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連載・コラム共創型リーダーシップ開発プログラムJammin’2020新価値創造セッションレポートvol.4

専門家が事業仮説の甘さを鋭く指摘する1日〈新価値創造セッション3回目〉

専門家が事業仮説の甘さを鋭く指摘する1日〈新価値創造セッション3回目〉

2019年度からスタートした共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」。いよいよ9月からJammin’2020新価値創造セッションがスタートした。今回は、セッション1(共通キックオフ)セッション2に続いて10〜11月に行われたセッション3のなかから、「ヘルスケア」「教育」「人口」の3コースの様子を紹介する。

セッション3は「事業仮説の共有」の場

Jammin’は社会課題を解決する新規事業案の検討を通して、新たな価値を創出するプロセスを学び、リーダーシップを磨くプログラムだ。参加者は、社会課題のテーマごとに、10のコースに分かれて、4〜5名ずつのチームで事業案を作る。事業案の検討にあたっては、世のなかの「不」を基点にして事業を検討することを重視している。不とは、不安・不満・不公平など、「世のなかにある誰かのお困りごと」を指す。特定のステークホルダーの不を解消しながら、そのインパクトを広げ、社会課題の解決につながるよう事業をデザインすることが、Jammin’流の新価値創造プロセスだ。なお、Jammin’2020では、全セッションをオンラインで実施している。

各チームには、セッション2で不の深掘りを行った後、セッション3までに「事業仮説」を立てよう、というお題が出ている。今回紹介するコースに合わせて言えば、「ヘルスケア」「教育」「人口」にかかわる事業の仮説を立てるのである。もちろん、仮説が机上の空論であってはいけない。仮説づくりでは、単にアイディアを考えて企画するだけでなく、さまざまな人にヒアリングしたり、情報を調べたりして、仮説の裏付けを取ることが大切だ。各チームは数週間をかけて、チームで協力しながら、仮説立案・ヒアリング・情報調査などを手分けして行った。

そうして迎えたセッション3の前半は「事業仮説の共有」である。各チームが自分たちの事業仮説を発表し、その場で専門家・トレーナー・他チームからアドバイスをもらう。事業仮説が適切なら、事業案は半ば完成したようなものだが、優れた事業仮説をいきなり立てられるチームは多くない。大半のチームはアドバイスをもとに、事業仮説を練り直すことになる。なお、事業仮説の共有は、例えばAチームが事業仮説を発表した後、チームごとに分かれて質問や論点をまとめたうえで、ふたたび全体に戻ってディスカッションを行う。ディスカッションが終わったら、次はBチームが事業仮説を発表する……という流れで進めた。


それでは、「ヘルスケア」「教育」「人口」の3コースの事業仮説の共有の模様を、専門家のコメントを中心に紹介する(実際は、トレーナーや他チームメンバーからの質問やアドバイスも飛び交っているのだが、今回の記事では専門家の鋭い指摘に注目した)。

「私も一緒に考えたくなるようなアイディアを出してほしい」

「どんな人のどんな人生を応援したいのか、をあらためて考えてください」「ターゲットとソリューションをもっと絞った方がいいと思います」「ターゲットとニーズの間にズレがあるように見えます」「ヘルスケアでは、潜在的な不を扱うのは難しいと思います。健康への不安をかき立たせるようなビジネスは、たぶんうまくいきません」。ヘルスケアコースの事業仮説の共有では、専門家・島村実希氏の厳しくも愛ある指摘が飛んだ。

島村 実希氏の写真

島村 実希氏
一般社団法人WELLE ME 代表理事。京都大学医学部人間健康科学科卒、看護師・保健師。船井総合研究所にて企業の福祉業界への新規参入案件を中心に経営コンサルティングに従事。退職後、看護師として老人福祉施設に勤務。国連、海外医療機関でのインターンを経て、NPO法人ミラツクで執行役員に就任。ヘルスケア部門を立ち上げ、産官学金に医療福祉業界を含めたプラットホームを創出。現在は独立コンサルタントとして、地域や企業が持つ既存資源を活用したヘルスケアビジネスの立ち上げを支援している。
※島村氏のJammin’インタビュー記事はこちら

