- 公開日:2023/05/15
- 更新日:2024/05/16
「これからの時代のマネジメントはどうあるべきか」—
いつの時代も企業・組織で働く人の関心を集めるテーマである。 さまざまなマネジメントやリーダーシップのあり方が広く議論されているが、今回は従来の「実行型マネジメント」と新しいタイプの「自律共創型マネジメント」の“両立”に注目し、その意義や組織への実装のポイントを探る。
- 目次
- 求められる環境変化対応 新価値創造への課題
- 実行型マネジメントへの自律共創型の取り入れが進む
- 自律共創型マネジメントの3つのキー行動
- 第一歩は対話の土壌づくりから 最大の障害は効率低下への恐れ
- 対話の土壌づくりを進める具体的な事例
求められる環境変化対応 新価値創造への課題
VUCAの時代であるといわれて久しく、また新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、われわれを取り巻くビジネス環境はこの数年で劇的な変化を遂げた。
そのようななかで、弊社が2022年に実施した「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査」では、企業の人事担当者の考える組織課題の第1位は「新価値創造・イノベーションが起こせていない」となっている。先の読めない急速な変化が起こり得る社会のなかで、今までの延長線上にはない新価値の創造に取り組む人材の獲得・育成、そして組織づくりが、企業にとって重要課題になっていることは想像に難くない。
一方で、そうした新価値創造への動きのキーとなるミドルマネジャーの問題意識はどこにあるだろうか? 同調査でも「管理職として重要だと考えている役割は何か?」という問いには、「メンバーの育成」「担当部署の目標達成/業務完遂」「業務改善」という項目が並び、どちらかというと短期的な成果を上げることに注力せざるを得ないミドルマネジャーの実態が浮かび上がってくる。
実行型マネジメントへの自律共創型の取り入れが進む
組織からの要請とミドルマネジャーの実態にこのような乖離があると想像されるなかで、ミドルの考える組織像は現在どのようになっているのだろうか?「担当している組織の状況」を聞いた設問では次のような結果となった(図表1)。
<図表1>担当している組織の状況
Aの実行型マネジメントが適する組織は、方針や仕事の進め方が固定的で、決定した目標を効率的に実行していくことが業績達成へとつながる。Bの自律共創型マネジメントが適する組織は、先が読みづらく変化のスピードが速い環境下にあり、その変化に合わせて個人や組織が学習しながら自律して判断をしていくことが有効となる。
調査結果が示すように、実行型マネジメントが適する状況と、自律共創型マネジメントが適する状況の選択率は拮抗しており、マネジャー自身は組織を取り巻く状況の変化を敏感に察知しているといえる。とりわけ「1.自組織を取り巻く環境の変化はめまぐるしく、ほとんど予測が立たない」「3.上位方針や戦略が抽象的で、自組織で取り組むことは自分たちで考えて設定することが求められる」という項目の選択率の高さから、ミドル自身が考え・判断することが求められてきていると分かる。
かつ、自律共創型組織への移行についても必要性を感じているミドルは6割を超え、すでに何らかの自律共創型の組織運営に取り組んでいるミドルも半数弱存在している(図表2)。
<図表2>自律共創型組織への移行度
そうしたミドル自身が、自律共創型の組織運営の何に難しさを感じているかというと「1.あいまいな状況のなかでも先を見て、組織のビジョンを打ち出す」「6.メンバー同士の自発的な情報共有や相互のサポートを促す」が多く選択された。
他の選択肢を見ても、ミドルから情報を伝える、そしてメンバーの意見を取り込むという1対1のコミュニケーションは、ある程度うまくいっている様子がうかがえるが、メンバーと共に何かを創っていく、メンバー同士のコミュニケーションの質を変えていくということが次のチャレンジになっているといえそうだ。このような活動は、リモートワーク環境においてはより難しさが増すと考えられる(図表3)。
<図表3>自律共創型組織に向けた組織運営の実施状況
ここまで見てきたように、ミドルとしては、短期的に成果を上げることも重視しつつ、新価値創造ができる組織を作るためには自身のマネジメントのアップデートをしていく必要があるといえる。具体的には図表4の左側のような実行型マネジメントに加えて、状況に合わせて右側の自律共創型マネジメントも行えるようになることが望ましい。
<図表4>これからの時代に求められるマネジメントアップデート
自律共創型マネジメントの3つのキー行動
それでは、マネジャーには具体的にどのような行動が求められるだろうか。図表5は、自律共創型マネジメントのキー行動を示したものだ。
<図表5>自律共創型マネジメントの3つのキー行動
■ キー行動1.ビジョン策定(Plan)
メンバーの自律的な行動やチャレンジの土台となる組織のビジョンを、メンバーのやりたいことや問題・課題意識を取り込んで共に描く。
■ キー行動2.組織・チームでの共創(Do)
ビジョンの実現に向けてチームが自律的に動き出す仕掛けを作る。
例)お互いのやりたいことをオープンに語り合う場を作る、試行錯誤が必要なテーマでプロジェクトチームを立ち上げる、ビジョンの実現に向けた意見やアイディアを交換する場をもつ、など。
■ キー行動3.振り返りと学習(See)
新しいことへの挑戦は失敗して当たり前。トライしてみて失敗から学ぶことを推奨し、メンバーと共に学びのサイクルを回す。
第一歩は対話の土壌づくりから 最大の障害は効率低下への恐れ
