル変革)」の3つとしています。

特に企業が意識しなければならないのは、「構造的なアジリティ」です。構造的なアジリティを高めるために、経営・組織のあり方を変えながらDXを進める必要があります。具体的には、デジタル推進部門と既存組織の両者が交じった「デジタル推進の現場」をつくり、混成チームが率先してDXを推進していくのです。大企業では、このプロセスが必須です。

最後に、デジタル事業開発を企画する段階の12のキー要素を紹介します。最初の「パーパス」「マーケット」「競合」「アラインメント」は、従来の事業開発と同じ要素です。次の「投資ケース」「ビジネスモデル」「Go-to-Market戦略」「チーム構築」は、従来から変化した要素です。最後の「フリクション(構造的な摩擦への着目)」「Why Now(なぜいまかを徹底して見ること)」「プロダクト」「エコシステム」は、DX時代に新たに登場しました。この12のキー要素に着目することが、デジタル事業開発の成功率を高めるはずです。

【AI】すでに世の中のさまざまな「不」を解決している

佐久間 隆介氏

株式会社ABEJA PaaS事業部 Director
佐久間 隆介氏

佐久間:DXは、自宅に「ルンバ」を導入することに似ています。1つ目に、ルンバは実際に使って初めて、掃除時間と労力の圧倒的な減少を実感できる製品であること。2つ目に割り切りが必要で、掃除できない場所は人がフォローします。3つ目に、効果的に使うには、床にものを置かない生活様式に変えることが大切です。DXもまったく同じ。ですから、DXにおいては、「ROIだけで判断せずに使ってみること」「完璧を求めないこと」「業務を見直すこと」の3点が重要です。

AIは、ビッグデータを基に判断・予測するDXの必須ツールとなりました。ただし、その精度を高めるには、AIにフィードバック・再学習を行う「DO(デジタルオペレーション)」が欠かせません。なぜなら、最初から賢いAIをつくれるケースは少なく、DOしないと十分な性能を発揮できないからです。従来の言葉で言えば、DOは「カイゼン(改善)」に近いものです。

AIは「ルールベース→統計→機械学習→ディープラーニング」の順で進化を遂げてきました。ディープラーニングは2015年頃に人間の画像認識精度を超え、2019年頃に人間の自然言語処理精度を超えました。こうして発達したAIは、実はすでに世の中のさまざまな「不」を解決しています。クレジット利用の不正検知AI、小売経営を科学するAIなど、事例はいくらでも挙げられます。

AIで解決できる「不」は次の5つです。新規事業に活用する際は、この分類を踏まえるとよいでしょう。
(1)影響要因の可視化(故障要因・遅延理由の発見など)
(2)分類・認識(傷の検知、部品の仕分けなど)
(3)予測(気温・株価・需要の予測など)
(4)最適化(ポートフォリオ・生産計画の最適化など)
(5)生成(存在しない顔の生成など)

ただし、いくつか注意点があります。まず、AIは精度保証ができません。またデータによってAIの精度は左右されます。問題設定にも注意する必要があり、人が解けない問題をAIに押しつけてはいけません。最後に、やはりDOがポイントで、精度の低い段階から現場に導入し、カイゼンして精度を高めることが大切です。

【ブロックチェーン】権力の集中を防ぎながらデータ共有・処理を効率化できる

山藤 敦史氏

株式会社日本取引所グループ 総合企画部フィンテック推進室長 兼 IT企画部 企画統括役
山藤 敦史氏

山藤:私は2015年に有志でブロックチェーンの勉強会を始め、2016年に実証実験を開始しました。現在50社以上の金融機関が実証実験に参加しています。その経験を基にご説明します。

すべては2009年に生まれたビットコインから始まりました。2010年、メーリングリストの「ビットコイン1万枚とピザを交換しないか」という冗談の投稿に、別の参加者が応じたのが最初の取引です。その後、多くの問題を抱えながら、ビットコインは世界で約20兆円の時価総額を持つまでに成長しました。

ビットコインには単独の発行者がいません。日本円における日本銀行の役割を果たす機関が存在しないのです。代わりに、利用者はテクノロジーを信用しています。このテクノロジーこそ、「ブロックチェーン」です。現在、ブロックチェーンはビットコインだけではなく、土地登記・ストレージ管理・IoT・貿易金融など、さまざまなところで活用され始めています。同時に、ビットコインで使われているパブリックブロックチェーンとは別に、他の用途に使いやすい「プライベートブロックチェーン」や「コンソーシアムブロックチェーン」、「分散台帳技術(DLT)」が伸びています。証券や不動産などで見られる複雑な処理を扱うための「スマートコントラクト」技術も生み出されました。

ブロックチェーンの強みは、特定の会社・個人への権力の集中を防ぎながら、データ共有やデータ処理を効率化できることです。例えば、ブロックチェーンは、「管理コストをかけずにサービスを小口化したい」「ステークホルダーが多いサービスの課題を、権力の集中を防ぎながら解決したい」「業界全体で、非競争分野のデータ共同メンテナンスを行いたい」といった要望に応えるのが得意です。

