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共創型リーダーシップ開発プログラムJammin’2020オーナーセッションレポートvol.2

越境の学びの現場から 「研修が終わってもぜひ関わり続けて」

  • 公開日:2021/03/29
  • 更新日:2024/05/20
越境の学びの現場から 「研修が終わってもぜひ関わり続けて」

2020年9月からスタートした、共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’2020」。
今回は、10月8日(木)にオンラインで開催した第2回オーナーセッションの模様をお伝えする。
オーナーセッションとは、Jammin’に人材を送り出している人事(オーナー)向けのプログラムだ(第1回オーナーセッションの記事はこちら )。
第2回は、宮城県石巻市雄勝町で子どもの複合体験施設「モリウミアス」を運営する油井元太郎氏(MORIUMIUS理事)に、雄勝町のまちづくりについてお話しいただき、その後に参加者で「越境」 の学びについて対話を行った。
なお、進行役は井上功(弊社エグゼクティブプランナー)と藤澤理恵(弊社主任研究員)である。

宮城県雄勝町で「サステナブルに生きる力を育む学びの場」を運営
雄勝のまちは決して研修の場ではない
企業とはまったく異なる価値観に出会える

宮城県雄勝町で「サステナブルに生きる力を育む学びの場」を運営

オーナーセッションは、Jammin’にリーダーを送り出す人事の皆さんが参加し、ゲストの講演と、オーナー同士の対話を通して、リーダー開発や組織変革の知見を交換しながら考えを深めていく場だ。特に重要なのは、「自社に共創型組織へのシフトを起こすために何ができるか?」という問いである。オーナーが、こうした問いに自分なりの答えを出し、自らを変え主体的に行動を起こしていくことで、組織は変革される。だからこそJammin’では、オーナーセッションをリーダーセッション同様に重要なものと位置づけている。

第2回の油井氏の講演は、自己紹介から始まった。「東日本大震災が起きたとき、私はキッザニアで働いていました。創業メンバーとして、東京と甲子園にキッザニアをオープンさせた後のことでした。震災復興の炊き出しのボランティアに駆けつけたまちの1つが雄勝町で、あれよあれよという間に、モリウミアスを創っていました」。

公益社団法人MORIUMIUS理事 油井 元太郎氏

公益社団法人MORIUMIUS理事
油井 元太郎氏


アメリカの大学を卒業後、音楽やテレビの仕事を経て、キッザニアの創業メンバーとしてコンテンツの開発に取り組み、東京と甲子園にキッザニアをオープンさせる。東日本大震災の復興支援に関わったことをきっかけに、2013年より、宮城県石巻市雄勝町に残る廃校を自然の循環や土地の文化を体感する学び場として再生し、「モリウミアス」と名づける。2015年7月18日から子どもたちの受け入れをスタート。

モリウミアスは、漢字で書くと「森・海・明日」となる。子どもたちの明日をここで育みたい、という想いからつけられた名前だ。モリウミアスがある雄勝町は、現在は石巻市の一部で、隣は女川町。ご存じとおり、東日本大震災で最も大きな被害を受けた地域の1つである。震災によって、雄勝町の中心部や商店街は跡形もなく失われてしまった。震災前は人口4300名ほどだったが、その多くが震災後に石巻市の中心部などに移り住んだため、現在の人口は約1000名にすぎない。とはいえ、いまも漁業は盛んで、ウニ・ホヤ・アワビ・ホタテ・カキなどが名物だ。また、雄勝法印神楽や雄勝硯などでも知られている。現在は、10メートルほどの防潮堤の上に新たな商店街が作られ、そのさらに上に高台住宅が建てられている。

雄勝町の現在の様子 高い防潮堤の上に商店街、住宅が建設されている 写真提供:MORIUMIUS

モリウミアスの拠点は、廃校を改修したものだ。

「財団の資金援助を得て、2013年から、企業や大学生など、本当に多様なボランティアの皆さんと共に改修を行いました。例えば、建築家・隈研吾さんと研究室の皆さんにも設計に参加していただきました。こうして2年ほどの改修を経て、2015年7月18日から、子どもたちの受け入れをスタート。それ以来、私たちは『サステナブルに生きる力を育む学びの場』を運営してきました。2020年は別ですが、2019年までは年間1500名ほどが滞在していました。児童養護施設や貧困家庭の子どもたちを招待する取り組みなども行っています。また、モリウミアスの隣に、大人の協働宿泊施設として『モリウミアス アネックス』を新築し、大人たちや企業研修の受講者なども積極的に受け入れています」。

上:廃校となっていた小学校 下:隈研吾さんほか世界各地の大学がデザインに参加したMORIUMIUSの建物 写真提供:MORIUMIUS

雄勝のまちは決して研修の場ではない

モリウミアスは、雄勝のまちづくりにも積極的に関わっている。

「いま雄勝町がまちを挙げて取り組んでいるのが、『雄勝ガーデンパーク構想』です。もともとは震災後に、住民の徳水利枝さんが花を植え始め、夫の徳水博志さんと共に『雄勝ローズファクトリーガーデン』を造ったことが始まりです。ローズファクトリーガーデンはメディアにも多く取り上げられましたから、ご存じの方もいらっしゃると思います。その規模をさらに広げて、雄勝町の一角をガーデンパークにするのが、雄勝ガーデンパーク構想です。モリウミアスも、子どもたちや企業研修向けの体験農園を作る予定です。さらに、一般社団法人雄勝ガーデンパークプラスを立ち上げて、ガーデンパーク全体で企業出向者などを積極的に受け入れていく活動も強化します。実はいま、モリウミアスには、トヨタ自動車から小野さんという方が出向してきているのですが、そうした方を増やしていきたいと考えているのです」。

