【連載】 “なぜ大人は若者から学べないのか?(オトマナ)プロジェクト” 
第1回 中竹竜二×桑原正義
リーダーは学び続けるために弱さをさらけ出そう

私たちはこのたび、中竹竜二氏(日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター/株式会社TEAMBOX 代表取締役CEO)と共同で、“なぜ大人は若者から学べないのか?(オトマナ)プロジェクト(オトマナプロジェクト)”を発足しました。時代の変化に伴い、学び直し、特に「異質からの学び」が重要視される中、「大人が若者から学ぶにはどうすればよいか」を明らかにすることを目的とした研究プロジェクトです。

若者の価値観は、大人(年長者)の価値観よりも新しい時代を捉えたものであり、大人にとっては、新たな視点の獲得や学びに大いにつながります。しかし、大人は若者から学ぶことが必ずしも上手ではありません。そこで、「なぜ大人は若者から学べないのか、どうすれば学べるのか」を掘り下げ、「異質からの学び」のポイントや、大人と若者が共に生かし合う方法について、考察を深めていきたいと考えています。

プロジェクトでは、大人が若者から上手に学んでいる事例、学ぶべき若者の事例、大人の学びといったことについて、さまざまな実践家や有識者の方々にインタビューを行っています。
ここでは、その一端を対談形式でご紹介して参ります。

第1回は、中竹氏と“オトマナプロジェクト”メンバーの桑原正義(弊社 主任研究員)の対談インタビューです。


学び合い続けなければ勝てない世の中になった

桑原:今回は、私たちがなぜ“オトマナプロジェクト”を立ち上げようと思ったのかからスタートしたいと思います。
端的に言えば、それは、これまでの経験やスキルが必ずしも役に立たない時代になってきたからです。そういう時代には、誰もが考え抜かないとなりませんし、さまざまな方とディスカッションし、意見交換し、学び合わなければ新たな価値が生まれません。そのためには、大人は若者に教えるのではなく、大人が若者から学ぶ必要がある。
きっと、多くの会社、多くのビジネスパーソンが同じようなことを思っているはずです。この連載記事では、そうした方々に、今後のヒントになるようなことをお伝えできればと思っています。

中竹:おっしゃるとおりです。
そこにもう1つ「なぜ」を加えるとすれば、アイディアの賞味期限が圧倒的に短くなったことがあります。少し前までは、誰かが優れたアイディアやインスピレーションを1つ出せば、それで10年、20年とビジネスで勝ち続けることができました。そうした時代には、多くの社員が優れた少数についていけば会社が成り立ったのです。

しかし、現在は1つのアイディアで勝ち続けられる期間は、せいぜい5年でしょう。しかも、アマゾンやグーグルのように、業界の壁を壊し、業界に破壊的変革をもたらす会社がいくつも出てきています。
桑原さんのおっしゃるとおり、いま勝っている企業は、例外なく「学び合う組織」、アンラーンを繰り返せる組織をつくりあげています。実は、スポーツもまったく同じ状況で、ビジネスでもスポーツでも、いまやアンラーンを繰り返せる人材や組織が勝ち続けているのです。

リーダーは率先してメンバーに弱みをさらけ出せるといい

桑原:とはいえ、「なぜ大人は若者から学べないのか?」と言われても、唐突すぎてよく分からないという方が多いと思いますので、「大人が若者から学ぶ」とはどういうことか、中竹さんの視点でお話しいただけたらと思います。

中竹:いきなり結論から始めますが、学びの本質は、「自分は分かりません」「自分はできません」「一緒に学びましょう」と意思表示する姿勢にあります。大人になればなるほど、この姿勢を取るのが難しくなります。なぜなら、自分の弱みをさらけ出すのは怖いことだからです。

もともと世界は弱肉強食で、強い者が勝ち残るという物理的な力がものをいいました。ところが現代では、情報・知恵・知識の力が大きな比重を占めています。だからこそ、学ぶこと、学び続けることが重要なのですが、そこで問題なのは、私たちはいまだに弱さをさらけ出すのが怖いということです。弱肉強食の世界では、相手に弱さを見せることは負けや死を意味しました。私たちの遺伝子には、その記憶がいまだに根強く残っているといわれています。特に、自分よりも若い者、弱い者に「私はあなたよりも弱いのです」と示すのは勇気が要ること。だからこそ、「大人が若者から学ぶ」のは難しい。
今回の研究プロジェクトでは、その恐怖をどうやって乗り越えるのかが大きなテーマの1つになるでしょう。つまり、大人が若者から学ぶということは、勇気を持って、大人が若者に弱みをさらけ出すことなのです。