島村氏が特に見ていたのは、本当にビジネスとして成立するか、儲かるのかという点だ。ヘルスケアはもともと社会貢献に近い領域だが、ビジネスをサステナブルなものとしていくには、やはりしっかりと利益を出すことを考えなくてはならない。ビジネスのシビアさを知っているからこそ、島村氏は突っ込んだ指摘を行っていった。「健康ではなく、ステキなワードで事業案をラッピングしましょう。健康を前面に出すと、健康の押し売りになってしまって、買ってもらえなくなります」「見守りはお金になりません。この事業アイディアのなかでお金になるとしたら教育です。例えば最近は、子どもの運動管理・栄養管理サービスや、自分で考える力を身につけるための教育サービスなどが流行しています。教育をメインにして、見守りは副次サービスにした方が、実現したいことが叶えられるのでは」。

一方で、島村氏は、日本社会を変えるヘルスケアビジネスを増やしたいという思いも強く、アドバイスに熱がこもっていた。「最近、私が特に注目していることの1つが、若い世代の健康啓発です。なぜなら本人たちは、今は困っていないけれど、若いときに健康に気を使うかどうかが将来の健康を大きく左右するからです。人生100年時代の健康づくりには、若いときから心身の健康を考える姿勢が必要なのです。私もヘルスケア業界も、若い世代の健康啓発を何とかして活性化させたいと思っています。良いアイディアがあったら大歓迎です」「自治体と一緒に実証実験を行うのが、最近のヘルスケアビジネスのトレンドの1つです。もし行政や自治体と一緒に取り組めるところまでいけたら、盛り上がるでしょうね」。

島村氏が「私も皆さんと一緒にどんどん深く考えたくなるような、ワクワクするアイディアを出してほしい。頑張ってください」と締めて、ヘルスケアコースの事業仮説の共有は終わった。

セッション終了時の参加者からのチェックアウトコメントには、
「儲かることを念頭に事業案を考える。使うきっかけと、継続する理由をしっかりと検討する必要がある」
「どうやってサービスに惹きつけるか。『健康』だけではだめ。ワクワクするような、自分たちが使いたい! と思えるもの」
「島村さんに『これめっちゃええやん』と言わせたい」
などが並び、参加者が島村さんからのフィードバックを受け止めて、意欲を増している様子がうかがえた。

「全体的に学校へのリスペクトをあまり感じない」

教育コースの専門家・藤岡慎二氏は、学校を知り尽くしているからこその具体的な指摘を豊富に提供してくれた。「小中学校には学習指導補助員という仕組みがありますが、実は学習指導補助員たち自身が、この仕組みをあまり良いと思っていません。学習指導補助員では問題解決につながっていないと、本人たちが感じているからです。今回のアイディアにも同様の欠点があるのではないでしょうか」「このアイディアは予備校的であって、学校的ではないと感じます。面白いアイディアですが、先生方の不をまだ的確に捉えきれていません」「学校の先生方は、外部の協力を好まない傾向があります。最悪の場合、自己否定につながりかねないからです。この壁を乗り越えるアイディアを考えなければ難しいと思います」。

藤岡 慎二氏の写真

藤岡 慎二氏
2006年に教育コンサルティング会社、株式会社Prima Pinguinoを起業。キャリア教育事業、推薦・AO入試事業を中心に事業を拡大。2009年から島根県海士町にて、島根県立隠岐島前高校魅力化プロジェクトに参画。全国的に知られたプロジェクトとなり、現在では北海道から沖縄までの高校や地方自治体での教育改革、教育行政改革など全国の教育を通じた地域活性化に携わる。近年は地域でのしごとづくり、起業家支援などにも従事する。現在は北陸大学経済経営学部客員教授、産業能率大学経営学部教授も兼任。起業家、経営者、研究者、教育者として多方面から社会起業家支援やソーシャルイノベーションに取り組む。

