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さあ、扉をひらこう。Jammin’2022 session report vol.2

Jammin’参加後に経営者になった染谷氏は、Jammin’で何を得たのか?〈オーナーセッション1〉

  • 公開日:2023/01/16
  • 更新日:2024/05/16
Jammin’参加後に経営者になった染谷氏は、Jammin’で何を得たのか?〈オーナーセッション1〉

共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」は、4年目のJammin’2022を行っている最中だ。40社、273名の次世代リーダーが、約半年にわたって事業立案に取り組んでいる。 同時並行で、オーナー(人事)の皆さん同士も異業種で越境し合うオーナーセッションも開催している。2022年10月の第2回オーナーセッションに登壇したのは、染谷悟氏だ。染谷氏は、Jammin’2019にリーダーとして参加した後、所属企業の三菱商事株式会社(以下、三菱商事)から株式会社トレードワルツ(以下、トレードワルツ)へ出向し、現在は同社取締役CEO室長を務めている。「染谷氏にとって、Jammin’はどのような場だったか」「Jammin’で何を得たのか」「今、Jammin’の経験がどう生きているのか」をオーナーの皆さんに向けて語っていただいた。

※なお、私たちは2020年にも、Jammin’終了後の染谷氏にインタビューしている。その記事も併せてお読みいただきたい。

「何をしているのか分からない人」だった
周りが素晴らしい人ばかりで、「自分はここにいていいのだろうか」と感じた
Jammin’で得た一番の宝物は「腹決め力」
「自分でやる!」と腹を決めて、All Japan スタートアップの取締役へ
企業にとって最大のイノベーターは人事である
経営者に近い目線や想いを持った人事担当者には自然と情報が集まってくる

「何をしているのか分からない人」だった

Jammin’2019の参加時点では、染谷氏は「何をしているのか分からない人」と周囲から思われていたと思う、と自らを語る。「大学院修了後、2010年に三菱商事に入社しました。最初はプロジェクト管理者として、日米欧をつなぐ貿易システム開発・運用などを担当しましたが、貿易関係の新会社(三菱商事RtMジャパン)の設立支援、インドIT企業に出向してブリッジエンジニアとしてオフショア開発のリード、財務経理管理やベンチャー投資、さらにはグループ全体のDX戦略立案など様々なキャリアを歩んできました。三菱商事は社員に多種多様な経験を積ませ、個人内多様性を育み、経営者を育てるという風土があり、随分と鍛えられました」

そんな染谷氏は2019年のある日、上司から呼ばれた。「今度、リクルートマネジメントソリューションズがJammin’という新しい研修を創ったんだけれど、染谷、行ってみないか。こういう研修、得意だろう?」。かくして染谷氏は、Jammin’2019に参加することになった。

周りが素晴らしい人ばかりで、「自分はここにいていいのだろうか」と感じた

初日のセッション1の会場で、染谷氏は周囲に圧倒されたという。「私が参加したマッチングコースには、私以外に、錚々たる大企業の経営リーダーたちが17名集まっていました。私は若く、経営企画部などの経験はなかった。しかも皆さん、最初から素晴らしいプレゼンテーションを繰り広げていたのです。このとき私は、『Jammin’が終わるとき、18人のなかに染谷っていたな。今度みんなで集まるから誘ってやるか、と言ってもらえるように、一員になりたいです』と宣言しました。皆さんのオーラに押されて、それくらいしか言えなかったですね。率直に言って、自分はここにいていいのだろうか、と感じていました」

その後、染谷氏はチームメンバーと共に新規事業アイディアを考えながら、Jammin’のメソッドを少しずつ学んでいった。「私は今、トレードワルツでJammin’のメソッドをおおいに役立てています。例えば、『不を広げる』『不を掘り下げる』という考え方を社内に積極的に広めています。また、私はJammin’で本質を問う・考え直すときに使う『そもそも』という言葉の魅力を覚えてから、魔法の呪文のように日々唱えています。アイディアを構造化して分かりやすく説明するスキルや、アイディアを研ぎ澄ます方法などもJammin’で得たものです」(染谷氏)

染谷氏のチームは、紆余曲折を経て「保育園・幼稚園に、ピアノ教室などの先生を派遣し、保育士の負担を軽減する事業プラン“ほっとペンギン”」にたどり着いた。「ほっとペンギンに決めてからは、月1回の中間発表で何度も事業案を発表しました。今振り返ると、この中間発表で専門家やトレーナー、コースの仲間たちから的確なフィードバックをもらい、追加ヒアリングを行って事業案を改善していくサイクルが、私たちのアイディアをどんどん研ぎ澄ましていきました」。そのかいあって、染谷氏のチームはコースの代表に選出され、各コースの代表チームがプレゼンテーションする第1回Jammin’ Awardに選出された。

▽ 2019年、保育園事業者グローバルキッズの石橋社長(左)にインタビューした際の染谷氏(右)

