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【連載】オトマナプロジェクト 第6回 石黒和己氏×中竹竜二氏・桑原正義

若者による若者の育成論 「想定外の未来をつくる!」教育で学校教育を変えていく

  • 公開日:2018/11/26
  • 更新日:2024/04/02
若者による若者の育成論「想定外の未来をつくる!」教育で学校教育を変えていく

私たちは今、中竹竜二氏(日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター/株式会社チームボックス 代表取締役CEO)と共同で、オトマナプロジェクトに取り組んでいます。

若者の価値観は、大人(年長者)の価値観よりも新しい時代を捉えたものであり、大人にとっては、新たな視点の獲得や学びにつながります。しかし、大人は若者から学ぶことが必ずしも上手ではありません。そこで、「なぜ大人は若者から学べないのか、どうすれば学べるのか」を掘り下げ、「異質からの学び」のポイントや、大人と若者が共に生かし合う方法について、考察を深めていきたいと考えています。

第6回は、いよいよ「若者」へのインタビューで、1人目は、「想定外の未来をつくる!」をビジョンに、公立高校での新しい教育にトライしているNPO法人青春基地 代表の石黒和己さんです。(写真左から石黒氏、中竹氏、桑原)

目次
学生の多くは「過去の規範」と必死になって戦っている
不安を受け入れて人生や社会の不確実性を面白がる
「こんなに生徒たちに任せるんですか?」
むしろいい時代に生まれたと感じている

学生の多くは「過去の規範」と必死になって戦っている

学生の多くは「過去の規範」と必死になって戦っている

石黒:皆さんは、なぜ私にインタビューしようと思ったのですか?

中竹:古代ギリシャから、大人たちは「最近の若者は……」と言っていて、それは現代も変わりません。私はそうじゃないと思っていて、若者のポテンシャルをちゃんと伝えて、大人が正しくて若者が未熟だという考え方を逆転させて、一緒に学んだ方がいいと思っています。あと、単純に僕自身が若者に興味があって刺激を受けたいなと。

桑原:私は、石黒さんのような同じ若者から見て、若者を生かすポイントや、大人と若者がもっと学び合うにはこうすればいいんじゃないという話を聞いてみたいです。

石黒:むしろ私から伺いたいのですが、今の大人たちは、若者のことをどう見ているのですか?

中竹:典型的には、今の若者は「受け身だ」「何を考えているか分からない」「組織よりも自分を重視して利己的だ」といった印象を持っています。

桑原:上司からは「相談に来ない」「周りの目を気にしすぎ」「打たれ弱い」「失敗を恐れる」という声が多いですね。

石黒:いい意味で、「組織よりも自分を重視して利己的だ」というのは、とてもよく分かります。というのは、青春基地に集まってくる大学生の多くは、自分が大事にしたいものがある一方で、自分の親御さんからの「安定した企業に入った方がいい」など、これまでの社会では当たり前だった「過去の規範」に板挟みになって葛藤していると感じています。学生からすると、そうした規範が自分自身の意思や世代の感覚から完全にズレてしまっていて、従うべき理由が分からないのです。

ただ一方で、その古い規範に仕方なく従っている学生の方が多いのが現実だと思います。その方がリスクが少なそうだし、周囲にも反対されないので。例えば大学受験の志望校を決めるとき、一度は自分の価値観を大事にした選択をしたものの、親御さんから猛反対を受けて、心が折れそうになっている高校生からよく相談を受けます。「受け身」と言っても、強く反対されるくらいなら表面的にだけでも受け入れようとする不戦勝型で、器用に見えて、気づかないうちに本当に受け身になってしまっているように感じます。

不安を受け入れて人生や社会の不確実性を面白がる

桑原:石黒さんは、そういう学生にたくさん出会ってさまざまなリアルを体感されているので、いろいろ聞かせてください。青春基地では、具体的にどのようなことをしているのですか?