最も印象的だったのが、「全体的に学校へのリスペクトをあまり感じません」という厳しい指摘だ。「『学校ってさあ、こういうところが問題だよね』というような上から目線でアイディアを出している限り、学校側は絶対に受け入れてくれません。学校をリスペクトし、先生方の目線に立って、どのような貢献ができるかを真摯に考えてみてください」。

一方で、藤岡氏はメンバーを励ます言葉も随所で投げかけていた。「このタイミングで方向転換する勇気はすばらしいと思います。私たちには、自分たちの考えを正しいと思い込んでしまう確証バイアスがある。だからこそ、ネガティブな意見を耳にして内省する姿勢や、自らの行動を変えていく勇気が大切です」「チームでもっと長い時間、ブレストをするといいと思います。気づいていない視点がまだまだ見つかるはずですし、何よりも価値観の言語化と共有が進みますから。meからweへ変化するほど、チームメンバーが溶け合うほど、話しつづけてみてください」「私の経験では、ビジネス創出は謎解きゲームに近いところがあります。目の前の謎を解きながら進んでいくと、あるときパッと目の前が晴れて、うまくいくことがある。へこたれずに進んでください」。

藤岡氏の最後のメッセージもインパクトがあった。「世界に大きな影響を与えてきたイノベーションの多くは、アイディアの時点では、周りが『は?』と言うようなもの、全然認めてもらえないものでした。しかし、実際にやってみたら結果が出て、どんどん広まり、世界を変えていったケースが多いのです。ですから、これだと決めたら、外からどう見られるかなど気にせずに、stay foolishで小さくチャレンジしてみてください。みんなが驚くような何かを生み出せるかもしれないのですから」。


セッション終了時のチェックアウトコメントには、
「いったん自分たちのバイアスを外して、n=1のお客さん(先生?)を見つけることからまた始める必要があると感じました」
「不が本当に当事者の方の不なのかは、常に意識する必要があると感じた」
「仮説を補強する裏付け調査をより一層進めていく・事業案を正しく伝える資料にしていく。そのとき意識すること:学校に対するリスペクト」
などが並んだ。藤岡氏のメッセージに正面から向き合う参加者の様子が見て取れる。

チームのポテンシャルが出せているかどうかを考えよう

人口減少と少子高齢化の問題解決を目指す人口コースの専門家・川北秀人氏のアドバイスは、ご自身のNPO・CSRのマネジメント支援の豊かな経験・知見をベースに、事業案の細かなところまで入り込んだ指摘が印象に残った。「メーカーの技能継承は誰かが進めなければならないことで、目をつけた点はすばらしいと思います。しかし、本気でやるなら、技能継承の危機マップを作って継承技能のランクづけをするくらいのことをした方がいいでしょう。そのレベルのことに取り組まなければ、本気度が伝わらず、共感を得られないと思います」「技術マイスターは日々の修羅場を通して鍛えられます。修羅場をいかに用意するかが技術向上のポイントです」。

川北 秀人氏の写真

川北 秀人氏
IIHOE[人と組織と地球のための国際研究所] 代表者 兼 ソシオ・マネジメント編集発行人。1964年大阪生まれ。87年に京都大学卒業後、株式会社リクルートに入社。国際採用・広報・営業支援などを担当し、91年に退職。その後、国際青年交流NGO「オペレーション・ローリー・ジャパン」の代表や国会議員の政策担当秘書などを務め、94年にIIHOE設立。大小さまざまなNPOのマネジメント支援を毎年100件以上、社会責任志向の企業のCSRマネジメントを毎年10社以上支援すると共に、NPOと行政との協働の基盤づくりも支援している。