これは、言い換えれば「私たちはどうしたらアンラーンできるのか」ということです。アンラーンとは、覚えたことを一度忘れること。例えば、「これまで自分が使ってきた知識や技術は古くなってしまった。いまでは、若いキミの持つ知識や技術の方が優れているから、それを学びたい」という姿勢を取ることが、アンラーンです。私たちの成長プロセスは、常に「破壊」と「超回復」でできています。筋力トレーニングをすると、筋肉は一度破壊されます。そこで脳が危機を感じ、元の状態よりも多い筋肉をつけようとする。これが超回復です。知的成長も同じ仕組みになっていて、これまで学んだものをいったん横に置き、ゼロの状態から学び直すことで、私たちは更に向上できるのです。

結局、強さとは、昔はフィジカルの強さだったのが、その後、知的な強さに変わった。そしてこれからは、アティチュードの時代だと思っています。いかに学ぶ姿勢を貫けるかという。人に応じて態度を変えずに、常に自分も謙虚であり、学ぶか。自分の成長のために、組織を変革するために、ちゃんと謙虚になれるかという、そこが本質的な強さだと思います。

桑原:つまり、強さの基準が変わってきているということですね。これはとても重要なポイントですね。ただ、弱みをさらけ出していると、「この人について行って大丈夫だろうか?」とメンバーに思われてしまうのではという点については、いかがでしょうか?

中竹:大丈夫です。そのことが原因で、メンバーに軽蔑されるといった心配は無用です。むしろリーダーが率先して、心おきなくメンバーに弱みをさらけ出す方が好ましいでしょう。なぜなら、2カ月後、3カ月後にチームの誰よりも成長していたら、それは十分リスペクトに値するからです。「成長力」が、大きな信頼につながるのです。
また、リーダーが率先して弱みを見せ、どんどん成長していけば、メンバーも弱みをさらけ出しやすくなります。つまり、リーダーが勇気を持って弱みをさらけ出すことが、学び合うチーム、勝ち続けられるチームをつくる重要な第一歩なのです。全員が弱みを見せ合えるチームほど、効率的な組織はありません。なぜなら、ある仕事、ある役割を誰が担当するのがよいか、皆がすぐに分かるからです。コミュニケーションロスやチャンスロスが少なくなり、効率性や創造性や一体感が高まるのです。

桑原:いまの若手世代の価値観を考えると、「分からないから教えてほしい」と言って自分たちのところに下りてきてくれる上司の方が、きっと一緒に働きやすいでしょう。同世代のマネジャーたちからは変な目で見られるかもしれませんが、メンバー世代からは受け入れてもらえそうな感じがします。

中竹:そのとおりです。実際、「分からないから教えてほしい」と言いながらメンバーと協働しているマネジャーの方が、チームの一体感が強まり、従来のトップダウン型マネジャーよりもよい成果を上げられるというリサーチ結果があります。これからは、弱みをさらけ出すマネジャーが間違いなく主流になっていくと思います。

もっと言えば、私は結局、「オネスティ(正直さ)」が重要だと考えています。実を言えば昔もいまも、自分に正直で素直な人が成果を出しているのです。
本質的には、マネジャーはこれまでもこれからも、自身の成長のため、そして組織の変革のために、謙虚で素直になれるかどうかが問われているのです。ただ今後は、その点がもっとスポットを浴びるでしょう。きっと近いうちに、自分をさらけ出す勇気やオネスティが、勝ち残っていくための最も重要な要素だといわれるようになるはずです。

弱みをさらけ出すときには「オープニング」が必要

桑原:ところで、どうやって弱みをさらけ出したらよいのでしょうか?

中竹:そこは大切なところで、いきなり弱みをさらけ出してはいけません。弱みをさらけ出すときには、例えばマネジャーなら、必ず「自分はこれまで以上に成長したいし、勝ちたい。そのために、みんなに弱みをさらけ出そうと思う」といった「オープニング」の言葉を話してから、「自分にはどうしてよいか分からないから、このビジネスを成功させるための方法を教えてほしい」などと伝える必要があります。このオープニングがないと、「マネジャー、いったいどうしたんですか?」と言われて終わりなのです。これはメソドロジーですから、みんな学んだ方がよいと思います。

それから、いきなり大勢の前でやるのが難しければ、最初はペアでもかまいません。まずは心を許せる友達にだけ弱みや悩みを打ち明け、教えを請うてみるのです。もちろんそのときも、オープニングの言葉は必要です。ペアで学び合える関係をつくれたら、チーム全体に弱さを開示するのが少しは楽になるはずです。

桑原:それでも、弱みをさらけ出すのは勇気が必要な行為ですよね。

中竹:確かにそうかもしれません。しかし、多くの方は、「あの人はそんなことも知らないのか」と思われることが怖いために、弱みをさらけ出すことができず、破壊と超回復のチャンスをみすみす逃しているのです。成長したいという気持ちがあれば、その恐怖を乗り越えることはできるはずです。

以前、エディー・ジョーンズ(元ラグビー日本代表ヘッドコーチ、現在はラグビーイングランド代表ヘッドコーチ)にあらためてきちんとインタビューしたことがあるのですが、そこで「オレは50歳から本当に学びだした」と話していました。50歳を過ぎてからの学びに対する貪欲さは誇れるものだというのです。彼はおそらく、もともと学ぶことに貪欲だったはずです。しかし、それでは足りなかったと感じているのでしょう。成長したいという強い想いがあれば、何歳になっても弱みをさらけ出し、成長していけるというすばらしい例です。

若者こそ新しい学びが得られる相手だ

桑原:最後に、若者から学ぶことの意味やよさについて、どう捉えていますか?

