連載・コラム
共創型リーダーシップ開発プログラムJammin’2020オーナーセッションレポートvol.4
ピープルアナリティクスの専門家が読み解く 「共創型リーダーシップ」
- 公開日:2021/06/21
- 更新日:2024/05/20
2019年度からスタートした共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」。2020年9月から始まったJammin’2020から今回は、12月2日(水)にオンラインで開催した第4回オーナーセッションの模様をお伝えする。オーナーセッションとは、Jammin’に人材を送り出している人事(オーナー)向けのプログラムだ。第4回は、ピープルアナリティクスの専門家・鹿内学氏(株式会社シンギュレイト代表取締役)に、「共創の科学」についてお話しいただいた。なお、進行役は井上功(弊社シニアコンサルタント)と藤澤理恵(弊社主任研究員)である。
- 目次
- ピープルアナリティクスの専門家が注目する 「コミュニケーションデータ」
- 創造的な会議のためには「15秒以上の長話」をなくす
- 「共創型リーダーシップ」は多様・大量のメンバーをまとめて 創造性の高いチームを目指す
- 越境プログラムの定量的な指標を設定したい
ピープルアナリティクスの専門家が注目する 「コミュニケーションデータ」
オーナーセッションは、Jammin’にリーダーを送り出す人事の皆さんが参加し、ゲストの講演と、オーナー同士の対話を通して、リーダー開発や組織変革の知見を交換しながら考えを深めていく場だ。特に重要なのは、「自社に共創型組織へのシフトを起こすために何ができるか?」という問いである。オーナーが、こうした問いに自分なりの答えを出し、自らを変え主体的に行動を起こしていくことで、組織は変革される。だからこそJammin’では、オーナーセッションをリーダーセッション同様に重要なものと位置づけている。
第4回ゲストの鹿内氏は、ピープルアナリティクスの専門家で、Jammin’リーダーセッションで参加者が行う議論での話し方の計測・評価もしていただいている。鹿内氏が、議論の話し方をどのように計測・評価しているのか、評価結果をどのように役立てたらよいのか、共創型リーダーシップやJammin’をどのように捉えているのかを伺った。
鹿内学氏
奈良先端科学技術大学院大学で博士号の学位を取得し、京都大学などの基礎研究機関で教員や研究員として認知神経科学の基礎研究に従事。2015年よりビジネスサイドに軸足をうつす。経営に関わる株式会社シンギュレイトでは、「信頼」の理論をイノベーションの土台と考え、働く人たちのコミュニケーション・データを分析し、人事データ・コンサルを手がける。2021年に1on1での話し方をフィードバックする支援ツール「Ando-san」もリリース。
鹿内氏が開発した「Ando-san(SM)」は、マネジャーとメンバーの1on1の対話中の話し方をセンシングし、「マネジャーの話しすぎ」を減らして、メンバーがより主体的に話す1on1の実現をサポートするサービスだ。具体的には、面談モードの比率を計測・評価し、双方向の対話(ディスカッション・雑談)や相手への傾聴(コーチング)を増やして、一方的な主張(ティーチング)の量を減らすように促す。
ピープルアナリティクスに用いるデータには、他者からの観察・評価データ、議事録・企画書などのテキスト情報、アンケート類への本人回答情報などさまざまなものがあるが、1on1データのような「社内コミュニケーションデータ」は、比較的短期間で大量にセンシングでき、すぐに分析・改善できる貴重なデータだ。
(資料提供:鹿内学氏 禁無断転載)
創造的な会議のためには「15秒以上の長話」をなくす
Jammin’での参加者の議論の計測・分析にも、Ando-sanの技術を活用している。不確実な時代にピープルアナリティクスを活用していくには、OODAループを意識するとよい。例えば、データを用いて1on1の現状を「みる(Observation)」、そして問題点に「気づく(Orientation)」。気づきを踏まえて「きめる(Decision)」、そして「うごく(Action)」のだ。事後的な評価ではなく、活動を改善するためにすぐに活用していくことが重要だ。Jammin’でもセッション中の計測結果を、次のセッションで返却し、プログラム中に対話が進化するよう促している。
(資料提供:鹿内学氏 禁無断転載)
ではどのように「みる」ことが効果的な改善につながるのだろうか。鹿内氏がアイデアを出すための創造的な会議におけるコミュニケーションデータを「みる」ときに重視するのは以下の3原則である。
会話充足の原則:会議時間中に沈黙がなく、発言で埋められている
多様性の原則:すべての参加者のアイデアが、会議の場に出されている
統合の原則:異なるアイデアが統合され、新しいアイデアが生み出されている
例えば、3原則における、1つめの「会話充足の原則」を実現するためにできることとして、「15秒以上の長話をなくすこと」が挙げられるという。「なぜなら、15秒以上の長話は、情報量が多すぎて、その後に続くみんなを沈黙させてしまうことがわかってきたからです。15秒はテレビCM1本分の時間に相当し、かなりの情報量があることがわかります。会議で話すときには適切な情報量で、参加者全員が5秒から15秒くらいで話すように心がけることをお薦めします。長くてもCM1本分くらいで話すようにすると、無駄な沈黙が減り、生産的な会議になります」(鹿内氏)。
