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共創型リーダーシップ開発プログラムJammin’研究レポート

越境の経験と学びを可視化する —2021年度Jammin’参加者プレ/ポストアンケートより

  • 公開日:2022/09/26
  • 更新日:2024/05/16
越境の経験と学びを可視化する ―2021年度Jammin’参加者プレ/ポストアンケートより

新価値創造セッション『Jammin’』は、異業種企業から派遣される若手リーダーたちがチームを組み、社会の「不」に向き合って新規事業開発プロセスを体験するリーダーシップ開発プログラムだ。リーダーシップ開発の背景理論の1つは「越境」である。しかし、越境の経験は見えにくい。本稿では、Jammin’参加者に協力いただいたプレ(参加前)/ポスト(参加後)アンケートの結果をまとめ、越境の経験と学びの可視化を試みる。  

リーダーの学びを支える「越境」
異業種人材に学び、新価値創造のプロセスを経験し、自分が試される
「成長経験デザイン」
仕事で得られる成長経験/得にくい成長経験
仕事で伸ばしにくい能力/越境経験で伸びる能力
越境の学びを持ち帰る

リーダーの学びを支える「越境」

今日、各社における次世代リーダーには、不確実性に対峙し、これまでにないやり方や協働を生み出していくことが求められる。そこで、近年注目されているのが「越境」経験を通じた人材開発である。

本稿では、2021年度『Jammin’』参加者を対象としたアンケート※の結果を分析し、受講者がどのような越境を経験し、どのような学びを得たのかを報告する。

※アンケート
プレ(プログラム参加前)アンケート:回答225名(調査期間:2021年8月4日~31日)
ポスト(プログラム終了後)アンケート:回答211名(調査期間:2022年2月21日~3月7日)

異業種人材に学び、新価値創造のプロセスを経験し、自分が試される

Jammin’は、異業種×社会課題×新規事業案という3つの越境経験が重なる場として設計されている。加えて、人材開発トレーナーが場をファシリテートしたり、個別インタビューを行ったりすることで、越境の学びを自社における活躍の素材として持ち帰る工夫がなされた、リーダーシップ開発プログラムである。図表1は、Jammin’への参加時の期待と、参加後の満足実感を比較したものである。

期待と満足が高い水準でほぼ一致したのは図表中に(1)で示した領域で、満足度の高い順に「3.異業種の多様な人材との協働からの学び」、「2.新価値創造のプロセスについての経験からの学び」、「1.各社会課題領域について、専門家の知見からの学び」であった。

期待を上回る満足度となったのは、図表中に(2)で示した領域で、「4.自分のスキルや経験がどの程度通用するかの確認」、「5.スピード感をもった行動・学習プロセスからの刺激」であった。

その他、「6.自分の新たな可能性を見出すことができた」ことを5割が満足要因として挙げた一方、「7.所属する会社の新たな可能性を見出すことができた」は、期待が3割であったのに対し、満足度は1割にとどまった。Jammin’を受講した各社のリーダーは、越境の学びを自社で生かす道をプログラム終了後も模索していく。我々Jammin’プロジェクトもその支援を志していきたい。

<図表1>Jammin’2021への期待と満足
本プログラムへの期待(プレアンケート)/満足(ポストアンケート)した点として、あてはまるものをいくつでもお答えください。

<図表1>Jammin’2021への期待と満足

「成長経験デザイン」

Jammin’ではどのような越境が経験されているのか。越境は異文化下の学びである。図表2は、当社が長年のコンサルティング活動を通じて提唱するに至った「成長経験デザイン」であり、リーダーの成長を促す8つの経験を列挙している。Jammin’にはこれらのうち、特に若手が社内で得にくい経験がデザインされている。

<図表2>成長経験デザイン

<図表2>成長経験デザイン

※「成長経験デザイン」に関する詳細はこちら

仕事で得られる成長経験/得にくい成長経験

図表3は、成長経験デザインをアレンジした項目で、仕事における経験とJammin’の経験についてそれぞれ、「ややあった」「豊富にあった」を選択した回答率を集計、比較したものである。オレンジの折れ線が仕事での経験を示しており、緑の折れ線がJammin’での経験を示している。仕事で得にくい経験を可視化するために、両者のギャップとなる面積に色付けした。

