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共創型リーダーシップ開発プログラムJammin’2020インタビュー vol.1

社会課題の生々しさに触れる経験が参加者を変えていく

  • 公開日:2021/07/26
  • 更新日:2024/04/24
社会課題の生々しさに触れる経験が参加者を変えていく

2019年からスタートした共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」は、2021年に第3期を開催する。Jammin’2021を始めるにあたって、Jammin’2020の参加者・関係者にインタビューを行っていく。最初に話を伺ったのは、Jammin’に深く関わる2人の人材開発トレーナー・吉田達と仁田山真一だ。吉田は「Jammin’」の命名者であり、初期からプログラム開発に携わり、トレーナーとして多くのコースをリードしてきた。仁田山も、第1期からトレーナーとして参加者と密な伴走を続けている。2人の目には、Jammin’と参加者がどう映っているのだろうか。

[Jammin'とは]

さまざまな企業から派遣される若手リーダーたちがチームを組み、社会の「不」に向き合って新規事業開発プロセスを体験するリーダーシップ開発プログラム。参加者は、社会課題をテーマにしたコースに分かれて、新規事業案の立案に取り組む。 Jammin'2020は2020年9月から2021年2月にかけて行われた。詳細はこちら

ジャズの即興(ジャム)セッションのような場にしたかったから「Jammin’」と名づけた
トレーナーの肩書を外して、参加者の皆さんと同じ立場に立って楽しむ
「Jammin’ほどオンラインに向かないものはない」と思っていたけれど、実際は驚くほど向いていた
社会課題に本気で向き合う人たちと触れ合った記憶はいつまでも忘れない

ジャズの即興(ジャム)セッションのような場にしたかったから「Jammin’」と名づけた

――お2人とJammin’との出会いを教えてください。

吉田:今の私にとって、Jammin’は「ビジネスキャリアの集大成」であり、立ち上げから中心メンバーとして関われたことを幸せに、かつ誇りに思っています。

ただ、正直に言えば最初は、日本におけるリーディングカンパニーが集まるこの企画に、それほど乗り気ではありませんでした。ところが、Jammin’企画責任者の井上や立ち上げプロジェクトの仲間たちと話し合ううちに、考えが変わってきました。Jammin’の参画企業には、高いポテンシャルを持ちながらも、入社後ずっと同じ企業にとどまり、企業のなかの仕事だけをしている方が大勢いる。彼らが本気で外の世界に目を向け、社会課題解決に取り組むようになれば、日本が大きく変わるかもしれないのだ。それなら、この難題に真剣に取り組んでみよう。そう思うようになったんです。

吉田達

吉田達

人材開発トレーナー。大手都市銀行でキャリアをスタートさせ、22年在籍。そのうち17年は本社の業務開発セクションで商品開発や新規業務開発に従事し、合併にともなう商品統合プロジェクトなども経験した。2002年にリクルート(現リクルートマネジメントソリューションズ)のトレーナーとなり、現在に至る。次世代リーダー育成やイノベーション促進の領域で豊富な経験を持つ。米国CCE,inc.認定GCDF-Japan キャリア・カウンセラー、CRR Global認定 組織と関係性のためのシステムコーチ。

吉田:とはいえ、共創型リーダーシップ開発は、決して簡単なことではありません。本気で取り組むのなら、研修の形式そのものを変えた方がいい、というのが私の考えでした。従来の研修は、トレーナーが指揮者となって、参加者に研修を受けてもらう「オーケストラ型」が主流です。「オーケストラ型」にももちろん良さはあるのですが、今回のような場合、オーケストラ型では予定調和の「共創」に終わってしまい、失敗する可能性が高い、と思いました。

共創型リーダーシップ開発を成功させるには、参加者たちが主体的かつ自由に共創を楽しむ「ジャズ型」、もう少し詳しく言えば、ジャズの「即興(ジャム)セッション」のような研修にする必要があるんじゃないか、というのが私の想いでした。そこで、「Jammin’」という名前はどうだろう、とチームに提案したのです。2019年1月のことです。名前が決まったことで、研修の形が見えてきましたね。

仁田山:私は、2019年6月から始まった第1期Jammin’にトレーナーとして関わったのが最初です。声がかかったときは嬉しかったですね。なぜかというと、2017年から、私自身が大学院生として社会課題解決について学んでいたからです。

