職場に活かす心理学 第11回 直感的な判断はどれくらい正しいのか

執筆者情報
組織行動研究所
主幹研究員
今城 志保

最近何か意思決定をしたり、判断をしたりしたときのことを思い出してみてください。根拠を聞かれれば、自分自身で十分に納得のいく説明ができるでしょうか。そうだという人もいれば、意外とうまく根拠が説明できないことに気付く人もいるのではないでしょうか。仕事における判断や意思決定は説明責任を伴うことが多いため、おおむね前者になるのでしょうが、個人的な判断の場合は結構後者のことも多いかもしれません。

私は仕事のなかでも「その場合はこうした方が良い」という直感的な判断を行うことが時々あります。「なぜそうなのですか」と聞かれれば、もちろんそれらしい理由をつけて説明をするのですが、本当に説明したとおりの思考の結果として判断したのかと聞かれると、正直怪しいこともあります。

ここでは、判断や意思決定がどの程度、さまざまな要件を考慮しつつ、論理立てて意識的に行われているか、あまり意識せず直感的に行われる判断とはどのようなものか、それぞれの判断や意思決定方法のメリットやデメリットなどについて考えてみたいと思います。


意識と無意識

社会心理学の中では、私たちの行動が無意識の反応に思った以上に影響を受けていることを、多くの研究によって示してきました。例えば、表向きは「性差はなく男女平等であるべき」という態度を表明している人が、実は「女性は男性よりも弱く、助けが必要な存在である」という考えを潜在的にもっているため、心理的負荷の大きい困難な仕事を、無意識のうちに女性社員ではなく男性社員に任せてしまうといったことです。

無意識の研究の第一人者であるBarge(1997)は、私たちの日常の心理的反応の99.4%は無意識下で生じているとの大胆な見積もりを出しています。確かに、朝起きて会社に着くまで何をどう行うかは、いちいち考えて判断することではないでしょう。このように、普段の行動だけでなく、さらに最近の研究では、意識できないような方法で目標の達成をプライミング※1すると課題をより多くこなしたり、結果として良い成績をあげたりすることが示されています(米国産業・組織心理学の最新動向 〜SIOP2009年度大会参加報告〜)。

※1 プライミングとは、私たちが刺激を受けたときに、それが後続する反応に無意識的に影響を及ぼす現象を指します。例えば、ある言葉(ex. 「台所」)を提示した後、一定時間後に自由連想テスト(ex. 「料理」から何を連想するか)を行うと、前に提示された言葉(ex. 「台所」)が連想語として出現しやすくなりますが、なぜこうなるのかを私たちは意識しているわけではありません。

判断や意思決定における意識と無意識

判断や意思決定は、一般的な行動よりも、自覚的に、よく考えて行っている活動であるとの認識が一般的です。ところが近年、この認識を覆すような研究結果が報告されています。

図表01 最も好ましい車を選択した人の割合

出所:Dijksterhuis, A., Bos, M. W., Nordgren, L. F., & Van Baaren, R. B. (2006). On making the right choice: The deliberation-without-attention effect. Science, 311, 1005-1007.

図表01は、Dijksterhuisら(2006)の研究チームが行った実験の結果です。実験参加者は、4つの観点で車の特徴を提示される条件と、12の観点で特徴を提示される条件にランダムに分けられ、特徴が記述された4台の車のなかから好ましい車を選ぶ課題を行います。意識的な選択群では、車に関する記述を読んだ後、4分間考えてから判断を行います。無意識的な選択群では、車に関する記述を読んだ後、4分間、車とはまったく関係ない課題を行った後に、車の選択を求められます。グラフでは、4台のなかで一般的に好ましいとされる特徴が最も多く備わった車を選択した割合を示しています。提示される特徴の観点が4つのときには、意識的な選択群の方が優れていたものの、提示される観点が12個になった場合、無意識的な選択群の方が、より妥当な選択を行っていたことが分かります。

Dijksterhuisらは、このような結果が得られた理由として、無意識の状態でも思考は生じており、なおかつ無意識的な思考は、意識的に行う思考のように扱える情報の数の制限を受けないのではないかと論じています。つまり、12個もの特徴を基にして妥当な判断を行うのは、意識的な思考では難しいものの、無意識的な思考であれば可能であるというのです。

このような研究結果が報告されて以来、やはり複雑な判断や意思決定は意識的に行う方が良いとの反論や、それを証明するような研究も多く出されており、どちらの方が優れた判断や意思決定をもたらすかについては、議論が続いています。また、「無意識的な思考」とはいったい何かについても、十分なコンセンサスが得られているわけではありません。ただし、これまでの無意識の効果に関するさまざまな研究結果から見ると、意識的な思考のプロセスだけでなく、無意識に行っている情報処理プロセスがあり、それが判断や意思決定に影響を及ぼすことがあるのではないかと思われます。

