【連載】 “なぜ大人は若者から学べないのか?(オトマナ)プロジェクト” 
第4回 加藤洋平氏×中竹竜二氏・桑原正義
自らの原点に回帰してイバラの道に飛び込めば、
大人はいつまでも成長できる

私たちはこのたび、中竹竜二氏(日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター/株式会社チームボックス 代表取締役CEO)と共同で、“なぜ大人は若者から学べないのか?(オトマナ)プロジェクト”を発足しました。時代の変化にともない、学び直し、特に「異質からの学び」が重要視されるなか、「大人が若者から学ぶにはどうすればよいか」を明らかにすることを目的とした研究プロジェクトです。

若者の価値観は、大人(年長者)の価値観よりも新しい時代を捉えたものであり、大人にとっては、新たな視点の獲得や学びに大いにつながります。しかし、大人は若者から学ぶことが必ずしも上手ではありません。そこで、「なぜ大人は若者から学べないのか、どうすれば学べるのか」を掘り下げ、「異質からの学び」のポイントや、大人と若者が共に生かし合う方法について、考察を深めていきたいと考えています。

プロジェクトでは、大人が若者から上手に学んでいる事例、学ぶべき若者の事例、大人の学びといったことについて、さまざまな実践家や有識者の方々にインタビューを行っています。
ここでは、その一端を対談形式でご紹介します。

第4回は、中竹氏とオトマナプロジェクトメンバーの桑原正義(弊社主任研究員)が、『なぜ部下とうまくいかないのか』(日本能率協会マネジメントセンター)などの著作で知られる知性発達科学の専門家・加藤洋平氏と、「大人の学び」について、成人発達理論の観点から対談を行いました。
*加藤先生はオランダ在住のため、オンライン会議にてインタビューを実施しました。


大人が若者から学ぶのは、最も難しくも意義のあるテーマ

桑原:今回は、このプロジェクトのテーマである「なぜ大人は若者から学べないのか」について、成人発達理論の研究と企業向けコンサルティングに取り組まれている加藤先生とともに考えていきたいと思います。

「大人の学び」に関連する研究分野として「成人発達理論」がありますが、代表的なものの一つとして、ハーバード大学教育学大学院教授で『なぜ人と組織は変われないのか』(英治出版)の著書であるロバート・キーガン氏の理論があります。加藤先生はキーガン氏から直接学ばれた経験もおありですが、キーガン氏が提唱する成人の発達段階について簡単に説明をお願いします。

加藤:ロバート・キーガンは5つの意識段階を提示しています。
発達段階1は抽象的な概念を扱えない「具体的思考段階」ですが、これは子どもの意識段階ですから、今回の話にはあまり関係がありません。発達段階2以降が大人の意識段階です。
発達段階2は「道具主義的段階(利己的段階)」で、この段階の人は極めて自己中心的な認識の枠組みを持っています。
発達段階3は「他者依存段階(慣習的段階)」で、組織や集団に従属し、他者に依存する形で意思決定をする点に特徴があります。いわゆる指示待ち人間の意識段階ですね。
発達段階4は「自己主導段階(自己著述段階)」で、この段階に来ると、自分なりの価値体系や意思決定基準を持ち、自律的に行動することができるようになります。
最後の発達段階5は「自己変容・相互発達段階」で、自己の価値観に横たわる前提条件を考察し、深い内省を行いながら、既存の価値観や認識の枠組みを打ち壊し、新しい自己をつくり上げていく意識段階です。

なお、発達段階4に達する人は成人人口の2割未満、発達段階5は同1%未満という調査結果が出ており、到達するのは簡単ではありません。

桑原:「大人が若者から学ぶには」という本プロジェクトのテーマは、まさにこの発達理論において、大人が発達段階4から5に進むことの難しさと意義を示しているなと思いました。発達段階4では自分なりの価値観を持つようになりますが、一方で自分の価値観から抜けきれずに、自分と明らかに異なるタイプの若者から学ぶことがなかなかできません。そもそも異質からの学びが難しい上に、日本ならではの上下関係の意識も邪魔して、異質で年下の若者から学ぶ行為は、体験を積んだ大人ほど難しいのだと思います。

