- 公開日:2026/07/21
- 更新日:2026/07/21
日本の新卒採用市場は近年売り手市場が続いており、母集団形成・選考辞退・内定辞退に悩む企業は多い。このような状況において、企業各社が取り入れると良い観点として、本稿では、採用CXという考え方と具体的な打ち手について紹介したい。
近年注目されている採用CXとは
採用CXのCXとは「Candidate Experience(候補者体験)」の略で、カスタマー・エクスペリエンス(Customer Experience)とは異なる概念である※。
※カスタマー・エクスペリエンス(Customer Experience)との混同を避けるため、以後はCandidate Experience(候補者体験)のことを採用CXと表記する。
採用CXは、狭義には候補者が採用選考プロセスのなかで得る体験を指し、広義にはその過程を通じて候補者が抱く、選考そのものや企業に対する印象全般を意味している。採用CX向上の目的は、売り手市場における内定承諾率の向上といった短期的な採用成果にとどまらず、入社後の活躍や企業イメージの向上など、中長期的な影響まで多岐にわたり(図表1)、2010年代頃から欧米を中心にその重要性が提唱されてきた。例えば、2011年に非営利団体Talent Boardによって開始された「CandEベンチマークプログラム」では、採用CXに関する調査を実施し、評価基準に基づいて高い評価を得た企業を毎年表彰している。現在、このプログラムはSurvale社のもとで運営*1されており、これまでに世界各国から延べ2,000社超が参加している。さらに、米国産業・組織心理学会(SIOP)でも、2020年に採用CXに関するホワイトペーパーが公表*2されており、採用CXは研究領域においても重要なテーマとして扱われているといえる。
<図表1>採用CXイメージ

一方、日本で採用CXが本格的に注目され始めたのは2020年前後であり、欧米と比べると調査・研究の蓄積はまだ限定的である。日本の新卒採用には、新卒一括採用という独自性があるため、海外の知見を参考にしつつも、日本固有の実態に即した採用CXの調査・研究が求められる。
また、日本の新卒採用市場は近年売り手市場が続いており、2026年卒の大卒求人倍率は1.66倍*3と高止まりしている。さらに、採用を取り巻く情報環境も大きく変化しており、昨今はさまざまな媒体を活用した採用広報に加え、オンライン説明会や就職活動向けSNSの普及が進み、学生は企業に関する情報を大量かつ容易に収集できるようになった。その結果、学生が選ぶ企業の選択肢は広がり、そのなかで取捨選択を求められる状況となっている。新卒採用は、かつては企業が学生を一方的に「選ぶ」場として捉えられることも少なくなかったが、現在では企業と学生が互いに「選び」「選ばれる」*4場に変化したと捉えられている。こうした環境下で企業が学生から「選ばれる」存在となるためには、採用CXの視点を採用活動に取り入れることが不可欠といえよう。このような背景を踏まえ、本稿では、日本の新卒採用において特に重視すべき採用CXの観点と、実際の採用活動での採用CXの取り入れ方を考察していきたい。
採用CXの6つの評価観点
本稿では、採用CXを捉える観点を図表2のとおり6つに整理した。このうち「妥当感」から「誠実さ」までの観点については、欧米を中心とした先行研究や調査事例*5~8を参考に整理している。一方「参加しやすさ」については、既存の研究知見だけでなく、近年の日本の採用活動のあり方に対する問題意識も踏まえて観点に加えている。
<図表2>採用CXの6つの評価観点

昨今、選考辞退を防ぐ観点から「学生の負荷を上げないこと」が企業によって重視される傾向にあり、学生の間でも「タイパ就活」という言葉が使われるなど、効率を重視する採用活動・就職活動が広がっているように感じられる。確かに、新卒の就職活動では複数企業に同時並行でエントリーすることが一般的であり、さらに2026年卒では78.8%もの学生が本選考実施前のインターンシップに参加*9するなど、就職活動が早期化・長期化する傾向が見られる。したがって、学業に影響が出ることが懸念されるほど、学生は多忙になりやすいのが実情である。しかし、学生にとって就職活動は人生のターニングポイントとなる重要な機会でもある。そのような場面だからこそ、学生は企業に自分自身をきちんと見てもらい、適切に評価してほしいと考えているのではないか。実際、日本の新卒採用における採用CX調査を行ったところ、就職活動場面において「参加しやすさ」だけを重視しているわけではない、学生のリアルな姿が見えてきた。
調査結果:採用選考で企業に「誠実さ」を求める学生
ここからは、就職活動を終えた大学生・大学院生を対象に2025年に実施した「採用CX(候補者体験)に関する意識調査」*10を紹介する。採用CXのゴールは、前述したとおり内定承諾率の向上から企業イメージ向上まで幅広い。なかでも本調査では、選考プロセスにおける最も短期的な成果となる選考参加意欲に焦点を当てた。