石黒:青春基地のメイン事業は「学校プロジェクト」です。全国の公立高校のなかで、生徒一人ひとりの「やってみたい」という好奇心や創造力を起点に、校舎を飛び出し、出会いと経験のなかで学んでいく「Project Based Learning(PjBL)」という新しい学びを届けています。「そんなことできるとは思ってなかった!」という経験を通じて、「生まれ育った環境をこえて、一人ひとりが想定外の未来をつくる」ことを目指した取り組みです。

日々、多くの高校生・大学生と関わっているのですが、そのなかで課題として感じているのは、「できない」という思い込みが強いことです。無意識のうちに自身の能力や行動力に上限を決めていて、「自分には難しい」と過小評価している場合がとても多いです。もう一つは、決められた正解を答えることに慣れ過ぎていて、過去の規範や他者評価に縛られている点です。
青春基地でとても大切にしている対話は、この「過去の規範」と「彼・彼女ら自身の直感」の天秤を揺らしているのだと思います。話していると、彼・彼女らはゆらゆらと、自分の直感の方を大事にしたい気持ちに気づいていきます。続けていると、そのうち自分の好きなことを追求していくようになるんです。

中竹:その天秤を揺らすとき、どういったことに注意していますか?

石黒:私たちからはほとんど何も言わないことです。話を聞きながら、「それいいね」「すごいね」と、その人独自の感覚を褒めたり、考えを面白がったりしていると、彼・彼女しか持っていない言葉や気づきが出てきます。自分の力で、自分の想いに気づいて、自然と答えを見つけていく。こうしたコミュニケーションを続けていると、例えば、以前は「面倒くさい」を口癖にしていた高校生が、「今度、これをやってみたいと思ってます」とか、「今これが気になってるんです」と教えてくれる。そういう変化が見えると、嬉しくなりますね。

中竹:「こうしなさい」みたいなことは言わないのですね。

不安を受け入れて人生や社会の不確実性を面白がる

石黒:まったく言いませんね(笑)。誰かから「こうしなさい」と言われること、あるいはアドバイスや正解をもらうことは日々、ありすぎるくらいだと思います。そうではなくて、彼・彼女らが自分の思っていることをそのまま誰かに伝えることや、それについて深く問われるような機会が大事だと思うんです。その機会を得たことのある若者は、すごく少ないですから。そうやって、自分の想いを誰かに話すことが、自分の大切にしたい何かに気づく第一歩になっていくのだと思います。

中竹:悩んでいるっていうことは、多分、その後ろに悩ませる親とか教師がいるわけじゃないですか。その人たちに直接何か言えるとしたら、何と言いたいですか?

石黒:「大丈夫だよ」っていう一言だと思いますね。「不安だと思いますが、まあ、何とかなると思いますよ」と。

中竹:いや、私は、ここだと思いますね。大人たちは、この言葉に深く耳を傾けた方がいい。大人たちは、我が子や若者たちが大丈夫だ、何とかなると思えないからこそ、自分自身が不安に駆られて、よかれと思って、自分たちの規範を若者に押し付けてしまうのですから。

石黒:ほんとですね。大人の皆さんが、よかれと思って正解みたいなものを押し付けてしまう瞬間というのは、実は大人自身が一番不安を感じているんだと思います。そして、その不安を少しでも解消するために、多少なりとも子どもの将来に安心感を持たせたいという、不確実性への対抗なんだと思います。でも、子どもや若者にそういう気持ちで接していると、彼・彼女らも不安になってしまい、不安や他者評価を源泉にして受験勉強や就職活動を頑張ってしまう。これでは「負のループ」に入ってしまいます。

不安に対抗する一番の方法は、不安を消すのではなく、それを受け入れて、その不確実性を面白がることだと思います。青春基地のビジョンも、まさに「想定外の未来をつくる」なんですけど、そもそも将来や未来というのは不確実性でしかないと思います。そこを楽しんでいると、次第に不安は消えてくる。そういうふうに、みんながのびのび生きていけたらといいなあと思いながら、日々学生に接しています。

「こんなに生徒たちに任せるんですか?」

「こんなに生徒たちに任せるんですか?」1

桑原:その考え方は、どこで学んだのですか?

