共創型リーダーシップ開発プログラムJammin’レポートvol.2 イノベーションと人事の役割を考える【前編】

今年度から始まった共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」。先が見通せない混迷の時代に活躍できる次世代リーダーを、他社の人材との交流を通じて育成する、というプログラムだ。興味深いのは、別途、人材を送り出す側である各社の人事(オーナー)向けのプログラムも組まれていることだ。

第1回は5月に開催された。組織のなかでイノベーションを生み出すためには、リーダーを育て、孤立させない組織づくりが不可欠という理解、そして、そもそもイノベーションを生み出していくための「人事の役割」とは何か、との問いが場に立ち現れた。

去る7月23日、東京ミッドタウン日比谷のBASE Qで行われた、第2回目のオーナーズ・セッションの模様をレポートする。


『シン・ゴジラ』と『ボヘミアン・ラプソディ』

少し明るい曇り空を映しながら緩やかなカーブを描くガラス窓を景に、スクリーンが天井から下がっている。その前に、いずれも大手企業の人事、26名の参加者が弧を描き三列になって座っている。

午後4時過ぎ、今回から第4回まで、計3回を通じてナビゲーターをつとめる埼玉大学大学院准教授の宇田川元一氏が登場した。演題は「組織のなかからイノベーションを興す」。

宇田川氏は参加者にこう問いかけた。「イノベーションとは何ですか」と。
その答えとして、宇田川氏が用意したのが、『シン・ゴジラ』『ボヘミアン・ラプソディ』という、大ヒットした2つの映画だった。

宇田川氏が話す。「『シン・ゴジラ』は怪獣と人類が戦うという定番の内容だが、これまでと違う特徴がいくつもあり、印象的だった。ゴジラは今までに経験したことのない困難の象徴として描かれている。また、怪獣映画では自衛隊は弱いというのが決まりごとだったが、『シン・ゴジラ』における自衛隊は極めて規律的に行動している。その確固たる規律の上で、新しい技術が活用されて、困難をなんとか乗り越えていく。つまり、誰かヒーローや、すごい科学技術がいきなり出てきて問題を解決するような内容ではないということだ。そうではなく、これまでに獲得してきたルーティンを生かし、その上でイノベーションを実現しているという点に特徴がある。

一方の『ボヘミアン・ラプソディ』では、同名のその曲が、制作当初は売れるはずがないとプロデューサーからシングルリリースを拒否される。しかし、(歌い手の)クイーンのメンバーは、それをさまざまな手を駆使してリリースにこぎ着けた。それによって、同曲がヒットし、クイーンを不動の地位に押し上げた。どんなに素晴らしいアイディアや作品があっても、組織の壁を乗り越えなければイノベーションにならないことを、この映画は示している」

日本的経営はかつてイノベーティブだった

かつて「日本的経営」は、これらの例に似て、イノベーティブであると評価されていたと宇田川氏は指摘する。内外の著名な研究者による著書や論文を紹介しながら、「強い企業文化」「政府や銀行との一体感」「高い生産性と業績」「メンバーの緊密な相互作用」が、バブル期以前の1980年代に世界中から評価されていた事実を指摘する。ところが現在、日本的経営に対する興味は世界中でしぼんでしまった。

その要因を宇田川氏は「ダイバーシティの乏しさ」に求めた。「かつての日本の大手企業は、日本人で大卒、しかも男性という3条件を兼ね備えた人だけが働ける極めて同質性の高いなかで成立していたに過ぎない。40年近くが経過し、今や圧倒的にグローバル化が進み、多様な市場で多様な人々と一緒に仕事をしていかなければならない。果たしてそれがうまくいっているかといえば、全然そんなことはない」

共進化ロックインという罠

宇田川氏によれば、イノベーションが起きにくくなる要因を探った研究がある。ロバート・A・バーゲルマンという経営戦略論の研究者による「共進化ロックイン」に関する研究だ。

「現場が自律的に動いてイノベーションや新事業の種を見つけ、ミドルがそれを承認してトップに上げ、トップが戦略を変えるゴーサインを出し、戦略が転換される。これが理想的な組織内事業創造のプロセスだ。

一方、ある戦略がうまくいっている場合、その領域から外れた、新規事業は資源配分が受けにくい。これをバーゲルマンは共進化ロックインと呼んだ。既存の戦略と市場が共進化し、そこに企業内の資源配分がロックインされることで、新たな方向性を探索するような事業開発が抑制されてしまうのである。

その結果、現場が新しいことを試したり考えたりしなくなる。また、たとえ、新しいアイディアが出ても、ミドルからは『今の事業よりうまくいくのか』という観点から判断され、事業化に必要な資源配分が得られない」

