【連載】 “なぜ大人は若者から学べないのか?(オトマナ)プロジェクト” 第5回 今村久美氏×中竹竜二氏・桑原正義 「かけがえのない自分でありたい」誰しも持つエゴを認めることで、これからの組織と社会を変えていく

私たちはこのたび、中竹竜二氏(日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター/株式会社チームボックス 代表取締役CEO)と共同で、“なぜ大人は若者から学べないのか?(オトマナ)プロジェクト”を発足しました。時代の変化にともない、学び直し、特に「異質からの学び」が重要視されるなか、「大人が若者から学ぶにはどうすればよいか」を明らかにすることを目的とした研究プロジェクトです。

若者の価値観は、大人(年長者)の価値観よりも新しい時代を捉えたものであり、大人にとっては、新たな視点の獲得や学びに大いにつながります。しかし、大人は若者から学ぶことが必ずしも上手ではありません。そこで、「なぜ大人は若者から学べないのか、どうすれば学べるのか」を掘り下げ、「異質からの学び」のポイントや、大人と若者が共に生かし合う方法について、考察を深めていきたいと考えています。

プロジェクトでは、大人が若者から上手に学んでいる事例、学ぶべき若者の事例、大人の学びといったことについて、さまざまな実践家や有識者の方々にインタビューを行っています。
ここでは、その一端を対談形式でご紹介します。

第5回は、中竹氏とプロジェクトメンバーの桑原正義(弊社主任研究員)が、認定NPO法人カタリバ・代表理事の今村久美氏と、「いまの若者が持つエネルギーやその生かし方」について対話しました(写真左から今村氏、中竹氏、桑原)。


ナナメの関係で高校生の思いを引き出し、動き出すことを支援する

桑原:まずはカタリバの活動について教えてください。

今村:カタリバは2001年、私が学生だったときにつくった組織で、現在の職員は100名程度、大学生や社会人などのボランティアスタッフは毎年4000〜5000名が活動してくれています。高校生への出前授業によるキャリア学習プログラム「カタリ場」を中心に、被災地の放課後学校「コラボ・スクール」のほか、中高生の秘密基地「b-lab」、高校生が地域の課題に取り組む「マイプロジェクト(マイプロ)」、教育から地域の魅力化に取り組む「おんせんキャンパス」、困難を抱える子どもたちに学びと居場所を提供する「アダチベース」など、さまざまな事業を展開しています。

私たちの活動で共通して大事にしているのは、「ナナメの関係」による場づくりです。カタリ場の授業では、大学生や社会人などのキャストが高校生から「興味のある分野」や「進路についての悩み」の話を引き出す一方で、「自分が大学生活で熱中していること」や「高校の頃の失敗談」を高校生に語りかけます。「自分の話を聞いてもらえた」という体験や、「こんな大人になりたい!」という憧れとの出会いが、高校生の心に火を灯し、将来への一歩を後押しします。利害関係のある先生でも親でもない、同じ視点になりがちの友達でもない、一歩先を行く“先輩” (ナナメ)だからこそ、安心して本音を引き出し、さらに広い世界を見せることができるのです。

中竹:キャストは大学生が中心ということですが、専門性はそれほどなくてもいいのですか?

今村:参加者にはメンタリング用のトレーニングなどもしているのですが、大学生たちが「当事者に限りなく近い」ことが、実は強力な専門性なのではないかと思っています。私などは、もう高校生の感覚やノリがよく分からないのですが、大学生の彼らは、聴いている音楽やLINEのコミュニケーション文化みたいなものも含め、高校生の感覚を肌で理解できます。課題を解決しようという関わりよりも、その子の心のなかにある気持ちを理解し引き出せるかどうかが大事なので、これは大きな強みです。

中竹:素晴らしい取り組みだと思います。実は、アメリカの心理学者であるエドガー・シャインさんも著書の中で書かれていましたが、「最も効果的な支援は、相手と同じところに立って、相手と一緒になって考えることだ」ということが研究をしていく中で明らかになっています。「支援」というと、どうしてもスペシャリストが専門性を使って助けるイメージがあると思うのですが、一緒に考えるスタンスの方がより効果的なのです。また、脳科学の研究成果では、人が教えられるなかで最も求めているのは、「この人はどのくらい自分に興味があるか?」であることも分かっています。教えられる内容よりも、関わる側の姿勢の方が重要なのです。

つまり、「ちょっと先輩の大学生が、高校生と同じところに立って、興味を持って必死に関わりながら、一緒になって言葉を引き出していく」というカタリ場の仕組みは、科学的にも極めて正しいのです。今日は、そうした活動をしている今村さんの生の声を伺うためにやってきました。

誰もが自分の可能性を広げられる機会をつくりたいと思って始めたカタリバ

桑原:なぜカタリバを始めようと思ったのですか?