現場のマネジャーが、実行型のマネジメント行動に加えて前述のような自律共創型のマネジメント行動をとっていくためには、どのような支援が必要だろうか? 第一歩として、対話の土壌づくりが重要だ。近年、組織において対話が重要視されるようになっているが、下記のような課題に頭を悩ませる企業も多い。
(1)対話の効果的なやり方が分からず、1on1やチームミーティングが単に指示・報告の場になってしまう
(2)対話によって意思や意欲を引き出すことが、業務の完遂の観点で非効率だと感じ、二の足を踏む
1点目は1on1を導入後しばらくたった企業で多く見られるお悩みだ。1on1は行っているがメンバーの考えや思いを十分に引き出せない、チームミーティングになるとマネジャーが一方的な情報伝達に終始している、というものである。このような場合、まず1対1の会話の質を上げ、その後1対多のコミュニケーションの改善に取り組むというように、段階を踏んで手を打っていくことが必要だ。
より悩ましいのは2点目だ。対話が重要なのは分かるが、コミュニケーションに時間がかかりすぎるといった懸念だ。本人の考えや思いを引き出した結果、かえってやるべき業務が滞ったり、業績が落ちたりすることを恐れ、目先の業務遂行を優先させてしまう。これは、実行型のマネジメント行動(業務を完遂させる)と自律共創型のマネジメント行動(チームの対話で新たな価値を生み出す)との両立において陥りがちなジレンマである。
このような恐れをゼロにするのは難しい。だが対話の土壌づくりが進まなければ、実行型マネジメントと自律共創型マネジメントの両立は成し遂げられない。経営・人事部門と、現場とが試行錯誤しながら、自社にとって業務遂行と対話とのより良いバランスを探っていくことが重要だ。
対話の土壌づくりを進める具体的な事例
以上のポイントを踏まえて、ここからは企業での具体的な施策例を2つ紹介する。
事例1:A社 1対多の対話の質を高める共創型ファシリテーションワークショップ
【背景】
従来、個人技で勝負してきたA社だが、環境変化を背景に、チームでの価値創造による知の結集が求められるようになってきた。
【企画のポイント】
1対1のコミュニケーションがある程度とれるようになったマネジャーが、1対多のコミュニケーションスキルを学ぶことで、個の強みを引き出すだけでなくチームとしての強みを引き出せるようになることを目指した。
【具体的な施策展開】
マネジャー(希望者)への共創型ファシリテーションワークショップ(1日)を実施。実行型マネジメントのコミュニケーションと自律共創型マネジメントのコミュニケーションの違いを、実感を伴って理解した上で、共創を促すファシリテーションを実践するためのスタンス・プロセス・スキルを学ぶ内容とした。
【成果】
参加者は、チームで価値創造するためには共創的な場づくりが重要であることに気づき、マネジメント場面によってコミュニケーションを意識的に使い分けるようになった。
事例2:B社 既任マネジャーの進化を促すマネジメントアップデートプログラム
【背景】
事業環境の変化やメンバーの多様化を背景に、組織やメンバーの特性に応じて柔軟にマネジメントスタイルを変えていくことが必要になってきた。
【企画のポイント】
自律共創型マネジメントの3つのキー行動がとれるようになることを目指した。そのために、3つのキー行動が一見難しそう・非効率に思われても、実際にやってみると高い効果が得られることを職場実践のなかで実感してもらうことを重視した。
【具体的な施策展開】
既任マネジャーを対象に、4時間のオンラインセッションを3週間置きに3回繰り返す分散型研修を実施。参加者はインターバル期間中に、職場のビジョンをめぐってメンバーと指定された方法で対話をしてくることとした。
【成果】
「メンバーと対話してメンバーに対する見方が変わった」「自分のマネジメントの変えるべきポイントが分かった」「圧倒的に内省が進んだ」などの声が聞かれた。総じてメンバーとのコミュニケーションの質や量が高まった。
以上、自律共創型マネジメントを支援するための施策例をご紹介した。慣れ親しんだマネジメントスタイルを変えていくことのハードルは高い。だが、ためらっているうちにさらなるマネジメントの負荷増や、業績低下にもつながりかねない。
キー行動の「3.振り返りと学習(See)」でも触れたように、やってみて、失敗からも学びながら前に進んでいくという行動が、施策を企画する人事・人材開発部門にも求められるのではないだろうか。本稿を読んで自律共創型マネジメントを取り入れる必要性を少しでも感じていただけたなら、まずは小さく、できることから企画してみていただきたい。
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.69 特集2「変化の時代に求められるマネジメントと職場づくり」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
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執筆者
サービス統括部
HRMサービス推進部
パフォーマンスアセスメントグループ
マネジャー
児玉 結
広告業界などを経て2008年に同社に入り、以来一貫して企業向け研修など人材育成サービスの企画に従事。新入社員~管理職まで、幅広い領域の企業研修の企画を担当。マネジメントやリーダーシップ、学習や成長といったテーマでの調査・研究も行っている。
サービス統括部
HRDサービス推進部
トレーニングプログラム開発グループ
主任研究員
木越 智彰
ビジネス系出版社にて書籍の編集・企画業務に携わった後、2009年にリクルートマネジメントソリューションズに入社。海外事業の立ち上げ・専属トレーナーのマネジメント業務を経験し、現在は研修の企画開発に従事。主にマネジメント領域を担当する。
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