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  • 公開日:2026/04/20
  • 更新日:2026/04/20
可能性を拓く360度評価

管理職候補者の不足やそのポストの固定化が懸念されるなか、一人ひとりの強みを生かすマネジメントの重要性が高まっている。こうした環境変化に応えるツールとして、360度評価が再注目されている。本稿では、導入企業からの声や最新の研究事例も紹介し、360度評価の今後の可能性を展望したい。

360度評価 導入・活用の現状
360度評価が拓く新たな可能性
360度評価を使った人材育成
360度評価を活用した個の強みを生かす、これからの人材マネジメント
まとめ

360度評価 導入・活用の現状

まずは改めて、360度評価の全体像と、その期待効果・懸念点を整理したい。360度評価とは、職場の上司・同僚・部下が、対象者本人の仕事ぶりを、多元的な要素から評価することと定義される*1。行動項目への回答を数値化し、対象者本人の自己評価との比較を通じて、強みと改善点を可視化する点に特徴がある。加えて、質問形式に自由記述を組み合わせることで、行動の具体的な背景や改善の方向性を把握できるケースも多い。

360度評価には、多面的視点による気づきの促進や、行動変容につながる点が期待される一方、読み解きの難しさや「実施しただけで終わってしまう」といった懸念もある(図表1)

<図表1>360度評価の期待される効果と懸念点

360度評価の期待される効果と懸念点

なお、360度評価は、「多面評価(multi-source assessment)」「360度フィードバックツール(360-degree feedback tool)」などといわれることもある。本稿では、上司・同僚・部下という360度からの回答結果をもとに対象者の仕事ぶりを数値化する手段といった意味合いで、「360度評価」の語を用いる。また、360度評価の対象となる人(被観察者)を「対象者」、その対象者のことについて回答する周囲の人々を「回答者」と表現することにする。

弊社が2022年に行った「360度評価実施実態調査」においては、360度評価を導入したきっかけ・理由(複数回答)について「昇進昇格選考において、現在の評価情報だけでは不十分だと感じたから」が37.7%で最も高く、次いで「社員の能力開発のために必要だと判断したから」が34.3%であった(図表2)

<図表2>360度評価を導入したきっかけ・理由〈複数回答/%〉

360度評価を導入したきっかけ・理由〈複数回答/%〉

このように360度評価は、わが国では企業における人材育成と人事評価の補完の両側面での活用を目的に導入が進んでいるというのが特徴といえる。

360度評価が拓く新たな可能性

360度評価は主に課長層以上の管理職層を対象として行われることが多いが、その管理職を取り巻く環境も大きく変わってきている。

弊社機関誌 RMS Message vol.77(2025年2月)特集2「管理職候補者不足の時代にどう適応していくか」で紹介したように、管理職への昇進・昇格に関する現在感じている問題および今後高まりそうな問題として、「管理職になりたくない」といった意欲面が上位に来ており、喫緊の課題としては管理職候補者の不足が挙げられている。また、管理職になった人材がそのポストに長期間とどまることによって、「ポスト詰まりが進行していて、社内の活性化に悪影響を及ぼしている」といった問題も指摘され始めている。この結果は2025年に弊社にて実施した人材マネジメント調査*2において、「人材の流動化」に課題が見られていた現状とも符合するものである。

つまり、そもそも管理職になりたくないと考える中堅・若手社員が増え、かつ管理職候補となるような人材も少ないといった現状が顕在化してきているといえるだろう。さらには、この現状が続くと管理職というポストの固定化が進み、将来的には社内の活性化に影響を及ぼしかねない、という懸念が広まってくる。

ここからはこれからの360度評価の活用を支える最新研究や事例について、人材育成的側面と人材マネジメント的側面に分けて紹介する。

360度評価を使った人材育成

(1)自分のマネジメントを見つめ直す場の担保

改めて360度評価の目的に立ち戻ると、上司や同僚、部下からの多面的な視点から自分自身の普段の行動を振り返り、今後の仕事場面での行動改善に生かすことが重要だ。一方、実際には「サーベイをやりっぱなしになっている」「報告レポートを返却しているが、全員がしっかりそのレポートを読んでくれているとは限らないのが悩ましい」といった声も多い。

