調査レポート
【調査レポート】マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2024年
メンバーのやる気を引き出すマネジメントが重要視される
- 公開日:2024/09/30
- 更新日:2024/09/30
近年のビジネス環境の変化に伴う働き方に関する価値観の多様化は、企業の働き方改革や人材育成、採用活動などに大きな影響を与えています。このような環境において、業績達成はもちろん、最適な業務アサインや、メンバーの意欲を引き出しながらの業務遂行など、多くの役割を担う管理職層の現状や期待はどうなっているのでしょうか。昨年までに続いて人事担当者と管理職層を対象とした調査を行いました。調査結果をもとに、管理職層・マネジャーが置かれている状況や、今後の管理職層・マネジャー育成のポイントについてご紹介していきます。
昨年実施した同調査のレポートはこちらをご参照ください。
- 目次
- 調査概要
- 「次世代の経営を担う人材が育っていない」ことが企業組織課題の1位
- 管理職層にメンバーのキャリア形成支援の役割認識が高まる
- 管理職層は「メンバーの仕事に向けたやる気を高めること」を難しいと感じ、時間を使っている
- 管理職層の負荷を軽減させるため、業務の削減や効率化に向けたサポートを実施している
- 管理職層の関心は組織としての業績よりもメンバーの成果や成長に集中している
- 「メンバーの成長」と「職場のチームワークを高める配慮」に管理職として上手くいっている手応えを感じている
- まとめ
調査概要
企業の人事担当者および管理職層(マネジャー・課長・部長)を対象としました。
「次世代の経営を担う人材が育っていない」ことが企業組織課題の1位
人事担当者に会社の組織課題について尋ねたところ、割合が多い順に、1位「1.次世代の経営を担う人材が育っていない」、2位「2.ミドルマネジメント層の負担が過重になっている」、3位「3.新価値創造・イノベーションが起こせていない」という結果となりました。同じ設問に対する管理職層の回答は、1位「1.次世代の経営を担う人材が育っていない」、2位「6.中堅社員が小粒化している」、3位「3.新価値創造・イノベーションが起こせていない」でした(図表1) 。
<図表1>会社の組織課題
Q:下記の項目それぞれについて、あてはまる程度をご回答ください
(「よくあてはまる」「ややあてはまる」「あまりあてはまらない」「まったくあてはまらない」の4肢から単一選択)
※グラフの%値は「よくあてはまる」と「ややあてはまる」の合計値。
人事担当者、管理職層ともに、本調査をスタートした2020年から毎年割合が上位の「1. 次世代の経営を担う人材が育っていない」が1位に、また人事担当者では2022年の1位から2023年は5位に順位を落とした「3.新価値創造・イノベーションが起こせていない」が今回は3位となりました。
また、前回2023年の調査で初めて1位となった「2.ミドルマネジメント層の負担が過重になっている」は今年も人事担当者で割合が高く2位となっています。管理職層では「6.中堅社員が小粒化している」が2位に、「4.難しい仕事に挑戦する人が減っている」「10.新人・若手社員の立ち上がりが遅くなっている」が4位となっており、前回から引き続きピープルマネジメントが課題として認識されているようです。
次世代経営人材の育成やミドルマネジメント層の負担を組織課題と捉える人事担当者は、管理職層にどのような期待を寄せているのか、また、ピープルマネジメントに課題感を持つ管理職層が、どのような役割認識を持っているのか、実態を見ていきます。
管理職層にメンバーのキャリア形成支援の役割認識が高まる
人事担当者に「管理職に最も期待していること」(3つまで選択)を尋ねたところ、選択率1位の項目は、「1.メンバーの育成」でした。次いで、「2.メンバーのキャリア形成・選択の支援」「3. 業務改善」が続き、4位には同率で「4. 担当部署の目標達成/業務完遂」「5.部署内の人間関係の円滑化」が選ばれました。
一方、管理職層に「管理職として重要な役割」(3つまで選択)を尋ねたところ、人事担当者と同様に1位は「1.メンバーの育成」でしたが、2位「3. 業務改善」、3位「2.メンバーのキャリア形成・選択の支援」となり、「5.部署内の人間関係の円滑化」「4. 担当部署の目標達成/業務完遂」と続きました(図表2)。
<図表2>管理職に期待していること・管理職の役割
人事担当者へ Q: 管理職にどのようなことを期待していますか。お勤めの会社で、管理職に最も期待しているテーマを以下から選択してください。(3つまで)