▽ 2019年、保育園事業者グローバルキッズの石橋社長(左)にインタビューした際の染谷氏(右)

Jammin’で得た一番の宝物は「腹決め力」

マッチングコース内で代表に選出された後、染谷氏はコース全員に1通のメールを送った。「自らの想いを込めた長文をしたためました。そしてメールの最後で、全員に協力を要請しました。Jammin’Awardに向けて、皆さんのお力を貸してもらえないでしょうか、とお願いしたのです。Jammin’Awardでマッチングコースからは私たちのチームしか発表できない以上、選出されなかった3チームの皆さんの費やしてきた時間と想いを私たちのチームが背負いたい、結果を出したいと心から思ったがゆえのお願いでした」。その結果、コース全員から「何らかの形で協力したい」という返信がきた。最終的には、染谷氏を含む初期メンバー4名に他チームメンバー4名が加わり、さらに事業パートナー2社を加えた面々で、第1回Jammin’Awardに挑んだ。結果は僅差の2位、特別賞だった。「グランプリになれなかったのは残念でしたが、Jammin’参加者の皆さんから、“ほっとペンギンのサービスが欲しい”という声がたくさん届いたのは、率直に嬉しかったです。これが事業づくりなのだ、という達成感がありました」(染谷氏)

その一方で、2つだけ後悔していることがあるという。「1つは、Jammin’Awardでのプレゼンテーションを希望するほかのチームメンバーに譲ったことです。私がメールでコース全員の想いを背負うと宣言したのに、実際は自分自身ですべてを背負うということはしませんでした。もう1つは、Jammin’終了後に、このアイディアの事業化を希望するチームメンバーに委ねたことです。その結果、その方の本業が忙しくなってしまったこともあり、事業はクローズしてしまいました。この点でも、私は人任せにしてしまっていたわけです。このようなことをしていては、私に信頼を寄せてくださる方々を裏切りつづけてしまうと感じました」

この後悔を受けて、染谷氏が学んだのが「腹決め」の大切さだ。「私がJammin’で得た一番の宝物は、腹決め力です。自分で背負う、挑戦すると決めること。言い訳できないところに身を置くこと。責任を取りきること。それこそが最も大切なことだ、と痛感したのです」

「自分でやる!」と腹を決めて、All Japan スタートアップの取締役へ

Jammin’終了後、染谷氏は早速、腹決めのチャンスを得た。「ある日上司に、トレードワルツという会社で取締役を務めないか、と言われたのです」

トレードワルツは2020年に設立された、Jammin’が目指す「大企業の共創で新事業をつくる」を地で行くスタートアップである。株主は2022年11月現在、三菱商事を含めて14社。株式会社エヌ・ティ・ティ・データ、豊田通商株式会社、東京大学協創プラットフォーム開発株式会社など、産官学のオールジャパンといってよい布陣だ。目指すのは、ブロックチェーン技術を活用して、貿易に関わるプレイヤーの間で一気通貫の情報共有ができる貿易プラットフォームを創り上げること。「国際貿易では、今も紙やPDFなどのアナログ媒体で多くの情報が行き交っており、膨大な時間とコストがかかっています。そうした課題を解決すべく、私たちは産学官All Japanでプラットフォームの構築を進めているのです。すべての企業間コミュニケーションをデジタル化してプラットフォーム上でやり取りすれば、時間やコストを大幅に削減できるほか、家からリモートワークで仕事ができるようになります。過去の実証では、手続き時間・コスト共に44%削減できることが証明されました。それだけでなく、今後データが集まってくれば、在庫や物流状況の可視化・一元化も実現できるため、物流の問題が解決しやすくなるほか、データを活用してコンプライアンスチェックなどができれば、経験の少ない貿易人材でも抜け漏れなく正確な仕事ができるようになると考えています」(染谷氏)

そもそもどうあるべきかの説明スライド

染谷氏は今、トレードワルツの取締役CEO室長のほかに、グローバル&アライアンス事業本部長など4つのCXOを兼務している。「当事者意識を高め、自分でやると腹を決めた結果、現在はさまざまな役職を担っています。例えばグローバル&アライアンス事業本部長としては、APEC加盟国やASEAN諸国との協力体制を構築しています。2021年のAPEC首脳(閣僚)会議では、2022年度中に私たちトレードワルツとタイ・シンガポール・オーストラリア・ニュージーランドの4カ国の貿易プラットフォームを連携させるという国を巻き込んだプロジェクトの実施を表明しました。他にも、政府や国際機関の協力を得て、ベトナム・カンボジアなどへ、トレードワルツを海外展開する働きかけもしています。腹を決め、言い訳をせずに、自らの手で世界規模の事業をつくるべく歩みつづけています」(染谷氏)