左:雄勝ローズファクトリーガーデン 右:2014年から試験栽培に取り組んでいる「北限のオリーブ」  写真提供:一般社団法人雄勝花物語

当然ながら、まちの課題は多い。「住民のなかには、のんびりひっそり暮らしていけばいいと思っている方々や、自らの事業に専念している方々も多いのですが、まちの課題を知ってしまった以上、私としてはまちを放って立ち去ることはできません。そこでモリウミアスでは、企業の方々などの関係人口を増やしながら、その皆さんの力を借りて、まちを復興させていく方法を模索しています。今回のJammin’もその取り組みの一環です」。

「とはいえ、まちは決して研修の場ではありません。研修プログラムが終わっても、まちは残りつづけ、住民は暮らしつづけます。ですから、Jammin’の地方創生コースで雄勝町に一度関わった皆さんには、ぜひその後も関わりつづけていただきたい。都会の皆さんにとって、雄勝町は刺激に満ちた地だと思います。住民は面白い方が多いですし、都会にはないユニークなローカルルールも多数存在します。また、海外のアーティストやアメリカの大学生などが滞在していることもあり、意外な出会いの場にもなっています。Jammin’をきっかけにして、企業の皆さんと一緒に長く雄勝町を育んでいけたら嬉しいです」。

実は、第1回Jammin’Awardでグランプリに輝いた「OGATSU SEAWALL GALLERY」(詳しくはこちら)は、その後、雄勝町で実現に向けた取り組みが続いている。OGATSU SEAWALL GALLERYのアイディアを生み出したチームメンバーの皆さんは、Jammin'のプログラム終了後も、先に触れたモリウミアス出向中の小野さんとミーティングを重ねるなどして現地とコンタクトをとり、雄勝町とOGATSU SEAWALL GALLERYに主体的、積極的に関わりつづけている。

2019年度Jammin’アワードでグランプリを獲得した「OGATSU SEAWALL GALLERY」の事業案プレゼンテーション

2019年度Jammin’アワードでグランプリを獲得した「OGATSU SEAWALL GALLERY」の事業案プレゼンテーション

企業とはまったく異なる価値観に出会える

この講演を受けて、質疑応答を行った。最初は、「雄勝町は、企業の受講者であるリーダーたちに何を還元できるのですか?」という進行役・井上からの質問だ。それに対して、油井氏はこう答えた。「多様な皆さんと協働する経験です。先ほども少し触れましたが、実は雄勝町では、いろんな人に出会うチャンスがあります。例えば、実は、2012年から2019年まで、アメリカのハーバード・ビジネス・スクールの学生たちが毎年、雄勝に学びにきていました。雄勝町の住民はもちろんのこと、彼・彼女らのような来訪者と交流・協働する可能性も十分にあります。実際、ハーバード・ビジネス・スクールの学生たちが、企業研修のまちづくりの議論に加わってくれたこともありました。もちろん、震災の傷跡を自分の目で見て、痛感する経験も積めますし、雄勝の自然に触れて心身が癒やされるという効果もあります」。

地元の海ではウニ(上)、ホヤ(下)なども獲れる 写真提供:MORIUMIUS

次は、「地域で研修する一番の意味は何だと思いますか?」という質問だ。油井氏は「2つあって、1つは『まちとのつながり』ができることです。Jammin’も含めて、まちづくり研修に参加した皆さんからは、『雄勝ロス』というメールをよくいただきます。それだけでなく、定期的に雄勝に戻ってくる方も少なくありません。もう1つは、『価値観を揺さぶる経験』ができることです。ここには、企業とはまったく異なる価値観があります。また、海側と山側でも価値観が違う。自分とはかけ離れた考え方や見方に出会うことで、従来の価値観の再考を迫られる。それも雄勝で研修する魅力の1つだと思います」と答えた。

質疑応答の後は、いくつかのブレイクアウトルームに分かれて、オーナー同士で対話を行った。対話のテーマは、「越境させることをどのように位置づける・意味づけると良さそうか?」という問いだ。最後にあらためて全員で集合し、対話内容を共有した。あるルームの参加者は、「このルームに集まった全企業で、他流試合や越境が増加していました。私の会社では、『越境は必要なのか?』という議論がよく行われますが、皆さんの他流試合の具体例を聞いていると、やはりさまざまな経験が社員の成長につながるのだと感じました。越境の重要さをあらためて理解できました」と語った。また、他のルームの参加者は、「私の会社では、経営層は社員の凝集性・単一性を変革する必要があることをよく分かっているのですが、中間層は過去の成功体験を忘れられないために、越境の重要性の理解が遅れています。ここに課題があります」と明かしてくれた。

第2回オーナーセッションでは、「越境」とされる経験とそこでの学びが具体的にどのようなものなのかのリアリティを知ることができた。越境経験により次世代リーダーたちは、未知の状況と多様な価値観にもまれながら、感情を揺さぶられ、当事者意識を育て、生きたコミュニティに参加していく過程で多くのことを学ぶ。
油井氏の講演と質疑応答を経て、オーナー同士の対話では、このような豊かな学びをいかに自社の変革に接続するかということへの問題意識があらためて強まった。次回以降のオーナーセッションでは、越境の学びを自社の変革や成果に結びつけることを、引き続き考えていく。

【text:米川青馬、illustration:長縄美紀】
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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