例えばNordgrenら(2011)は、車ではなく、アパートの特徴を提示し、一般的に好ましいとされる特徴を多くもつアパートを選択する割合について調べました。その際、上記の研究と異なり、選択対象のアパートに、規則違反があるものを加えます。さらに、最初に2分間考えてから、関連しない課題を2分間行う条件(意識−無意識条件)、逆に最初に2分間関連しない課題を行ってから、2分間考える条件(無意識−意識条件)を設けました。結果は図表02のとおりで、好ましい特徴が多く、規則違反をしていない最も条件の良いアパートを選んだのは、意識−無意識条件でした。Nordgrenらはその理由として、意識的な思考段階で、規則違反でふさわしくないものを排除した後、無意識に好ましい特徴を最も多く有するものを選んだのだと説明しています。この説明の妥当性はともかく、無意識の思考がアパートの選択に影響を及ぼしたといえそうです。

図表02 最も好ましいアパートを選択した人の割合

出所:Nordgren, L. F., Bos, M. W., & Dijksterhuis, A. (2011). The best of both worlds: Integrating conscious and unconscious thought best solves complex decisions. Journal of Experimental Social Psychology, 47, 509-511.

仕事において、正しい意思決定や判断を行うことはとても重要です。そこで、これまでの研究で示唆されていることを参考に、「経験に基づき行われる直感的判断の功罪」と「意識的な思考の特徴と利点」についてそれぞれ考えてみたいと思います。

2重プロセスモデル

これまでの研究のなかで、人の認知には直感的で自動的に生じるプロセスと、時間をかけて情報を吟味しつつ行うプロセスがあるとされています。対人認知、問題解決、判断や意思決定など、領域によってそれぞれのプロセスがもつ特徴には若干の違いがあるようですが、おおむね上記のような特徴をもつ2つのプロセスがあるとされています(「2重プロセスモデル」)。

判断や意思決定について言えば、この2つのプロセスの関連性についてEvans&Stanovich(2013)は、まず直感的な判断がなされ、その後、必要に応じて慎重に情報を吟味して、最初の直感的な判断を修正する、といった流れを想定しています。

直感的な判断に頼るのではなく、慎重な情報の吟味によって判断や意思決定を行おうとするのはどういった場合でしょうか。Thompsonら(2011)は、自分の直感的な判断に自信があるかどうかによって、情報を十分に吟味して慎重な判断を行う程度が異なることを、実証的に示しました。さまざまな論理問題を用いて、問題提示直後の回答とそのときの回答への自信の度合いを測定し、その後自分のペースで考え、必要に応じて回答を変えることを認めました。その結果、最初の回答への自信の程度と、再度考える時間の長さ、また回答を変える程度の間に、負の関連性が認められました。つまり最初の回答に自信のなかった人ほど、長く時間をとって考え、最初の回答を変更する傾向があったのです。

経験に基づき行われる直感的判断の功罪

情報を意識的に吟味して判断するプロセスは、時間や心の余裕が必要であるため、これらがない状況下では、直感的判断に頼らざるを得ないことも多いものです。専門家を対象にした研究には、専門家の直感的な判断の活用や形成過程に着目してきたものがあります。例えば、救急医療の現場や消防士などを対象とした研究などです。これらの職業に従事する人は生死に関わる重要な判断であったとしても、ゆっくりと情報を吟味する時間はありません。そこで、彼らは数多くの経験を通して、非常に専門性の高い“直感的な判断力”を身につけると考えられるのです。

一方で、直感的な判断の欠点を示す研究も多く行われています。特に前提となる条件が変わったときや、経験したことのない状況に直面した際には、直感による判断の妥当性は怪しくなります。ところが、専門性が高く、自分の判断を疑うことがないと、そのまま間違った判断をしてしまう可能性が高まるのです。

図表03はFriedmanら(2005)が行った実験の結果です。さまざまなケースについて診断を行う課題を、医学生、研修医、勤務医、各72名ずつが行いました。正しい診断を行う程度は、医学生、研修医、勤務医の順に経験が多くなるほど高くなりました。また診断の際に、自分の診断への自信の有無を尋ねていたのですが、自信と診断の正しさに齟齬があったもののうち、自信がないとしていたが診断が合っていた割合と、自信があるとしたのに診断が間違っていた割合を示したものです。自信があったのにもかかわらず診断が間違っているケースが一定の割合で存在することが分かります。また、そのような傾向は、医学生よりも経験を積んだ研修医に多く見られるという結果になりました。

図表03 診断結果に対する自己評価と結果の妥当性にずれが生じたケースの分析

出所:Friedman, C. P., Gatti, G. G., Franz, T. M., Murphy, G. C., Wolf, F. M., Heckerling, P. S., ... & Elstein, A. S. (2005). Do physicians know when their diagnoses are correct? Journal of general internal medicine, 20(4), 334-339.

