\新連載/ ベンチャー企業マネジャーのリアル――就任からの60日

「管理職を任せたら、すぐにパフォーマンスを出してもらいたい」
それが、現場の事業責任者の本音だ。まして、事業が猛スピードで進行するような急成長企業においては、現場をリードするマネジャークラスのパフォーマンスが事業推進上の死活問題となる。

しかし、急拡大する組織においては優秀なマネジャーが不足する。しかもマネジャー自身、きちんとしたマネジメントを受けたことがない、前任は急に退職し引き継ぎもない……といったケースも日常茶飯事である。さらに、人事もまたマネジャー一人ひとりを支援するには人手も時間も足りないのが現実だ。

本記事は、弊社の中小・ベンチャー企業向けモバイル活用伴走型マネジメント研修サービス「マネスタ」が、3カ月にわたり伴走したマネジャーたちの奮闘記の一部を切り取ったものである。1人のマネジャーをモデルに、彼らのコメントを抜粋しながら、難題に立ち向かうマネジャーたちの本音に迫る。そして彼らを支援するためのヒントを探りたい。


マネジャーに就任。さて、何が起きるのか?

ベンチャー企業でマネジャーになると、日々の生活はいったいどう変化するのか。とある新任マネジャーの就任からの60日をモデルケースに、マネジャーの本音に触れる各種データをご紹介してみたい。

【モデル:マネジャー Aさん】
・入社4年目・27歳
・女性
・ITエンジニア
・メンバー 正社員5名/非正規社員2名
※複数名へのインタビュー内容を基に分かりやすく改変したエピソードです。

Phase1:ある日突然、マネジャーに任命

Aさんの管理職就任は突然だった。
社会人3年目が終わり、怒涛の仕事量にやっと慣れてきた頃だった。
一緒に案件を進めていたマネジャーが、突如退職。「あの案件、どうしよう……!」と思っていたところ役員に呼び出された。助けてもらえるかと思いきや、「4月から、お前にマネジャーを任せるから。あの案件のリードも含めてよろしくね」と告げられた。

「無理です!!」とは言えぬまま、Aさんは急遽マネジャーを担うことになった。

急成長するベンチャー企業のような組織では特に、規模拡大にともないマネジメントポストがどんどん生まれる。まだ力の足りない若手であっても管理職を担うことは多い。

一方で、管理職を皆がやりたいと感じているかといえばそうではない。弊社が行ったある調査によれば、管理職に就任した人のうち、「やりたいと思っていなかった」と回答した人は4割にのぼる。

Phase2:管理業務ってこんなにあるの……!?膨大な量に圧倒される

Aさんがマネジャーになってまず突きつけられたのは、管理業務の多さだった。
参加しなければならない会議、経費処理などの承認事項、採用面接、部下との面談や目標設定……。これまで未体験の手続きが大量に押し寄せる。そんななかで、期初の組織方針を発表しろ、とのお達しが届いた。
さらに、Aさんは例に漏れずプレイングマネジャーだった。それまでの業務が減ることもないまま、さらに適切な指導者もいないまま、これらの業務をこなさないといけなかったのである。

ベンチャー企業向けのマネジメント研修「マネスタ」のユーザーアンケートによれば、マネジメント上の課題として一番選択率が高かったのが、「プレイング業務との両立の難しさ」だった。

業務量の負荷ももちろん、視野・視界が異なる2つの役割を兼任するのは、並大抵のことではない。「マネスタ」ユーザーも、マネジャーになって驚いたこととして、業務量に加えて、プレイング業務との権限や責任の違いや、その両立の難しさについて多く言及した。

また、「プレイング業務との両立の難しさ」に続くのが、部下に関する項目群である。目標設定、問題行動の修正、仕事の委任や指導……、新任のマネジャーが必ずといっていいほど頭を悩ませる、マネジャーとしての登竜門だ。
Aさんも、すぐに部下との問題に直面することになるのである。

