- 公開日:2020/06/08
- 更新日:2024/04/10
2019年からスタートした共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」。2020年度、第2回の実施を前に、第1回の参加者にインタビューを行った。最初にご登場いただくのは、日産自動車の金井雄太氏だ。金井氏は、第1回Jammin’Awardでグランプリに輝いた「地方創生コース」のメンバーである。Jammin’に参加した感想、得られたもの、終了後の動向や変化などを伺った。
PROFILE
金井 雄太(かない ゆうた)氏
日産自動車株式会社
大学卒業後、日系大手WEBサービス企業でWEBサービスやゲームの企画を担当。2016年に日産自動車に入社し、自動車のIT推進を経て、2018年より、7~10年後の自動車が持つべきUX(ユーザーエクスペリエンス)を企画する業務に参画。2019年に第1回Jammin’に参加。2020年夏以降に中国赴任予定。
- 目次
- この機会を逃したら地方創生とは一生縁がなさそうだ
- チームの知見ゼロ、価値観バラバラで不安しかなかった
- メンバーと本音で語り合い地域の皆さんと仲良くなったらグランプリを獲得できた
- いま「OGATSU SEAWALL GALLERY」は実際に形になろうとしている
- 「面白いと思うことをやってみたら」の一言で変われた
この機会を逃したら地方創生とは一生縁がなさそうだ
――なぜJammin’に参加したのですか?
人事の方から誘われたのがきっかけです。内容を詳しく聞いて、「新価値創造」というコンセプトに興味を持ちました。なぜなら、私には「次世代の自動車・乗り物を作りたい」、そのためにイノベーションを起こせるビジネスパーソンになりたいという想いがあったからです。そのためのスキルを身につけたり、新たな知を取り入れたりするチャンスになるかもしれない、と感じました。
――なぜ地方創生コースを選んだのですか?
最初は、ドローンコースやAIコースを選ぼうと思っていました。私は2019年当時、7~10年後の自動車をUX(ユーザーエクスペリエンス)の側面から構想する業務に携わっており、ドローンやAIはその業務と直結していたからです。ただ、上司や部長、妻に相談したところ、むしろふだんの仕事から一番遠い「地方創生コース」が面白いのではないか、とアドバイスされました。確かにそう言われてみると、このチャンスを逃したら、地方創生とは一生縁がなさそうに思いました。また、私は学生時代からビジネスコンテストによく参加してきており、ドローンコースやAIコースだと、また似たような経験をすることになるかもしれない、とも思いました。新たな知を取り入れるには、地方創生コースがよいのではないか。最終的にそう考えて決めました。
チームの知見ゼロ、価値観バラバラで不安しかなかった
――参加した当初はどのように感じていましたか?
正直に言って、不安しかなかったです。なぜかというと、第一に、チームメンバー全員、地方創生に関する知見や経験がゼロだったからです。誰もが地方創生に初めて関わったのです。
第二に、チームメンバーの価値観が本当にバラバラだったからです。特にビックリしたのが、大手広告代理店から参加していたメンバーの存在です。彼は藝大出身で、インスタグラムに自分の描いた絵を上げていくような右脳タイプです。例えば、満員電車の「不」を考えるという課題が出たときには、「地球は満員電車のことをどう思っていると思いますか? 地球の気持ちになって考えてみませんか?」と言いました。私はいつもロジカルに考えるタイプで、彼のように発想したことがまったくなかったので、驚きました。人生で彼のようなタイプと深く関わったことがなく、最初は何を言っているのか全然分からなかったほどです。一緒にやっていける自信がありませんでした。
メンバーと本音で語り合い地域の皆さんと仲良くなったらグランプリを獲得できた
――ターニングポイントはどこにあったのですか?