今村:私は、岐阜県の高山市で生まれ育ち、その小さな世界を飛び出したいと思って、AO入試で慶應義塾大学に進学しました。通っていた湘南藤沢キャンパス(SFC)には帰国子女が多く、IT企業を立ち上げようとしていたり、体育会に学生生活を捧げていたり、確固とした将来の夢に向かって励んでいたりする先輩や同期など、これまで私が知らなかったタイプの同年代がたくさんいたのです。彼らを見て、「時間の使い方を自分で選んで、将来を自ら切り拓こうとしている人が世の中にはこんなにたくさんいるんだ」と衝撃を受けました。一方で、成人式などで地元に帰って友人と会うと、「毎日がつまらない」「大学、面白くない」などと言う人も少なくないのです。私自身が高校まではそうだったのですが、地元の友人たちをはじめ、多くの同世代には、「勉強はさせられるもの」「自分の将来は半ば周囲に決められるもの」と思い込んでいる人もいたのです。
でも、私はそこで「違う、そうじゃないよ、時間の使い方や将来は自分で決められるんだよ」とは言えませんでした。まるで私だけが良い環境に出会ってしまっているかのようで、どこか申し訳ないという感覚を持ってしまったからです。

大学の友人たちの多くは、私や地元の友人たちが当たり前と思っている環境よりもずっと多額の教育コストをかけてもらって育ってきた方が多くいました。海外滞在経験や海外留学経験があったり、さまざまなチャンスや出会いの場があったりしました。1年生の頃はただただ刺激的で楽しかった環境も、だんだん「これって不条理な階級社会ではないか」と、フラストレーションや怒りを感じるようになっていきました。誰しもが平等に高額の教育機会を得るのは難しいでしょう。
でも、高校時代に憧れとなるような大学生や社会人の先輩方に自分の思いを聞いてもらって、背中を押してもらえる場があるだけでも、私や岐阜の友人たちはもっと自分の可能性を広げられたのではないか。私はそう考えたのです。こうした階級社会や格差を解消し、必ずしも環境に恵まれていない普通の8割の高校生が主体的になれるきっかけを提供したいという思いからつくったのが、カタリバという組織です。

その意味では、最近はカタリ場事業に加えて、高校生自身が、些細なことでもいいから自分なりのプロジェクトを企画し、実行するところまでを支援する「マイプロジェクト(マイプロ)」にも力を入れています。支援される、サービスを受ける側だけでなく、担い手に回った方が子どもたちは元気になりますし、10代ならではの視点を生かして、マイプロを自ら企画・実行することが、一人ひとりの可能性を大きく拓いていくからです。

中竹:ボランティアスタッフはどうやって集めているのですか? どういった若者が多く集まってくるのでしょうか?

今村:WEBサイトやWEBマーケティングを介してカタリバの活動を知ったり、友達の話を聞いてやってきたりする学生が大半です。応募動機はさまざまで、ソーシャルリーダーになりたい、学校の先生になるためのトレーニングとしてやってみたいという学生もいますが、一番多いのは、自分が高校生のときに知りたかったこと、感じたかったことをいまの高校生に届けたいという感覚の学生です。また、他人に関わるという経験に、自分のやりがいとか居場所とか新しい可能性を発見する学生が多いです。逆にいえば、いまの若者には、異世代の他者に深く関わる機会がひと世代前に比べてあまり多くないのだと思います。実際、「部活以外では、ちょっと年下の世代に関わるチャンスがなかったので、ナナメの関係が新鮮だった」といった感想をよく耳にします。

スマホやSNSには功罪のどちらもある

桑原:では、今村さんがいま感じていることを伺いたいのですが、最近の高校生をどう見ていますか?