Phase3:とにかく、部下に苦労する

期初の業務はなんとかこなしたが、次にぶつかったのは部下の問題だった。
他部署の関係者から、「Aさんのメンバー、もっとちゃんと指導してください」というクレームが入った矢先、メンバーからは「今の仕事、やりたくありません」と打ち明けられた。

確かに、Aさんのメンバーの半数以上はAさんよりも若く未熟で、仕事を任せてみても予想以上にアウトプットの質が低かった。それなのに、マネジャーになってからは業績プレッシャーが格段と大きく、手取り足取り教えている時間もなかった。Aさんは結局、彼らの業務を巻き取ってしまうことも増えていった。

ただ正直、Aさんはプレイング業務の方が圧倒的に楽しかった。自分で思うとおりに仕事を動かせ、サクサクと進められる。わざわざ動かないメンバーの気を使う必要もない。なんでマネジメントなんてやらないといけないんだろう……と、Aさんは感じていた。

成長期のベンチャー企業のように、高い目標をスピード感を持って達成しなければならない状況において、自分自身もプレイング業務を抱えながらメンバーの力を引き出して成果をあげていくのは至難の業だ。ましてメンバーにローキャリアが多ければ尚更である。

せめて一緒に進める案件があれば指導もしやすいのだが、そうでなければ部下への関わりは後回しになってしまう。そうしているうちに、メンバーのパフォーマンス改善以前に、メンバーとの信頼関係が悪化していくのである。

Phase4:きっかけは、たった1つの自分ルール

そんな、忙殺されるなか乗り切る状態が1カ月ほど続いた。メンバーが、自分に心を開いてくれていないのも感じていたが、多忙を極めるなかどうすることもできなかった。
事実、Aさんはマネジャーに就任後、メンバー一人ひとりとじっくり話す時間もなかったのである。

そんな時、人事が先日実施したマネジャーへの360度サーベイの結果が戻ってきたのだが、
「何を考えているのか分かりません」
「忙しいのは分かりますが、一緒にやってくれている感じがしません」
就任間もないAさんに対して、部下からは辛辣なコメントが寄せられた。

Aさんも、この結果にはさすがに堪えた。このままではまずい。どうすれば……。
考え込んだAさんの頭をよぎったのは、自身が新人だった時の上司だった。とにかく明るくポジティブで、口癖は「信じてるから、やっていいよ」。
笑顔で、仕事を任せてくれる人だった。

今思えば、すごい人だった……と、Aさんはその上司の懐の深さに今更ながら頭が下がった。と同時に、今の自分にはあそこまでメンバーを信じて任せることができないのも事実だと感じていた。しかし、なにか自分にも真似できることはないだろうか……と、思い返すうち、上司が必ずしてくれていたある1つの行動を思い出した。
それは、彼が毎日、とにかく小さなことでも自分のアクションを褒めてくれた、ということだった。

Aさんは、藁にもすがる思いで、メンバーたちと仕事の進捗を共有する定例会議で、彼らの頑張ったことを必ず1つずつ褒めよう、と決めた。些細なことであっても、それぞれの頑張りポイント、強みだなと感じたことを一言ずつ添えるようにした。

実は、マネジャーという役割が、部下との間に壁をつくってしまうことも多い。急にマネジャーとして扱われ、距離を取られてしまうこともある。

何をしたらいいのか……答えがないのがマネジャーの仕事だ。しかし、あまりに指針がない状態では、行き詰まってしまう。そんな時、身近なお手本も重要なヒントになる。

Phase5: 1人の部下の変化で、弾み車は回り出す

Aさんは、その週の定例会議で早速実践した。
しかし、「この仕事、すごくいいアウトプットだよね」と声をかけても、「いえ、別に普通です」と、メンバーたちは目を伏せるばかり。Aさんはがっかりしたが、気にせず続けることにした。