一方で、これからの時代、大人が若者に学ぶ意義は大きくなってくると思うのです。新しい時代環境で生まれ育った若者たちは、知識や技術面に限らず、考え方や価値観においても進んでいるところや、学べるところが多々あると感じています。経験豊富な大人が若者からも学び、発達段階5に登っていく人が増えていけば、お互いの違いや強みを生かし合える、双方にとってより楽しくやりがいのある社会や組織になっていくと思うのですが、いかがでしょうか。

加藤:そのように考えて間違いではないと思います。発達段階5の人は、他者と関わり合うことによって、お互いの成長・発達を促すような触媒の役割を務めることができます。彼らは若者から学ぶことも、若者の学びを促すこともできるのです。

桑原:ちなみに、この発達理論は文化や言語、人種などを超えて普遍的にあてはまるものですか?

加藤:はい、この発達理論は人間の発達プロセスに普遍的に見られる特質を説明しています。そのため、文化や言語、そして人種の垣根を越えて、世界中の全ての人がこの理論で提唱されている発達段階を辿っていくと言えます。ただし、私たちの意識は社会制度・文化・慣習などに強く影響を受けますから、国や時代によって段階ごとの分布が異なります。

例えば、日本の1980〜1990年代は、言われたことを忠実にこなす発達段階3の人材がたくさんいる方がうまく回る組織やビジネスが多く、実際に発達段階3の方が多かったと思います。

一方で、現在の日本には、自分なりの価値観を持って自律的に動ける発達段階4の人材が必要なビジネスが増えています。しかし、それに合わせて、日本に発達段階4の方が急速に増えているわけではありません。先ほどもお伝えしたとおり、発達段階4は成人人口の2割未満、発達段階5は1%未満といわれており、そもそも決して多くないのです。いまの日本に停滞感があるのは、そうしたところにも原因があるのではないかと思います。発達段階4や5の人材を育成していくことには、私も関心を持っています。

桑原:ありがとうございます。いろいろな捉え方があると思いますが、今回は「大人が若者から学ぶには」を段階4から段階5への移行として捉える観点からディスカッションしていければと思います。

大人の学びには「自己開示」が必要だ

加藤:ところで、中竹さんは現在のラグビー日本代表やU17日本代表のコーチを選定する立場にあるとお聞きしましたが、どういった基準で選定しているのですか?

中竹:その基準ははっきり決めています。「アンラーンできるかどうか」、言い換えれば「恥を捨てて学べるかどうか」を見ています。

例えば、日本ラグビーフットボール協会のコーチが集まるワークショップで、難しいお題が出たとします。そこで、勇気を持ってチャレンジし、うまくできなかったときに「頭が真っ白になって、パニック状態になっちゃいました」と仲間たちの前で素直に言えるかどうか。みんなのために、みんなの前で恥をかけるかどうか。ほとんどその1点だけを見ているのです。

加藤:素晴らしい選定基準だと思います。先ほども触れましたが、発達段階5は「相互発達段階」と言われていまして、相手の成長を促すことを通じて自らも成長していく点に特徴があります。

そのときに問われるのは、これまで学んできたことを手放し、新たな学びを通じてさらなる成長を求めようとするエネルギーの大きさです。そうした成長エネルギーが大きい人の方が、相手の成長をより促せるのです。アンラーンできる方は間違いなく潜在的な成長エネルギーが大きいですから、きっと選手と一緒にぐんと伸びていけるのではないかと感じます。

それからもう1つ、「自己開示」できるかどうかが、大人の発達において重要なポイントです。というのは、発達段階4は自分の価値体系に凝り固まった状態で、まだ自己開示ができないのです。しかし、自己開示しなければ、他者からのフィードバックがもらえませんから、発達段階5への成長が起こりません。発達段階5に踏み出すためには、恥を捨てて、みんなの前で自分をさらけ出す必要があるのです。その点でも、中竹さんの選定基準は的確だと思います。

桑原:中竹さん自身もキャリアのなかで自己開示してきたと思うのですが、なぜ自己開示できるようになったのですか?