経験を積むと、すばやく正しい判断ができるようになる、あるいはそこまで一足飛びに行かないまでも、判断に先立って正しい仮説を立てられるようになることが期待されます。しかし、直感で仮説を構築した後、私たちはその仮説を支持する証拠や情報の方に、より注目する傾向があることも分かっています。直感的な判断の正しさを担保するためには、自分の直感的判断の確からしさを振り返る機会をもつことが重要になってきます。

ところが、経験が増えて専門性が高まるほど、直感的な判断が外れることが少なくなるため、上記のような自己チェックは難しくなることが予想されます。経験の蓄積によって生じるこのような現象は、誰にでも起こりうることです。例えばフィードバックシステムのような、自己チェックを促す工夫を日常的に取り入れることが必要になるでしょう。

意識的な思考の特徴と利点

ここまでは、無意識の状態で複数の情報から良いものを選択する課題の成績が向上した研究を示しましたが、一定のルールを適用して問題を解くことが求められるような課題では、意識することなしには、パフォーマンスが高まらないことが示されています。Dewallら(2011)の研究では、意識的なプロセスが阻害されるような課題を同時並行して行わせると、論理クイズ(ex., AならばBである。BでないならばCである。AならばCではないは正しいか?)のパフォーマンスが著しく低下することを示しました。

意識的な思考の価値として、仮定をおいて考えたり、物事がどのように生じるかを頭のなかでシミュレーションしたり、場合わけをしたり、その結果としての判断を下したりといった、他の動物には見られない人間ならではの特徴が挙げられます。直接観察できる状況をいったん離れて、他者の思考を想像したり、過去、現在、未来といった時間軸を動きながら何かを思考することなども、意識的な思考でないと行えないことです。

図表04は、Zeelenberg&Beattie(1997)が行った実験の結果です。実験参加者は、伯父から残された1000£の遺産を、5年間政府の債券(£1000〜£1800)に投資するか、利率の良い預金(£1250〜£1350)に預けるかの決断を求められます。債券への投資のフィードバックがある群(リスキーフィードバック群)は、「あなたには同じ額の遺産を残された妹がいて、彼女は債券への投資を選択しており、あなたはどちらを選択しても、債券の投資結果を知ることができる」と言われます。比較対象となる統制群は、妹がいる設定はなく、自分が投資しなければ、よりリスクの高い債券への投資結果を知ることはできません。実験の結果からは、リスキーフィードバック群の方がリスクの高い債券への投資を選択する確率が高いことが分かります。その理由として、5年後に自分が感じるであろう後悔を避けようとしたためとの説明がなされています。意思決定や判断の際に、何を想像するかによって、まったく同じ選択肢であっても判断が異なってくるのです。

図表04 投資しようと思う程度

出所:Zeelenberg, M., & Beattie, J. (1997). Consequences of regret aversion 2: Additional evidence for effects of feedback on decision making. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 72(1), 63-78.

また、他者とのコミュニケーションにおいては、たとえ無意識の判断であっても、意識的に説明を行う必要が出てくるでしょう。特に立場の異なる他者と議論をしたり意見の統合を図るためには、自分の経験や立場を離れた意識的な思考は欠かせません。

意識的な思考によって、文化というルールを共有した他者とのコミュニケーションや、先を見据えた行動ができるようになることで、人間に特徴的な行動を可能にします。しかし、先に紹介した研究のように、意識的な情報処理はコストを要するため、扱える情報量に制限があるという欠点をもちます。仕事の経験を積むことで、私たちは細かな情報をまとめて抽象化して扱えるようになり、その結果、より幅広い情報を意識的に扱うことが可能になり、意識的な思考の限界を超えることができます。

一方で専門性を高める経験を積むと、直感的に判断が行えるようになるため、意識的に物事を考える機会が少なくなってしまうのかもしれません。専門性が高まってくるほど、直感的な判断に頼りがちになる可能性を自覚することが必要になってきます。仕事における判断や意思決定の質を高めていくということは、かなり難しいことであるといえるでしょう。

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