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THEME 経営人材/次世代リーダー

連載・コラムさあ、扉をひらこう。Jammin’2021 professional interview

「インバウンドは自社ビジネスとつながっている」と気づくとみんなの目が変わる

「インバウンドは自社ビジネスとつながっている」と気づくとみんなの目が変わる

共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」、3年目のJammin’2021がスタートした。現在、昨年から大幅に増えた41社・225名の次世代リーダーたちが、チームを組んで新規事業立案に取り組み、共創型リーダーシップに挑戦している真っ最中だ。Jammin’2021には全12コースがあり、各コースに1人ずつ、新規事業の立ち上げと各テーマの現場を熟知する専門家がついている。彼らと交流することで参加者の学びは一気に深まる。今回は、「インバウンドコース」の専門家・加藤史子氏(WAmazing株式会社 代表取締役CEO)に、Jammin’と次世代リーダーたちがどう見えているのかを伺った。

インバウンド事業は中長期的には必ず復活する



――簡単な自己紹介をお願いします。


加藤史子氏の写真

加藤史子氏
WAmazing株式会社 代表取締役CEO

慶応義塾大学環境情報学部(SFC)卒業後、(株)リクルート入社。 「じゃらんnet」の立ち上げ、「ホットペッパーグルメ」の立ち上げなど、主にネットの新規事業開発を担当した後、観光による地域活性を行う「じゃらんリサーチセンター」に異動し、「マジ部」(詳細は本文参照)を展開。 2016年7月、WAmazingを創業。

私はリクルートに入社して、2000年に現在の「じゃらんnet」の立ち上げメンバーとなりました。ちょうどリクルート全体が紙からインターネットにメディアを移行する時期で、社内でも新しい領域だったこともあり、上司は若手の私たちにかなり任せてくれました。おかげで自由に取り組むことができましたね。単にメディアを創るだけでなく、広告モデルから成果報酬モデルへと、ビジネスモデル全体を変えていく成功体験を積めました。

その後、出産を機に、2008年にじゃらんリサーチセンター(JRC)へ移り、今度は研究員になりました。子育てに入ったことで、今までよりも長期的な視点で社会に役立つことをしたい、と思うようになったんです。JRCでは国内旅行市場の活性化に携わり、序盤は国からの受託事業を請け負いました。

転機となったのは、2011年に始めた「雪マジ!19」という取り組みです。19歳だけスキー場のリフト券が無料になる、というサービスで、スキー人気を回復させたい地域の方々の想いを受けて調査・開発しました。雪マジ!19は成功を収め、スキー場にやってくる若者が大幅に増えて、参加するスキー場もどんどん多くなりました。そこで私たちは次に「マジ部」を立ち上げ、同様のサービスをJリーグ観戦、ゴルフ、温泉、マリンアクティビティなどに横展開していきました。
「雪マジ!19」について詳しくはこちら

スキー場イメージ


ただ、国内旅行市場はどうしても少子高齢化による人口減少の影響が大きい。私たちがいくら頑張っても市場を拡大することは難しく、現状維持が精一杯だという現実がありました。日本の観光業をここから大きく成長させるには、インバウンドで新規事業を起こすしかない。そう考えた私は、2016年、仲間たちと共に「WAmazing」を立ち上げました。WAmazingの中核ビジネスは、訪日外国人旅行者の日本旅行中に使うスマホサービスで、いわば「手の中の日本旅行エージェント」です。アプリの利用者は日本に到着した際、空港で無料のSIMカードを受け取り、日本旅行中は自分のスマホがインターネットにつながった状態で宿やアクティビティ、交通手段を探したり購入できたりします。

――インバウンドビジネスの今後を教えてください。

 

現在のインバウンド事業はコロナ禍で大変な苦境に立たされていますが、中長期的には必ず復活します。2021年は、ワクチン接種率が各国で進んでいるなど昨年より確実にコロナ禍に対する収束見通しが良くなっています。中国・アメリカなどは国内旅行ビジネスがすでに相当回復しており、日本も国内は近く戻ってくるでしょう。その次に、インバウンドの復活がやってくるはずです。ただコロナ禍を経て、旅行業も消費者の行動も変化していきます。今年のJammin’参加の皆さんには、アフターコロナのインバウンド産業についてより詳しく具体的にお話ししたいと思います。

東京を旅行する海外の人たちイメージ

Jammin’の新規事業立案プロセスはベンチャー企業などの実際の取り組みと遜色がない



――なぜJammin’の専門家を引き受けたのですか?