企業にとって最大のイノベーターは人事である

最後に、染谷氏は会社の新規事業担当者をJammin’に派遣しているオーナー(人事)へ、次のような熱いメッセージを届けてくれた。「実は、イノベーターが成功するかどうかを左右するのは、『最初の応援者(ファースト・フォロワー)』だといわれています。私の場合は、Jammin’に送り出してくれた上司と、トレードワルツに送り出してくれた上司が、最初の応援者でした。彼らは、私のような一風変わった人材、何をしているのか分からない人材を、真っ先に応援し、背中を押してくれたのです。そのおかげで、私は今、トレードワルツで力を尽くせています。『実は、最初の応援者こそが真のイノベーターなのだ』と私は感じています。

人事部は、組織に属するあらゆる人材の情報が社内で最も集まるところです。良い意味で変わった人材が現れた時、皆さんが最初の応援者になることができたら、社内にイノベーターが増えると思います。いや、積極的に応援する必要はないのかもしれません。彼らに制限をかけず、阻害せず、邪魔をしないで放っておくだけで十分です。彼らは、きっと自らイノベーションを起こすでしょう。その様子をぜひ、温かく見守ってあげてください。そのうえで可能なら、トレードワルツのような、多種多様な人材が活躍しやすい出島をつくってあげて、その世界に解き放ってあげてください。そこまで実現できたら、彼らは勝手にイノベーターになっていきます。その環境づくりを行う人事担当の皆さんこそが私は企業にとって最大のイノベーターだと思っています」

経営者に近い目線や想いを持った人事担当者には自然と情報が集まってくる

<質疑応答>

Q:大企業には、イノベーター支援で苦労している人事担当者が多くいます。具体的に何をしたらよいのか、教えてください。

染谷:最初に大切なのは、やりたいことがある人たち、既存のビジネスに自分なりの味つけをしたがる人たち、簡単に言えば言われたことをやることで満足できない人を社内に見つけることです。彼らを見つける手っ取り早いやり方の1つは、非公式の「自発的なイノベーション活動」を募集すると社内に広報して、仲間を募ることです。そうすれば未来のイノベーターたちがきっと飛びついてきます。あるいは、彼らは非公式活動を勝手に始めている場合もあるので、足しげくそういう場に通ってみるのも良いアプローチです。次に、非公式活動が軌道に乗ってきた段階で非公式活動から公式活動に昇格させて、活躍している人材を社内外に紹介してあげると、彼らのやる気がさらに高まるはずです。

Q:染谷さんは事業に取り組むモチベーションをどうやって維持しているのですか?

染谷:私は、与えられたことに究極の当事者意識を持つことを大事にしています。与えられている仕事、勤めている会社、それらに対し、まずは自分が経営者だと勘違いして思いこむ、どんな小さな仕事にも意味づけをする、扱う商品やサービスを愛する、そうすると「これを120%成し遂げてやる。その先に良い事業作り、良い会社作り、良い社会づくりをしていき、世界に息づく一人一人の幸せに尽くしたい」と腹決めができるようになるのです。これはきっと、人事の皆さんも同じです。「自分が関わる一人ひとりの事業を成功させるために、人事は存在している。自分は何ができるか」と目線を上げて一人一人と関わってみる。自分でも事業づくりをしたいと思っている人事、経営者に近い目線や想いを持った人事には、自然と情報が集まってくる。人事担当者こそ事業を創るキーパーソンなのだ、と考えて行動を起こせば、きっと仕事が面白くなるはずです。

Q:新価値創造がなかなかうまくいかないのですが、どうしたらよいですか?

染谷:インプットを増やすこと、試行錯誤することの2つしかありません。なぜなら、画期的なアイディアとは、2つ以上の既知の概念の新たな結合から生まれるからです。素晴らしいアイディアは、「知っていること」を「組み合わせること」で生まれるため、「組み合わせる素材」を増やすために知をインプットすることが先決です。例えば、本を読んだりして、多方面のビジネスの仕組みなどをいろいろと勉強するのです。そのうえで、既存の知をどのように組み合わせたら面白いアイディアになるのか、試行錯誤を繰り返すことを癖にするとよいと思います。オススメはStartup Weekendで良く教えられる「Half Baked」。「宇宙」と「猫」などランダムで上げられた一見繋がりの無さそうな二つの単語で、どんなビジネスができそうか、考えてみる遊びです。最初の頃はなかなかアイディアが出てきませんが、慣れてくるとお金持ちの飼い猫向けに宇宙葬ビジネスをやれないか、とか、火星移住の前段階として猫が他の惑星で生活できる宇宙ペットホテルを作る等、色々アイディアが出てくるようになるはず。Jammin’のオーナーは自社のビジネスを他社のオーナーと話せる絶好の場所にいるので、他のオーナーと試行錯誤をする中で、やがて新価値創造につながるアイディアに出会えるはずです。

【text:米川 青馬、illustration:長縄 美紀】

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。


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