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THEME 経営人材/次世代リーダー

連載・コラムさあ、扉をひらこう。Jammin’2021 professional interview

さまざまな形で福祉に「参加」する人が増えれば社会はもっと優しくなる

さまざまな形で福祉に「参加」する人が増えれば 社会はもっと優しくなる

共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」、3年目のJammin’2021が終了した。41社・225名の次世代リーダーたちが、チームを組んで新規事業立案に取り組み、共創型リーダーシップの発揮に挑戦した。Jammin’2021には全12コースがあり、各コースに1人ずつ、新規事業の立ち上げと各テーマの現場を熟知する専門家がついた。彼らと交流することで参加者の学びは一気に深まる。そのうちの「介護コース」の専門家・下河原忠道氏(株式会社シルバーウッド 代表取締役)に、Jammin’の率直な感想や介護の「不」について詳しく伺った。
 
 

看取りのニーズに応えるサ高住を経営している



下河原忠道氏


下河原 忠道氏
株式会社シルバーウッド 代表取締役


鉄鋼業を営む父の会社を経て独立。薄鋼板を活用した構造躯体を開発。現在は石垣島を拠点に活動中。建築デザインを軸に、高齢者住宅の運営、VR認知症体験会の全国展開、リゾートホテル開発、創薬ベンチャーなど幅広く活動中。Aging Asia Innovation Awards 2015「FACILITY OF THE YEAR」最優秀賞他、国内外アワードを多数受賞。



――どのような経緯でJammin’の専門家になったのですか?

下河原:Jammin’プロデューサーの井上功さんとは、十数年来の知り合いです。私は2011年に「銀木犀」というサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の運営を始めたのですが、井上さんは銀木犀にいち早く注目してくださって、以来ずっと応援してくれているのです。私の視野を広げてくれる貴重なビジネスパートナーの1人です。今回は、井上さんの期待に応えるべく、Jammin’の専門家を引き受けました。


――下河原さんのビジネスを簡単に教えてください。

下河原:私はもともと父が経営を行う鉄鋼会社の跡取り息子でした。そこから独立し、父の会社の主力商品である薄板鋼板を使った建築工法を開発し、戸建て、ファミリーレストラン、高齢者施設などに建物の骨組み部分となる構造躯体を販売してきました。最初は、高齢者住宅もそのビジネスの販路の1つにすぎませんでした。ところが2011年、ひょんなことからサ高住を自分で運営することになったんです。

そこで全国の高齢者施設を見学して回ったのですが、正直言って、「自分はこんなところには住みたくない」と感じる施設が少なくありませんでした。私なら、入居者がくつろげて、お互いに支え合いながら、最期まで自分らしく生ききれる「家」のようなサ高住にしたい。そう思って作り上げたのが銀木犀です。認知症がある方を閉じ込めない方針で運営しています。レストランを併設して、認知症のある方々が働く機会などもつくっています。入居者の方々がご自身の役割を持ち、生き生きと暮らすための取り組みです。看取りのニーズにも応えています。2022年4月現在、銀木犀は10軒のサ高住と2つのグループホームを展開し、好評を得ています。

最初からものすごい熱量で取り組んでくれて、抱きしめたくなるくらい嬉しかった



――Jammin’2021、率直にいかがでしたか?

下河原:良い意味で、期待を裏切られました。私の経験上、若者の多くは介護に興味を持っていません。本人がまだ介護に縁がなく、自分ごとになっていないからです。これは仕方がないことで、私自身もそうでした。ところがJammin’2021の介護コースに集まった大企業の若手ホープの皆さんは、最初からものすごい熱量で取り組んでくれたんです。初回セッションのとき、皆さんが驚くような量の質問を投げかけてきて、私が冷や汗をかきながら一つひとつ本気で答えていったのを覚えています。

その後も、皆さんが一生懸命になって介護の「不」を探し、事業案を考えてくれました。全員を抱きしめたくなるくらい嬉しかったですね。何よりも私自身が励みになりました。


――印象的なエピソードをいくつか教えてください。

下河原:いつのセッションだったかは覚えていませんが、ある質疑応答では、こんなことがありました。銀木犀では、玄関に鍵をかけません。そのことをお話ししたら、参加者の1人が「認知症の方が外に出ていかないのですか?」と私に問いかけました。「出ていきますよ」と答えたら、顔つきがパッと変わったのがオンライン上でもはっきりと分かりました。その方は、認知症のある方は閉じ込めた方が安心・安全でよいという先入観に何となくとらわれていたんですね。本当は、認知症のある方を閉じ込める権利など我々にはないのですが。

このような自分の思い込みや固定観念に気づくことが、視点を変化させます。だから、私はセッションの間、皆さんに向けて何度も「そもそも論」を投げかけました。「それは本当に必要ですか?」「あなたが高齢者だったら、そのサービスが欲しいですか?」といった根本的な問いかけをしていったのです。皆さんのものの見方を少しでも変えたかったからです。



介護散歩

image photo


参加者の皆さんはフィールドワークの一環として、現場で働く介護職に直接オンラインでインタビューしてくださったのですが、これも大きな一歩だと感じています。インタビューされた介護職の方は、「こんなふうに介護業界を良くしようと本気で考えてくれる人たちがいることが嬉しい」とおっしゃっていたそうです。介護現場にとっては、このように関心を持って関わろうとしてくれる方々が業界の外にいること自体が、大きな励みになります。

