- 公開日:2022/02/07
- 更新日:2024/05/17
共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」は、3年目のJammin’2021を開催している。前回実施から大幅に増えた「41社・225名」の次世代リーダーたちが、チームを組んで新規事業立案に取り組み、共創型リーダーシップに挑戦している真っ最中だ。今回の記事では「オーナーセッション」の場を紹介する。オーナーセッションとは、Jammin'参画企業の人事・人材開発担当(オーナー)同士の交流プログラムである。各社の課題認識や取り組みを共有する「共感と知恵の場」が、オンラインで積み重ねられている。
日産自動車の「JBLP」とは何か
Jammin’2021では全4回のオーナーセッションを開催するが、今回取り上げるのは、2021年12月3日に行われた「第3回オーナーセッション」だ。オーナーセッションは、リーダーシップ開発に関する話題提供に始まり、後半でその話題を受けて対話をする。全部で2時間ほどのプログラムである。
第3回オーナーセッションの話題提供は、オーナーの1人でもある秋元大樹氏によって行われた。
日産自動車株式会社
グローバルタレントマネジメント部
日本タレントマネジメント担当 シニア・マネージャー
秋元 大樹氏
前職・キヤノン株式会社から一貫して人事畑でキャリアを積む。
2017年日産自動車入社、2020年より現職。
秋元氏が提供してくれた話題は、日産自動車独自のタレントマネジメントプログラム「JBLP(Japan Business Leadership Development Program)」の紹介である。簡単にいえば、JBLPはグローバルにビジネスを牽引できるリーダーを日本から輩出するために、選抜・育成するプログラムで、2015年から始まった。日産は1999年にルノーとのアライアンスを開始した後、数多くの人事制度改革を進めてきたが、その1つがタレントマネジメント施策の抜本的な改革だった。例えば、2000年代初期にはキャリアコーチを導入し、グローバル人財育成を推進してきた。JBLPはその流れで始まったものだ。
JBLPが生まれた背景には、グローバルでの適材適所を推し進めた結果として、海外販売拠点などでグローバルにビジネスを牽引できる日本人リーダーやその後継者減少への懸念があった。当時は、日本人社員を若手時代から経営層まで一気通貫で育成するプログラムが存在しなかったこともあり、海外の現場フロントラインで経験を積んだ日本人社員が少なく、さらに、「まだ早すぎるシンドローム」とでもいうべき風潮によって、若手社員の早期抜擢が限られていたことも問題だったという。
こうした状況を打破するために立ち上がったのが、JBLPだ。
育成コンセプトは「3E Action」
秋元氏らのチームは、部門内での専門性を積み上げていく従来型のキャリアパスに加え、ビジネスリーダーを志向する部門横断型のキャリアパスを構築することを、JBLPの基本コンセプトとして取り組んだ。現在では、それぞれのキャリアパスを経て着任した役員が経営ボードに混在する。以前とは異なり、部門を超えて人財を育てる文化が定着してきていると、秋元氏は手ごたえを語った。
JBLPの育成コンセプトは「3E Action」だ。1つ目のEは「Experience(経験)」で、JBLP参加者には、常に本人の実力よりも1~2レベル高い仕事(ストレッチアサインメント)が与えられる。修羅場経験を積んでもらうためだ。また、JBLPの若手層向けのプログラムでは、複数年の部門横断ローテーションおよび海外現場経験が必須となっている。その後はプログラムが進むにしたがって、さまざまな国に関わる業務、P/L責任を持つ業務、ビッグチームのマネジメント業務などに就くことが多い。これらの経験を通じて、世界中のいくつもの異なる文化やビジネス慣習を知り、多様な人財が交じり合うグローバルチームをビジョンや想いと共に、動かしていく経験を積んでもらうことを重視している。JBLPの基本コンセプトは「部門横断型のローテーションプログラム」なのだ。
<図表>JBLPの育成コンセプト
2つ目のEは「Exposure(経営陣への露出)」だ。経営陣にJBLP参加者一人ひとりの姿を知ってもらい、その育成の支援者になってもらう。そのために、参加者一人ひとりに対して、現在所属する部門とは違う部門の役員がメンターにつく仕組みなども用意している。また、役員との意見交換セッションを用意したり、時には外部のエグゼクティブコーチをつけたりもしている。さらに役員会議で、彼らの育成を加速するための議論を交わす時間を設けている。