大学院では、地方創生プロジェクトに取り組みました。ほぼ初対面のメンバーとチームを組んで、ある自治体に行って地元の方々にインタビューし、課題解決策を考えて自治体に提案しました。つまり、まさにJammin’の地方創生コースと似たようなことにチャレンジしていたのです。それを経験して、企業研修にも地方創生プロジェクトのようなものが有効ではないか、と感じていたときに、Jammin’の話がやってきた。まさに渡りに船でした。

仁田山真一

仁田山真一

人材開発トレーナー。フラワービジネスを展開する企業に入社後、同社のグループ会社で新規事業の立ち上げを経験。別のグループ会社にて経営の責任者を経験したのち、親会社に戻り、開発副本部長 として新規事業開発を担当した。2007年にリクルートマネジメントソリューションズのトレーナーとなり、現在に至る。米国CCE,inc.認定GCDF-Japan キャリア・カウンセラー。2019年慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了。

吉田:私はもともと銀行員で、新規事業開発や新商品開発に関わっていました。NPOバンクの設立に関わったことをきっかけに社会課題解決に興味を持ち、銀行を退職。その後、人材開発トレーナーになった、という経緯があります。ですから、トレーナーとして参加者の社会課題解決を促すJammin’は、私にとってビジネスキャリアの集大成なのです。立ち上げプロジェクトに入れたのは、本当に幸運でした。

トレーナーの肩書を外して、参加者の皆さんと同じ立場に立って楽しむ

――Jammin’と他の研修の違いをどう感じていますか?

吉田:いろんなことが最初から決まっておらず、走りながら決めていくところが他の研修と決定的に違いますね。

仁田山:トレーナーの役割すらも完全には決まっておらず、自由な部分がありました。試行錯誤するうちに、あるとき「トレーナーという肩書を外せばいいんだ」と気づきました。トレーナーとして何か皆さんの気づきになることを言わなければ、などととらわれることなく、参加者の皆さんと同じ立場に立って、「その企画は面白いですね」などと楽しめばいいんだ、と分かった瞬間があったんですね。Jammin’は、参加者だけでなく、我々トレーナーにも変わることが求められる研修なんです。

吉田:私は、Jammin’の前身の「異業種交流型i-session」(→詳しくはこちら)で同じような経験をしました。異業種交流型i-sessionでもJammin’でも、うまく回ると参加者の皆さんが自分たちで盛り上がっていきます。そうすると、トレーナーは手持ちぶさたになるのですね。そうした場では、トレーナーは、参加者の皆さんのエネルギーをうまく引き出す状況づくりに徹すればよいのです。以前、海外のシステムコーチから“happy brain learns better”という言葉を教わったのですが、happy brainsを生み出す状況を設計するのが、Jammin’の人材開発トレーナーの役割です。

トレーナーの肩書を外して、参加者の皆さんと同じ立場に立って楽しむ

仁田山:もう1つ、「セッション外の時間が重要」という点が普通の研修と大きく違います。一般的な研修では、すべてを研修内で学んでいただき、研修での学びを現場に持ち帰って活用していただきます。ところがJammin’では、参加者の皆さんに、セッション外の時間を使ってチームで話し合い、考え、行動を起こしていただくのです。トレーナーは、セッション外の取り組みにはほぼ関われませんから、セッション時に「観光の課題を探るために、観光地にいる外国人観光客の方々にどんどんインタビューしていきました」というような取り組みの様子を伺えると、とても嬉しくなりますね。

吉田:Jammin’の場合、セッションとセッションの合間にどれだけ良い経験をしてもらうかが肝心ですからね。

「Jammin’ほどオンラインに向かないものはない」と思っていたけれど、実際は驚くほど向いていた

――Jammin’2020は完全オンラインとなりましたが、いかがでしたか?