このような経験を通して、Jammin’に参加される企業の皆さんの、介護についての見方や関わり方が少しでも変わると嬉しいです。例えばある企業でJammin’と似たプログラムをやったときに、ある参加者がこういう話をしてくれました。「このプログラムに参加して、街中にいる高齢者が気になるようになりました。先日も、スーパーの袋を抱えて道端の垣根に座り込んだおばあさんがいたので、心配になって声をかけたんです。大丈夫だったんですけどね」

実は、福祉というのはこのように誰もが日常的に参加できる活動です。この方は、福祉が他人ごとではないこと、自分自身が普段から取り組めるものだということに気づいたわけです。こういう小さな変化、小さな行動の集積が社会を変えていきます。



選出した事業案は、介護の「不」を解決する人を増やそうとする発想が魅力的だった



――参加者の事業案はどう感じましたか?

下河原:皆さんの真摯な姿勢は最後まで変わることがなく、最終的には全チームが、それぞれ可能性のある事業案を作り上げてくれました。最終セッションは、各チームのプレゼンテーションを聞いたうえで、専門家の私がJammin’ Awardで発表するチームを選抜する場なんですが、決めるのは本当に嫌でしたね。どのチームも本気になって、時間や労力をかけて考えているのが分かっていましたから、私の一存で1チームだけ選ぶというのは荷が重かったです。


――そのなかであえて選んだ事業案の選出理由は何ですか?

下河原:私が選出したのは、介護対象の高齢者だけでなく、その家族にも一緒になって参加していただくサービスの事業案でした。決め手になったのは、家族を介護に巻き込んで、介護の「不」を解決する人を増やそうとする発想が魅力的だったことです。


解決をする人

その背景には、「介護職の人材不足」という重い問題があります。現場の感覚で言えば、介護職はすでにまったく足りておらず、現職の皆さんにしわ寄せが来ています。介護職の皆さんが身を削って、現場を何とか支えているのが現状なんです。このままいけば、介護サービスを受けたくても受けられない時代が来るでしょう。

私はいま、その流れに抗っています。何よりも、年を重ねることに不安を感じない社会になってほしいからです。先ほど紹介した、おばあさんに声をかけた人のエピソードのように、さまざまな形で福祉に「参加」してくれる人を増やすことが重要です。参加者が増えれば、もっと優しい社会になるはずです。そのために、私は「介護福祉の見える化」に取り組んでいます。Youtubeなどで積極的に発信活動をして、介護について広く知ってもらおうとしています。

例えば、私たち介護業界の者は「介護の生理学」を学んでいます。人間の体温はどう変化するのか、水分不足がどのような状態を引き起こすのか、といった人体の科学を勉強しているんです。生理学を知っていると、どうしたら高齢者の生命力の消耗を最小限に防げるか、といったことを冷静に考えられるようになります。実は、介護は奥が深いのです。しかし、こうしたことはまったく知られていません。まずは知ってもらうことが、介護関係人口の増加につながると考えています。認知症に関しても同様で、私たちは「VR認知症」というコンテンツを開発して、認知症の偏見をなくす活動を行っています。

選出した事業案は、このような介護福祉の見える化につながるサービスでもありました。その点を考慮し選出させていただきました。



「不」を基点にできたら、次は「儲け」のこともきちんと考えなくてはいけない



――今後のJammin’に期待することはありますか?

下河原:個人的には、介護コースのスピンオフ企画を立ち上げてみたいですね。介護コースだけを取り出して、もっと大々的に開催するのです。専門家や審査員も私だけでなく、業界のいろいろな方々に参加していただきたい。メディアにも取り上げてもらって、周囲を巻き込む大きなうねりにできたら面白いと思っています。


――これからJammin’に参加する皆さんに、メッセージをお願いします。

下河原:Jammin’は、「不」を基点にして新価値を創造するコースです。たしかに、「不」から考えることは大事なことです。私自身、従来のサ高住に「住みたくない」「楽しくない」「希望が持てない」という「不」を感じ取り、それを基点に銀木犀のビジネスを始めました。そして、入居者の皆さんに教えてもらいながら、認知症のある方々を閉じ込める「不」、認知症があると働けないと決めつける「不」などを解決してきました。

ただ一方で、本当に事業として継続していくなら、儲けも必要です。最初は「不」を基点にすることが欠かせませんが、「不」を基点にできたら、次は儲けのこともきちんと考えなくてはいけないんです。そうしないと、せっかくの良い仕組みが長続きしないからです。これからJammin’に参加する方は、ぜひ「不→儲け」の順で考えてみてください。


不を儲けに

もう一つヒントを言えば、私たちは普段、「社会的インパクトが大きいか」と「自分たちの学びが大きいか」の2点に的を絞って、新事業のビジネスプランを考えています。社会的インパクトは、「不」を基点にすれば考えることができます。そこに、自分たちの学びが大きいかどうかという観点を付け加えると、さらに良い事業案ができるのではないか、と思います。



【text:米川 青馬、illustration:長縄 美紀】


※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。


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