最近では、管理職を対象に、自身の360度評価結果に向き合い、今後の課題を設定するための研修形式の場を設け、いわば半強制的に時間を確保するケースが増えている。そのような場のなかでは、そもそも360度評価とはどういうものなのか、実施されたサーベイの内容、報告レポートの読み方を理解した上で、しっかり個人ワークの時間を確保し結果と向き合い、今後の自分自身の課題とアクションプランを設定していく。さらに、その内容を場に集まった仲間と共有しながら、相互アドバイスを行い、日々の忙しい業務のなかでの「ガス抜き」的な副次的効果ももつ。

実際にそのような場に参加した受講者からは「報告レポートの読み方が理解できた」「 明日からの自分自身のマネジメント改善に生かせるヒントが得られた」といった声も多い。実際、ある企業では手挙げ形式で360度評価結果を返却する研修の希望者を募ることにした。いざ蓋を開けてみると想定を上回る応募があり、満員御礼の実施回も多かったと聞く。このことは、管理職自身が「自分のマネジメントを見つめ直す機会」を強く求めている、ということを意味するだろう。360度評価が押し付けの評価ではなく、自己成長を支援するツールとして認識され始めている証左ともいえるだろう。

(2)心理学的技術×360度評価の萌芽研究(弊社研究の紹介)

昨今の激しい環境変化を受け、「マネジメント」のあり方も変化しつつある。具体的には、従来の「管理統率型マネジメント」に加えて、メンバー一人ひとりが自律的に行動し、協働して成果を上げる「自律共創型マネジメント」を期待するような業界・業種の企業組織が増えている*3(図表3)。これは、メンバーがマネジャーの指示・監督のもとで業務を推進するだけではなく、組織の状況によってはメンバー一人ひとりがより自律的に動き、互いに実践知を共有し合いながら組織成果を上げていくといったことを期待することが増えていることを意味する。

<図表3>管理統率型マネジメントと自律共創型マネジメント

管理統率型マネジメントと自律共創型マネジメント

言い換えれば、管理職のマネジメントの難度が高まってきているといえるだろう。管理職の対象者本人は360度評価という機会を使って普段のマネジメントの振り返りをすること、360度評価の実施者は周囲からの声をよりスムーズに日常のマネジメントに生かせるように行動改善のヒントを分かりやすく提供していくことがより重要になってきている。

また、(1)で紹介したような研修形式でのフィードバック機会の担保は有益である一方で、1回開催当たりの上限人数などの制限から、結果として経済的・時間的コストを鑑みてすべての対象者に研修形式の場を設定することは現実的に難しいこともある。そのような場合に、「本当は360度評価を導入したいが、なかなか導入に踏み切れない」といった声が上がることも事実だ。

そうなると、研修形式でレポートの読み方解説、課題設定の時間がとれないなかで、360度評価の結果レポートを使って対象者自身が自分の結果を理解し、自分自身の課題設定をしていくことになる。しかしながら、実際には数値の結果レポートのみから自分なりに課題設定していくことは難度が高い、といった声も多い。

そこで弊社では、360度評価において、対象者が自分自身の結果を踏まえて「明日から仕事場面でどのようなことを意識していけばよいのかが分かる」ことを目指したフィードバックレポートの研究開発を進めてきた。具体的には、フィードバックの「粒度」、すなわち対象者が自身の行動を振り返り、次にとるべき行動をありありと想起できるような切り口や観点を工夫し、心理学的技術を活用することで、その実現を試みた。

従来の360度評価では、各質問項目の得点や、「将来予測力」「分析力」といった「職務遂行能力」の単位で結果をフィードバックすることが多い。これらの結果表示は、「質問項目」や「能力」単位で整理されており明快である一方、多くの360度評価では、さまざまな観点に基づく質問項目が設定され、網羅的に測定・結果返却が行われている。そのため、「要は、自分自身の現状はどうなのか」「結局、明日からの仕事場面でどのような点を意識して行動改善していけばよいのか」が、必ずしも分かりやすいとはいえないという課題もある。