管理職層へ Q:管理職としてあなたが重要だと考えている役割は何ですか。以下から選択してください。(3つまで)
これまでの調査結果と同様に「メンバーの育成」の役割認識は、人事担当者、管理職層ともに最も高くなっています。また、前回調査の特徴として人事からの期待が高まっていた「メンバーのキャリア形成・選択の支援」について、今回の調査では管理職層でも「目標達成」を上回る3位となり、メンバーのキャリア支援に対する管理職層の役割認識にも変化があったようです。
管理職層は「メンバーの仕事に向けたやる気を高めること」を難しいと感じ、時間を使っている
管理職層に、「日々のマネジメント業務で難しいと思っていること」および「日々のマネジメント業務で時間を使っていること」について質問したところ、いずれにおいても「1.メンバーの仕事に向けたやる気を高めること」「2.メンバーの育成・能力開発をすること」の選択数が多い高いという結果になりました(図表3)。
<図表3>
【管理職層】日々のマネジメント業務で難しいと思っていること
Q:日々のマネジメント業務で難しいと思っていることはありますか。以下からあてはまるものをすべてお選びください。(複数選択)
【管理職層】日々のマネジメント業務で時間を使っていること
Q. 日々のマネジメント業務でどのようなことに時間を使っていますか。以下からあてはまるものをすべてお選びください。 (複数選択)
難しいと思っていることでは、前回1位の「メンバーの育成・能力開発をすること」が2位に順位を下げた一方、前回5位の「メンバーの仕事に向けたやる気を高めること」が1位となり、選択率も56.0%と半数を超えています。転職や副業、仕事以外の生活の充実を求めることが当たり前の世のなかとなり、今いる職場にコミットさせることが難しくなっています。そのようなことが今回の結果の背景となっているのかもしれません。 また、上記のようなビジネス環境の変化に伴う働き方に関する価値観の多様化に加え、自分よりも年上のメンバーをマネジメントする必要があるなど、メンバーのキャリア形成や仕事へのやる気に関するお悩みは今後も増えていく可能性が高いでしょう。
管理職層の役割認識でも「メンバーの育成」や「メンバーのキャリア形成・選択の支援」が「担当部署の目標達成/業務完遂」を上回って選択されていましたが、難しいと感じていることについても前回3位の「自部署の業績・目標を達成すること」は同率5位となっており、管理職自身が何を重要と捉えるかにより、難しさを感じることも変化していることがうかがえます。
また、管理職層が難しいと思っていることで1位に挙がっていた「メンバーの仕事に向けたやる気を高めること」が、時間を使っていることでも最も多く選択されました。管理職層としてメンバーのモチベーションを上げる取り組みとして、例えば1on1ミーティングなどがありますが、メンバー1人あたり30分から1時間の時間を定期的に確保した場合、メンバーの人数によっては時間的な負担がかなり大きくなることが想像されます。
このように、管理職層にとってメンバーのモチベーション向上は重要なポイントであり、だからこそ、そこに時間を使っていることが分かります。
管理職層の負荷を軽減させるため、業務の削減や効率化に向けたサポートを実施している
人事担当者にすでに実施しているサポートと実施を検討しているサポートを尋ねたところ、約4割の企業が「A.上司や人事による個別サポート」「B.管理職の役割を認識してもらう昇格時研修」「C.メンバーの評価を行うための評価者としての研修」をすでに行っています。一方、実施率が29.3%にとどまった「H.マネジメントに関する外部のコーチによる個別コーチング」については、これから実施を検討しているサポートでは最も選択率が高くなっていました(図表4)。
<図表4>
【人事担当者】すでに実施しているサポートと、これから実施を検討しているサポート
Q:以下から、すでに実施しているサポートをお選びください。 また、これから実施を検討しているサポートをお選びください。(複数選択)
また、管理職層の負荷軽減のための取り組みとしては、約4割の企業で「ITツールの導入」や「無駄な業務や非効率なプロセスの見直しや改善」がすでに実施されており、「マネジメント業務の削減」がこれから実施を検討している取り組みで最も選択されています。マネジャーの業務を他の人に分散させるのではなく、まずは業務の削減や効率化によって負荷を軽減させる傾向があるといえそうです(図表5)。
<図表5>
【人事担当者】管理職の負荷軽減のために取り組んでいること
Q:以下から、すでに取り組んでいることをお選びください。また、これから実施を検討している取り組みをお選びください。(複数選択)
