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共創型リーダーシップ開発プログラムJammin’研究レポート1

越境の経験と学びを可視化する —2020年度Jammin’参加者プレ/ポストアンケートより

  • 公開日:2021/08/16
  • 更新日:2024/05/17
越境の経験と学びを可視化する ―2020年度Jammin’参加者プレ/ポストアンケートより

新価値創造セッション『Jammin’』は、さまざまな企業から派遣される若手リーダーたちがチームを組み、社会の「不」に向き合って新規事業開発プロセスを体験するリーダーシップ開発プログラムだ。 今回、2020年度に実施したJammin’の参加者アンケートを元に、Jammin’での学びの実態を分析・考察した研究レポートを2本続けてお届けする。 第1弾では、越境の学びに焦点を合わせる。リーダーシップ開発の背景理論の1つは「越境」である。しかし、越境の経験は見えにくい。本稿では、Jammin’参加者に協力いただいたプレ(参加前)/ポスト(参加後)アンケートの結果をまとめ、越境の経験と学びの可視化を試みる。(第2弾はこちら

リーダーの学びを支える「越境」
異業種人材に学び、新価値創造のプロセスを経験し、自分が試される
「成長経験デザイン」
仕事で得られる成長経験/得にくい成長経験
仕事で伸ばしにくい能力/越境経験で伸びる能力
越境の学びを持ち帰る
小さな変革はすでに始まっている

リーダーの学びを支える「越境」

今日、各社における次世代リーダーには、不確実性に対峙し、これまでにないやり方や協働を生み出していくことが求められる。そこで、近年注目されるのが「越境」経験を通じた人材開発である。

越境とは、異質な文化や状況における実践を往還する行為や状況を指す。そこでは自分のそれまでの「当たり前」が問い直されると同時に、異文化から集う人々が力を合わせて活動できるような「第3の解」を見出す創造性が鍛えられる。(詳しくはこちら

しかし、越境の学びは見えにくい。その理由は、異文化に由来する学びを、所属元の文化の言語体系で表現する難しさかもしれない。また、ものの見方や捉え方の変化に大きな価値があるためかもしれない。いずれにしても、越境経験の価値を所属企業で伝えきれない、伝えるのが難しいと感じている越境経験者や越境プログラム企画者も多いだろう。

そこで本稿では、当社が主催する『Jammin’』という越境を通じたリーダーシップ開発プログラムへの2020年度参加者のうち121名へのアンケート結果を用いて、越境の経験と学びを数値に置き換え可視化することにチャレンジしてみたい。

しかし、越境の学びは見えにくい。その理由は、異文化に由来する学びを、所属元の文化の言語体系で表現する難しさかもしれない。また、ものの見方や捉え方の変化に大きな価値があるためかもしれない。いずれにしても、越境経験の価値を所属企業で伝えきれない、伝えるのが難しいと感じている越境経験者や越境プログラム企画者も多いだろう。

そこで本稿では、当社が主催する『Jammin’』という越境を通じたリーダーシップ開発プログラムへの2020年度参加者のうち121名へのアンケート結果を用いて、越境の経験と学びを数値に置き換え可視化することにチャレンジしてみたい。

異業種人材に学び、新価値創造のプロセスを経験し、自分が試される

Jammin’は、異業種×社会課題×事業開発という3つの越境経験が重なる場として設計されている。加えて、人材開発トレーナーが場をファシリテートしたり、個別インタビューを行ったりすることで、越境の学びを自社における活躍の素材として持ち帰る工夫がなされた、リーダーシップ開発プログラムである。図表1は、Jammin'への参加時の期待と、参加後の満足実感を比較したものである。

<図表1>Jammin’2020への期待と満足
本プログラムへの期待(プレアンケート)/満足した点(ポストアンケート)として、あてはまるものをいくつでもお答えください。(複数回答/n=121/%)

<図表1>Jammin’2020への期待と満足

期待と満足が高い水準で一致したのは図表中に示した(1)の領域で、1.専門家からの知見や刺激、2.新価値創造のプロセス経験からの学び、3.異業種人材のものの見方や考え方からの学び、すなわち「異業種×社会課題×事業開発の越境からの学び」であった。期待を上回る体験となったのは(2)で示した4.自分のスキルや経験がどの程度通用するのかを確かめる体験、いわば「腕試し体験」だったようだ。4割の参加者から期待されたが2割の参加者しか満足に至らなかったのは(3)で示した6.所属する会社の新価値創造の可能性を見出す体験である。「越境後の共創」の道筋を見出すことはJammin’の課題であり、プログラム終了後も続くプロセスといえそうだ。