地方創生コースでは、講師の油井元太郎さんが代表を務める、宮城県石巻市雄勝町の「モリウミアス」に何度か滞在して、「雄勝町で何ができるか?」を皆で考えました。振り返ると、そのモリウミアスに集まって、チームメンバー全員と深夜まで本音で語り合って仲良くなったのが、結局一番効果があったと思います。それからは、一緒に何かを生み出していける同志だ、と思えるようになりました。
地域の皆さんとの関係も、まったく同じでした。雄勝町のようなところでは、仕事で活用しているロジカルシンキングやフレームワークは通用しません。訪問する前、私は「シングルマザーの移住支援で介護者を増やす」というアイディアが通用するのではないか、と思っていたのですが、これはまったくダメでした。なぜなら住民の皆さんの顔も、シングルマザーの皆さんの顔も見えておらず、ただ頭で考えただけだったからです。私たちが最初にすべきなのは、雄勝町の皆さんと仲良くなり、皆さんのことをよく知ることだったのです。
私たちがまず行ったのは、雄勝町の皆さんの家の草刈りをしたり、「雄勝ローズファクトリーガーデン」の石積みをしたりすることでした。そうすると、皆さんと一緒に過ごすことで、仲良くなれるのです。そのうえで本音を伺っていきました。そうやって皆さんの声に耳を傾けるなかで分かったことの1つが、「雄勝町の皆さんは、本当に実行できるアイディアを求めている」ということです。東日本大震災以来、被災地の雄勝町には、多種多様な支援が入りました。その一環で多くの企業研修などが行われ、いくつものアイディアが提案されましたが、実際に実行に移されることはあまりなかったそうです。そうした体験を経た方々が望んでいたのは、頭でっかちなアイディアではなく、本当に自分たちの生活を良くしてくれるもの、実際に行動に移せるアイディアだったのです。
こうしたフィールドワークのなかから生まれたのが、「OGATSU SEAWALL GALLERY」というアイディアでした。雄勝町の海沿いに立ちはだかる高さ10メートルの巨大な防潮堤を「世界一長いギャラリー」に見立て、そこにアーティストの皆さんに絵を描いていただき、WEBオークションで販売するという構想です。この防潮堤は、津波からまちを守るために必要な一方で、住民の皆さんから美しい海を隠してしまい、日々の生活を圧倒する存在でもあります。つまり、防潮堤は「不」でもあるのです。OGATSU SEAWALL GALLERYは、その不を楽しいものに変えるアイディアです。住民の皆さんには、防潮堤をキャンバスにするために欠かせない漆喰塗りに参加していただき、一体感を持っていただこうと考えています。漆喰塗りなら、お年寄りも含めて多くの住民の方に参加していただけるはずです。また、その漆喰には地元の名産である牡蠣の殻を入れる予定です。このアイディアもフィールドワークから得たものです。
――そのOGATSU SEAWALL GALLERYが、第1回Jammin’Awardでグランプリを獲得したのですね。
そうです。アートに詳しい大手広告代理店のメンバーが中心になって、OGATSU SEAWALL GALLERYのアイディアを生み出しました。その後は、すぐに他事例を調べたり、役所の意向を聞いたりしてくれる行動力のあるメンバーや、発散する議論を収束させてくれるメンバーがいたおかげで、かなりスムーズにアイディアを固めていくことができました。私はというと、プロジェクトマネジメントや、実行書作り(タスクの棚卸しやステークホルダーの分析)などを担当しました。全員でよく話し合い、それぞれが得意技を活かしながら形にしていったのです。
いま「OGATSU SEAWALL GALLERY」は実際に形になろうとしている
――その後、OGATSU SEAWALL GALLERYのアイディアはどうなっているのですか?