今村:1つ強く感じているのは、「ツールの変化」が私たちの活動を難しくしていることです。スマートフォンとSNSが、高校生の生活を大きく変えています。例えば、私がこの前出会ったのは、教室でも帰った後も、LINEで遠く離れた福岡の友達と、好きなアイドルについてひたすらやり取りしていた高校生です。こうした子は、学校内でのコミュニケーションが極めて少なく、もはや学校に何の価値も意味も感じていません。一方で、先生や大人たちは、こうした子がいま何を考えているか、何を思っているかを把握するのがどんどん難しくなっていて、彼・彼女にどういった機会を用意すればよいかが想像しにくくなっています。彼・彼女たちがSNSで趣味の合う仲間とつながることは一種の救いですから、一概に悪いことではありませんが、スマートフォンとSNSによって学校という空間の価値や意味は、今後変わらざるを得ないのではないかと思います。

ただ一方で、スマートフォンやSNSを武器にして、ぐんぐん伸びていく子たちが多いのも事実です。例えば、先ほど少し触れたマイプロの事例でいえば、スマホで地元のことをいろいろ調べて、その情報を基にカルタやカードゲームを作って、地域のおじいちゃんたちと一緒に遊ぶというマイプロを実行した子がいます。それから、東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県大槌町のある子のマイプロは、「星のガイド」でした。星が大好きな彼女は、大槌町に来てくれる震災ボランティアの皆さんに何か貢献できることがないかと考えて、東京では星があまり見えないことに気づき、クラウドファンディングでお金を集めて望遠鏡を買って、「大槌町に星を見に来てください。私が皆さんの星のガイドをします」とSNSで呼びかけ、震災ボランティア以外の理由で大人たちが大槌町に行く理由をつくりました。ほかにも、大槌町に石碑ならぬ「木碑」を作って、それを何度も作り直していけば震災の記憶をずっととどめておけるのではないかと考え、自分で企画書を作って工務店に提出したり、地域のおじいちゃんたちを上手に引っ張り出してワークショップをしたりして、実際に木碑を作りあげた子もいます。マイプロで、大人が考えつかないようなアイディアをこうやって形にする子どもたちは少なくありません。スマホやSNSには、功罪のどちらもあると思います。

中竹:私が見ていたラグビー高校日本代表チーム(U20)では、食事会場とミーティング会場ではスマホを禁止しています。「代表活動は限られた時間で行うもの。せっかく一緒にいるのだから、リアルにみんなで話をしよう」と言えば、高校生たちも割とすんなりスマホを手放してくれます。目の前に自分がいるのにスマホを使われると、この人は自分に興味がないんだということが本能的に分かってしまうんですよね。もう波動レベルというか震動レベルで分かってしまう。

桑原:そこ、とても重要だと思います。さまざまな企業の若手社員の育成を手伝っているのですが、彼らが壁にぶつかり悩んでいるときに実は大きく影響するのは、「自分のことを見てもらえているかどうか」という感覚なんです。具体的な指導やアドバイスもありがたいのですが、それ以上に自分にきちんと関心を持ってくれているという安心感が、頑張る原動力になっています。

「かけがえのない自分でありたい」欲求が大きなエネルギーになっている

今村:いまのお話を聞いて、本当にそうだなとあらためて思いました。これは高校生だけでなく、ボランティアスタッフも含めた若者全体の特徴ですが、彼・彼女たちは自分を認めてほしいという承認欲求みたいなものが強い傾向があると思います。カタリバは、「かけがえのない自分でありたい」という欲求を満たせる場所なんです。ここでは、高校生に自分のことを話そうとする過程で、自分について深く考えたり、自分をあらためて捉え直したりして、かけがえのない自分を発見することができます。そして、たった一人自分だけが伝えられるメッセージを発信できるのです。そのことが、カタリバに多くのボランティアが集まる大きな理由の1つになっています。別の見方をすれば、いまの若者たちは、自分のことを誰かに話したり、関心を持ってもらえたりという承認欲求を満たせる場があまりないのだと思います。

ただ、そこには問題もあって、かけがえのない自分であろうとしすぎる子は、会社に入ると組織の論理に合わせられず挫折するケースが多いのです。だから私としては、会社に入っても活躍できるような大学生を育てたいという想いもあります。

中竹:個人的には、そうした人材育成を考えるよりも、いまのまま「たった一人のかけがえのない自分であれる場所」に特化した方が、カタリバの影響力は広がると思います。確かに、若者たちが一度会社に入って、組織のミッションに従う経験を積むのは有益なことだと思いますが、カタリバがそこを担保する必要はないのではないでしょうか。

