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調査レポート

配置・異動とキャリア支援施策に関する実態調査

個人のキャリア自律と組織主導のリソースシフトは両立するのか —人事が回答する配置・異動とキャリア自律支援の実態

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  • 公開日:2026/05/26
  • 更新日:2026/05/26
個人のキャリア自律と組織主導のリソースシフトは両立するのか —人事が回答する配置・異動とキャリア自律支援の実態

近年、個人のキャリア自律は重要なテーマとなっている。一方、企業としては事業環境の変化への適応に向けたリソースシフト(人材の再配置・異動)が求められ、組織主導の異動を適時適切に行うことは重要な課題である。今回、人事管理職に対して調査を実施し、個人のキャリア自律と組織主導の人材配置をいかに両立させるかについて、配置・異動の課題やキャリア自律支援の取り組みの観点から検討した。その結果、多くの企業が両立の難しさを感じている一方、キャリア支援を戦略的・統合的に推進している企業では、配置・異動の工夫や各種人事施策の導入が確認され、人材の柔軟な再配置との関連が示唆された。

調査概要
変化に応じた再配置、個人意向との調整の難しさ
個人のキャリア自律と組織主導の人事施策の両立に難しさ
組織が期待するキャリア自律とは
キャリア自律支援の目的は仕事への意欲向上が最多
管理職によるキャリア支援の役割
戦略的・統合的なキャリア支援は戦略配置と個人尊重の両立を実現

調査概要

調査概要は図表1のとおりである。調査対象は、従業員規模300名以上の企業で人事業務に従事している管理職で、「自社の人材マネジメントの全体像や短期・中長期の課題を把握している」と回答した者に限定した。

本稿では、配置・異動の課題、個人のキャリア自律と組織主導の人事施策の両立状況を把握した上で、キャリア支援の実態との関係を見ていく。

なお、「キャリア自律」という用語については、調査の設問では、意味を限定しすぎないために、専門用語ではなく一般的な表現として「自律的・主体的なキャリア形成」を用いた。

<図表1>調査概要「配置・異動とキャリア支援施策に関する実態調査」

変化に応じた再配置、個人意向との調整の難しさ

まず、企業における配置・異動の課題について尋ねたところ(図表2)、最も多く選ばれたのは「1.経営・事業戦略に沿った中期的な要員計画の策定が難しい」(43.0%)であり、次いで「2.職務要件や人材の能力・適性の情報が不足しており、適材適所の配置が難しい」(41.2%)であった。「3.モチベーションやパフォーマンスが低い従業員の配置転換が難しい」(31.3%)、「4.事業方針の転換やAI・技術革新にともなう配置転換が難しい」(29.3%)も約3割選ばれており、変化に応じた適材適所の配置に関する課題が見てとれる。

<図表2>配置・異動に関する課題

配置・異動に関する課題

全体で3番目に多く選ばれていたのは「6.本人の意向や事情を尊重する必要が高まり、適時適切な配置が難しい」(37.9%)である。従来、配置・異動は組織側の要請から行われることが多かったが、近年、従業員の希望やキャリア志向を尊重することが求められる場面も増えている。その結果、組織ニーズと個人意向とのギャップを調整することが、配置における難しさとして浮かび上がっていると考えられる。

個人のキャリア自律と組織主導の人事施策の両立に難しさ

「自律的・主体的なキャリア形成の尊重と、組織主導の人事施策の推進を両立させることは難しい」という設問に対しては、「1.とてもそう思う」「2.そう思う」との回答が約3割、「3.ややそう思う」まで含めると約7割が難しいとの回答だった(図表3)。多くの企業が、この両立を容易ではない課題として認識していることが分かる。

<図表3>キャリア自律尊重と組織主導人事施策の両立の難しさ

どのような状況から両立が難しい、あるいは、難しくないと回答しているのか、具体的な内容について自由記述で回答を求めた(図表4)。難しい状況としては、主に3つの観点が確認された。ニーズの不一致や需給の不均衡による「組織・個人間のギャップ」、従業員の自律不足に言及した「個人要因」組織都合の優先、短期業績中心の評価、経営の理解不足など「組織要因」によるものである。

一方、難しくない状況としては、2つの捉え方が確認された。1つは、「施策を通じて両立している」である。具体的には、十分な対話とすり合わせ、組織方針・スキル要件の可視化、キャリア支援制度の機能・定着、報酬・金銭的な支援などが挙げられた。もう1つは、「そもそもコンフリクトするものではない」とする捉え方である。キャリア自律の定義に組織との整合が含まれる、あるいは、キャリア自律の尊重より組織主導が前提となっていることにより、コンフリクトは生じていないという様子がうかがえた。