「成長経験デザイン」

越境で学びを得るには、特に、自社におけるリーダーシップ開発につながる学びを得るには、ただ異文化であればよい、というわけではない。リーダーシップ開発につながる越境はどのような異質さを備えているべきか?を問う必要がある。

今回は、当社が長年のコンサルティング活動を通じて提唱するに至った「成長経験デザイン」に沿って、Jammin’の越境経験の可視化を試みた。成長経験デザインとは、図表2に示したようなリーダーの成長を促す8つの経験である。

<図表2>成長経験デザイン

(成長経験デザインについて詳しくはこちら


成長経験の要素が明らかになったとしても、それらを経験する意図的な業務デザインを実際の仕事において行うことは簡単ではない。また、経験をしても内省がともなわないと成長にはつながらないといったことも指摘される。そうであるならば、非日常的な業務をデザインしやすく、日常の当たり前が揺さぶられて内省が促されやすい越境プログラムにこそ適したものがあるのではないだろうか。Jammin’では、どのような成長経験のデザインがあったのか、仕事上のデザインと比較しながら次項で確認してみたい。

仕事で得られる成長経験/得にくい成長経験

図表3は、成長経験デザインをアレンジした項目で、仕事における経験とJammin’の経験について、ややあった/豊富にあったとした回答の選択率を集計、比較したものである。青い折れ線が仕事での経験を示しており、赤い折れ線がJammin’での経験を示している。仕事で得にくい経験を可視化するために、図表中に(1)として両者のギャップとなる面積に色付けした。

<図表3>仕事経験とJammin’の経験の比較
これまで仕事上であなたご自身が次のような経験をする機会が(プレアンケート)/今回参加したプログラムで次のような経験をする機会が(ポストアンケート)、どの程度ありましたか。(単一回答/n=121/%)

<図表3>仕事経験とJammin’の経験の比較

主体性(1)や目標意識(9)をもって他者を動かす経験(4)は仕事でも経験している参加者が相対的に多い。しかし、多様な価値観の人との協働(6)において、経営資源のマネジメントをデザイン(3)し、経営者やプロフェッショナルの覚悟に触れ(5)、従来の知識・経験が通用しない(7)なかで、世のなかに新価値を生み出すような経験(8)は、仕事では相対的に経験しにくく、越境プログラムならではの経験として参加者に評価されていた。

仕事で伸ばしにくい能力/越境経験で伸びる能力

こうした経験デザインの違いは、日常とは異なる能力を伸ばすだろうか。参加前に強み・弱み・どちらでもないと感じていた能力について、参加後に伸ばせた・大いに伸ばせたかを比較した。

「ひきつける」「いかしきる」「やってみる」という3つの行動要件は、Jammin’プログラムのなかでその実践を強く促している観点である。それらを5つの下位要素に分解し、それぞれ3~4項目ずつでセルフチェックしてもらった。能力開発実感(伸ばせた・大いに伸ばせた)とする回答と、参加前の強み認知のギャップを示したのが図表4である。

<図表4>Jammin'を通じた能力開発実感と参加前の強み認知
ご自身の現状認知として、次のことは強み・どちらでもない・弱みのいずれにあてはまりますか(プレアンケート)/今回参加したプログラムを通じて、次のような能力をどの程度伸ばすことができたと思いますか(ポストアンケート)。(単一回答/n=121)

<図表4>Jammin'を通じた能力開発実感と参加前の強み認知

8割前後の参加者が「ひきつける」「いかしきる」「やってみる」のすべてを伸ばせた/大いに伸ばせたと回答した。そのうち、特に参加前の強み認知が低かったものは、「ひきつける(2)未来を描いて語る」、「生かしきる(2)価値を共創する」であった。

「ひきつける」に関連する企画能力のうち「事実から仮説を立てる」は比較的強みとする人が多い半面、「未来を描いて語る」に自信がある人は少ない。同様に「いかしきる」に関連する協働の能力のうち、「他者を尊重する」ことはできても「価値を共創する」ことに自信がある人は少ない。そのようなリーダーシップ経験のアンバランスを克服せざるを得ない共創を、Jammin’の越境経験では迫られる。

社会の「不」に向き合う事業案づくりに向けて「やってみる」を繰り返すプロセスでは、仮説を持つだけでなく、自ら未来を描いて語り関係者を「ひきつける」。他者を尊重するだけでなく互いに踏み込んで意見を交わし多様性を「いかしきる」。そうした、圧倒的な当事者意識をもったリーダーシップが磨かれている。