石黒:自分の経験から来ていると思います。大学3年生のときに青春基地を立ち上げて、そのまま就職せず、NPO法人というリスクある領域にどっぷり浸かっていますが、実は大学では就職を考えた時期もあったんです。一気に押し寄せる就活モードの波のなかで、周りから「就職した方がいい」と何度も言われて、「その方が安定していてよいのかも」と思うようになりました。いったんその思考パターンに入ると、他者との比較や評価の言葉がどんどん気になるようになります。気にすればするほど、NPOと就職の間で、進路を迷うようになりました。でもあるとき、ふと「今の状態は楽しくない」と思ったんです。じゃあ、自分が一番楽しい瞬間はいつなのか。それは、他者評価ではなく、自分の好奇心の赴くままに探究しているときでした。それで、好奇心を原動力にして行動を起こす方に、つまりNPOの方に振り切ったということがありました。

ただ振り返ると私の場合は、小さな頃にいろんな経験をさせてもらえるシュタイナー学校に入ったり、高校時代には学外でソーシャルベンチャーなどで働く素敵な方々に囲まれて、さまざまなところに連れて行ってもらったり、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)という素晴らしい環境に出合えたりしたことが大きいことも確かです。
自分の力で不安に立ち向かうには、自分のなかにある内発的動機が育まれているかが大きいと思っていて、そうした経験を積み上げていくには「関係性の豊かさ」が重要だと痛感しています。生まれ育った環境は変えられないけれど、日々の環境は変えられる。その環境づくりとして、今注力している試みが、公立高校での学校改革です。

桑原:公立の学校でのトライに大きな意義を感じます。具体的に教えてもらえますか?

石黒:先ほどのような経験が一番できる学びのスタイルが「PjBL」だと思っていて、今年度から、渋谷区の公立高校・都立第一商業高校で3年間のプロジェクトが始まりました。1年目の今年は、1年生を対象に全12回のプログラムを行うのみですが、来年度からは1、2年生対象に、通年・週2コマのプログラム導入を考えています。つまり生徒は一人当たり年50時間ほど青春基地の授業を受けることになります。

ワンショットの授業だけでは限界があるので、これから3年間、毎週学校に青春基地がいることになります。学校のなかで、先生以外の大人や大学生に接するのが当たり前という新しい学校の風景をつくりたくて。学校が位置する渋谷は、「ちがいをちからに変える街」を掲げていて、面白い産業とかカルチャーが豊富な特殊なエリアだと思っています。そのなかで、いろんな切り口から、生徒の好奇心をかきたてたいです。今年は、自分が会いたい人を大学生や大人との対話のなかで出してもらって、自分で企画書を書いて、実際に教室から外に飛び出して取材してもらうというのをやります。大学生と社会人の皆さんと、それから地域のNPOやソーシャルベンチャーの人たちにも、「一緒に力を貸してください」と、四苦八苦して声をかけながらやっています。

中竹:すごいですね。どうやってそのプロジェクトを始めたのですか?

石黒:実は、その学校の先生たちから、直接お声がけいただいたのです。先生たちは「今の生徒たちは総じておとなしくていい子だけど、意欲や気力があまり感じられない」と、危機感を抱いていました。でもどうしていいか分からず困っていらして。時代の変化を感じるなかで、正解を教え続ける授業をしていても、子どもたちはついてこないし、全然気力も意欲も上がらない。学びのモチベーションや自信を何とかしたいと思っていたときに、たまたま声をかけてくださったのです。

中竹:先生たちは、学校プロジェクトについてどう言っていますか?

石黒:最初は「こんなに生徒たちに任せるんですか?」「生徒たちが自発的に動くのを、ここまでじっと待つんですか?」と言われました。

桑原:その先生たちの気持ちは、企業のマネジャーたちも同じです。マネジャー世代は、周囲からの厳しい指導や失敗経験で育った人が多いこともあり、同じことをメンバーにも経験させてあげようという思いがあります。なので、メンバーの考えや思いを尊重して任せきるというよりも、よかれと思ってさまざまな指示や要望をしてメンバーを動かそうとします。一方で、そのやり方に限界も感じていて、悩んでいる人が多いのです。おそらく高校の先生たちも一緒なのだろうと思います。石黒さんは、その先生たちとどう認識合わせをしていったのですか?

