職場に活かす心理学 第10回 コントロール感の効用と幻想

執筆者情報
組織行動研究所
主幹研究員
今城 志保

わたしたちは、明日の仕事のスケジュールや、来月友人と行く予定の旅行など、これから起こる出来事について予測をし、それに向けた準備を進めます。その際には程度の違いこそあれ、一般に予測は当たるという経験から、自分のとった行動はうまくいくと考えていることが多いのではないでしょうか。このような、環境への働きかけがうまくいくこと、あるいはうまくいくという感覚は“コントロール”あるいは“コントロール感”と呼ばれ、心理学の分野で多くの研究がなされてきました。

コントロールの概念を用いた心理学分野の研究は、多岐にわたります。そのため、研究分野によっては、客観的なコントロールの程度を扱うものや、個人がもつ「コントロールできる」という感覚を扱うものがあります。また、過去、現在、未来のどの時点のコントロールを扱うかという点での違いなどが指摘されています。ここでは特に“コントロール感”や“知覚されたコントロール”といった心理的なものに注目したいと思います。ちなみに、客観的なコントロールの程度とコントロール感の間にはあまり強い関連性はなく、客観的にコントロールが難しい状況下でも、人はコントロール感をもつことができるとされています。


コントロール感があるとストレスに強くなる

そもそも人間(そして多くの生物)には、環境に効果的に影響を及ぼすことで望ましいものを手に入れたり、望ましくないものを避けたいといった欲求があるといわれています。コントロール感は、この欲求に基づくものだと考えられています。人には自分の自由を制限されそうになることへの抵抗を示す「リアクタンス」と呼ばれる現象があることが知られています。ロミオとジュリエットのように周囲から反対されるほど、恋人と離れがたくなるといったことがあるかもしれません。また子供の頃、親から「勉強しなさい」と言われたとたん、勉強したくなくなるといった経験は、多くの人にあるのではないでしょうか。これもコントロール感がいかに私たちにとって重要なものであるかを示しています。

コントロールが注目される大きな理由は、コントロール感の高い人の方が、ストレスに強かったり、幸福感が高かったりと、良い結果との関連が数多く報告されていることにあります。またコントロール感が、心理的健康や幸福感にとって重要であるだけでなく、身体的な健康にも寄与することが知られています。

客観的なコントロールの程度が低下すると考えられる高齢者を対象に、Langer & Rodin(1976)は実際にアメリカにある老人ホームで、次のような実験を行いました。実験群の高齢者には、自分の部屋の家具をどのように配置するか、部屋に置く植物を何にするか、娯楽で映画を見る曜日をいつにするかなどの選択権が与えられます。統制群には、家具の配置替えなど同様の介入がなされますが、すべてホーム側が決めて行うというものでした。その結果は、図表01に示すとおり、実験群の入所者の方が、本人の評価ではより活動性が増し、看護師の評価ではより改善が見られたという結果でした。

図表01 介入前後の自己報告と看護師の評価の平均値

出所:Rodin, J., & Langer, E. J. (1977). Long-term effects of a control-relevant intervention with the institutionalized aged. Journal of personality and social psychology, 35(12), 897.

さらに衝撃的だったのは、研究者たちが実験の1年半後に再び施設を訪れた際に、実験の効果が持続していたのを発見したことです。実験群の人たちは健康状態が改善したのに対して、統制群のなかには亡くなった方が相当数いたことなどが明らかになっています。その後、コントロール感と寿命の間に正の関連性を検討した結果なども報告されています。

コントロール感は攻撃性を弱める

このコントロール感は、何も、ストレス対処や高齢者の問題だけにとどまるものではありません。例えば、仲間外れにされた疎外感が攻撃性を高めることが分かっています。衝撃的な無差別殺人を起こす人の攻撃性は、社会から孤立した疎外感から生じているとの分析もあるようです。しかし、Warburton, Williams, Cairns(2006)は仲間外れにされた状況でも、コントロール感を与えることで、攻撃性が低減することを実験によって示しました。実験参加者は、そうとは知らされずに、2人の実験協力者と「味覚の好み」について調べる実験に参加します。実験準備の待ち時間に、参加者は実験協力者の2人から仲間外れにされます(仲間外れ群)。その後、耳障りな音を何回か聞かされるのですが、コントロールを許される群は音を聞く操作を自分たちで行うため、そのタイミングを自分たちで決められます。一方、コントロールが許されない群には、その自由がありません。その後、実験参加者は辛いのが苦手な見ず知らずの他者が味見をするとの説明のもと、かなり辛いソースを自分が良いと思う分量だけ、味見用に取り分けるように指示されます。この量が多いほど、攻撃性が高まっていると考えます。実験の結果は、図表02のとおりです。コントロール感を取り戻した場合には、仲間外れにされたときでも、されなかったときと攻撃性は変わりませんでしたが、コントロール感を取り戻せなかった場合には、仲間外れにされた参加者は高い攻撃性を示しました。