中竹:ゼロスタートだったからというのが大きいと思います。実は、私は、ほぼコーチ経験のない状態で、いきなり早稲田大学ラグビー部の監督になったのです。ド素人が突然、大学界トップのチームの監督になったわけですね。それで、私は最初から選手たちに、「自分はリーダーシップではなく、フォロワーシップでやっていきたい。私は皆を支えるから、皆は自分たちで考えて戦ってほしい」と宣言しました。その方が、明らかにパフォーマンスが高くなると思ったからです。当然、選手からも関係者からも強い批判を受けましたが、方針は変えませんでした。だって、私には彼らをリードするだけの実力はありませんでしたから。

桑原:それで結果が出なかったらという不安はなかったのですか?

中竹:結果が出なかったら謝るしかないと思っていました。選手のパフォーマンスを高めるのは私の仕事ですけど、その結果として勝てなくても、仕方がないじゃないですか。そういう意味では、自己開示やアンラーンができないコーチが多いのは、結果を気にしすぎるからだと思います。

加藤:結果を気にしすぎるというのは、確かに発達を阻害する要因の1つです。例えば、発達段階3では他者の視線、発達段階4ではこれまでの経験やプライドが、結果を気にしすぎる要因になります。中竹さんのおっしゃるとおりで、これを乗り越えなくては次の段階に進めません。

中竹:このシリーズで以前にも話しましたが、スポーツにおいて世界で勝つコーチは勝利を強調しすぎないことが分かっています。重要なのは自身の最高のパフォーマンスを出すことで、勝利はその結果でしかありません。勝負する以上、誰もが勝ちたいと思っているわけで、その環境のなかでさらに「勝て」「結果を出せ」と言うのは、無駄にプレッシャーをかけて、最高のパフォーマンスを妨げるだけなのです。

加藤:キーガンの成人発達理論でも、いま自分が発揮できる最大限の力を継続的に発揮し、直面している課題を乗り越えていくことが次の発達段階に進む最良の道だと考えられています。勝利を強調しすぎることは、最大限の力の発揮を妨げ、成長を妨げる要因にもなるのではないかと思います。

イバラの道に踏み出せるかどうかが大人の成長を左右する

中竹:では、「なぜ大人の学びは難しいのか?」という問いをさらに掘り下げていけたらと思います。

加藤:大人の学びを実現し、発達段階5に行き着くためには、自己開示して越境し、異質な他者と接して、自分が一度構築した価値観を打ち壊す「自己の脱構築サイクル」を繰り返す必要があります。それが難しいのです。

中竹:その点について、普段私が感じていることがあります。というのは、私はいま、日本ラグビーフットボール協会で「コーチのコーチ」を務めているのですが、そこで見えてきたのは、「Tラーニング」の重要性です。

Tラーニングとは、1つの専門分野に加えて、その周辺分野にもある程度詳しくなることです。専門性を1つだけ高める「Iラーニング」では限界があるのです。

例えば、日本代表のラグビーコーチを目指す人材が、日本代表に近いチームのコーチばかりをしていると、ある時点で成長がストップしてしまいます。そこで、いったん日本代表レベルを離れて、初心者チームや小学生チーム、女子チーム、若手チームなどのコーチを担当してもらったりすると、成長しやすくなるといわれていて、私も実際にそうだと思っています。


加藤:中竹さんのおっしゃるとおりで、発達段階4は、しっかりと自分なりの軸や専門性を確立する時期ですが、そこから更なる成長を実現して発達段階5に向かうためには、他の領域へ越境し、異質な他者や異分野などに接する必要があります。それは理論的にも提唱されていることです。

中竹:そこで困るのは、エリートコーチがレベルの高いチームのコーチばかりしたがる傾向があることです。しかし、日本代表のコーチは、実は相対的には難しくないのです。私もあるとき日本代表のコーチを務めましたが、予定以上にはかどって練習時間が10分も余って驚いたことがあります。選手全員が優秀で、技術も理解力もあるから、コーチはさほど工夫しなくてよいのです。

反対に、U17日本代表のコーチはチャレンジングでした。代表に初めて選出された選手ばかりで、能力差が大きいですし、「ストレートラン」という言葉1つとってみても捉え方が違い、なかなか思ったとおりに動いてくれません。また、スパルタコーチに学んできた指示待ちの選手がいる一方で、早くも自律的に動けるメンバーもいて、さまざまな意味で多様なのです。私がU17のコーチをしたときは、まず練習時間内に練習メニューが終わりませんでした。

こうした状況では、コーチは新たな工夫をしなくてはなりません。その工夫を通じて、コーチは成長するのです。コーチとしての実力を伸ばしたいなら、日本代表よりもU17日本代表を見た方が絶対によいでしょう。しかし、そこでどうしても華々しいポジションを選んでしまいがちなところが、多くのコーチが一定レベルから成長できずに停滞してしまう原因ではないか。これが私の仮説なのですが、どう思いますか?