中竹:1つは、違う発想を入手できることです。多くの若者はいい意味で常識を十分に備えておらず、尖っています。その発想の多くは、私たちにとって新鮮で刺激的なもの。大人にはできない見方をする若者、大人が持っていない妄想力を持つ若者がたくさんいるのです。大人の私たちが、彼らから学べることは数多くあるはずです。
例えば、私はあるとき、10代の若者をいきなり会社の役員にして、私と対等の立場でサービスを考えてもらいました。私にはない視点でいろいろなフィードバックをもらいましたが、あるとき彼は、「人材育成の世界って、ダサいですよね」と言うわけです。そこで、彼の目線で「新しいプログラム」を作りました。音楽やタブレットを取り入れたエンタメ要素のある、かっこいいプログラムになりました。
それと、若手に意見を聞いても、使える発想は10個のうち1個くらいしかないという意見がありますが、それは大人のバイアスだと思います。すぐに使えるアイディアは1個かもしれませんが、残り9個は後で爆発するアイディアかもしれない。簡単に判断すべきではないんです。私がよくやるのは、例えばアイディアが10個出てきたら、「どれが一番いいか」と即座に優劣をつけるのではなく、それぞれのよさを尊重した上で、「たまたまこれが自分には響いた」「これはどういう意味?」「他にはこういうのもあるよね」という風に、意見交換をしながら深めていく方法です。

桑原:なるほど、その方が残りのアイディアからも、新しい学びを得るチャンスが断然増えそうですね。
話は尽きませんが、最後に読者へメッセージをいただければと思います。

中竹:私は、学ぼうという姿勢があり、オープニングのメソドロジーを知っていれば、基本的には誰もが学んで成長していけると考えています。だからこそ、その姿勢とメソドロジーを多くの方に学んでいただきたい。このオトマナプロジェクトを通じて、その想いを多くの方に伝えられたら嬉しいです。



今回の対談では、よきリーダー像が「教える人から学べる人へ」「フィジカルの強さや知識の豊富さからアティチュードへ」大きくシフトしていることが示されました。その背景には、前例や経験が通じにくくすさまじいスピードで変化していく社会の変革があるわけですが、そこに加えて注目したいのが若者の変化も同時並行で進んでいることです。ミレニアルズと呼ばれる新しい世代は近い将来に職場のマジョリティとなるゆえ、その世代を生かす力は今後のリーダーにとって欠かせません。中竹氏は、学べる大人のアティチュードとして「謙虚さ」と「オネスティ」を挙げ、そして「弱さをさらけ出せる」ことが何より大切だと言われました。こういうリーダーは、実はいまの若者にとっても理想的といえます。強くてすごいリーダーよりも、自分たちと等身大で、弱音も含めて何でも言えるような人、その場の雰囲気に合わせて演じる必要がなく、普段の自分をさらけ出せる人や職場の方が、本来持っている意欲や力を発揮するのがミレニアル世代の大きな特徴です。その点からも、リーダーのみなさんには、弱さをさらけ出すことを恐れず、むしろ望まれていると思ってトライしていってもらいたいと思います。

次回は、新しい大学教育として注目を浴びている立教大学経営学部ビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)を推進されているお二人の先生に登場いただきます。BLPは、先生が教えるだけではなく、まさに学生と学び合いながらプロジェクトを進めていくスタイルを取っています。いまの学生との接点を通じて、「若手のよいところ、魅力、強み」についても取り上げていく予定です。(リクルートマネジメントソリューションズ 主任研究員 桑原正義)

PROFILE
中竹 竜二(なかたけ・りゅうじ)氏
(公財)日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター、株式会社TEAMBOX代表取締役(CEO)。
1973年、福岡県生まれ。早稲田大学ラグビー蹴球部主将として全国大学選手権準優勝。卒業後、英国留学を経て、三菱総合研究所に勤務。2006年、早大ラグビー蹴球部監督に就任。同部を2度の大学選手権制覇へと導く。10年から日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター、U20日本代表ヘッドコーチなどを歴任。日本における「フォロワーシップ論」の提唱者の一人。スポーツに限らずビジネスにおいて次世代リーダーの育成や組織力強化に取り組む。『判断と決断』(東洋経済新報社)等、著作多数。

桑原 正義(くわはら・まさよし)
1992年4月人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)入社。
営業、商品開発、マーケティングマネジャー、コンサルタント職を経て、2015年より、トレーニング商品の開発に携わる。「新人・若手が育つ組織づくり」を専門領域とし、広く活動している。

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