このような問題意識のもと、弊社では360度評価の結果返却の「粒度」を管理職の役割に関する先行研究*4、5を参考に、管理職が仕事上期待される「機能」や実際の仕事上の「場面」ベースで設定する方向で検討した。これにより、「将来予測力」が高い・低いという粒度ではなく、「このような役割を果たす際にはこうなりがち」「このような場面でこういう傾向になる」という粒度でのフィードバックが可能になる。

こうしたフィードバックの「粒度」設計および対象者一人ひとりのマネジメント状況を診断し、行動改善を目的とした個別最適なレコメンドを行うために、診断分類モデル(Diagnostic Classification Models: DCM)*6という心理測定モデルを採用することにした。DCMとは、単なる得点の高低ではなく、「どの行動ができていて、どの行動がまだ十分ではないか」を把握し、一人ひとりの状況に応じて行動改善のポイントを優先度をもって抽出することが可能なモデルである。DCMでは、各質問項目が測定していると想定されるスキルを「アトリビュート」と呼び、このアトリビュートがフィードバックにおける「粒度」に相当する(図表4)。したがって、どのようにアトリビュートを設定するかが、フィードバックの有用性を大きく左右する。なお、診断分類モデルは「認知診断モデル(Cognitive Diagnostic Models: CDM)」と呼ばれることもあるが、両者は同義である。

<図表4>フィードバックの粒度のイメージ

フィードバックの粒度のイメージ

坂本ほか(2025)*7では、上記で設定したアトリビュートに沿って、対象者一人ひとりのマネジメント状況を診断し、それに基づいて個別最適な行動改善のレコメンドを行う技術とロジックの開発を行った。図表5にはアトリビュートである「A6.共創推進」に相当する行動改善のレコメンドのイメージを示している。

<図表5>行動改善のレコメンドイメージ

※坂本ほか(2025)では対象者1人当たり2つのレコメンドを行ったが、ここでは例として1つのみ示す。なお、弊社サービスとして実装される場合には、コメント内容や形式が異なる場合がある

実際に企業組織内で行われた360度評価結果に対して、このような行動改善のレコメンドを作成し、対象者本人へフィードバックを行いながらインタビュー調査を行った。その結果、対象者本人から「書かれている内容にも納得感がある」「今日の午後にXさんと会議があって、ちょっとシビアな話をしないといけなかったけど、『共創する仲間』でいいんだ、と思えた。さっそくその意識で取り組んでみようと思う」などの声が聞かれた。数値の情報が意味するインプリケーションを分かりやすく直接的に示すことで自分自身の特徴が捉えられ、かつ今後の仕事場面に生かすポイントも理解できていると考えられる。

さらには坂本ほか(2025)*7にて明らかになった課題についても同年、日本テスト学会大会*8で発表を行った。現在は今後のサービス実装を前提に弊社で研究開発を進めているところだ。

360度評価を活用した個の強みを生かす、これからの人材マネジメント

従来の360度評価をはじめとする人事アセスメントでは、受検者・対象者の「能力」が高い人を選抜する、といった色合いが強かった。しかしながら、先に見た管理職候補者の不足やそのポストの固定化が予想される環境においては、十分な数を担保した候補者集団から「優秀なリーダー」を選抜すること自体が難しくなってくる。

現に、昨今は日本社会における「能力主義」の蔓延と、一次元的な「能力」による評価への懸念が指摘されていることも無視できない*9、10。そのような状況を踏まえると、以下の2点が今後の人材マネジメントで重要となる視点であるといえる。

(1)個々の強みを生かす

変化の激しい時代において、すべての業務を完璧にこなせる万能なリーダー育成は実質的に難しくなっている。むしろ、個々がもつリーダーシップのスタイル(図表6)を生かすような配置や登用が必要になってくるだろう。例えば、周囲のメンバーを巻き込み、組織を前に強く推進していくことが得意なリーダーや、周囲の声を受け止めながら組織をうまく調和させることで成果を上げていくことが得意なリーダーもいるだろう。

<図表6>リーダーシップスタイルのイメージ

※弊社考案のものであり、現在は360度評価サービスへの実装に向けて開発中。なお、サービスとして実装される場合には、リーダーシップスタイル名やイラストが変更になる場合がある

360度評価では「今、周囲にどのように見られているか」の可視化に一定の効果をもつ。サーベイの実施後に図表6のような各リーダーシップスタイルとして分類しながら、すべての得点が高いような「万能リーダー」ではなく、個々がもつ「強み」に着目した人材マネジメントにつなげていける可能性はまだまだ大いにある。