加藤:そのとおりだと思います。さらなる成長を実現するためには、いまの自分にとって困難な課題、つまりある種のイバラの道を歩むことが重要になります。中竹さんのお話のなかにあるように、能力差が大きく、練習1つとってみても捉え方が異なる多様な選手と真摯に向き合っていくなかで試行錯誤をしていくことが、コーチとしての幅と力量を広げていくことになると思います。

その意味では、イバラの道に踏み出していける人が少ないことが、発達段階5の出現率が低い要因かもしれません。例えば、私は日本企業の40代マネジャーたちと話す機会が多いのですが、彼らの多くは、自分たちと価値観が大きく異なる20代メンバーをどうやってマネジメントしたらよいか分からないと言います。しかし、よくよく話を聞いてみると、真剣に若者と向き合ったり、ぶつかったりする経験は意外となかったりします。

つまり、異質な価値観を持つ若者と真摯に向き合い、自らの価値観を再考するような強い必要性に迫られている方はそれほど多くないのではと思います。自分の価値観の枠組みから一歩外の世界に足を踏み出し、異質な他者と対峙することを通じて、自らの価値観を新たに構築していくというアンラーンを迫られる経験が少ないことが、段階4から5への移行を妨げている要因だと思います。

「原点回帰」することで自分の本質に至る

中竹:いまの話とつながるのですが、コーチングの世界では、いかに「アンカンファタブル」な状況のトレーニングを用意するかが重要だとされています。例えば、プレッシャーが大きな状況で練習したり、難しいこと、厳しいことに取り組んだりするなかで、選手がいつでもどこでも良いプレー、難しいプレーができるようになるのが、優れたスポーツトレーニングなのです。こうしたことは成人発達理論では語られているのでしょうか?

加藤:そのことについては、キーガンではなく他の発達論者が触れています。その研究者は、発達とは、いま自分が見えていないものが見えるようになっていくプロセスだと語っています。見えていないものが見えるのは、一見すると良いことのように思えますが、実はそうでもありません。

例えば、人間の悪い側面なども見えてくるわけで、アンカンファタブルでもあるのです。言い換えれば、発達とは、アンカンファタブルな状況にあえて飛び込んでいくことでもあるのです。そうした意味で、優れたスポーツコーチは、こうした状況を選手たちにうまく提供しているのだと思います。

桑原:企業のマネジャーの場合、修羅場経験のような大きな出来事を経て自己変容を遂げる方が多いように思いますが、その点はどう感じますか?

加藤:確かにそうです。ただし、重要なことは、そうした修羅場経験をいかに乗り越えていくかにあります。単に修羅場経験を経ただけでは、本質的な成長につながらないのです。つまり、修羅場の体験をいかに自らの血肉にしていくかが重要になります。

また、昨今の企業社会における課題は高度化しており、そうした課題を一人で乗り越えることが難しくなっているのも事実かと思います。そうしたなかで重要になるのは、他者との協働を通じて他者から学び、他者からの支援を得ながら課題と向き合っていくことです。先ほどの話にあったように、自己の内側に閉じた形で修羅場経験を乗り越えていこうとするのではなく、自己開示をし、アンラーニングをしながら、異質な存在と協働していくことがさらなる成長の鍵を握ると思います。

ここで話題を少し変えさせていただくと、キーガンの理論をはじめとする成人発達理論の根本には、「私たち大人は、誰でも一生涯を通じて成長できる」という考え方があります。私たちには、一生涯をかけて成長を続けていくための内在的な力が備わっているのです。その内在的な力の源は、「成長の喜び」と、日々を生きることの「充実感」や「幸福感」にあるのではないか、というのが私の考えです。