石黒:「気持ちはよく分かりますが、ぐっと我慢して、一切手を出さずに生徒たちを見守っていただけますか?」とお伝えしています。生徒たちがプログラムのなかで少しずつ変化するのを見ているうちに、「最初はどうなることかと思いましたけど、ちょっとだけ分かった気がします」と、ポジティブな感想を話してくれたりしています。

中竹:生徒たちはどう変わっていくのですか?

石黒:いろんな変化があると思いますが、一人ひとりの個性やキャラクター、趣味など、多彩な表現やクリエイティビティが現れてきます。高校生は変化がものすごく速くて、何かしらきっかけをつかむと、数日であっという間に一変することもあります。例えば、今までクラスではほとんど一言もしゃべらなかった生徒が、この授業ではどんどん発言するということがありました。先生が3年間一緒に過ごしてきて、一回も聞いたことがなかった想いや趣味の話が、ポロポロ出てくることもよくあります。そういう瞬間を見れると、「あ、やっぱり今までのスタイルでは見えない部分があるんだ」と感じて、面白がってくれる先生が出てきますね。

桑原:企業のマネジャーからは、「多くの人に本当にあてはまるのか? やりたいことなんてなくて、指示しないと動かない人の方が多いのではないか?」という不安の声が上がりそうですが、どう思いますか?

「こんなに生徒たちに任せるんですか?」2

石黒:やりたいことは、それを表に出す瞬間がなかったから見えないだけで、ちゃんとあるんですよね。かなり埋もれている人、忘れている人、本当にない状態に見える人もいます。でも、人は一人ひとり生きている以上、それぞれのテーマがあるので。それは趣味という形だけじゃなくて、人間関係に悩んでいるからコミュニケーションについて考えたい、という場合もあります。プレッシャーにならない形で、むしろ雑談みたいなものとしてずっと聞いたり、話したりしていくと出てくると思います。1回でポンというのは難しいですし、話してすごく伸びる人、ゆっくりな人、なかなか開かない人がいるというのは、間違いなくありますけど。

桑原:大人が、ある程度話しただけで、「やっぱり、ないんじゃないか」と思った瞬間から、可能性が閉ざされてしまうのですね。

石黒:そうですね。まさに教育というものは、誰かの可能性を引き出していくものであって、答えを出すとか、何か判断するとかいったことでは全くないと思うので。本当に、それはすごく大事だと思います。

それから面白いのは、高校生だけでなく、彼・彼女らと対話していると、大学生や社会人たちも変わっていくことです。私たちにとっても、自分の人生を考えるいい機会になるんです。例えば、中高時代ではずっと勉強漬けで、勉強時間を捻出するために、食事中に首からストップウォッチをかけ、ご飯を食べる時間を1秒でも短くする努力を重ねてきたという大学生インターン生がいました。ストイックに社会の評価基準に沿ってきた彼女は、青春基地に参加した当初、そのゆるい雰囲気にかなり動揺していました。過去の自分と、目の前のコミュニケーションに板挟みになりながらも、最後は自分で、自分の想いに気づき、とても大きく変わったなあと感じています。今はのびのびしているというか。

言い換えると、青春基地は、高校生も大学生も大人たちも、関わる全員が自分のありたい姿を見つけていける「学びのコミュニティ」になりつつあると感じています。今後、この方向性をもっと推し進められたらと思っています。

むしろいい時代に生まれたと感じている

中竹:ところで、20代前半の石黒さんから見ても、今の高校生は違うんですか?

石黒:全然違いますね。特に違いが大きいと感じるのは、今の高校生たちがテレビというマスメディアを見ないことです。私たちのときはまだ「月9」のような言葉が生きていて、月9は毎週見ておかないと、教室で話についていけないところがありましたが、今は月9という言葉を知らない高校生も多いんじゃないですか。
つまり共通の話題を共有しなければならないという文化が薄くなっている気がします。例えば「韓国人の読者モデルの●●さんが好き」といった感じで、各人で自分の好みや趣味を深く追求している人が多いように感じます。つまりインターネット社会は、一人ひとりが「好き」を追求しやすい社会なんだろうと思います。