<図表3>仕事経験とJammin’の経験の比較


これまで仕事上であなたご自身が次のような経験をする機会が(プレアンケート)/今回参加したプログラムで次のような経験をする機会が(ポストアンケート)、どの程度ありましたか。
(「豊富にあった」「ややあった」「あまりなかった」「ほとんどなかった」のなかから単一回答/仕事の経験:n=225、Jammin’の経験:n=211/%)

<図表3>仕事経験とJammin’の経験の比較

「1.主体性や覚悟」、「2.責任の実感」、「9.目標意識」などをもって「4.他者を動かす」経験は、仕事でも経験している参加者が相対的に多い。

しかし、Jammin'のメインテーマである「10.異業種企業との混成プロジェクト」、「11.社会課題の解決をテーマとした活動」を仕事上で経験している人はほとんどいない。異業種・社会課題解決プロジェクトが生み出す「6.多様な価値観の人と協働」し、「7.従来の知識・経験が通用しないなかで」、「5.経営者やプロフェッショナルの覚悟に触れ」、「3.経営資源のマネジメントをデザイン」し、「8.世の中に新価値を生み出そうとする」といった経験は、仕事では相対的に経験しにくく、越境プログラムならではの経験として参加者に評価されていた。

仕事で伸ばしにくい能力/越境経験で伸びる能力

こうした経験デザインの違いは、日常とは異なる能力を伸ばすだろうか。参加前に自身の能力の強み/弱みを、参加後にそれぞれの能力をどの程度伸ばせたかをたずねた。

「ひきつける」「いかしきる」「やってみる」という3つの行動要件は、Jammin’プログラムのなかでその実践を強く促している観点である。それらを5つの下位要素に分解し、それぞれ3~4項目ずつでセルフチェックしてもらった。能力開発実感(伸ばせた・大いに伸ばせた)と、参加前の強み認知を示したのが図表4である。

<図表4>Jammin’を通じた能力開発実感と参加前の強み認知


ご自身の現状認知として、次のことは強み・弱みのどちらにあてはまりますか(プレアンケート)/今回参加したプログラムを通じて次のような能力をどの程度伸ばすことができたと思いますか(ポストアンケート)。
(「強み」「どちらともいえない」「弱み」(プレ)/「大いに伸ばせた」「伸ばせた」「変わらない」(ポスト)から単一回答/強み:n=225、伸ばせたか:n=211/%)

<図表4>Jammin’を通じた能力開発実感と参加前の強み認知

9割前後の受講者が「ひきつける」「いかしきる」「やってみる」のすべてを伸ばせた・大いに伸ばせたと回答した。そのうち、特に参加前の強み認知が低かったものは、「ひきつける(2)未来を描いて語る」「いかしきる(2)価値を共創する」であった。

「ひきつける」に関連する企画能力のうち「(1)事実から仮説を立てる」は比較的強みとする人が多い半面、「(2)未来を描いて語る」に自信がある人は少ない。同様に「いかしきる」に関連する協働の能力のうち、「(1)他者を尊重する」ことはできても「(2)価値を共創する」ことに自信がある人は少ない。そのようなリーダーシップ能力のアンバランスを克服せざるを得ない共創を、Jammin’の越境経験では迫られる。

社会の「不」に向き合う事業案づくりでは、「やってみる」を繰り返すプロトタイピングが求められる。そのプロセスでは、事実を分析するだけでなく自ら未来を描いて語りかけ関係者を「ひきつける」こと、そして他者を尊重するだけでなく互いに踏み込んで意見を交わし多様性を「いかしきる」ことが必要だ。 Jammin’ではそうした、圧倒的な当事者意識をもったリーダーシップが磨かれる。

越境の学びを持ち帰る

越境の学びに対する最大の関心は、社外で素晴らしい経験をしたとして、それを自社の仕事に持ち帰ることができるのか、ということかもしれない。自社の外で開発されたリーダーシップは、果たして自社に果実をもたらすのだろうか。今年度は、越境後の「共創」「自社への愛着・貢献」に焦点を当てて検討した。まずはJammin’参加前後の「共創」に関する行動の変化について、図表5をご覧いただきたい。


