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連載・コラム

データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第19回

「人事の脱エクセル」が進む可視化中心のピープルアナリティクス

  • 公開日:2022/07/25
  • 更新日:2024/05/16
「人事の脱エクセル」が進む可視化中心のピープルアナリティクス

LINEは、日本でピープルアナリティクスをいち早く導入した企業の1つだ。ピープルアナリティクス実行チームを一から立ち上げた佐久間祐司氏(LINE株式会社 Employee Success室 HR Data Managementチーム)に、現場での実践知やチーム立ち上げのコツなどについて詳しく伺った。

本シリーズ記事一覧
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第29回
LLMでアンケートの自由記述回答分析を大幅に省力化できた
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第28回
ピープルアナリティクス浸透のカギは文化とリーダーシップ
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第27回
テクノロジーに精通したヒューマニストでありたい
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第26回
仏教×データ分析で働く人の幸福度を高め企業創りを支援する
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第25回
生成AIが普及したら人間ならではの仕事を行う姿勢が大事になる
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第24回
データ活用の際に人事に必要な調査リテラシーは何か
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第23回
定量・定性の両面から現場にアプローチして人と組織を理解する
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第22回
適性タイプ分類モデルでバランスよく多様な人財の採用に成功
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第21回
社員の「ワクワク感」を高めるEX観点を日本の常識にしたい
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第20回
「信頼」を科学してイノベーションを生み出す日本にしたい
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第19回
「人事の脱エクセル」が進む可視化中心のピープルアナリティクス
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第18回
経営と目線を合わせたピープルアナリティクスが今後の鍵になる
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第17回
マーケットデザインとマッチング理論で適材適所を促進する
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第16回
負荷を増やさずに人事データを民主化し意思決定を変える
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第15回
人的資本投資の開示・マネジメントツールISO30414
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第14回
データサイエンスとビジネスの橋渡しが最も大事で難しい
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第13回
他社が始めたから自分たちも、という意思決定でよいのか
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第12回
スマートビルが横や斜めのつながりを増やして創発を促す
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第11回
アナリティクスを人事の現場に普及させたい
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第10回
創造性を科学し社会価値創造のエコシステムを作る
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第9回
NAONAで1on1ミーティングをもっと良いものに
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第8回
伝え方次第でデータの効果は0にも100にもなる
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第7回
グローバル市場で技術力で勝つ日本企業を増やしたい
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第6回
人事系データの分析課題の多くは「可視化」で解決できる
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第5回
最後のフロンティア“脳”の計測技術が生活の質を向上させる
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第4回
人事部門に必要なデータ活用には特有の難しさがある
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第3回
ピープルアナリティクスで人財ポートフォリオの転換、社員の活躍促進を目指す
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第2回
これからの人工知能はパーソナル化して“感性”に最適化される
データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第1回
「統計モデリング」には人事のあり方を変える力がある
人事を科学することへの関心からピープルアナリティクスの道へ
人事がExcelの使い方を忘れるほど豊富なダッシュボードを提供
新卒も中途も、元気のないチームに入れば元気がなくなる
ピープルアナリティクスは3年で軌道に乗せられるはずだ

人事を科学することへの関心からピープルアナリティクスの道へ

入江:佐久間さんのバックグラウンドを簡単に教えてください。

佐久間:大学卒業後、人事コンサルタントを経て、面白法人カヤックで1人目の専任人事を担当しました。さまざまなテクノロジーに触れるうちに人事を科学することに興味を抱くようになり、大学院で生理心理学を学びました。

当時はまだピープルアナリティクスという言葉もありませんでしたが、新しい人事の方向性はこちらではないか、と思ったのです。統計の基本的な理解はこのときに身につけました。チャレンジさせてくれる会社を探し、2017年にLINEに入社して今に至ります。