だからこそ、私は高校生のインスタグラムなどを見ながら、彼・彼女の「好き」を引き出していくようにしています。好みや趣味をきっかけに始まった対話から、本人の価値観や哲学のようなものが明らかになったり、自発的に何かを学ぼうとする意欲が出てきたりすることが多いんです。

ですから、ちょっと話を戻しますが、若手部下に任せられないマネジャーの方々が困っているのだとしたら、若手に一度、自分の好きなことやプライベートのことを話してみてはいかがでしょうか。そうしたら、若手社員も心を開いてくれるのではないかと思うんです。

中竹:そのとおりですね。大人は若者が「何を考えているのか分からない」とか、「上司や先輩のところに相談に来ない」と思っていると話しましたが、それはきっと大人のせいです。大人が本音を言っていないから、若者も本音を話さないんです。普通に考えて、若者の方から先に本音を話すのは難しいでしょう。若者の本音を聞きたかったら、まず大人が本音を話す方が絶対にいいです。「あの人は本音言ってる。あ、本音言っちゃっていいんだ」みたいになりますから。

むしろいい時代に生まれたと感じている1

桑原:今は自分の発言がSNSですぐに拡散するなど、本音を話すリスクが高い環境であるため、すべての原因が若者にあるわけではないと思います。ところで、石黒さん自身は、こういう時代に生きていることをどう思っているのですか?

石黒:大人の皆さんは、「今の若者たちは不幸だ、大変だ」とおっしゃることが多いんですが、個人的には、むしろ心地いい時代に生まれたと感じています。実際、私自身がNPOを立ち上げたり、何か挑戦をするとき、反対や批判をされたことはほとんどありません。いただくのは応援ばかりなんです。それにプロボノや学生インターンの皆さんと一緒に仕事をしているため、基本的に夜遅くまで働いて、朝は極力10時までは仕事をしないと決めていますが、毎朝9時に出勤しなくても後ろめたさもないし、どうこう言われたこともありません。おそらく一人ひとりが自分のやりたいことを追求しやすい社会になってきていて、昔よりも今の方が自由があって、生きやすいのではないかと感じています。

桑原:青春基地には、大学生や社会人が応援しようとボランティアでたくさん集まってきてますよね。今の若者の私利私欲ではなく、「みんなで一緒にいいものつくろう」というマインドは、VUCAの時代に非常にマッチした素晴らしい特性だと感じています。

石黒:何というか、最近の価値観なんですかね。私のなかに1人で走っても、あまり前に進めないみたいな感覚がすごくあって。問題が複雑化しすぎてて、みんなでやっていかないと、突破できないと感覚的に思っています。それから学部時代の恩師も、ソーシャルセクターの先輩たちも、年が離れていても組織が違っても、この21世紀が抱えている社会課題に対して、繋がりながら一緒に解決していく、大先輩かつ同志であると思えていることもあるかもしれません。

桑原:青春基地のように、企業も若者の感性や価値観と、大人の経験やスキルを掛け算してコラボレーションしていけば、明るい未来になると思うので、ぜひ大人の皆さんにメッセージをいただきたいと思います。

石黒:今回の中竹さんや桑原さんのように、お互いに分かり合えないことを前提にして、下の世代の考えを面白がりながら、対話していけばいいんじゃないかと思います。「違和感がある」っていうのは、新しい発見の入り口だと思います。私も、高校生と話していて分からないことがあったら、よく「どうしてだろう?」と聞くようにしています。

これからは、こうやって積極的に下の世代と付き合っていかないと、どんどん世のなかが分からなくなっていく時代だと思います。私は60歳になっても、大学生たちと飲みに行きたい。時代の変化が早くて、大人になればなるほどアンラーンしなきゃいけないことが多いですよね。下の世代に対して分からないと感じたときに面白がって聞くのは、まさにアンラーンだと思います。

むしろいい時代に生まれたと感じている2

桑原:そういう意味では、大人の社会人が青春基地のような若者向けプロジェクトに入って活動することは、大人の学びにもつながり、ぜひ企業人もどんどん入っていくといいと思います。

石黒:学校という子どもの学びの機関と、人材育成とか、大学生の進路選択の起点が繋がっていく、この仕組みの輪はすごく大切だと思っています。この大きなパラダイムシフトが起きているなかで、いかに大人の皆さんが学べる環境をつくれるかということも、追求していきたいと思っています。