なぜなら、世の中には、かけがえのない自分でいられる場所が少ないからです。例えば、いつもナメクジばかり見ている子がいたら、多くの親は怒ってナメクジ観察を止めさせて、勉強しなさいと言うでしょう。それは親たちが、いまだに学歴や成績ばかりを気にしているからです。私の見方では、むしろこれまで以上に学歴重視の大人が増えています。でも、その子の存在の根源は、学校の勉強などよりも、ナメクジ観察の方にある可能性が高いのです。だからこそ、「ナメクジを見ていていいんだよ」と言ってくれる人や場が本当は大切で、カタリバはまさにそういう貴重な場なんですよ。先ほどの「星のガイド」の子などは、まさに典型的ですよね。彼女が大好きな星を都会の大人たちに見せたいと思えたのは、カタリバがあったからです。私は、今村さんたちにはそのことにどこまでもこだわってほしいと思います。

それにちょっと関係することで、私が最近気になっていることがあります。それはいま、多くのビジネスパーソンが、働き方改革で業務時間が減ったにもかかわらず、毎日の退社後に何をしていいか分からずに路頭に迷っていることです。それに対して、私は先日、フォーブス ジャパンに“「好きなことが見つからない」は正しい”という記事を書きました。私の想像以上に読まれていたらしく非常にたくさんのページビューを出したと聞いています。私は、彼らが何をしてよいのか分からないのは、正しいことだと思います。なぜなら、好きなことが見つからないのは、これまで会社に馴染むよう、社会に馴染むよう、自分を消して真面目に頑張ってきた証だからです。それを誇りに思った上で、いまから好きなことを見つけていけばよいのです。言い換えると、大人は大人で、たった一人のかけがえのない自分でいられるチャンスが、これまでなかなかなかったわけです。いままさに、大人にもカタリバのような場が必要とされているのだと思います。

桑原:子どもたちに大人の感覚で何か違和感を持っても、そこに興味を持って大人も理解しにいき、生かしていく発想が重要ということですね。先日、そのことにつながるような面白い調査結果が出ました。30代以上の皆さんに、いまの10代・20代についてどう思うかを聞いたアンケートがあるのですが、「若者から学んでいる大人」と「そうでない大人」がはっきり分かれました。両者ともに、若者たちの特徴として「自分基準(自分のことを中心に考える傾向)」を挙げたのですが、それをどう捉えているかで明確な違いがありました。「若者から学んでいる大人」は、「好きなものは好き、嫌いなものは嫌いとはっきり伝えられる強さを持っている」「人間本来の生き方についてヒントをもらっている」など、自己の価値観を重視する生き方をポジティブに捉えている一方で、「そうでない大人」は、「愛社精神はなく、転職ありきで考えている」「すぐに嫌な仕事から逃げようとする」など、自分勝手な特徴とネガティブに捉えていました。おそらく、若者の自己を重視する姿勢に対して、いずれの大人たちも少なからず違和感はあるのだと思います。そこから「自分の価値観とは違うけれど、どうしてそう考えるのだろう」と興味を持ち対話してみると、意外な発見や学びがあるかもしれないというのがこの調査からの示唆でした。

中竹:まさに、そのとおりだと思います。

今村:いまの若者たちは、自分の関心領域を選んで、自分に自らタグをつけて活動しています。例えば、「私は地域×医療で活動していきます」みたいなことを自分で決めて、SNSでどんどん発信しているのです。以前なら、会社に所属することで自分をタグ付けしていたわけですけど、それをしなくてもよい時代になりました。これからは、大人も若者も、興味・関心を起点にして自分のタグを考えていく時代なのかもしれません。もちろん40代にもなれば、単に興味・関心だけでタグ付けしている場合ではなく、専門性や経験などに裏付けされたタグも一方で必要になると思いますが。

「エゴ万歳」の姿勢が若者の可能性を拓く

桑原:根本的なことを伺いますが、いまの子たちはなぜ承認欲求が高いのでしょう? 過去に比べ、保護者は子育てに熱心になり、教育現場は一人ひとりの個を尊重するようになっています。しかしそれに逆行するように、承認欲求は満たされず、自己信頼も低下しています。ここに日本の教育の本質的な課題があるように感じるのですが。

