「若者から学ぶ大人」の実態調査(オトマナプロジェクト) 大人は若者から何を学べるか。若者に抱く”違和感”こそ学びのヒント

執筆者情報
ソリューション統括部
事業開発部
主任研究員
桑原 正義

私たちは中竹竜二氏(日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター/株式会社チームボックス 代表取締役CEO)と共同で、“なぜ大人は若者から学べないのか?(オトマナ)プロジェクト”に取り組んでいる。時代の変化にともない、学び直し、特に「異質からの学び」が重要視されるなか、「大人が若者から学ぶにはどうすればよいか」を明らかにすることを目的とした研究プロジェクトである。

大人(ここでは30歳以上の人とする)は若者(30歳未満の人とする)より多くの経験をしているため、若者から学ぶことは少ないと思われがちだが、若者の価値観には大人の価値観よりも新しい時代を捉えたものがあり、大人にとっては、新たな視点の獲得や学びに大いにつながる。しかし、大人は若者から学ぶことが必ずしも上手ではない。そこでプロジェクトでは、「なぜ大人は若者から学べないのか、どうすれば学べるのか」を掘り下げ、「異質からの学び」のポイントや、大人と若者が共に生かし合う方法について対談形式で考察を深めている。

オトマナプロジェクト第1回の対談記事はこちら

今回は、実際にどのくらいの大人が若者から学んでいるのか、また学んでいる人と学んでいない人には、どのような違いがあるのかの調査を行った。


調査概要

若者から積極的に学ぼうとしている大人は約2割

そもそも、自分は若者から学んでいると認識している人はどのくらいいるのだろうか。図表1は、「知識・スキル」と「考え方や価値観」それぞれについて、教えたり、学んでいると回答した人の割合である。6肢選択のため、上位2つの「とてもあてはまる」か「あてはまる」と回答した人の割合を基準にすると、若者から学んでいる人は全体の約2割であった。一方、若者に対して「知識・スキル」を教えている人は約4割と多く、若者を学びの対象というより、教える対象として見ている人の方が多いことが分かる。

さらに傾向を分析するために、選択肢を1〜6点に換算した平均得点を集計した。
性別では、全般に男性の得点が高いが、No1と2の「教えている」系の項目の男女差が最も大きかった(図表2)。大人の男性ほど、自分の持っている知識や考え方を若者に教えたがる傾向があると言えそうだ。

年代との関係も探るために、30代、40代、50代に分けて集計した(図表3)。世代間の差が最も大きいのが「若者から、自分にない考え方・価値観を学んでいる」で、年代が上がるにつれての得点の減少幅が大きかった。年を重ねるほど、人は「知識・スキル」よりも「考え方・価値観」を変えるのが難しくなり、自分の経験や価値観に固執することを示唆しているのかもしれない。

「若者から学んでいる大人」はどんな意識で若者と向き合っているのか

若者から学ぶ人とそうでない人は何が違うのかを分析するために、「今の若者に、自分たちの世代にはない、よいところや学ぶところがある」という質問への回答をもとに、若者から学ぶ志向が高い人たちをHグループ(選択肢5か6に回答)、若者から学ぶ志向が中程度の人たちをMグループ(選択肢3か4に回答)、若者から学ぶ志向が低い人たちをLグループ(選択肢1か2に回答)に分類した。

No1〜10の項目は、大人の学びに影響がありそうな項目として同時に聞いたものだが、全項目において、HグループとLグループの得点に明確な差が見られた。(図表4)

ここで注目したいのが、HグループとLグループの得点差が大きかった項目は、【連載】“なぜ大人は若者から学べないのか?(オトマナ)プロジェクト” のなかで、対談者たちが発したキーワードととても共通している点である。

「安心感」のある環境づくりが、若者の力を引き出す

「自分よりも若い人が、思ったことを何でも気兼ねなく話せるような雰囲気づくりや接し方を意識している」という項目は、若者の本来の力を引き出すために必要なプロセスについて問うものだ。立教大学経営学部の「ビジネス・リーダーシップ・プログラム(BLP)」を推進する高橋俊之特任准教授と舘野泰一助教は、対談のなかでこんな話をしている。

「一番大事にしていることは、この場所は、『本気になって勉強するということがバカにされない環境』なのだと、学生たちに感じてもらうことです。それさえ伝われば、彼らはどんどん変わっていきます」(舘野氏)

若者の力を引き出すためには、「自分の素を出すことへの安心感」が大事ということである。

また、「明らかに違うとか稚拙だと思う意見であっても、そこに何か本質や真実があるかもしれないと捉え、発言の意図や理由を聴くようにしている」という質問は、異質から学ぶ姿勢を問うものである。