Jammin’企画責任者の井上功さんとは以前からの知り合いで、その縁で2019年の第1回からインバウンドコースの専門家の役割を担っています。WAmazingの本業も忙しく、引き受けるかどうか迷いましたが、Jammin’の取り組みは意義深いと感じて決めました。過去2回とも面白かったので、今回も楽しみです。2020年の第2回は、コロナ禍でインバウンドコースの存在そのものがなくなる可能性があったのですが、私が「インバウンド需要は中長期的には必ず復活します」と井上さんたちにお伝えしたら、コースを続けていただけました。嬉しかったですね。

――Jammin’と参加者たちをどのように見ていますか?


Jammin’は、新規事業アイディアをまとめ上げる研修として、かなり完成度が高いと思います。社会の「不」を起点にしながら、現場インタビューによる一次情報、統計資料などの二次情報を積み上げ、戦略を立てて企画アイディアを練りこんでいくプロセスは、企業の新規事業開発部やベンチャー企業などの実際の取り組みと遜色がありません。

特に2020年に実施された第2回は全体的にすばらしく、どのチームもよく調べ、よく考えて、実現可能性の高い優れたプランを完成させてくれました。私に投げかけてくる問いも鋭いものが多く、参加者とのセッションは毎回充実していました。おそらく、対面での研修が中心だった2019年度に対して、昨年からオンラインでの開催が中心になったことが影響しているのではないでしょうか。毎回のセッションだけでなく、セッションの間にも、参加者が気軽に(リモートで)集まって話し合いやすい環境ができたのが良かったのだろう、と思います。毎年、Jammin’に参加する皆さんは本当に優秀です。日本の企業には能力の高い方がたくさんいることを実感します。

とはいえ、最初は参加者の大半が、インバウンドについてよく理解していないことも事実です。なかでも大きな間違いは、インバウンドは自社のビジネスとは関係がない、と思いこんでいることです。しかし現実は逆で、多くのビジネスがインバウンドと何らかの関係があります。なぜなら、インバウンドは都市経済・地域経済と密接に絡み合っているからです。

その証拠に、コロナ禍で始まった「Go To トラベル事業」には、地域共通クーポンがついており、約1/3は地域経済に分配される設計になっています。旅行というのは人の生活の場を日常から非日常に移すことですから、波及効果は多岐にわたります。旅館や交通だけでなく、地域の小売店、飲食店、ガソリンスタンドなども潤うわけですね。それらの先にはメーカーや運送業やエネルギー企業などがあります。こうやって考えていくと、実はJammin’参加企業の多くが、インバウンドとどこかでつながっているのです。そのことに気づいたとき、参加者の皆さんの目が変わります。インバウンドが「我がごと」になるのですね。私は、こうして皆さんの心に火がついて、新たなインバウンド事業を本気で考えてくれることが何よりも嬉しいです。

平和な世界イメージ画像

Jammin’後は自社内で新規事業を「実行」する経験を積んでいただきたい

――Jammin’の参加者たちに望むことは何ですか?

Jammin’が終わって、それぞれの企業に戻ったら、新規事業を「実行」する経験を積んでいただきたいです。なぜなら、新規事業をプランニングするプロセスは、新規事業開発全体の1/3程度にすぎないからです。残りの2/3は実行なのです。

ベンチャー企業の経営者として断言しますが、どんな新規事業アイディアも、実行してみなければ本当の善し悪しは分かりません。当然ですが、ビジネスの成否は、実行メンバーや事業開始のタイミングに大きく左右されます。また現実のビジネスには、さまざまな不測の事態がつきものです。企画時には思ってもみなかったことが必ず起こるのです。企画と実行の間には大きな溝があり、実行の世界は、アイディア創出の世界とは違うのですね。私の見方では、新規事業の中長期的な成功・失敗を分けるのは人材リソースの調達と資金調達、そして組織マネジメントですが、そうしたことは実際にビジネスを立ち上げる経験をしない限り、決して腑に落ちないと思います。

だからこそ、Jammin’で優れたアイディアを生み出して満足するのではなく、実行の経験も積んでいただきたいのです。ぜひ自社でそういうチャンスを掴んでください。企画と実行の両方を経験できたら、必ず皆さんの将来に生きるはずです。

――Jammin’2021に参加中の皆さんにメッセージをお願いします。

今やアメリカでは株式会社とNPOの境目がなくなりつつあります。なぜなら、すべての社会課題が、そのまま巨大なビジネスチャンスになってきたからです。近い将来、どの企業もビジネスを通じて社会貢献をするのが当たり前になるのです。日本でも、今後まもなく同様の事態が起きるでしょう。社会貢献やサステナビリティが、企業が事業の「ついで」に行うボランティア活動ではなく、事業そのものの中核になるはずです。

そのことを踏まえると、社会の「不」を起点にした新価値創造のプロセスは、これからの新規事業開発のスタンダードといえるでしょう。Jammin’は、次世代リーダーにとってまさに必須となる基礎を学べる場なのです。充実した時間にしてください。ここでの経験がきっと皆さんの未来につながりますから。

【text:米川青馬、illustration:長縄美紀】


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