中竹:最大の原因は、いま話したように、多くの親が学歴や成績ばかりを気にしているからでしょう。彼らはなんだかんだいって、良い学校に行くことが一番大切だと思っています。そういった親たちが、子どもの「たった一人の自分」の部分を認めていないから、承認欲求が余計に高まってしまうのです。それから、叱ってくれる大人が減ったことも大きいと思います。叱るということは、大人がその子のことを本気で気にかけることですから、承認欲求が満たされます。つまり、いまの大人たちは、子どもたちの承認欲求を全然満たしていないのです。

桑原:若者がNPOなどの「ソーシャルな活動」に志向が向いているのも関係するのでしょうか?

中竹:それも当然のことで、大企業の歯車の1つになっても、彼らの承認欲求が満たされないことははっきりしていますし、高い給料をもらってお金持ちになって満たされるかといえば、そこにも限界があることが明らかです。それよりも、社会的意義のあることをやって相手に感謝される方が、彼らの欲求をずっと満たすのです。

今村:中竹さんのおっしゃるとおりで、いま大事なのは、大人たちが若者たちの承認欲求をつぶさずに認めていくことだと思います。若者たちの「これやりたい」という欲求に対し、「やってみたらいいよ」とチャレンジを後押ししてあげれば、大きなパワーを発揮するケースが多いのです。そこには、大人の度量が必要かもしれませんが。

桑原:大人の度量とは、どういうものですか?

今村:やっぱり一回こらえて、その子の持っている承認欲求を認めてあげるっていうことです。
もはや「まずは雑巾がけから始めよう」が通用する時代ではありません。誰しも持っている、もっと自分はすごくなれる、そういう自分になりたいというエゴですね、エゴを認めてあげて、エゴを武器にして進んでいくにはどうしたらよいかを一緒に考えてもらえたらと思います。そうしたら、大人が考えつかないような発想や行動で、私たちを驚かせてくれるような活躍をしてくれると思います。

中竹:「エゴ万歳」ということですね。

今村:私もこのカタリバを立ち上げたときに、学校教育のこともよく知らないのに高校生たちに機会をつくりたいって、結局エゴでしょって言われました。もっとキャリアを積んで、プロフェッショナルになってからでいいのではと多くの人に言われました。それも一理あったと思うんです。でも、鈴木寛さん(東京大学教授、慶應義塾大学教授、元文部科学副大臣)や村井純さん(慶應義塾大学教授)、寺脇研さん(京都造形芸術大学教授)のような方々が、「カタリバのようなことをやりたい」という私のエゴに、「まずやってみたらいい」と認めて背中を押してくれたからこそ、何年もアルバイトを続けながら、カタリバを軌道に乗せることができたのです。同じようなことをしてくれる大人が増えることが、若者が活躍できるかどうかの鍵になるのではないかと思います。

最近、これは若者だけの話ではないと感じています。特に震災以降ですが、会計事務所や大企業などのビジネスセクターで働いていた人たちが、給料は下がっても、「自分の働く意義をもっと見つけたい」とカタリバに応募してくる人が増えました。誰しもが「かけがえのない自分でありたい」と感じ、たった一人の自分ができることを探しているのだと思います。

桑原:企業は、そうした若者や従業員の価値観の変化に直面しています。就活時は非常に人気があって優秀な学生が入社した会社も、入ってみると「就活時に思い描いていた現実と違う」と言って早々に辞めていく若者が増えてきています。そうした若者を「わがままだ」と捉える見方もできますが、私は大きなパラダイムチェンジが求められていると思います。転職先を見ると、より良い待遇が得られるところではなく、給料が下がっても「仕事の意義ややりがい」が感じられるところに行っています。彼らのエゴは私利私欲ではなく、「もっと良い社会をつくりたい」「困っているこの人たちを助ける仕事がしたい」といった社会的意義や他者への貢献に向かっていると感じるからです。彼ら世代のエゴには、むしろ大いなる希望を感じます。彼らのエゴは現時点では未熟なところがあるかもしれませんが、大人がそれを認め生かすような関わりができれば、大人にとっても企業にとっても、より良い結果につながっていくと感じます。

中竹:私は高校だけでなく、すべての会社でカタリ場を展開した方がいいとずっと思っていました。今村さんたちは、そのくらい素晴らしいことを先駆けて実践しているのだと思います。