「授業も毎年改善していくことを大事にしていて、『来年度の授業をよりよくするためには何が必要か』を学生とディスカッションします。学生たちの提案を丸ごと受け入れることはほぼないのですが、その裏にある『ここに違和感がある』というヒントは、むちゃくちゃ得られるものがあります」(舘野氏)

アスリートのコーチを育成している中竹竜二氏は、若者の話の背景にあることに耳を傾けることと、積極的に異質から学ぶことの意義について語っている。

「若者の意見について、一見つまらなそうにみえても、もしかしたら全部宝かもしれないという自分への疑いは、持っているようにしています」(中竹氏)

似たような経験やスキルを持った人間が集まっても、そこからはイノベーションは生まれにくい。VUCAの時代は、若者を含む「異質」に耳を傾け学ぶ姿勢がますます重要になる。

過去の学びを脇に置き、ゼロから学びなおす

「今までのやり方や考え方に拘らず、意識的に新たな考え方や、やり方を学び取り入れるようにしている」という質問では、「アンラーン(unlearn)できるか」を問うている。中竹氏は対談の中でこう語っている。

「学びの本質は、『自分は分かりません』『自分はできません』『一緒に学びましょう』と意思表示する姿勢にあります。大人になればなるほど、この姿勢を取るのが難しくなります。なぜなら、自分の弱みをさらけ出すのは怖いことだからです。<中略>言い換えれば『私たちはどうしたらアンラーンできるのか』ということです。アンラーンとは、覚えたことを一度忘れること。例えば、『これまで自分が使ってきた知識や技術は古くなってしまった。いまでは、若いキミの持つ知識や技術の方が優れているから、それを学びたい』という姿勢を取ることが、アンラーンです。私たちの成長プロセスは、常に『破壊』と『超回復』でできています。筋力トレーニングをすると、筋肉は一度破壊されます。そこで脳が危機を感じ、元の状態よりも多い筋肉をつけようとする。これが超回復です。知的成長も同じ仕組みになっていて、これまで学んだものをいったん横に置き、ゼロの状態から学び直すことで、私たちは更に向上できるのです」 (中竹氏)

「花まる学習会」代表の高濱正伸氏も、自分の経験を脇に置いて、若者から学び、また自らも学び続けることの大切さを語っている。

「2011年の東日本大震災以降、若者の間では『ソーシャル』がキーワードになっていて、役に立つことをしたい、意味のあること以外はしたくないという価値観が高まっているのは間違いありません。若者の考え方は確実に変わりました。その点、大人はどうしても頭が固くなっていますから、子どもや若者を見習って、柔軟に変わろうとする必要があると思います。<中略>僕が幼児教育界で尊敬している愛知県豊橋市の仔羊幼稚園の上里龍生先生も、『自分自身が成長している先生が、一番良い先生だ』とおっしゃっていました。僕の経験でも、子どもは絶対それを感じます。いくら実績があっても、成長が止まっている人は、子どもたちにとって魅力的ではないようです」(高濱氏)

スキルも高く成功体験があるほどアンラーンは難しくなるが、自分とは全く違う異質に接したときに、自分の常識を一旦脇においてみることで新しい学びが掴みやすくなりそうだ。

大人は若者から何を学べると考えているのか

次に、「今の若者は、自分たちの世代にはない、よいところや学ぶべきところがある」という質問への回答の具体的内容(フリーコメント)の記述内容から、Hグループの人が何を学んでいるのか、Lグループの人たちとのスタンスの違いを見ていきたい。図表5は、フリーコメントの記述を意味に応じてカテゴリー分類し、代表的なコメントを抜粋したものである。


まずHグループの人から多く挙がったのが、『最新技術・情報』に関するものである。新しいモノ・コトへの感度は、自分たちよりも若者たちの方が優れているため、大人たちも素直に学んでいる人が多いようだ。

「従来のやり方以外の方法を生み出せるところ」「若者のおかげで、こだわりというものが、単なる思い込みだったことに気づくことがある」など、若者の『柔軟さや新しい発想』も多くのコメントが寄せられた。

「同期同士はライバルではなく仲間意識が強い」「競争よりも共存するスタンス」という『コラボレーションの姿勢』や、「過度に偉そうでない、ありのままでいようとする」「上下関係に委縮せず、自分の価値観をきちんと持って目上の人とも話すところ」など、頼りなく見られがちな若者の別の一面を捉えたコメントも目立った。

「柔軟で新しい発想」を持ちながら、「様々な人とコラボレーションしていく」力は、まさにVUCA時代に求められる力であり、若者がこれまでの時代の限界を感じ進化させてきた力とも言えるのではないだろうか。若者のこうしたポジティブな側面に注目し、それを生かしていくことは、組織マネジメントを考える上でも今後ますます重要になるだろう。実際に、ITベンチャー系の企業を中心に、若者の新しい価値観を取り入れた新規プロジェクトや組織開発に取り組む動きが出てきている。