3つ目のEは「Education(教育)」だ。専門教育プログラムを用意するほか、JBLP参加者同士でのつながりをつくってもらうための社内勉強会、コミュニティ活動、期間限定のプロジェクト活動などの場をつくっている。Jammin’のような外部研修に参加し、新価値創造に挑むケースも多いという。教育のコンセプトは「上が下を育てる」で、先輩が後輩を牽引することに力を入れている。近年では、日産が2020年に「People & Collaborative Leadership(人財育成・協同のリーダーシップ)」と呼ばれる新たな人事制度の軸を導入したため、JBLPの人財が率先してこれを発揮し、チームや会社を変えていくことを後押しするような教育プログラムの導入を進めている。
経営層の巻き込みやキャリアパスモデルなどが成功の秘訣
JBLP人財は開始当初の約3倍に増え、すでに役員やその他の主要ポストに就くケースも数多く出てきている。定性的な影響も大きく、部門を超えて人を送り出し、迎え入れる風土や、部門を超えてリーダーがリーダーを育てる風土が根づきつつあるという。部門を超えたキータレントたちのつながりも強まっている。成果は出ているといってよいだろう。
なぜうまくいったのか。秋元氏は4つの要因を挙げる。1つ目は「経営層の巻き込み」だ。JBLPは経営層の協力なくして成功することはない。日産では、役員を筆頭に多くの幹部たちがJBLPをはじめとした人財育成プログラムに積極的に協力してくれる。その価値や意義を理解しているからだ。2つ目は「キャリアコーチ」だ。豊かな見識・経験・ネットワークを持つ社内の専任キャリアコーチが、参加者一人ひとりと深く対話し、育成計画を経営に提案する。彼らの存在もJBLPに欠かせない。3つ目に「キャリアパスモデル」がある。ビジネスリーダーコースのキャリアパスの標準型を構築し、徹底した運用にこだわっている。この型があるからこそ、社内での交渉・説得がしやすい面がある。4つ目は「ネットワーキング」だ。JBLPに参加すると、社内にさまざまなつながりができる。そのことは、参加者のモチベーション向上にもつながっているはずだという。
今後は、JBLPを通して、日産の新しい事業を牽引できるビジネスリーダーも育成していきたいという。そのためには、越境体験や社外協働経験を積める場をより増やす必要がある。JBLPを止めたら、元に戻ってしまうリスクがある。だからこそ、継続してコミュニティを育んでいくことが大切だ、と秋元氏は語った。
海外法人がJBLPの成功に注目し真似している
オーナーセッションでは、以上の秋元氏の話題を受けて、質疑応答を行った。質疑応答につづいて、2回のグループ対話の時間を取った。1回目は「感想と知恵の交換」の場で、共感すること、考えてみたい「問い」について話し合ったり、お互いの知恵や知見をさらに上乗せしたりして議論していただいた。2回目は「テーマ別ブレークアウト」で、5つのテーマから好きなものを選び、それについて各々の部屋で話していただいた。
質疑応答と2回のグループ対話の後には、秋元氏と他オーナーとのあいだで活発なやり取りがあった。以下、いくつかのやり取りを掲載する。
Q:海外法人はJBLPをどう見ているのですか?
A:地域の人財育成を強化するプログラムとして一定の評価を得ており、海外法人のなかにはJBLPを1つの成功事例として、同様のプログラムの導入を検討しているところが出てきています。
Q:JBLPのコミュニティ活動のポイントは?
A:人事はサポート役に徹する、というのがポイントです。活動をJBLPの公式活動としたり、支援をしてもらう役員への相談などのサポートをしたりはしますが、コミュニティの運営は本人たちの想いをできる限り前面に出せるよう、彼らが主体となって進めてもらっています。
Q:中途入社者はJBLPの対象になるのですか?
A:もちろんです。このプログラムには若手のうちに入る人もいれば、中途入社者のように、ある程度社内外で経験を積んだ方が途中で入ってくるケースも多くあります。
Q:私の会社では異動の実現がなかなかうまくいかないのですが、どうしたらよいですか?
A:難しさはよくわかります。私たちも社内交渉を重ねる日々です。ただ、JBLPが浸透するにしたがって、異動を実現させやすくなってきました。JBLPを受け入れる、送り出すメリットを各部門長の方に実感してもらうことが大切だと考えています。
以上のような秋元氏の話題提供、質疑応答、2回のグループ対話、秋元氏と他オーナーとのやり取りを経て、濃密な2時間が終わった。さらにその後、残ったメンバーはより突っ込んだ内容のアフタートークを繰り広げていた。次世代リーダーたちが新価値創造に取り組む一方で、オーナー同士もこうして新たな価値を模索しているのだ。
【text:米川青馬、illustration:長縄美紀】
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
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