まず、選考参加意欲に対する6つの評価観点の影響の大きさを確認したところ、図表3のような結果となった。
<図表3>選考参加意欲への候補者体験の6観点の影響〈単一回答/%〉
いずれの評価観点も重要ではあるものの、選考参加意欲が高まる方向で特に影響が大きかったのは、「誠実さ」「納得感」「実力発揮感」であった。一方、選考参加意欲が低下する方向で影響が大きかったのは、「誠実さ」「公平性」「納得感」であることが分かった。「参加しやすさ」の観点は“手間や労力”、“拘束時間の長さ”、“選考結果通知の早さ”の3つの観点の項目を用いたが、いずれも「誠実さ」「公平性」「納得感」よりも選考参加意欲への影響は小さかった。こうした結果からは、学生が単に選考の利便性だけを求めているのではなく、選考プロセスのなかで企業が学生ときちんと向き合い、納得感のある採否判断をしてほしいと考えている姿勢がうかがえる。
次に、こうした評価観点の背景にある学生の体験をより具体的に理解するため、選考参加意欲の上下に大きく影響した観点について、学生から寄せられたエピソードを見ていく(図表4)。
<図表4>選考参加意欲が実際に変化したエピソード
まず、「誠実さ」の観点に関して多く挙げられたのは、面接官や人事担当者とのやり取りなど、選考プロセスにおける社員との接点場面での体験であった。内容としては、個人面接の場面で面接官が学生の発言にしっかり反応してくれるといった、一見すると些細に思える出来事も多く含まれていた。しかし、こうした小さなやり取りこそが、企業に対する誠実な印象の形成につながっていると考えられる。一方で、選考参加意欲が下がったエピソードのなかには、示唆に富む事例も見られた。ある学生は、企業からの連絡が非常に早かったことを理由に、「自分のエントリーシート(以下、ES)を十分に読まないまま選考結果が出された」と感じたという。企業側としては、学生の「参加しやすさ」を高めるため、迅速な対応を行った可能性が高い。しかし学生側はそれを、企業の「誠実さ」が十分ではないサインとして受け取ってしまったのである※。
※なお、この事例について筆者は「誠実さ」を損なうエピソードとして分類したが、ESを十分に読まれていないにもかかわらず選考を通過したことによって、同時に「納得感」も損なわれていた可能性があると推察される。
このように、採用CXの各評価観点は、企業側の意図どおりに学生へ伝わるとは限らない。さらに評価観点同士がトレードオフの関係になる場合もあるため、設計・運用の際には注意が必要である。
続いて、各選考プロセスについて、6つの評価観点に基づき、学生に5段階で評価してもらった結果を図表5に示す。
<図表5>各選考プロセスへの候補者の評価
まず、選考参加意欲への影響が最も大きいと考えられる「誠実さ」の観点では、個人面接のプロセスが最も高い評価を得た。また、選考参加意欲に関するエピソードを見ると、意欲が「上がった」場合も「下がった」場合も、いずれも面接場面での経験が数多く挙げられていた。つまり、個人面接は学生の印象形成に強く影響を与えるプロセスであるといえる。インターネットやSNSを通じて、企業に関する口コミや評判などの情報を容易に入手できるようになったからこそ、実際に企業の社員と会話することでしか得られない個別の情報は、学生にとって特別な価値があるものと捉えられていると推察される。昨今はAIなどの導入により選考プロセスの効率化を検討されるケースも増えているため、もし直接接点の場面が今後さらに減少すれば、個人面接のような対面の価値は一層高まるだろう。
企業の採用CXへの向き合い方
ここまで、企業に対する学生の反応について、採用CXという観点から調査した結果を紹介した。では、こうした結果を踏まえ、企業はどのように採用CXを取り入れるとよいか。重要なのは、同じ評価観点のなかにも、選考参加意欲を上げる要因と下げる要因の両方が存在することである。自社の選考プロセスに選考参加意欲を下げる要因がある場合には、まずその是正に優先的に取り組み、その上で上げる要因の強化を図ることが望ましい。これは、EX(Employee Experience)の分野でも二要因理論として広く知られている、“どれほど動機づけ要因を高めたとしても、衛生要因が担保されていなければ従業員満足は得られない”という考え方と通じる。採用CXにおいても同様に、ポジティブな体験を強化する前に、ネガティブな体験を生む要因を取り除くことが重要である。こうした要因を整理するには、採用CXの6つの評価観点も参考にしながら、自社の各選考プロセスを点検し、改善につなげていくことから始めるとよいだろう。なお、調査結果からも明らかなように、特に着目すべきなのは、面接や人事担当者とのやり取りなど、対人接点が生じる選考プロセスである。このような場面における学生のネガティブな体験を見過ごさないことが、採用CX改善の出発点となる。
採用CXを高めるための企業の取り組み例