仁田山:正直なところ、開始前は「Jammin’ほどオンラインに向かないものはない」と思っていました。ところが、蓋を開けてみたら、Jammin’は想定外に驚くほどオンラインに向いていました。

例えば、地方創生コースでは、まちの方々にオンラインインタビューを敢行しました。そうしたら、気持ちよく本音を語っていただけたんです。オンラインの方が、むしろ深いところまで話を伺うことができたと感じています。現地に行かずに地方創生の課題解決案など考えられるわけがない、と思っていましたが、実際はそうでもなかったんです。これはやってみなければ分からなかったことです。

それから実は、対面形式で実施したJammin’2019では「チームメンバーが集まる時間をつくれなくて困っている」という悩みの声が多く上がっていたのですが、Jammin’2020では誰もがオンライン会議に慣れたため、そうした悩みを耳にすることがほとんどなくなりました。2020年、チームのコミュニケーションの質と量は飛躍的に上がりました。Jammin’にとって、オンライン化は間違いなくプラスに働いています。

「Jammin’ほどオンラインに向かないものはない」と思っていたけれど、実際は驚くほど向いていた

吉田:私自身は、オンライン化はまったく心配していませんでした。むしろオンラインコミュニケーションはJammin’に必要だと考えていました。実はJammin’の企画・運営メンバーたちは、コロナ禍が深刻になる前の2020年2月頃には、オンライン化に向けて早くも舵を切り始めていたほどなのです。もちろん、オンライン化にともなってプログラムにもさまざまな工夫が求められましたし、試行錯誤もありました。結果としてそれが、Jammin’の進化につながったと思います。今後も、Jammin’はオンラインコミュニケーションを積極活用していきます。

社会課題に本気で向き合う人たちと触れ合った記憶はいつまでも忘れない

――トレーナーとして、参加者の皆さんの変化をどのように見ていますか?

吉田:スタート時には、社会課題や地域に対して、ビジネスプロフェッショナルとして「やや上から目線」で関わってしまう参加者が必ず一定数います。しかし、そうした皆さんは、現場や専門家と関わると、じきに自分の間違いに気づきます。現場の生の声、地域の生の声を実際に耳にしたら、もうそうした姿勢では関われなくなるのです。そうやって社会課題の生々しい現実を知るだけでも、Jammin’には大きな意味があると思います。なぜなら、これからのリーダーは、絶対に何らかの形で社会課題と関わることになるからです。ここで一度社会課題に触れておくことが、今後のキャリアに必ず生きてくるはずです。

仁田山:Jammin’に参加すると、社会課題に本気で向き合う人たちと出会うことになります。彼らと接し、その想いに共感すると、距離が自然と縮まっていきます。さらに、彼らの想いや願いを的確に汲み取った社会課題解決策を出せれば、相手の心に響きます。Jammin’が終われば、参加者はふたたび自社に戻り、自分のキャリアや人生に戻っていきますが、ここでの越境経験はきっといつまでも忘れないはずです。この記憶が、参加者の将来の糧になると信じています。

吉田:私たちはよく、「知ってしまった者の責任」という言い方をするのですが、こんな社会課題がある、こんなふうに困っている人がいることを知ってしまった当事者には、それを何とかしたいという気持ちが自然と生まれるものです。そういう気持ちを持って、何らかの形で関わりつづけていただきたいですね。過去の参加者には、実際に関わりつづけている方が少なくありません。

また、Jammin’での活動を通して「あらためて自分の会社が社会に対して提供している価値を再確認できた」とか、「自分のフィールドで新たな行動を起こしたい」といった感想を残す参加者も数多くいます。Jammin’での経験が、新しいものの見方や行動につながっている例です。

社会課題に本気で向き合う人たちと触れ合った記憶はいつまでも忘れない

――Jammin’を今後どのようにしていきたいですか?

吉田:私の考えでは、社会課題解決の提案に夢中になることが、共創型リーダーシップ開発に直結します。もっと夢中になって取り組めるように、もっとジャムセッションのような場にするために、さらにできる工夫があると考えています。例えば、研修外でのお互いの取り組みをVTR化して共有するようなことを試してみたいです。

仁田山:課題の1つは、コース間交流が現状はほとんど生まれていないことです。確かにVTR化の取り組みは、コースを超えた交流を生み出す可能性がありますね。

吉田:それからもう1つ、私は最近、参加者と私たち自身の手で、Jammin’発の事業を本当に立ち上げ、軌道に乗せて社会にインパクトをもたらすという夢を抱いています。これだけ多くの社会課題解決策を出しているのですから、1つや2つ、自分たちの手で形にしてよいと思うのです。いつかチャレンジしてみたいですね。

【text:米川青馬、illustration:長縄美紀】

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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