せっかくブロックチェーンを使うなら、できるだけ大きな「不」の解消を目指し、大きな絵を描いていただけたらと思います。ブロックチェーンの成否は想像力で決まります。想像力をめいっぱい働かせてください。ただし、スイッチングコストには注意しましょう。ブロックチェーンですべてを解決しようとしない方がよいケースが多いです。最後に、ブロックチェーンは目的ではなく、あくまでも手段であることを忘れないようにしてください。

【ドローン】実は新興国から広まっている

徳重 徹氏

テラドローン株式会社 代表取締役社長
徳重 徹氏

徳重:私たちテラドローンは、空撮、測量、点検、データ分析、運行管理などの産業向けドローンサービスを国内外で提供しています。例えば、土地測量はデータ処理・取得をドローンで行うと、これまで2人で2週間ほどかかっていたものが、たった1日で終わります。他に、ガスタンクやオイルタンクの肉厚測定、携帯基地局の保守点検、河川の巡視などにもドローンが極めて有効です。これらのビジネスを展開してきた結果、現在私たちは、売上世界トップを争うドローンサービス会社となっています。

ドローンビジネスの最大の特徴は、「実は新興国から広まっている」ことです。なぜなら、新興国の方がドローン飛行に関する規制が少ないからです。特に、ドローンの目視外飛行(BVLOS)ができるかどうかが大きなポイントです。目視外飛行ができる国では、石油の盗難を防止するための石油パイプラインのモニタリングや、広範囲な山火事の早期発見など、かなり幅広い用途で使われ始めています。またヨーロッパでは、災害時にドローンを飛ばし、現地情報を素早く的確に得る試みも行われています。

今後、日本を含めた先進国でドローンを広めるには、飛行機・ヘリコプターなどとの衝突を防ぐUTM(運行管理システム)の充実が欠かせません。ただ、特に日本でUTM以上に課題なのが「顧客のメンタリティ」です。UTMを含めたドローン技術は急速に進歩しており、先進国の規制も2023年頃から順次緩和されていく予定です。墜落などはほとんどなくなり、安全面も心配いりません。日本でも、ドローンビジネスを展開する素地は近々整うのです。しかし、顧客企業の考え方が変わらない限り、決して広まりません。私たちはいま、「Just Do It(やってみましょうよ)」の精神で、積極的にドローンサービスを広めているところです。

【VR】コロナ禍が「リアルのバーチャル化」を加速させた

武井 勇樹氏

株式会社Synamon 執行役員 VP of Business Development
武井 勇樹氏

武井:VRは「人工現実感」という意味で、空間を疑似体験できる技術を指します。現状はヘッドマウントディスプレイを使うケースがほとんどですが、本来、VR=ヘッドマウントディスプレイではありません。VRコンテンツには「3DCG」と「360度映像」の2種類があり、3DCGはゲーム同様、空間内を自由に構築できます。360度映像は写真・動画撮影と同様で比較的手軽ですが、自由度は低くなります。

VRサービスは、新型コロナによって市場のニーズが大幅に変化しました。コロナ禍になってから、リアルで実施していたセミナー、展示会、教育研修、ワークショップなどをバーチャル化して、オンライン上で開催したいという「現実のバーチャル化」のニーズが飛躍的に高まったのです。実際、すでに日本でも「バーチャル渋谷」「バーチャルオフィス」「CA訓練VR」などのサービスが使われています。

具体的な事例として、私たちSynamonが提供している「NEUTRANS BIZ」を紹介します。NEUTRANS BIZは、バーチャル空間を複数人で共有できるビジネス向けコラボレーションサービスです。会議、セミナー、研修&トレーニング、展示会&ショールーム、360度画像・動画の活用などに使うことが可能です。実際のオフィスや自社のビジョンを具現化したバーチャル空間やオリジナルアバターの作製もできます。例えば、KDDIの5Gビジネスの開発拠点「KDDI DIGITAL GATE」のバーチャル空間を活用して施設案内を行う「KDDI バーチャルオフィスツアー」は、NEUTRANS BIZを活用したサービスです。こうした活用例はすでにいくつもあります。

2020年10月、「Oculus Quest2」という画期的なデバイスが発売されました。今後、ヘッドマウントディスプレイがさらに進化すれば、VRはこれまで以上に普及していくでしょう。VRは体験のテクノロジーです。「百聞は一体験に如かず」ですから、まずは最新のVRを体験してみてください。「不」の解消に活用できる方法が見えてくるかもしれません。


各テーマのレクチャーを聞いた参加者たちは、大いに刺激を受けた様子だった。セッション後のチャットには以下のような感想が並んだ。

・世のなかの変化、技術の発展スピードを痛感し、さまざまな領域について、学び続けることの大切さをあらためて感じた

・さまざまな最新テクノロジーの話を聞き、(Jammin’にとどまらず)どう仕事に生かせるか考える良い機会になった

・実際に(最新技術の開発などに)取り組んでいる方々の前に進んでいくエネルギーをリスペクトして学びたいと感じた

特に多かったのは、あらためてどんな「不」を解決したいのかを明確にしたい、という感想だ。技術は重要だが、目的ではなくあくまでも手段であることを各専門家のレクチャーから感じ取り、まずは課題の明確化が必要だと考えた参加者が数多くいたようだった。参加者たちはこのテクノロジーセッションでのインプットも踏まえて、引き続き新規事業案の検討を行っていく。続くセッションの様子も追ってレポートする。

【text:米川青馬、illustration:長縄美紀】

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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