After the interview

今回の対談では、若者に対する見方や関わり方について、私たち大人がアンラーンしていく大切さをあらためて感じました。若者一人ひとりにはもっと可能性があること、もっと関心を持ってフラットに等身大で接していけば、一緒に想定外の未来がつくれること。若者当事者である石黒さんから大いに学んだ、まさにオトマナの場でありました。

若者はよく分からないという目線をいったん捨てて、大人はもっと若者の中に入り込んでいったらいいのですね。私もここ数年、大学や高校の学校教育の現場に足を運ぶようにしています。行って中に入ることで、石黒さんが話していることの実感値をたくさん持てました。若者の課題に目がとまりがちでしたが、可能性の方をたくさん感じることが増えました。逆に、大人が若者にできることも見つかりました。近くに行ってよく理解し合えれば、大人と若者は、お互いの強みを補い合える、とてもよい関係になれると思います。大人の皆さん、思い切って若者の中に飛び込んでみませんか。そこに、VUCAの時代を生きる大きなヒントがあると思います。

(リクルートマネジメントソリューションズ 主任研究員 桑原正義)

PROFILE
石黒 和己(いしぐろ わこ)氏
1994年愛知県生まれ。2015年、大学3年次にNPO法人青春基地を立ち上げる。中高時代はシュタイナー教育という教科書も試験もない自由な環境で過ごし、在学中に学校法人化を経験したことから、日本の学校教育に関心を持つ。学生時代は、文京区立の中高生向け施設「文京区青少年プラザ(通称:b-lab)」の立ち上げに参画。慶應義塾大学総合政策学部卒、現在は東京大学教育学研究科修士課程。2018年、第32回人間力大賞「全国知事会会長奨励賞」を受賞。

中竹 竜二(なかたけ りゅうじ)氏
(公財)日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター。株式会社チームボックス代表取締役。(一社)スポーツコーチングJapan代表理事。
1973年福岡県生まれ。早稲田大学人間科学部に入学し、ラグビー蹴球部に所属。同部主将を務め全国大学選手権で準優勝。卒業後、英国に留学。レスタ―大学大学院社会学部修士課程修了。三菱総合研究所などを経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督を務め、自律支援型の指導法で大学選手権2連覇など多くの実績を残す。2010年退任後、日本ラグビーフットボール協会初代コーチングディレクターに就任。U20日本代表ヘッドコーチも務め、2015年にはワールドラグビーチャンピオンシップにて初のトップ10入りを果たした。著書に『新版リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは』(CCCメディアハウス)など多数。

桑原 正義(くわはら まさよし)
1992年4月人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)入社。
営業、商品開発、マーケティングマネジャー、コンサルタント職を経て、2015年より、トレーニング商品の開発に携わる。「新人・若手が育つ組織づくり」を専門領域とし、10年以上にわたるコンサルティング経験の中で、今の時代で実効性のある育成ノウハウを構築。現在は、研究・開発の立場でさらに研究を深めつつ、ノウハウの体系化、汎用化に取り組んでいる。東京都公立幼稚園・こども園PTA連絡協議会副会長。

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

シリーズ記事

第1回 リーダーは学び続けるために弱さをさらけ出そう (中竹竜二×桑原正義)

第2回 若者の前線感覚と大人の知見を合わせれば、もっと面白いものが生まれる (立教大学 高橋俊之氏・舘野泰一氏×中竹竜二氏・桑原正義)

第3回 自分自身が学び、成長し続けることで人間力が磨かれる (「花まる学習会」代表 高濱正伸氏×中竹竜二氏・古野庸一・桑原正義)

第4回 自らの原点に回帰してイバラの道に飛び込めば、大人はいつまでも成長できる (加藤洋平氏×中竹竜二氏・桑原正義)

第5回 「かけがえのない自分でありたい」エゴが、これからの組織と社会を変えていく (今村久美氏×中竹竜二氏・桑原正義)

第6回 若者による若者の育成論「想定外の未来をつくる!」教育で学校教育を変えていく (石黒和己氏×中竹竜二氏・桑原正義)

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