管理職層の関心は組織としての業績よりもメンバーの成果や成長に集中している
前回の調査では、「管理職になりたいという社員が減っている」という結果が印象的でしたが、今回の調査では、そんな管理職のポジティブな面を探るため、管理職層に「やりがい」「上手くいっている理由」「続けている理由」を質問しました。
管理職としてのやりがいでは、上位から「1.自分のメンバーが成果をあげたとき」「2.自分のメンバーが成長したとき」「3.自分のメンバーが生き生きと仕事をしているとき」の割合が高く、やりがいの中心がメンバーとなっていることが分かります(図表6)。近年1on1ミーティングを実施する企業が増えていますが、働き方に関する価値観の多様化やキャリア意識の高まりにより組織の求心力が下がるなか、「人を育てる」意識が管理職層にとって当たり前になりつつあることがうかがえます。
<図表6>
【管理職層】管理職としてのやりがい
Q:以下から、管理職としてのやりがいを感じることをお選びください。(3つまで)
「メンバーの成長」と「職場のチームワークを高める配慮」に管理職として上手くいっている手応えを感じている
管理職として上手くいっている理由では、「1.メンバーが成長してきているから」「2.協力し合える職場づくりをできているから」の選択率が特に高いという結果になりました(図表7)。前述の日々のマネジメント業務で時間を使っていることでは、2位が「メンバーの育成・能力開発をすること」、3位が「職場のチームワークを高めること」となっており(図表3)、時間を使って取り組んでいる「メンバー育成」と「協力し合える職場づくり」が、管理職として上手くいく理由にもなっていることが分かります。
メンバーとの1対1の育成に取り組むことは、管理職として当たり前のことと認識している人も多いと思います。そのうえで、職場のチームワークを高める働きかけにも目を向けることが、管理職としてより上手くいくポイントになるのかもしれません。
<図表7>
【管理職層】管理職として上手くいっている理由
Q:以下から、あなたが管理職として上手くいっている理由だと思うものをお選びください。(3つまで)
最後に、管理職を続けている理由(図表8)では、「1.給与・待遇面が優れているから」が1位となり、業務の難度や負担の大きさに対して、給与・待遇面での対価がないと続けることが難しい立場であると考えられます。また、2位以下は「2.自分の能力や適性が活かせるから」「3.自分が成長できるから」の順で割合が高く、これまでの結果を踏まえると、管理職層の仕事に対してある程度の手ごたえと適応感を持っているといえそうです。
<図表8>
【管理職層】管理職を続けている理由
Q:以下から、管理職を続けている理由をお選びください。(3つまで)
まとめ
昨年に引き続き、管理職層の過重負荷についての課題意識は上位に挙げられています。そして、本人としても負荷を感じている管理職層が、最も難しいと感じ、かつ最も時間を使っていることは、「メンバーの仕事に向けたやる気を高めること」でした。
背景にあるのは、慢性的な人手不足のなかで、今いるメンバーに最大限力を発揮してもらわなければ、組織としての目標を達成できない、という状況が想像できます。さらに、管理職層のなかで、メンバーのキャリア形成支援の役割認識がさらに高まっているのは、そうした状況において、メンバーが求めるキャリアと会社の意図とがすれ違った際に生じる離職リスクを最小限に抑えようという意図の表れと読み取れます。
このような背景から、メンバーと接することに重きを置き時間を費やしている管理職層が、やりがいとしてメンバーの成長や成果を挙げることは、ごく自然な流れなのかもしれません。
一方で、重要だと考えていることでは、担当部署の目標達成が5位に位置し、管理職としてのやりがいでも「自分が管轄する組織が、目標より高い成果をあげたとき」は4位とメンバー関連の項目に劣後しています。状況的に必要だからこそピープルマネジメントに時間を費やす、結果的にそれがやりがいに感じられてくる……という循環は一見するとポジティブな要素ですが、管理職として上手くいっている理由でも「メンバーが成長してきているから」と自己のマネジメントの評価指標もピープルマネジメントに偏りがちです。
ミドルマネジャーの役割は、仕事面でも人の面でも成果をあげることですから、管理職自身も、そしてそれをサポートする人事担当者も過度にピープルマネジメントに偏った着眼をしていないか?ということは、このタイミングで振り返ってもよいかもしれません。
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