大人が発達を続けていくためには、確かに自己開示をして、イバラの道を歩む必要があります。しかし一方では、日々の生活の充実感や幸福感、あるいは「失われた感性」を取り戻すことが、発達段階を高めていく上で重要だという側面もあるのではないか、と思うのです。

桑原:とても実感があります。「リーダーは段階5にならなくてはならない」「イバラの道を行かなくてはならない」とべき論で伝えても、そこに向かおうとする気持ちは高まらないでしょう。

加藤:「発達段階5を目指しましょう」「発達段階5にならなければならない」といったメッセージは、私は打ち出してはいけないと思います。なぜなら、発達とは、あくまでも自らの内側から花開くもので、無理やり花開かせるものではないからです。英語のdevelopmentの語源は、「包みを開く」という意味です。発達とは、まさに自分の手で自分の包みを開いて、世界を拡張していくような行為なのです。

桑原:では、組織が大人の学びをサポートするには、どんな工夫ができますか?

加藤:無理やり成長させようとするのではなく、成長が自発的に起こることを促す「心理的に安全な場」をつくることが大事だと思います。成長できるだけの心理的安全性が確保されていれば、自発的に成長しやすくなるのは間違いないことです。

心理的安全性に関しては、ジョン・ボウルビィの「アタッチメント理論」が有名です。赤ちゃんにとって、安全基地としての母親の存在があるからこそ、赤ちゃんは安心して世界を探索することができます。赤ちゃんが世界を探索し、新たなチャレンジに踏み切れるのも、安全基地としての母親がそばにいるからです。こうした心理的安全性は何も赤ちゃんの成長だけでなく、大人の成長にも欠かせないものです。

中竹:私はいま、スポーツコーチの育成や企業のリーダートレーニングなどを通して、発達段階5の人材を育てることを仕事にしているのですが、そこでは2つのアプローチを採っています。1つは「ダイバーシティのある環境」を用意することで、例えば、まったく専門外のスペシャリストなどを連れてきて話してもらうと、大きな刺激につながるケースが多いのです。

加藤:それは先ほどもお話しした「異世界」と接する体験ですね。発達段階5に向かう上で必須だと思います。

中竹:もう1つは、「段階をあえて一度落とすこと」です。例えば、「そもそもどういうプレーが好き?」「本当は何がしたい?」と質問するのです。そうすると、意外に答えられないことが多い。普段、そうしたことを考えなくなっているからです
私は、あらためてこうした質問に答えることが成長に向かう上で欠かせないのではないかと感じています。

それから、私はいま、イギリス・プレミアシップのあるラグビーチームが、トレーニングの一環としてトランポリンの上で跳ねたり、大きな玉を転がしたりしていることがとても気になっています。このチームは、身体を動かす原点にある喜び、エンジョイの本質にあらためて触れさせるトレーニングをしているのです。私は、こうした原点回帰のトレーニングが、本当はどの分野でも必要なのではないかと思うのですが、その点はいかがでしょうか?

加藤:この話には、私は今日一番、唸ってしまいました。本当におっしゃるとおりだと思います。いまの話を伺って、私は2つのことを考えました。

1つは、「停滞」や「退行」を継続的に経験するほど、成長が進みやすくなるという事実です。私たちの成長は直線的に成し遂げられるものではありません。誰もが積み残した成長課題を持っており、以前の段階といまの段階を行きつ戻りつするなかで、徐々に成長課題を克服していくことがさらなる成長につながります。

例えば、発達段階4でも、100%発達段階4という方は滅多におらず、誰しも発達段階2や3の段階で本来克服するべきだった課題を積み残しているものなのです。そこで、以前の段階の体験をし直したり、あらためて自分の原点にある喜びなどの感情を味わってみたりすると、低次の発達段階にとどまっている部分を引き上げることができます。この行為が、継続的な成長を続けていく上で実は重要なのです。そのことを再認識しました。

もう1つは、プラトンが「人間の内面的な成長とは、自分自身を思い出していくプロセスだ」と語っていることです。プラトンはこの一文で、原点回帰をすることで自分の本質に至ることの重要性を語っているのだと私は解釈しています。中竹さんのお話は、まさにこのプラトンの考えに沿ったものだと思います。