このように個人のキャリア自律と組織主導の人事施策の両立に関する認識は多様であり、その背景には、組織がキャリア自律をどのように捉え、どの程度期待しているかという違いがあると考えられる。対話や施策を通じて個人と組織のすり合わせを図るケース、キャリア自律の定義に組織との整合を組み込むケース、あるいは、組織主導を前提としてキャリア自律をそもそも期待していないケースなど、各社の立場はさまざまである。次からは、こうした多様性の背景にあるキャリア自律への期待の程度や内容、目的、実態について見ていく。

<図表4>キャリア自律尊重と組織主導人事施策の両立困難の理由〈自由記述より抜粋〉

キャリア自律尊重と組織主導人事施策の両立困難の理由

組織が期待するキャリア自律とは

従業員に対してキャリア自律を期待する程度を尋ねた(図表5)。期待していない(「4.あまり期待しておらず、メッセージも出していない」「5.まったく期待しておらず、メッセージも出していない」)とする回答は1割弱にとどまり、約9割の企業が何らかの形でキャリア自律を期待していることが確認された。

そのうち、「1.強く期待するメッセージを、経営者やマネジメント層から出している」(20.0%)は2割にとどまり、「2.ある程度期待するメッセージを、経営者やマネジメント層から出している」(48.4%)が半数弱で多数を占め、「3.期待しているが、具体的なメッセージとしては出していない」(21.8%)は約2割であった。

<図表5>従業員へのキャリア自律の期待

「期待している」と回答した302名に、会社が求めるキャリア自律の内容を選択してもらったところ、会社によってさまざまであることが確認された(図表6)。「1.自分の価値観に基づいて、自分でキャリアを選択すること」(48.7%)が最多で、「2.何事も成長機会と捉えて、目の前の仕事に主体的に取り組むこと」(45.7%)、「3.新しい経験にチャレンジしながら、自ら成長機会を作っていくこと」(41.4%)と続く。

一方、「10.自分に合った働き方を主体的に選択すること」(16.9%)はそれほど多く選ばれなかった。弊社で実施した個人調査「若手・中堅社員の自律的・主体的なキャリア形成に関する意識調査」(2021)では半数弱(48.5%)が働き方の主体的選択をキャリア自律の内容として挙げていることを踏まえると、単純な比較はできないが、企業と個人のあいだでキャリア自律の捉え方に違いがあることがうかがえる。

<図表6>会社が従業員に求めているキャリア自律の内容

会社が従業員に求めているキャリア自律の内容

キャリア自律支援の目的は仕事への意欲向上が最多

キャリア自律支援の目的について、3つまでの複数回答で回答を求めたところ、最も多く選ばれたのは、「1.従業員のエンゲージメントや仕事への意欲の向上」(52.5%)であった(図表7)。「2.従業員の自律的な学習・挑戦行動の促進」(37.6%)、「3.優秀な人材の採用・定着の強化」(36.7%)がそれに続く。「4.従業員の変化対応力の向上」(31.9%)、「5.組織の柔軟性・変化対応力の向上」(25.7%)も一定数選択されており、目的は多岐にわたる。キャリア自律支援の目的は自明のものとして語られることが多いが、各社の認識を可視化すると、その多様性と傾向が見えてくる。

<図表7>キャリア自律支援の目的

キャリア自律支援の目的

キャリア自律の実態について主な結果を示すと(図表なし)、約7割が「従業員の多くは、自律的・主体的なキャリア形成を望んでいるだろう」(74.6%)としながら、同じく約7割は「従業員の多くは、自律的・主体的なキャリア形成は難しいと感じているだろう」(69.9%)、「従業員の多くは、自律的・主体的なキャリア形成を求められることに、ストレスや心理的負担を感じているだろう」(72.8%)、「自律的・主体的キャリア形成の支援は、管理職の負担を増やす可能性がある」(70.4%)との認識であった(いずれも、6肢のうち「とてもそう思う」「そう思う」「ややそう思う」の合算値の割合)。キャリア自律は組織・個人双方が望んでいる一方、実践の難しさや組織運営上の課題がうかがえる。

管理職によるキャリア支援の役割

個人のキャリア自律と組織主導の人事施策の推進を両立させるための対話やすり合わせの担い手として、管理職の役割が重要となる。管理職の負担も懸念されるなかで、管理職による部下のキャリア形成支援の実態を確認しておきたい。

まず、管理職に対して部下のキャリア形成支援を「1.制度・方針として明確に求めている」(37.0%)のは4割弱であった(図表8)。ただし、「2.制度・方針として明文化していないが、実態として求めている」(36.1%)を合わせると約7割に達する。

<図表8>管理職による部下のキャリア形成支援の位置づけ

管理職に期待している役割としては、「業務を通じた支援」に関する「1.部下が目の前の仕事にモチベーション高く取り組めるよう支援する」(54.7%)、「2.部下が自律的に業務を推進できるよう支援する」(52.2%)は半数以上の企業が選んでいた(図表9)。これに対して、「中期的支援」はおおむね3割前後、ライフイベント発生時の「ライフキャリア支援」は2割未満にとどまっている。管理職のキャリア支援は、中長期的なキャリア形成やライフキャリア支援というよりも、日常業務を通じた育成の延長として捉えられている場合が多いと考えられる。