<図表5>越境後の「共創」(協同的な業務変革および関係性創出についての平均値の変化)


あなたご自身の日ごろの考えとして、次のことは、それぞれどの程度あてはまりますか。(プレ/ポストアンケートいずれも同じ)。
(「1.あてはまらない」「2.ややあてはまらない」「3.どちらともいえない」「4.ややあてはまる」「5.あてはまる」のなかから単一回答/n=121/5件法による回答の平均値)

<図表5>越境後の「共創」(協同的な業務変革および関係性創出についての平均値の変化)

図表中では、統計的に確かな変化がみられた項目に「*」記号の表示と緑の網掛けを施している。「協同的な業務変革」は、職場やチームの人たちと一緒に考えたり、協力したりして、仕事のやり方やルールを変革する行動群であるが、これに関する3項目すべてに上昇がみられた。また、「協同的な関係性創出」は、仕事において互いの熱意や関心、社会的な意義などを共有する場面をつくる行動群であるが、こちらの3項目にも大きな上昇がみられた。

Jammin’で学んだ「ひきつける」「いかしきる」「やってみる」共創型リーダーシップが、職場に戻ってさっそく発揮されている様子がうかがわれる。

次に、「自社への愛着・貢献」についてみてみよう。図表6をご覧いただきたい。

<図表6>越境後の「自社への愛着・貢献」


あなたご自身の日ごろの考えとして、次のことは、それぞれどの程度あてはまりますか(プレ/ポストアンケートいずれも同じ)。
(「1.あてはまらない」「2.ややあてはまらない」「3.どちらともいえない」「4.ややあてはまる」「5.あてはまる」のなかから単一回答/プレ:n=225、ポスト:n=211/5件法による回答の平均値)

<図表6>越境後の「自社への愛着・貢献」

図表6をみると、「越境経験によって成長したリーダーの関心は社外に向き、自社や自分の仕事から心が離れてしまう」といったことは必ずしも起こっていないようである。

「会社への愛着的態度」「仕事の意味づけの拡張」のいずれも、参加前後の比較においてポイントの上昇がみられる。Jammin’後にはむしろ、自分の担当する仕事が世のなかに与える影響や仕事の目的を大きく捉えるようになり、自社への愛着も高まっている様子がうかがわれる。

他方、「会社への貢献的態度」については、はっきりとした上昇はみられない。自社の変革に対する期待やその受け止めには個人差がある可能性があり、このような意識の上昇を送り出し側の人事や上司が望むのであれば、より明示的なコミュニケーションが必要とも考えられる。


以上、本稿では2021年度Jammin’への参加者アンケートから、越境の経験と学びの可視化を試みた。越境リーダーの学びには、上司や同僚の目を引くほどではない小さな変化も多く含まれていることだろう。しかし、本稿でみてきたように、本人には仕事とは異なる経験への確かな手ごたえや、仕事や職場に向き合う意識の変化がみられる。

越境プログラムには通常の研修プログラム以上に豊かな学びが生じ得るものの、その豊かさゆえに、どのような学びが生じるかを事前にデザインしきれない面や、学んだことを目の前の仕事に直結させづらい面もある。越境プログラムに次世代リーダーを派遣する人事や上司の方々には、そうした特徴をご理解いただき、越境リーダーの学びと自社への貢献意欲の芽を見逃さず、越境リーダーを信じ、彼らが自社において活躍の道を拓いていくご支援をお願いしたい。

【illustration:長縄 美紀】


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組織行動研究所
客員研究員

藤澤 理恵

リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所主任研究員を経て、東京都立大学経済経営学部助教、博士(経営学)。
“ビジネス”と”ソーシャル”のあいだの「越境」、仕事を自らリ・デザインする「ジョブ・クラフティング」、「HRM(人的資源管理)の柔軟性」などをテーマに研究を行っている。
経営行動科学学会第18回JAAS AWARD奨励研究賞(2021年)・第25回大会優秀賞(2022年)、人材育成学会2020年度奨励賞。

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