いま実際に形になろうとしています。モリウミアスの油井さんたちにハブとなっていただき、住民の皆さんにも理解を得ています。住民の皆さんの本音をヒアリングした効果もあって、地元の評価も上々です。現在は、1枚目の絵を描いていただくアーティストの候補者の方にお声がけして、プロジェクトの内容を話したり、必要な資金を集めるクラウドファンディングを準備したりしている最中です。もう少ししたら、本格的に告知できるはずです。
個人的には、クラウドファンディングも絵の発注も何もかも初めてで、何をしたらよいか分からない毎日なのですが、それがかえって楽しくてたまりません。もちろん、プロジェクトマネジメントや実行書作りなどの、得意な作業をしながら関わっています。
「面白いと思うことをやってみたら」の一言で変われた
――Jammin’を受講して、ご自身に変化はありましたか?
自分でも大きく変わったと思います。その大きなきっかけは、Jammin’の最後にチームメンバーからもらったフィードバックです。大手広告代理店のメンバーからは、「金井さんは正解を求めすぎではないか。そうではなくて、面白いと思うことをどんどんやってみたらいいのでは?」と率直に意見していただきました。それからは、面白そうだと思ったら即行動するようになりました。例えば最近、「stand.fm」という音声配信アプリで、ゲストの面白い話を聞き出すラジオ番組を個人的に始めたのですが、始められたのもこのフィードバックが大きかったです。以前の私なら、その一歩を踏み出す気持ちが生まれなかったのではないかと思います。
また仕事面では、お金やスケーラビリティだけでなく、「ワクワク」や「感動」も価値基準の1つだと認識して、社内のカーデザイナーや、Jammin’でつながった社外の皆さんとよくお話しするようになりました。次世代のイノベーティブな自動車を生み出すためには、ビジネスやテクノロジーだけでなく、クリエイティブな右脳派の皆さんともオープンに話し合い、彼・彼女らを積極的に巻き込んでいく必要があることがよく実感できたからです。これは私にとって大きな見方の変化です。Jammin’には、頭でっかちな自分を変える効果が間違いなくあったと思います。
一方で、他のチームメンバーには、「金井さんが自分の上司だったらありがたい」という嬉しいフィードバックをいただきました。これだけ多様性のあるチームでも、自分のマネジメントスキルが役立つことが分かり、自信になりました。これから優れたイノベーションを起こすには、ビジネス、テクノロジー、クリエイティビティの3つを混合した多様性の高いチーム運営が欠かせないでしょう。そうしたチームをマネジメントするには、相手によってコミュニケーションを変えながら、全体をまとめる必要があることがよく分かりました。Jammin’での経験は、今後の私のキャリアの礎となりそうです。
――最後に、これからJammin’に参加する方々にメッセージをお願いします。
もし自分を変えたくないのなら、Jammin’に参加しない方がよいと思います。参加したら、否応なく変わってしまうと思いますから。反対に、もしいまの自分を変えたいと願うのなら、ぜひ参加することをお勧めします。
【text:米川青馬、illustration:長縄美紀】
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
※共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」とは
異業種交流を通じた次世代リーダー育成を望む複数企業が集い、先が見通せない混迷の時代に活躍できる次世代リーダーを、他社の人材との交流を通じて育成するプログラム。プログラムの核となるのは、「地方創生」「AI」「ドローン」などテーマごとにコース(※)に分かれて行う新規事業案の立案。最終的には全コースから選ばれた事業案の中からグランプリを決する。
別途、人材を送り出す側である各社の人事(オーナー)向けのプログラム(オーナーズセッション)も組まれている。
(※2019年度)
関連記事
■共創型リーダーシップ開発プログラムJammin’オーナーズセッションレポート
vol.1 イノベーションとリーダーシップを考える
vol.2 イノベーションと人事の役割を考える
vol.3 続・イノベーションと人事の役割を考える
vol.4 イノベーションにおける人事の役割を共創する
■共創型リーダーシップ開発プログラムJammin’セミナーレポート
vol.5 VUCA時代に求められるリーダーとは
■共創型リーダーシップ開発プログラムJammin’Awardレポート
vol.6 37の切磋琢磨の頂点に輝く新規事業案とは
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