「わがまま」と見るか「自己をしっかり持っている」と見るか……見方を変えれば、不満も学びにできる

HグループとLグループでは若者の見方は大きく異なるが、唯一、『自己の重視』という特徴を持っている点では一致していた。ただ、その特徴をどう捉えているかについては、真逆になっている点が興味深い。

『自己の重視』について、Hグループの人は、「好きなものは好き、嫌いなものは嫌いとはっきり伝えられる強さを持っている」「人間本来の生き方についてヒントをもらっている」など、自己の価値観を重視する生き方をポジティブに捉えている。一方で、Lグループのコメントを見ると「愛社精神はなく、転職ありきで考えている」「すぐに嫌な仕事から逃げようとする」など、自分勝手な特徴とネガティブに捉えている。

おそらく、若者の自己を重視する姿勢に対して、Hグループの人も、Lグループの人も、少なからず違和感はあるのだろう。そこから「自分の価値観とは違うけれど、どうしてそう考えるのだろう」と興味を持ち対話してみると学びがあるかもしれないが、「最近の若いやつは……」と違いを認めず否定してしまうと、ストレスだけが残りがちだ。

Lグループのフリーコメントには、「仕事を率先してやらない」「言われたことをやるだけで、改善や結果を求めない」というように、受け身でやる気がないと捉えたものもあった。しかしながら、若者だけに原因があるのではなく、若者たちをそうさせている要因が職場にもあるかもしれないと考えることもできる。

すべての人が言うことには必ず何かの正しさがあると考えてみる

若者の考え方や行動を「良い・悪い」で判断するのではなく、違いを認めて尊重し、それを生かしていこうという発想を持てば、大人は若者からももっと学べるはずだ。組織にもたらしてくる価値も大きくなる。年上、年下という上下関係に持ち込むのではなく、役員も新人もフラットな立場でコラボレーションを進め、個々の多様性を尊重するダイバーシティにとどまらず、より積極的に交流し創発を生んでいくインクルージョンに発展させていきたい。

若者から学び、若者の力を事業や組織マネジメントに役立てるためにも、まずは彼らの言葉に耳を傾けよう。若者が頼りなく見えたり、おかしいことを言ったりしていると感じても、学べることはあるのである。立教大学高橋俊之特任准教授はこう語っている。

「極論すると、若者であれ年寄りであれすべての人が言うことには必ず何かの正しさがある。一見、今の状況に当てはまらないのは、前提が違うからとか、あるいは答えは違うけど、その人がこれを言ってきた原因は何かあるはずで。必ずそこに真実があるんじゃないかと思うんですね」(高橋氏)

このようなスタンスに立てれば、優秀な若者だけではなく、すべての若者から学ぶことができそうだ。例えば、対面よりもメールやSNSでのコミュニケーションを好む傾向に違和感を感じるかもしれない。しかし、なぜそうするのかを聴いてみると、「いつでも時間のある時に見ていただけるから」という今の時代の配慮の仕方があったり、社外の人ともつながり様々な情報や知恵が収集できるメリットがあったり、移動中も会話できるツールという忙しい時代のコミュニケーション方法を学ぶ機会にできたりする。

若者の異質は、自らを成長させる機会になる

いつの時代も「最近の若者は……」という嘆き文句があるように、若者は年長者から見るとどことなく頼りなく見えたり、違和感を感じやすいものだ。だからといって、未来を見据え進化しているはずの若者から学ばないのは、大きな機会損失ではないだろうか。

一度、自分たちの考え方や価値観のフィルターを外してみよう。そして、「若者からも学べることがあるかもしれない」と好奇心を持って、彼らの言動を見つめ直してみよう。若者の言動に対して、「良い・悪い」と判断するのではなく、「なぜそうしたのか? なぜそう思うのか?」を聴いてみることも大切だ。自分の考え方や価値観を横において、若者の言動を掘り下げることで、自分たちが常識に縛られていたことに気づき、よりよい生き方や働き方が学べるかもしれない。

発達心理学の世界的権威、ロバート・キーガンは、人間の成長における5つの意識段階を提示している(図表6)。最後の発達段階5は、「自己変容・相互発達段階」。自己の価値観に横たわる前提条件を考察し、深い内省をしながら、既存の価値観や認識の枠組を打ち壊し、新しい自己をつくり上げていく。
つまり自分の価値観にとらわれることなく、若者を含む「異質」から学ぶ大人が増えていけば、お互いの違いや強みを生かし合える、双方にとってより楽しくやりがいのある社会や組織をつくっていけそうだ。大人にとって「異質」な存在である若者の言動に対して「違和感」を抱いたその瞬間こそが、新しい学びを得て、自己変容を引き起こすための絶好のタイミングと捉え関わっていきたい。

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