そうするうちに、Aさんはメンバーの仕事を必死に眺めるようになった。時間がなくとも、少しでも注意して見ることはできる。ふとした時に、周囲に彼らの評判を聞くこともできる。「なにかいいところはないか?」と、メンバーそれぞれのよい面を探すようにもなっていた。

そして、ポジティブフィードバックをするようにしてから3回目の定例会議を終えた後、あるメンバーがAさんに声をかけてきた。
「実は、今日褒めてくださったあの仕事、結構頑張ったんです。見ててくれたんだなぁって、ちょっと嬉しかったです」
そう話すメンバーの顔は、今度はちゃんと笑顔だった。

ほんの少しの変化だったけれど、Aさんは嬉しかった。
そして、それをきっかけにチームの空気が変わるのを感じていた。「マネジャーも、悪くないかもね」と、Aさんは少し思い始めていた。

マネジャーに就任し、60日を過ぎたところだった。

「見ていてくれる」というのは、メンバーとの信頼関係をつくる上で重要なキーワードになる。「マネスタ」のユーザーアンケートでも、メンバーを見ることの重要性に言及するコメントが多数見られた(図7)。

なお、「マネスタ」ユーザーに、マネジャーとしてのやりがいを感じる瞬間がどんな時かを訊いたところ、最も選択されたのは自部署から「新たな価値が生まれたとき」であり、それに次ぐのが「メンバーが成長したとき」「メンバーが生き生きと仕事をしているとき」であった。当然、新しい価値を生むのは嬉しいが、それだけでなく、部下の成長や生き生きとした姿を見ることができることは、マネジャー自身においても、とても魅力あふれる体験なのである。

彼らの奮闘を支えるために、なにができるか

新しい役割を担った時、人は、既にできる人からみれば「当たり前」といわれてしまうような、思わぬ落とし穴に落ちる。それが役割トランジション(役割が変化するタイミング)の宿命だ。

マネジャーへのトランジションは、権限の急激な拡大と業績圧力に加え、部下との関係づくりの難しさにぶつかる。信頼関係づくりに、これという特効薬はなく、日々のコミュニケーションの積み重ねが重要になる。さらにAさんのように、360度サーベイなど事実に向き合わざるを得ないきっかけが、マネジャーたちに変化への一歩を踏み出させる。

しかし、勇気ある一歩も、最初は必ずしもうまくはいかない。何度もチャレンジと振り返りを繰り返し、行動をチューニングしていくことが、マネジャーとして醍醐味を味わう重要なポイントになる。

ただ、そうした日々のチャレンジを、一人で試行錯誤するのは楽なことではない。マネスタユーザーからは以下のようなコメントも見られた。

マネジャーに対して行った別の調査でも、5割以上が「理想やお手本となる管理職が身近にいること」がマネジャーとして活躍する上で助けになると回答していた(弊社「管理職意向の変化に関する実態調査 2016」より)。

マネジャーとして支援してほしいこととして、お手本となるロールモデルの存在や、他のマネジャーたちなどヨコ・ナナメのつながりが、重要な支えとなるのである。

こうした、マネジャーとしての自分の状態を観察してもらい、日々の小さな一歩を促し、振り返るサイクルを回していく仕掛けや、困った時に相談し合えるようなヨコの関係づくりは、マネジャーたちに現場で信頼関係を築き力強くチームを牽引してほしいと願う人事や事業責任者が仕掛けうる、マネジャー支援のポイントの1つとなるはずだ。


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第1回 ベンチャー企業マネジャーのリアル――就任からの60日

第2回 忙しさを言い訳にしていたところからメンバーの成長と向き合うまで

第3回 ある日突然、社長に「マネジャーやって」と言われたら?

第4回 育成に無自覚だった私が、オリジナルの「マネジメントの教科書」を作るまでの90日

第5回 何が正解か分わからない……!新米マネジャーが自分の役割を見つけるまでの90日間

第6回 ベンチャー企業マネジャーのリアル――職場と本人(リーダー、管理職・マネジャー)に起こった変化

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