図表02 コントロール感を取り戻すことが他者への攻撃性に与える影響

出所:Warburton, W. A., Williams, K. D., & Cairns, D. R. (2006). When ostracism leads to aggression: The moderating effects of control deprivation. Journal of Experimental Social Psychology, 42(2), 213-220.

Kraus, Piff, Keltner(2009)の研究では、参加者は経済的な貧富の差が増大している、あるいは減少していることを示すグラフを見せられて、そのような状況がなぜ生じるのかは政治や差別といった外的な要因にどの程度帰属するかを尋ねられました。自分自身の社会的地位が低いと思っている人の方が、外的な要因に問題があると思うのは当然ですが、その影響は一部、コントロール感によって媒介されていました。結果は、図表03のとおりです。自分の社会的地位が低いと思うとコントロール感が下がり、その結果、貧富の格差を社会や政治に責任があると感じる傾向が強まりました。このことは仮に自分の社会的地位が低いと思っていても、コントロール感を高くもつことで、上記のような外的な原因への帰属は生じにくくなるということを示しています。

図表03 主観的な社会経済的地位が貧富の格差の原因帰属に与える影響

出所:Kraus, M. W., Piff, P. K., & Keltner, D. (2009). Social class, sense of control, and social explanation. Journal of personality and social psychology, 97(6), 992.

これらの研究から見えてくることは、人はコントロール感を高くもつことで、将来の見通しを明るくもち、多少のストレスや逆境には負けない強さをもつことができるということです。紹介した研究は、組織とは異なる文脈で行われたものですが、組織行動の理解や問題解決に向けたヒントを与えてくれます。現在、組織のなかには、正規、非正規のように、収入や待遇に違いがある人がともに仕事をする機会が増えています。仲間外れのような幼稚なことでなくても、さまざまな人が一緒に働くなかで状況の違いによる疎外感を感じることもあるかもしれません。そのような場合に、他者への攻撃に出たり、他者を責める気持ちが生じるかもしれません。このような場合に、コントロール感を高くもつことは、状況の改善に役立つ可能性があります。

職場でのエンパワーメントがコントロール感を高める

それでは、職場において従業員のコントロール感を高める方法とは何でしょうか。コントロール感は、ストレスや疎外感以外の、一般的な職場行動とどのような関係があるのでしょうか。すぐに関連が想像できるものとして、エンパワーメントがあります。上司が部下に、権限委譲をしたり、参加度を高めたり、情報や資源を与えるといったことです。先行研究で、エンパワーメントは部下の働く意欲を高めることが期待されています。Menon(2001)は、それまで単なる議論にとどまっていたエンパワーメントとコントロール感の関連性を実証的に検討し、両者には強い正の相関があることを示しました。つまり、エンパワーメントすることでコントロール感は高まると考えられます。またコントロール感は、組織市民行動と呼ばれる、同僚を助けたり、組織のことを外の人に良く言う、といった行動と有意な正の相関が示されています。

一方で、仕事でのストレス軽減にコントロールの程度を上げて効果が表れるのは、そもそも自分にコントロールがあると思っている人だけであるといった研究報告もあります。Meier, Semmer, Elfering & Jacobshagen(2008)は、スイスの物流会社で働く従業員を対象に、ストレスにつながると考えられる仕事の特徴、仕事をコントロールする権限を自らがもつ程度、コントロールの所在(自分、運やチャンス、力をもつ他者、にそれぞれどの程度あると思うか)、情緒的なストレスを感じる度合い、などを尋ねました。それらを用いた分析結果の1つが図表04です。左が自分自身にコントロールがあると思っている人、つまりコントロール感の高い人の結果で、右がコントロール感の低い人の結果です。左の図では、仕事の負荷が高まっても、仕事をコントロールする程度が高ければストレスは高まっていません(直線)。一方、右の図では、負荷が高まると、仕事をコントロールする程度が高い場合の方が、そうでない場合よりもストレスが高まっていることが分かります。