人事がExcelの使い方を忘れるほど豊富なダッシュボードを提供

入江:現在の成果を教えてください。

佐久間:LINEのピープルアナリティクスの全体像をお話しすると、私たちは最初に「HR Data Lake」というピープルアナリティクス用の統合DBを構築しました(図表1)。ここに採用管理システム・評価システムなどから多様なデータを収集し統合しています。

<図表1>散在するデータの一元化

散在するデータの一元化

次に、タレントマネジメントシステム「Personal Karte」を構築しました。現在は、現場マネジャーが日々配下メンバーの人事情報を確認するシステムになっています。並行していくつものダッシュボードを作って組織状態を可視化し(HR Dashboards)、データアナリストがデータの深耕や仮説検証を行っています(Analysis DB)。これらはすべてフルスクラッチで作り上げました。

入江:ピープルアナリティクスの方針や特徴を教えてください。

佐久間:「データの可視化」を重視しています。そのためにダッシュボードの強化を進め、現在は2人のデータアナリストで200ほどのダッシュボードを用意しています。さらに上述のタレントマネジメントシステムも存在しており、人事メンバーから「Excelでの図表作成が久しぶりすぎて分からなくなった」とまで言ってもらえるようになりました。ダッシュボードのデータ分析をいつでも気軽に使える環境を整備したことで、彼らの貴重な時間を節約することに成功し、本来の業務に集中してもらえるようにしたことは、私たちのチームの大きな成果の1つです。

データの可視化を重視した背景には、LINEの組織上の特徴があります。LINEでは、柔軟でスピード感のある組織編成のために、人事発令が年に24回、2週間ごとに人事異動があります。多くのデータ分析の賞味期限が2週間で切れるたびにExcelを作り直すのは極めて非効率です。だからこそ、多種多様なダッシュボードと、それが常に自動で最新化され、確認できる状態になっていることに大きな意味があるわけです。

新卒も中途も、元気のないチームに入れば元気がなくなる

入江:データ分析はどのようにしているのですか?

佐久間:意図したわけではありませんが、「クロス集計」や「相関分析」といった比較的簡易な手法で分析を完了するケースが多いです。AIなども興味をもってリサーチはしていますが、現場応用の場面は少なそうです。

厳密さが求められる研究などと違い、私たちが現場の仮説を実証するくらいなら、クロス集計と相関分析を使えば十分に事足りるというのが実感です。

入江:分析の具体例を教えてください。

佐久間:2つの分析例を紹介します。

1つ目は、「新人のエンゲージメントサーベイ分析」です。結論からいえば、入社後1カ月時点のアンケートで「入社した人を歓迎する雰囲気はありましたか?」という設問にネガティブな回答をした新人は、その後もエンゲージメントサーベイの結果が上がらない可能性がかなり高いことが分かりました。オンボーディングの重要性は最近よく耳にするようになりましたが、実際の影響は想像以上でした。

私たちは現在、この分析結果を受けて、入社後1カ月アンケートにネガティブな回答が多いチームに介入し、組織改善を進めています。

2つ目は、仮説と分析結果が違っていた事例です。人材開発チームが「新卒社員を配属してはいけないチームがあるのではないか」という相談を持ちかけてくれたので分析すると、結果は意外でした。想定通り、新卒社員のエンゲージメントは配属先チームに影響を受けていたのですが、実は中途社員が新卒以上に強い影響を受けていたのです。

この分析から、新卒も中途も、元気のないチームに入ったら元気がなくなる、ということが分かりました。停滞したチームに活きの良い若手や中途社員を入れてチームを改革してもらおうという作戦はほぼうまくいかないのです。

ピープルアナリティクスは3年で軌道に乗せられるはずだ

入江:ところで、ピープルアナリティクスのチームや環境をどのように作り上げてきたのですか?