流行に惑わされず、戦略開発を怠らない

そうならないようにするためにどうしたらいいか。
宇田川氏は、「イントレプレナー(社内起業家)の育成」と「地に足の着いたイノベーション戦略」の2つが必須だ、と指摘する。「2つを総称して戦略開発と呼びたい。見過ごされがちなのが後者のイノベーション戦略の展開だ。オープンイノベーションだとかティール組織だとか、外から借りてきた、はやりものの理論やコンセプトが役に立ったためしはない。ミドルとボトムが緊密な対話を繰り返してイノベーションの種を見つけて育て上げる。有望な種が見つかったら、今度はミドルとトップが対話し、適切な資源配分を行い、大きく育てていく。そうした対話的実践を地道に繰り返していかないと、イノベーションや新規事業は形にならない」という内容で宇田川氏の話が締めくくられた。

Must、Can、Willの交点にある事業を

午後4時40分過ぎ、富士フイルムの中村善貞氏の話「新規事業創出への挑戦」が始まる。イノベーション アーキテクトという肩書を持つ中村氏は、急速なデジタル化の進展により、写真フィルムの製造・販売という創業以来の根幹事業が揺らぎ、「第2の創業」に乗り出さざるを得なかった同社において、新たな成長戦略(=イノベーションの創出)を形にした立役者だ。

それが化粧品のアスタリフトである。
その開発は、同社が、病気の診断や治療、あるいは再生医療、そして予防までを視野に入れたトータルヘルスケアを、写真に代わる新しい事業の柱にすえたことから始まる。

中村氏が説明する。「こうした新規事業に取り組む際、経営者は社内を含めたステークホルダーに、なぜその事業なのか、という理由を説明できなければならない。その場合に、『やるべき』であるというMust、『やれそう』というCan、『やりたい』というWillの3つが重なった交点に、その事業があるならば、しっかりとした理由が示されたことになる」

では、トータルヘルスケア事業はどうだったか。「高齢化がますます進んでいること(Must)、その事業に既存の写真技術が応用できること(Can)、人々の健康増進に役立ちたいという意思を持つ社員がいたこと(Will)というまさに3つの交点にあった」

市場に学びながらの新規立ち上げ

次は、何を事業化のスタートに置くかが問題となる。それは比較的ローリスクで確実に立ち上げられるものでなければならない。白羽の矢が立ったのが化粧品事業だった。

ところが、いざスタートしたところ、想定外の事態が続出した。「化粧品は作ったことがないので、その製造を専門会社に委託したが、予定していたものがなかなかできない。結果、うちの社員がその会社のラインに張りつくことになった。また、販売店を持たず、ダイレクト通販で売ることにして、コールセンターを立ち上げたものの、オペレーターが活躍できるまで、同じようにうちの社員がコールセンターに常駐し、トークの開発を行わざるを得なかった」

最大の誤算は、最初に出した製品シリーズがさっぱり売れなかったことだった。だが、開発チームはめげなかった。「1つだけ売れ行きのよかった製品があった。その要因を分析したところ、40代から60代のエイジング世代が肌のしわ改善に役立つという理由で買ってくれていることが分かった。その人たちはかつて弊社のフィルムの愛用者であり、それを通じて弊社に親近感・期待感を抱いているので、化粧品も買ってくれ、使ってみたらその効能に納得してくれたのではないかという仮説を立てた。既存技術をもとに商品を作るというシーズ発想型から、顧客価値から発想しそれに既存技術を展開するやり方に転換したのだ。その仮説に従ってアスタリフトの商品開発に向かった」

流通も通販だけにこだわるのは止め、店頭での販売にも乗り出す。エイジング世代に圧倒的人気のあるタレントを使ったテレビCMも打ったことで、商品とブランドの認知度が高まり、アスタリフトは化粧品市場で一定の地位を占めるに至った。

イノベーターには支えてくれる同志が必要

「経営のコミットメントを得ること、想定外の事態に臨機応変に対応できる、独立した小さな組織で動くこと、素直に顧客や市場から学ぶこと、自前主義を捨て信頼できるパートナーと組むこと、この4つを学んだ」と、中村氏は振り返る。

経営のコミットメントを得られたのは、富士フイルムの元副社長兼CTO、戸田雄三氏の存在が大きい。そもそもトータルヘルスケアという概念を提唱した張本人だという。「富士フイルムをトータルヘルスケアカンパニーにしたいんだ。一緒にやろう、と言われた。俺はホラ(未来への夢)は吹くが、嘘はつかないというのが口癖だった」

イノベーションはイノベーターだけが頑張っても実を結ばない。一緒になって行動してくれる、また必要なリソースを提供・協力してくれる「同志」が必要だ。そうでなければ、潰れてしまう。中村氏の話には、経営者はもちろんだが、人事もその役割を担うべきではないか、という含意が感じられた。

このあと、中村氏と宇田川氏の対談が行われ、会場とのやり取りを通じて、イントラプレナーシップのリアルな姿、そしてイノベーションにおける人事の役割に話が及んだ。後編に続く。

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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