越境の学びを持ち帰る

越境の学びに対する最大の関心の1つは、それを自社の仕事に持ち帰ることができるのかということだろう。自社の文脈の外で育ったリーダーシップは、果たして自社に果実をもたらすのだろうか。

プレ/ポストアンケートの設問への「1.あてはまらない~5.あてはまる」の5件法での回答の平均値を比較した図表5を見ていただきたい。

<図表5>越境後の「自信」の変化
あなたご自身の日ごろの考えとして、次のことは、それぞれどの程度あてはまりますか(プレ/ポストアンケートいずれも同じ)。(単一回答/n=121/平均値)

<図表5>越境後の「自信」の変化

社会の「不」を深く理解し、困っている人のことを知り、その解消につながるような事業案を生み出す。そんなJammin’のプロセスを通じて、参加者は3つの「自信」をもつに至るようだ。自分には優れたところがあり社会参加する価値があると感じる「社会参加」への自信、不確実な状況においても自ら判断し活躍の仕方を見出せると感じる「不確実性」への自信、多様な人々は頼りになるしそのような人々と信頼関係を築けるという「多様性」への自信。

不満や不便はあるけどどうせ変えられない、見通しのつかない状況や異質な他者は避けておいた方が無難、そうした意識は無為無策の元凶となる。反対に、社会参加・不確実性・多様性への自信は、改善する努力やイノベーションへの第一歩へとつながるマインドセットと考えてよいだろう。しかし、自社の文脈の外側でそのような自信をつけた人材は、活躍の場を求めて自社の外へ飛び出してしまうのではないかと危惧する声も聞く。越境によって自信をつけた人材の心は、元の自分の仕事からは離れてしまうのだろうか。

不安を募らせる前に、同様にプレ/ポストの比較である図表6を見てほしい。越境で社会参加・不確実性・多様性への自信をつけても、自分の仕事が色あせるわけではない。むしろ仕事が世のなかに与える影響や仕事の目的を大きく捉えるようになるようだ。また、自社への愛着の度合いも下がらない。むしろ、選択肢がないので辞められないという消極的な理由ではなく、自社の役に立ちたいという気持ちがより高まっていた。

<図表6>越境後の仕事の意味づけ・会社への態度の変化

あなたご自身の日ごろの考えとして、次のことは、それぞれどの程度あてはまりますか。
1.あてはまらない・2.ややあてはまらない・3.どちらともいえない・4.ややあてはまる・5.あてはまる(プレ/ポストアンケートいずれも同じ)。(単一回答/n=121/平均値)

<図表6>越境後の仕事の意味づけ・会社への態度の変化

小さな変革はすでに始まっている

最後に、「ジョブ・クラフティング」について尋ねた結果を図表7に示した。ジョブ・クラフティングは、より意味が感じられるように仕事に工夫を加えたり、人との関わり方を変えたりといった小さな変革行動である。Jammin'の経験ののち、ジョブ・クラフティングの実践を増やしたという人は7~8割にのぼる。


<図表7>越境後のジョブ・クラフティング
このプログラムの受講を通じて、次のような行動や考え方に変化はありましたか。(単一回答/n=121)

<図表7>越境後のジョブ・クラフティング

Jammin’で体験するような社会課題への越境で芽吹いたリーダーシップが大きな実を結ぶまでにはまだ道のりがあるかもしれない。しかし、ジョブ・クラフティングのように目の前の仕事に変革機会や多様性を見出し、それらに対して「ひきつける」「いかしきる」「やってみる」を、さっそく実践している様子がうかがえる。越境リーダーの持ち帰った学びには、上司や同僚の目を引くほどではない小さな変革も多く含まれている。越境プログラムに次世代リーダーを派遣した人事や上司は、ぜひそうした小さな変革と貢献意欲を見逃さず、越境リーダーを信じ、彼・彼女らが活躍の道を拓く支援を行っていただければ幸いである。

■Jammin’研究レポート2 「経験からの学び」を豊かにする視点 はこちら

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執筆者

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組織行動研究所
客員研究員

藤澤 理恵

リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所主任研究員を経て、東京都立大学経済経営学部助教、博士(経営学)。
“ビジネス”と”ソーシャル”のあいだの「越境」、仕事を自らリ・デザインする「ジョブ・クラフティング」、「HRM(人的資源管理)の柔軟性」などをテーマに研究を行っている。
経営行動科学学会第18回JAAS AWARD奨励研究賞(2021年)・第25回大会優秀賞(2022年)、人材育成学会2020年度奨励賞。

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