佐久間:最初は社内ITの方が兼務で入り、また私自身も他の業務と掛け持ちでした。その後、ゲーム事業のデータアナリストが社内異動で加わりましたが、依然として小さなチームです。

担当者の経験に左右される部分が大きいとは思いますが、一般的な人事キャリアを歩んだ方がピープルアナリティクスを推進するには、社内ITとデータアナリストの協力が必須だと思います。システム開発の常識を知っており、仕様をまとめて外部SIerをマネジメントできる社内ITがいなければ、システム構築は不可能でした。

データアナリストには分析自体はもちろんですが、そのために必要な環境構築や、情報セキュリティポリシーの策定にも大きく力を発揮してもらいました。並行して、私は彼からデータ分析を習い、今や自分もデータアナリストです。BIツールを使ったダッシュボード構築などは、3カ月もあれば未経験からでもある程度は習得可能だと思います。データ分析スキルを身につければキャリアも広がりますから、人事の皆さんにはお薦めです。

図表1の仕組みが完成し、私がピープルアナリティクス専業になるまでおよそ3年。小さく始めて試行錯誤をしながらピープルアナリティクスを軌道に乗せるには3年くらいの時間を見ておくのが現実的なように思います。

他方で、データはあくまでデータ。分析は現場改善の一手段にすぎません。より経営や現場への影響力を高め、エンゲージメントや業績を改善する力は、まだまだ足りておらず、3年経った今でも道半ば、という感覚です。

【text:米川 青馬 photo:伊藤 誠】

KEYWORD
HAT Lab 所長 入江の解説

心理学を学ぶなかで身につけた統計学の知識を用いピープルアナリティクスに携わっているということで、バックグラウンドが重なることもあり、親近感をもって佐久間さんのお話を伺いました。

今回は、「自分だけではできなくても、仲間の力を借りればできる」という点や、「可視化や基礎的な分析でも、たくさんできることがある」という点が、これからピープルアナリティクスを始めようという方にとって、勇気の得られるヒントになっていると思います。

また、人事異動が頻繁であるがゆえにデータの賞味期限が短いという自社の特性を踏まえ、必要なダッシュボードの構築などを手掛けている点が、非常に優れているポイントだと感じました。

ぜひ読者の皆さんも、「難しいこと」と思わず、できるチャレンジから第一歩を踏み出していただければと思います。

※HAT Labとは

正式名称HR Analytics & Technology Lab。リクルートマネジメントソリューションズが先進技術を活用して「個と組織を生かす」ための研究・開発を行う部門。中心テーマは、データサイエンスとユーザーエクスペリエンスの向上技術。所長は、2002年入社後、一貫して人事データ解析に関する研究・開発やコンサルティングに携わる入江崇介が務める。

※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.66連載「データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 連載第19回」より転載・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。


PROFILE

佐久間 祐司(さくま ゆうじ)氏
LINE株式会社 Employee Success室
HR Data Managementチーム

大学卒業後、ワトソンワイアット(現ウイリス・タワーズワトソン)で人事コンサルタントを務め、面白法人カヤックで人事を経験。同志社大学心理学研究科前期博士課程修了後、メタップスを経て2017年にLINE入社。社内のピープルアナリティクス環境を構築し、現在はシステム企画・運用・分析などを幅広く担当。

バックナンバー
第14回 データサイエンスとビジネスの橋渡しが最も大事で難しい(三菱ケミカル株式会社 人事部 労制・企画グループ 大村 大輔氏)

第15回 人的資本投資の開示・マネジメントツールISO30414(一般社団法人 ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 副代表理事 加藤茂博氏/研究員 小澤ひろこ氏)

第16回 負荷を増やさずに人事データを民主化し意思決定を変える(パナリット株式会社 Co-founder/ COO トラン チー氏)

第17回 マーケットデザインとマッチング理論で適材適所を促進する(東京大学大学院経済学研究科教授 東京大学マーケットデザインセンター(UTMD)センター長 小島 武仁氏)

第18回 経営と目線を合わせたピープルアナリティクスが今後の鍵になる(早稲田大学 政治経済学術院 教授 経済産業研究所 ファカルティフェロー 大湾 秀雄氏)

本シリーズ記事一覧
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