川北氏はビジネスや組織に関して全般的に詳しく、雇用についても知識が豊富だ。「高齢者の仕事を増やすうえでは、単に正社員として再就職する以外の最適化もありえるでしょう。例えば、障害者雇用でよく使われる手法ですが、ジョブの一部を切り出して、その部分だけに取り組んでいただくという考え方もあるはずです。企業が何に困っているかが分かれば、ジョブの切り出しで経済として回るかもしれません」「以前、アメリカには、ローンド・エグゼクティブという制度がありました。一定期間、優秀な人材を他社へエグゼクティブとして送り出し、修羅場体験を積んだうえで戻ってきてもらうのです。日本型ローンド・エグゼクティブ制度を構築すれば、大企業と中小企業の人材の偏りをスムーズに解消できるかもしれません」。

一方で、全国のNPOを支援する川北氏は、地域の現状にも造詣が深い。「高齢者の見守りについては、公営住宅の自治活動についてインタビューしたりすると参考になるでしょう。また、山形の地域運営組織では、独居高齢者の見守り強化のために、テレビ電話機能が付いたAIスピーカーを配布しています。地域の高齢者にとって、スマホやタブレットのアプリを起動するのはハードルが高いからです」。

最後に川北氏が再考を促したのは、「各チームのポテンシャル」だった。「皆さん、各チームのポテンシャルは十分に発揮できているかどうかを考える時間を持ってください。特定の人が引っ張る方が効率的に見えるかもしれませんが、今回のプロジェクトは全員が能力を発揮できる体制を目指しましょう。一方で、じっくり構えるのももったいない。特にお勧めしたいのは、仮説構築と検証・実験のサイクルを速く回すこと。日本の科学分野のノーベル賞受賞者の共通点は、実験の名手であること。今回のプロジェクトは、どうしたら良い実験をデザインできるかに深く注力し、思いきって実験してみてください。あとは、社会動向に注意深く目を凝らすことです」。


セッション終了時のチェックアウトコメントには、
「ステークホルダーになりきって、自分事としてなぜ必要か? 本当に必要か?を考え尽くす必要性をあらためて痛感しました」
「『これがないと困るというもの、サービスでないと、社会課題を解決できる事業にはならない』というお言葉に共感しました」
「思い込みや先入観などを排除して客観的に見ることが必要。本人はついつい都合良く考えてしまうので、他人にとにかく話して意見をもらう」
などが並んだ。「人口」というテーマは大きいが、事業案検討では個別具体的な不のリアリティを徹底的に突き詰めることが重要だと参加者には伝わったようだ。

自分たちが「いかしきっているチーム」になっているかを振り返る

各コースとも、事業仮説の共有の後は、次回セッション4までの課題案内とチームの作戦会議を経て、「自分にとってのJammin’」の中間振り返りを行った。自分にとってJammin’とはどんな存在なのか。自分たちは果たして「いかしきっているチーム」になっているのか。Jammin’を通して、「ひきつける・いかしきる・やってみる」リーダー行動を取れるようになっているのか。そうしたことをあらためて個人で考えたうえで、チーム内で共有し、フィードバックし合ったのだ。こうして内省の機会を持つことが、Jammin’での学びを定着させていく。


参加者からは、
「メンバーからのフィードバックは通常業務でも思いあたる節があり殻を破りたい」
「今日のセッションで、チームは1つ壁をブレイクできたと思っています。(中略)チームの心理的安全性がさらに確保されて、より良いものを作っていける自信になりました」
「とてもいいチームメンバーだとあらためて思い、より皆さんのことが好きになりました。残りの期間をさらにこのチームで頑張ろうと思います」
などのコメントが聞かれ、参加者がチームの意義を感じている様子がうかがえた。

これでJammin’2020のセッションの半分が終わった。後半のセッション4以降も、他コースの様子などを随時レポートしていく。

【text:米川青馬、illustration:長縄美紀】

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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