桑原:加藤先生、本日はオランダとのオンライン会議という形式でしたが、とても示唆深い話をありがとうございました。「大人が若者に学ぶ」というテーマは、成人発達のプロセスにおいても非常に意味のあることだと感じました。前回までのオトマナ対談で語られてきたメッセージともリンクする内容が非常に多かったのも印象深く、今後もさらに掘り下げていきたいと思います。

対談中に加藤先生も触れていましたが、企業のマネジャーやリーダーが新人若手の育成に難しさを感じるケースが増えています。自分たちとは明らかに異なる特徴を持ち、これまでの常識や経験が通用しないときなどは、理解し得ない異質な存在に見えてしまうこともあると思います。そんなときは、つい「なんで最近の若い人はこうなんだ」と自分たちの価値基準に照らして、相手の足りない点に目がいきがちです。

今日の対談テーマからは、こんな場面を実は自分が大人として成長していく機会にできることが分かりました。オトマナプロジェクトを始めた動機も、まさにそこにありました。確かに不足点や違和感もあるかもしれませんが、違いからは、学びを得られることもあるはずだと思います。

例えば、競争(誰かが切られる)よりも、みんなで力を合わせてやっていこうとする姿勢、人に役立つことや、よりよい社会を創っていこうとする価値観、仕事の意味ややりがいを追求していく仕事観などは、私自身、人としてより充実した生き方や働きたくなる場づくりにつながるなと学ばせてもらっています。

大人も若者も双方が学び合える関係にさらにしていくために、具体的にどんなことから始めたらよいか、どんな姿勢が大切か、今後もさらにこのテーマを掘り下げていきたいと思います。

(リクルートマネジメントソリューションズ 主任研究員 桑原正義)

PROFILE
中竹 竜二(なかたけ・りゅうじ)氏
(公財)日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター。株式会社チームボックス代表取締役。一般社団法人日本ウィルチェアーラグビー連盟 副理事長。
1973年福岡県生まれ。早稲田大学人間科学部に入学し、ラグビー蹴球部に所属。同部主将を務め全国大学選手権で準優勝。卒業後、英国に留学。レスタ―大学大学院社会学修士課程修了。三菱総合研究所等を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督を務め、自律支援型の指導法で大学選手権二連覇など多くの実績を残す。2010年退任後、日本ラグビー協会初代コーチングディレクターに就任。U20日本代表ヘッドコーチも務め、2015年にはワールドラグビーチャンピオンシップにて初のトップ10入りを果たした。著書に『新版リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは』(CCCメディアハウス)など多数。

桑原 正義(くわはら・まさよし)
1992年4月人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)入社。
営業、商品開発、マーケティングマネジャー、コンサルタント職を経て、2015年より、トレーニング商品の開発に携わる。「新人・若手が育つ組織づくり」を専門領域とし、広く活動している。


※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

シリーズ記事第1回 リーダーは学び続けるために弱さをさらけ出そう (中竹竜二×桑原正義)

第2回 若者の前線感覚と大人の知見を合わせれば、もっと面白いものが生まれる (立教大学 高橋俊之氏・舘野泰一氏×中竹竜二氏・桑原正義)

第3回 自分自身が学び、成長し続けることで人間力が磨かれる (「花まる学習会」代表 高濱正伸氏×中竹竜二氏・古野庸一・桑原正義)

第4回 自らの原点に回帰してイバラの道に飛び込めば、大人はいつまでも成長できる (加藤洋平氏×中竹竜二氏・桑原正義)

第5回 「かけがえのない自分でありたい」エゴが、これからの組織と社会を変えていく (今村久美氏×中竹竜二氏・桑原正義)

第6回 若者による若者の育成論「想定外の未来をつくる!」教育で学校教育を変えていく (石黒和己氏×中竹竜二氏・桑原正義)
関連記事大人は若者から何を学べるか。若者に抱く”違和感”こそ学びのヒント

関連するテーマ・課題

関連する無料セミナー

関連する記事

お問い合わせはこちらから
WEBからのお問い合わせ
資料請求・お問い合わせ
[報道関係・マスコミの皆様へ]
取材・お問い合わせ
電話でのお問い合わせ
0120-878-300

受付時間
/ 8:30~18:00 月~金(祝祭日除く)

※フリーダイヤルをご利用できない場合は
03-6331-6000へおかけください。

記事のキーワード検索
Page Top