図表04 仕事のストレスとコントロールする程度が仕事における感情的ストレスの経験に及ぼす影響(コントロール感の違いによる影響の違い)

出所:Meier, L. L., Semmer, N. K., Elfering, A., & Jacobshagen, N. (2008). The double meaning of control: Three-way interactions between internal resources, job control, and stressors at work. Journal of Occupational Health Psychology, 13(3), 244.

この分析結果が示しているのは、客観的なコントロールの程度を上げたとしても、本人のコントロール感を上げない限り、効果はないということでしょう。重要なことは、“コントロール感”をどう高めるか、ということなのです。

「コントロール幻想」にコントロール感を高めるヒントがある

コントロールは人の基本的欲求に根ざすものであることを述べましたが、そのためか、実際にコントロールが可能ではなくても、コントロールがあると思ってしまう「コントロール幻想」という現象があることが知られています。これは、えせ科学を信じたり、根拠のない民間療法の効果を信じたりといった望ましくない結果をもたらすともいわれているのですが、うまく使えば、コントロール感を高めるヒントを得ることができます。

コントロール幻想は、これまでは、自分がコントロールしているという感覚を得たいがために生じているといった、動機に基づく説明がなされていました。先述した「リアクタンス」を考えれば、ありえない話ではありません。しかし近年の研究では、それとは少し異なる結論が報告されているようです。Yarritu, Matute & Vadillo(2014)は、行動群の実験参加者はある病気の治療薬の投与を行う自由を与えられ、結果を観察します。一方、観察群の参加者は、行動群の参加者の投薬とその結果の観察のみを行います。投薬の量にかかわらず、回復の確率は8割に設定されます。両群の実験参加者は、薬の効果を100点満点で評定します。図表05は結果を示したものです。行動群と観察群には差がなく、自分で投薬を決めたかどうかは、効果の評価には関係ありませんでした。これはコントロール幻想が、動機によって生じるとの考えにはそぐわない結果であるといえます。一方で、投薬を行った量が多いほど、効果があると思う、といった幻想が生じていました。この研究の結果からは、自分の行動頻度が高く、結果の発生頻度も高いときには、そこに因果関係がなくても、自分が結果をコントロールできているという幻想を抱く可能性があることになります。

図表05 投薬の頻度による薬の効果の評価

出所:Yarritu, I., Matute, H., & Vadillo, M. A. (2014). Illusion of control: The role of personal involvement. Experimental psychology, 61(1), 38.

ずっと幻想のままでは困るのですが、ある程度の頻度で行動させることで、特にその行動を始めたばかりのときには、コントロール感をもたせることができると考えられます。例えば、昔、リクルート社で営業に出た新人は、名刺獲得キャンペーンと称して、とにかくたくさんの人に会うことを強いられました。当時、自分自身は営業ではなかったため、苦労する同期を見ながら、たくさんの人にただ会っても、なんら営業スキルにはつながらないし、意味がないと生意気にも思っていたことを思い出しました。しかしひょっとすると、たくさんの人と話すこと、その結果、時々ポジティブな結果(名刺交換に応じてくれる)を得ることは、コントロール感を高める効果があったのかもしれません。

最後に、ここまで述べてきたことは、コントロール感というのは自分の働きかけで環境や外界、他者に変化を起こすといったイメージで受け取られたかもしれません。実は、環境に合わせて自分を変えるといったコントロールがあることも分かっています。前者はプライマリーコントロール、後者はセカンダリーコントロールと呼ばれ、日本を含むアジアの人は欧米の人と比べると後者を使用する頻度が高いといわれています。しかし、これはコントロール感が低いことを意味するものではありません。客観的なコントロールの程度と異なり、コントロール感は、解釈の問題であったりします。無理をして他者や環境を変えようとしなくても、自分を変えることによって自分の望む結果を手に入れることが可能であると分かっていれば、コントロール感は低まらないでしょう。このようなコントロールのバリエーションを知ることも、どのようにコントロール感を高めるかを考える際には重要になると思われます。

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