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データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 第6回

人事系データの分析課題の多くは「可視化」で解決できる

  • 公開日:2019/03/04
  • 更新日:2024/04/11
人事系データの分析課題の多くは「可視化」で解決できる

『Tableau データ分析~入門から実践まで~』(秀和システム)の執筆者の1人でもあるデータサイエンティストの三好淳一氏に、ピープルアナリティクスの特徴や日本の現状、人事の方々が第一に取り組んだ方がよいこと、実践時の注意点などを伺った。

人事系データの管理が行き届いていないケースが多い
データを可視化する際には適したグラフを選ぶことが大切
4つの落とし穴を回避すれば価値の高い分析ができる

人事系データの管理が行き届いていないケースが多い

入江:はじめに、これまでのご経歴を教えてください。

三好:私はベンチャー企業や大手市場調査会社でデータ分析・商品開発・事業開発を担当した後、2014年にイノヴァストラクチャーを立ち上げました。現在は、ピープルアナリティクスを中心にして、データ解析&コンサルティングサービスを展開しています。

入江:なぜマーケティング領域で経験を積んできた三好さんが、ピープルアナリティクスに注力しているのですか?

三好:前職で、人事やマネジメントによって組織が大きく変わることを学んだことが1つ。もう1つは、多くの企業で人事系データが宝の持ち腐れになっているのを見て、もったいない、このデータを活用したいと思ったからです。

入江:データ分析全般に詳しいと思いますが、ピープルアナリティクス領域の特徴はどの点にありますか?

三好:大きく3つあります。1つ目は、1レコード当たりのデータの価値が非常に重いことです。人事系データの場合、一つひとつに人生が詰まっていますから、倫理的な問題や分析環境構築には十分に注意しなくてはなりません。

2つ目は、データ管理が行き届いていないことが多い点です。人事系データの種類によって管理者や管理方法などがバラバラで、データの前処理に時間がかかることが多いのが現状です。また、ある時期のデータが欠けていたり、サンプルサイズが小さかったりして、十分な分析ができないこともよくあります。その意味では、ピープルアナリティクスは決して簡単ではありません。

3つ目は評価データや社内満足度調査データといった主観的データが多く、バイアス・バラツキ・正確性などに注意しなくてはならない点です。

データを可視化する際には適したグラフを選ぶことが大切

入江:人事の方々が、データ分析でまず行った方がよいことは何ですか?

三好:データ分析の基本である「可視化」と「クロス集計」をしっかりマスターすることだと思います。

なぜなら、私の経験では、人事系の分析課題の70~80%は、可視化とクロス集計で解決できるからです。可視化とクロス集計なら、BI(ビジネス・インテリジェンス)ツールを使って3カ月ほど集中的に取り組めば、十分にマスターできるでしょう。人事の方々が忙しいことはよく分かっています。だからこそ、可視化とクロス集計を早く覚えてしまうことをお勧めします。これだけで、ピープルアナリティクスの大部分をカバーできるようになるはずです。

残りの20~30%は、統計学や機械学習の知識が必要な分析です。もちろんこれらも重要ですが、可視化とクロス集計で一通り課題を解決した後でかまわないのではないかと思います。

入江:可視化とクロス集計を行う際のポイントを教えてください。

三好:第1に、ローデータ(手が加えられていない1次データ)の特徴をグラフなどで把握して、データの構造を見抜き、課題の仮説を立てていくことです。例えば、一人ひとりの勤怠データを見ていくと、この人はときどき長期の休みをとる傾向があるとか、この人は病欠が多い、職種によって休みのとり方が違うといったことが見えてきます。そうした特徴のなかから、課題を見つけていくのです。このような特徴を新たな変数として表現することで、より深い分析を行うこともできるため、重要なプロセスです。

第2に、そのための「グラフの選択」です。棒グラフ、円グラフなど、用途別に何種類ものグラフがあります。可視化の際には、このなかから分析内容に適したグラフを選ぶことが大切です。例えば、構成比は「100%棒グラフ」が適していますが、構成要素が多く色で識別しにくい場合は、「棒グラフ」がよいでしょう。また、時系列データなら変化を角度で識別しやすい「折れ線グラフ」、時間割分析なら「ハイライト表」が適しています。選択を間違わないことが大切です。

第3に、「BIツール」に習熟することです。私は「Tableau」をお勧めしています。Tableauは世界的に普及しているBIツールで、直感的に使いやすく、可視化に優れています。多様なデータに接続可能で、データ更新も簡単です。Tableauなら、例えば経営会議で「こういうデータが見たい」と言われたときにも、すぐに可視化できます。これだけでも、経営陣の皆さんに大きなインパクトを与えられるはずです。他のツールもありますから、ぜひ調べてみてください。

この3点を押さえれば、人事データ解析によって、さまざまなビジネス課題を解決していけるはずです。

4つの落とし穴を回避すれば価値の高い分析ができる

入江:他に、ピープルアナリティクスで注意すべきことは何でしょうか?