<図表9>部下のキャリア形成支援に関して管理職に期待する行動・役割

部下のキャリア形成支援に関して管理職に期待する行動・役割

一方で、管理職によるキャリア支援には課題も指摘されている。最も多かったのは「1.管理職には、キャリア支援に割ける時間的余裕がない」(42.1%)であり、約4割が選んでいた(図表10)。「2.管理職自身がキャリア不安や将来不透明感を抱えている」(34.0%)、「3.管理職のキャリア支援に対する問題意識・優先度が低い」(31.6%)が続く。

他には、期待役割の不明確さ、配置・異動・挑戦機会への展開の難しさ、管理職に対する支援の不足も課題として認識されている。管理職がキャリア支援の担い手として期待されている一方で、その役割を果たすための環境や支援が十分とはいえない実態も見えてくる。背景にある会社としてのキャリア支援の位置づけとの関係が推察される。

<図表10>管理職による部下のキャリア形成支援に関する課題

管理職による部下のキャリア形成支援に関する課題

戦略的・統合的なキャリア支援は戦略配置と個人尊重の両立を実現

ここからは、会社としてのキャリア支援の取り組み方、位置づけに注目したい。

本調査では、従業員のキャリア形成支援を戦略的・統合的に推進できている程度を示す指標として「キャリア支援推進度」を設定した。キャリア支援の目的の明確化、経営層の理解、人事制度全体における位置づけ、相談活動などを通じた課題の把握と共有、人事や上司から独立した相談機能の存在など、厚生労働省のガイドライン、書籍や先行研究を参考に作成した7項目から成る(図表11)。7項目の平均値を「キャリア支援推進度」得点とし、中点の3点で高低群に分けて集計した。

<図表11>キャリア支援推進度 項目一覧

まず、キャリア支援推進度・高群は低群に比べて、配置・異動を円滑に機能させるための工夫を行っていた(図表12)。本人への異動の目的・意図の説明や異動後のキャリア展望の提示に加え、異動先の上司への異動の目的・意図の共有、さらには会社としての配置・異動に関するポリシーや戦略的意図の提示など多面的な工夫が見られた。

<図表12>配置・異動を円滑に機能させるための工夫
(キャリア支援推進度別)

次に、人事施策の活用度(「制度対象者に一定以上活用されている」割合)にもキャリア支援推進度別に差が見られた。有意差のある施策を、得点差順に並べたものが図表13である。興味深かったのは、目標管理制度である。管理職による業務を通じたキャリア支援、組織と個人双方の期待のすり合わせの場として機能していることが推察される。また、社内外の専門家によるキャリア相談については、高群においても2割程度と活用度の選択率は高くないが、低群がほとんど選択されていない状況からすると、活用度の違いが特徴的である施策といえそうだ。

<図表13>人事施策の活用度(キャリア支援推進度別)

最後に、配置・異動の実態との関係である(図表14-A)。キャリア支援推進度が高いほど、外部環境の変化や事業戦略の方向性に応じて、配置・異動が戦略的に行われていることが確認された。配置や異動において個人の尊重がなされている一方で、組織主導の配置や異動が従業員に当然のものとして受け止められている状況も見てとれた。配置・異動が従業員の志向や能力を理解した上で行われ、さらに異動の目的や意図の説明、キャリア展望の提示といった工夫が伴うことで、従業員は組織主導の異動を受け止めやすくなるのではないか。こうしたプロセスが、人材の戦略的な再配置につながると考えられる。

<図表14>配置・異動の実態、HRMの柔軟性(キャリア支援推進度別)

配置・異動の実態、HRMの柔軟性(キャリア支援推進度別)

続いて図表14-Bに挙げたのは、環境変化や戦略転換に対応できる組織の特徴とされる「HRMの柔軟性」である。キャリア支援推進度の高さは、現在とは異なる業務への従業員の配置を動機づけ、活躍を促すことと関連していた。

個人のキャリア自律と組織のリソースシフトはしばしば対立的に語られるが、戦略的・統合的なキャリア支援と配置・異動の実態とのあいだに一定の関連がうかがえた。変化の大きい時代において、戦略的人材配置とキャリア支援を一体として設計・運用することの意義が示唆される結果となった。

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.82 特集1「企業の変化適応とキャリア自律の接点」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

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組織行動研究所
主任研究員

藤村 直子

人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)、リクルートにて人事アセスメントの研究・開発、新規事業企画等に従事した後、人材紹介サービス会社での経営人材キャリア開発支援等を経て、2007年より現職。経験学習と持論形成、中高年のキャリア等に関する調査・研究や、機関誌RMS Messageの企画・編集・調査を行う。

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