「共創型リーダーシップ」は多様・大量のメンバーをまとめて 創造性の高いチームを目指す
次に鹿内氏が話したのは、意外なことだった。「いま、あらゆる部署で創造性の高いチームが必要とされています。ところで、創造性の高いチームを“壊す”には3つの方法があります。多様なメンバーを集める、たくさんの人を集める、リーダーシップを発揮する、この3つです。実は、3つすべてを実行しているのが、Jammin’リーダーセッションです」。
「多業種・多職種という多様なメンバーを、100名も越境させて集め、従来型のリーダーシップを発揮させると、いったんは、チームの創造性は下がるでしょう。その一度壊れた状態から、多様なメンバーをまとめて創造性の高いチームを目指すのがJammin’リーダーセッションで参加者が体験する共創型リーダーシップ開発のプロセスなのです」(鹿内氏)。
チームを「壊す」とは、いったいどういうことなのか。多様な専門性を持ったメンバーを集めると前提知識に差があったり、意見の相違が大きかったり、コミュニケーションは難しくなる。たくさんの人が集まると各メンバーの緊張感が低下したりしてパフォーマンスが下がる「社会的な手抜き」はよく知られた心理的な現象だ。そして、新しいことを遂行しようとする時に、従来型のリーダーシップでは、集団浅慮とよばれる誤った意思決定が促進されてしまう場合があることも知られている。もし、このようなことを知らずに、対応もせずに、議論を始めれば、集められたチームは、またたくまに壊れてしまう。
従来のリーダーシップと共創型リーダーシップでは、何が違うのか。重要なのは、「内集団びいき」を乗り越えることだという。「企業は、いわば内集団びいきをつくる装置です。企業では、どうしても自社内のメンバーや同じ顧客とばかり取引してしまいます。そうすると、内集団の『安心』が増して、効率や生産性は向上しますが、一方で内集団びいきが発生して、新たな関係をつくりにくくなり、機会損失が大きくなります。従来のリーダーは安心を重視し、効率や生産性を高めてきました」。
「対して、共創型リーダーは『信頼』を重視します。信頼とは、新しい関係の他者にとりあえず任せてみる行動特性のことです。新しい関係の他者に任せるのは、不安や緊張が大きい行為で、高いハードルを超えることを意味します。しかし、共創型リーダーは、内集団びいきを乗り越え、新たな関係を築かなくてはなりません。多様かつ多くのメンバーをまとめて、創造性の高いチームをつくるリーダーには、信頼の力が欠かせないのです」(鹿内氏)。
鹿内氏が語る安心と信頼は、社会学者・山岸俊男氏の研究を基盤にしている。山岸氏によれば、相手を信頼できる人は、「他人の人間性についての情報に敏感に反応して、他人のことがよくわかる優れた社会的知性の持ち主」だという(『安心社会から信頼社会へ』中公新書)。優れた共創型リーダーは、相手の協力・非協力行動の予測精度が高く、失敗を回避できる可能性が高い。また、相手の振る舞いを敏感に感じ取り、状況に応じて撤退判断ができる。そのため、仮に失敗しても傷を深く負うことなく撤退し、次のチャレンジをつくり出すことができるのだ。
最後に、鹿内氏は、国の福祉などで議論されている社会関係資本論を組織経営に援用することに触れた。「個人のもつスキルに投資するだけではなく、関係や関係性に対しての投資が必要だろうと考えています。社会関係資本の1つ『多様な関係への投資』は、信頼による新しい関係づくりによって生まれると考えています。今後の企業にとって、共創型リーダーを育成するのは欠かせないことでしょう。ぜひJammin’リーダーセッションを活用してください」(鹿内氏)。
越境プログラムの定量的な指標を設定したい
以上の講演を受けて、オーナー同士がグループに分かれて対話を行った。最初の問いは、「自社における人材育成プログラムの効果測定指標・KPIに何を設定しているか。越境プログラムについてはどうか」だった。対話の共有では、「定量的な指標を設定できていないが、設定したいと思っている」「KPIについて考えるよい機会になった」という声が上がった。
2つ目の問いは、「Jammin’を含む越境型プログラムについてどのような成果が具体的に示せると、経営陣は評価してくれそうか」である。対話の共有では、「個人の振る舞いや行動が変われば十分」という声もあれば、「越境型プログラムのレビューや報告会をしている」「Jammin’の参加者たちが、プログラム終了後に連帯・越境・活躍するのが一番の効果」という意見もあった。
セッション終了時のチェックアウトコメントには、
「創造性の高いアイデア会議のコツはすぐに実践したいと思います。初参加でしたが、グループワークを含め有意義でした」
「分析と可視化の重要性をあらためて感じました」
「定量化は難しいがあきらめてはいけない。定量化が難しければ定性評価をレベルアップさせるのもあり。幹部に越境の意義を感じてもらう方法とその重要さを感じた」
といった言葉が並んだ。人材育成プログラムの効果測定について考え、行動を起こすきっかけになった参加者が多かったようだ。
【text:米川青馬、illustration:長縄美紀】
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
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