さらには、そのような個々のリーダーシップのスタイルを前提に、上司とメンバーとの組み合わせを検討しながらの人材配置という視点も重要といえるだろう。上司が不得手の部分はメンバーに権限委譲しながら協働して組織成果を上げていくといったことが重要になると考えられる。

(2)管理職ポストの流動化

現在顕在化してきた管理職候補者の不足や今後想定され得る管理職ポストの固定化といった問題に対し、管理職の新陳代謝を促す仕組みを入れ、ポストの流動化を図るといったことも考え得る。そのような仕組みは、社内の活性化、そして若手社員も含めた成長機会の担保とモチベーションの向上につながるだろう。

実際に、組織として従業員のチャレンジ(自己成長)を後押しする文化を醸成しながら、360度評価を活用して管理職層の新陳代謝を図るような取り組みを導入した先進的な事例も見られている。具体的には、360度評価を用いて定期的に管理職層のマネジメントの点検と行動改善の機会を与えながら、一方では管理職の任期を定め、仕事のパフォーマンスやコンピテンシーとしての360度評価の結果も併せて参照しながら、管理職を任用していく仕組みである。この仕組みは、管理職ポストの固定化が進むことで生じ得る社内活性化への影響に対し、人材の流動化を促す点で、一石を投じる事例として注目されるだろう。

まとめ

管理職候補者の不足やそのポストの固定化、人材の流動化といった課題に直面する今だからこそ、360度評価は新たな可能性を拓くツールとして進化している。

従来の「優秀な人材を選抜する」発想から、「一人ひとりの強みを生かし、組織全体で成果を上げる」発想へ。DCMなどの心理学的技術の活用により、個別最適な成長支援も実現可能になってきた。さらに、定期的な任用見直しと組み合わせることで、組織の新陳代謝を促し、若手を含めた全社員の成長機会創出にもつながる。

360度評価は、単なる評価ツールではない。一人ひとりのリーダーシップを最大化し、組織の持続的な成長を支える「可能性を拓く」仕組みとして、その重要性は今後ますます高まっていくだろう。

*1 高橋潔(2010).人事評価の総合科学. 白桃書房

*2 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ(2025).「人材マネジメント調査2025」を発表.

*3 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ(2023).「実行型マネジメント」と「自律共創型マネジメント」の両立 変化の時代に求められるマネジメントと職場づくり.

*4 坂爪洋美・吉川克彦・高村静(2022).部長の仕事の類型化とその特徴. 日本労務学会第52回全国大会

*5 吉川克彦・坂爪洋美・高村静(2022).あらまほしき部長はどのような環境下で育つのか―部長役割の4因子モデルに基づく登用基準、育成施策の検討―.日本労務学会第52回全国大会

*6 Rupp, A. A., Templin, J., & Henson, R. A. (2010).Diagnostic measurement: Theory, methods, and applications. The Guilford Press.

*7 坂本佑太朗・山田香・肖雨知・佐宗駿(2025).認知診断モデルの360度フィードバックへの応用と実践─個別最適な行動改善レコメンドの試み─.日本教育心理学会第67回総会

*8 肖雨知・坂本佑太朗・山田香・佐藤夏月・佐宗駿(2025).管理職の行動改善を目指したレコメンド手法の開発―認知診断モデルを用いた職務遂行スキルの獲得順序を考慮して―.日本テスト学会第23回大会

*9 勅使川原真衣(2022).「能力」の生きづらさをほぐす.どく社

*10 勅使川原真衣(2025).「働く」を問い直す―誰も取り残さない組織開発―.日経BP

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.81 特集2「可能性を拓く360度評価」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら

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技術開発統括部
研究本部
測定技術研究所
主任研究員

坂本 佑太朗

2015年株式会社リクルートマネジメントソリューションズ入社。
人事アセスメントに関する新規商品開発や心理測定技術に関する研究に従事。研究成果は関連学会で発表、および専門誌に投稿し、理論と実際を結びつける。現在は、360度評価を中心とした研究開発に取り組む。2020年東北大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。
一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会 上席研究員。

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