今村:ありがとうございます。今日は、自分たちのやっていることに、あらためて勇気が持てました。
 

「かけがえのない自分でありたい」という欲求は、とても大きなエネルギーであり、若者に限らず、人を生かしていく鍵になるものだと感じました。それは今の大人も持っていた(る)ものだと思いますが、それを見つめたり、発露させていく場が時代的にしにくかったのかもしれません。しかし今の若者は、そこにストレートに向き合い、ピュアに実現していこうとする人が増えています。その方向が私利私欲ではなく、よりよい社会を創ることに目を向けている若者が多いことに、未来への大いなる希望を感じます。大人がこうした若者のエゴエネルギーを認め生かしていければ、よりやりがいのある組織や生きがいのある社会を創っていけるものと思います。

取材中、今村さんが感じている悩ましい問題について中竹さんが背中を押す言葉をかけられ、今村さんの表情がものすごく輝いていくというシーンがとても印象的でした。対談でもあげられたように、若者だけでなく、誰しも「かけがえのないたった一人の自分」であることを後押ししてくれる人がいれば、もっといろいろなチャレンジや可能性が生まれてくるのだと思います。

今後は、こうした取り組みを実践している若者本人にもフォーカスし、さらにこのテーマを掘り下げていきたいと思います。

(リクルートマネジメントソリューションズ 主任研究員 桑原正義)

PROFILE
今村 久美(いまむら・くみ)氏
1979年生まれ。慶應義塾大学卒。2001年にNPOカタリバを設立し、高校生のためのキャリア学習「カタリ場」を開始。2011年の東日本大震災以降は被災した子どもたちに学びの場と居場所を提供する「コラボ・スクール」を運営するなど、社会の変化に応じてさまざまな教育活動に取り組む。「ナナメの関係」と「本音の対話」を軸に、思春期世代の「学びの意欲」を引き出し、大学生など若者の参画機会の創出に力を入れる。ハタチ基金 代表理事。第9期文部科学省中央教育審議会 教育課程企画特別部会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 文化・教育委員会委員。

中竹 竜二(なかたけ・りゅうじ)氏
(公財)日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター。株式会社チームボックス代表取締役。(一社)スポーツコーチングJapan代表理事。
1973年福岡県生まれ。早稲田大学人間科学部に入学し、ラグビー蹴球部に所属。同部主将を務め全国大学選手権で準優勝。卒業後、英国に留学。レスタ―大学大学院社会学部修士課程修了。三菱総合研究所などを経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督を務め、自律支援型の指導法で大学選手権2連覇など多くの実績を残す。2010年退任後、日本ラグビーフットボール協会初代コーチングディレクターに就任。U20日本代表ヘッドコーチも務め、2015年にはワールドラグビーチャンピオンシップにて初のトップ10入りを果たした。著書に『新版リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは』(CCCメディアハウス)など多数。

桑原 正義(くわはら・まさよし)
1992年4月人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)入社。
営業、商品開発、マーケティングマネジャー、コンサルタント職を経て、2015年より、トレーニング商品の開発に携わる。「新人・若手が育つ組織づくり」を専門領域とし、10年以上にわたるコンサルティング経験の中で、今の時代で実効性のある育成ノウハウを構築。現在は、研究・開発の立場でさらに研究を深めつつ、ノウハウの体系化、汎用化に取り組んでいる。東京都公立幼稚園・こども園PTA連絡協議会副会長。


※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

シリーズ記事

第1回 リーダーは学び続けるために弱さをさらけ出そう (中竹竜二×桑原正義)

第2回 若者の前線感覚と大人の知見を合わせれば、もっと面白いものが生まれる (立教大学 高橋俊之氏・舘野泰一氏×中竹竜二氏・桑原正義)

第3回 自分自身が学び、成長し続けることで人間力が磨かれる (「花まる学習会」代表 高濱正伸氏×中竹竜二氏・古野庸一・桑原正義)

第4回 自らの原点に回帰してイバラの道に飛び込めば、大人はいつまでも成長できる (加藤洋平氏×中竹竜二氏・桑原正義)

第5回 「かけがえのない自分でありたい」エゴが、これからの組織と社会を変えていく (今村久美氏×中竹竜二氏・桑原正義)

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