三好:会議などで、相手から「この分析は何に使うの?」「このデータおかしくない?」「この分析の見方が分からないんだけど」といった声が上がったら、分析は失敗です。それを防ぐには、「4つの落とし穴」に気をつけることです。

1つ目の落とし穴は、「分析設計できないこと」です。これを回避するには、課題の優先度を決めることが重要です。インパクトが大きく分析しやすい課題を選び、ゴールから逆算して設計するのです。例えば、「採用プロセスの可視化」「退職データの可視化」などは、効果的でとりかかりやすいのではないでしょうか。

2つ目は「リソース不足」です。データ分析には「ビジネス系理解、実行担当」「プロジェクトマネジメント担当」「分析・視覚化担当」「データエンジニアリング担当」「データ分析環境構築担当」の5つの役割を担う人員が必要です。不足であれば、私たちのような外部ブレーンを上手に使いながら、社内外からメンバーを集めることが成功の秘訣です。また、予算は小さく始め、効果を出しながら増やしていくステップを踏むのがお勧めです。

3つ目の落とし穴は「実装できないこと」で、その主な原因は、現場とのコミュニケーション不足です。現場の理解を得られなければ、データ分析は決して成功しません。これを解決するには、現場の担当者を設計段階から巻き込むことが必須です。現場メンバーへの定期的なヒアリングも欠かせません。可能なら、現場キーパーソンに人事部を兼任してもらうのも1つの手です。

4つ目は、「手段が目的化してしまうこと」です。本来、ビジネス成果につながらない分析に価値はありません。しかし、Tableauなどを使うと、簡単にグラフを作成できるため、価値のない分析を大量にアウトプットしがちです。それでは本末転倒。どうすれば課題を解決できるのかを常に意識して、無駄な分析を省いていくことを心がけましょう。

さらに言うと、人事部では施策の効果を示すデータがあまりとられておらず、施策が成功したかどうかが分からないことが多いのも問題です。これからはそのようなデータの質や量も問われるでしょう。

この4つの落とし穴に気をつけて、的確な可視化とクロス集計を行っていけば、必ずや「価値の高いピープルアナリティクス」を実現できるはずです。

【text:米川青馬】

HAT Lab 所長 入江の解説

「人事系データの場合、一つひとつに人生が詰まっている」という三好さんの言葉に、データサイエンティストと経営者という2つの顔をもつ三好さんのピープルアナリティクスに対する思いの強さが表れていました。

ビジネス成果につながることと、働く一人ひとりの役に立つことの両者を実現することがピープルアナリティクスの妙であること。そのための方法論として、可視化という人間に親和性の高い方法を用いてデータをよく見ること、併せて現場の現実もよく見ることの重要性。これら2点について、三好さんのお話は示唆に富むものでした。

三好さんのご指摘のとおり、可視化で解決できる人事の分析課題は数多くあります。皆様もぜひ、「効果的でとりかかりやすい」課題の解決に向けて、可視化にトライしてみてください。

【インタビュアー:HAT Lab 所長 入江崇介】

※HAT Labとは
正式名称HR Analytics & Technology Lab。リクルートマネジメントソリューションズが先進技術を活用して「個と組織を生かす」ための研究・開発を行う部門。中心テーマは、データサイエンスとユーザーエクスペリエンスの向上技術。所長は、2002年入社後、一貫して人事データ解析に関する研究・開発やコンサルティングに携わる入江崇介が務める。

※本稿は、弊社機関誌RMS Message vol.52連載「データサイエンスで「個」と「組織」を生かす 連載第6回」より転載・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
三好 淳一(みよし じゅんいち)氏
株式会社イノヴァストラクチャー 代表取締役社長CEO

2006年インタースコープに入社後、ヤフー・バリュー・インサイト、マクロミルを経て、2014年にイノヴァストラクチャーを設立。人事領域におけるデータ活用、分析およびコンサルティングなどを行っている。共著書に『Tableauデータ分析~入門から実践まで~』(秀和システム)がある。

バックナンバー

第1回 「統計モデリング」には人事のあり方を変える力がある(専修大学 岡田謙介氏)

第2回 これからの人工知能はパーソナル化して“感性”に最適化される(SENSY株式会社 渡辺祐樹氏)

第3回ピープルアナリティクスで人財ポートフォリオの転換、社員の活躍促進を目指す
(株式会社日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部 ヒューマンキャピタルマネジメント事業推進センタ People Analytics Lab 中村亮一氏)

第4回 人事部門に必要なデータ活用には特有の難しさがある(滋賀大学 河本 薫氏)

第5回 最後のフロンティア“脳”の計測技術が生活の質を向上させる(株式会社NeU〈ニュー〉長谷川 清氏)

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