前章では選考参加意欲を上げる要因と下げる要因について言及したが、そもそも自社の採用活動が選考参加意欲を損なっているかどうかは、企業側には見えにくい場合がある。その場合は、まず学生の意見を聞き、現状把握から始める必要がある。ただし、採用選考の場面では、企業が学生から率直でネガティブな意見を引き出せるとは限らない。そこで弊社では、企業の内定承諾者や辞退者に対し、第三者の立場からアンケートやインタビューを実施するサービスを提供している。実際に過去の事例では、インタビューを通じて面接官の対応上の課題や、学生との接点のタイミングに関する改善点が明らかになったケースもある。このように、学生の声をもとに定期的に自社の現状について振り返りを行い、改善のサイクルを継続的に回していくことが、採用CX向上につながる。
<図表6>振り返りの観点例
また、学生の印象形成に強く影響する対人接点において、面接官や人事担当者の関わり方が重要であることは前述のとおりである。なかでも面接では、現場社員がその役割の一部を担う企業も多い。他方で、現場社員が当初から面接に必要な基礎知識を備えているとは限らないため、面接官の育成が重要になる。例えば、弊社で提供している面接官向けのラーニングコンテンツでは、学生が安心して選考に臨める場づくりのポイントとして、学生の話にしっかり耳を傾けることなど、「誠実さ」に通じる観点の重要性を扱っている。このような観点は、理解すれば比較的実践しやすい一方、十分に意識されていない場合は、無自覚のうちに学生の選考参加意欲を損なうおそれもあるため、面接前に体系的に学んでおくことが望ましい。
まとめ
ここまで、新卒採用において企業が学生から「選ばれる」ことがより重視される昨今の環境のもと、採用CXという候補者視点を主軸に企業の採用活動について議論を進めてきた。また、調査結果からは、学生が選考プロセスを通じて企業と対等に向き合い、自分らしさをきちんと見た上で評価してほしいと考えている姿も浮かび上がった。これは、学生が単に負荷の少ない選考を求めているのではなく、企業に対して適切な見極めを求めていることを示している。
一方で、企業における採用活動の本来の目的は、自社にとって優秀な人材を見極め、獲得することにある点も忘れてはならない。つまり、企業は学生から「選ばれる」だけでなく、自らも人材を「選ぶ」という視点をもち続ける必要がある。両立は難しいと感じる企業も多いかもしれないが、候補者を丁寧に見極めようとする姿勢が、対人接点を通じて学生に「誠実さ」として伝わり、結果として企業が「選ばれる」要素につながる場合もある。こうした点を踏まえると、「選ぶ」ことと「選ばれる」ことは対立概念ではなく、むしろ相互に補完し得る関係にあると考えられる。
*1 Survale. (n.d.). CandE Benchmark Research Program.
*2 Bauer, T. N., Truxillo, D. M., Sanchez, R., Craig, J., Ferrara, P., & Campion, M. A. (2020). What we know about the candidate experience: Research summary and best practices for applicant reactions. SIOP White Paper Series, Society for Industrial and Organizational Psychology.
*3 リクルートワークス研究所(2025)「大卒求人倍率調査(2026 年卒)」.
*4 リクルートマネジメントソリューションズ(2024)「RMS Message vol.76[2024 年11 月]」.
*5 Criteria Corp. (2022). 2022 Candidate Experience Report.
*6 Gilliland, S. W. (1993). The Perceived Fairness of Selection Systems: An Organizational Justice Perspective. The Academy of Management Review, 18(4), 694–734.
*7 Hausknecht, J. P., Day, D. V., & Thomas, S. C. (2004). Applicant reactions to selection procedures: An updated model and metaanalysis. Personnel Psychology, 57(3), 639–683.
*8 Schuler, H. (1993). Social validity of selection situations: A concept and some empirical results. In H. Schuler, J. L. Farr, & M. Smith (Eds.), Personnel selection and assessment: Individual and organizational perspectives. Lawrence Erlbaum Associates.
*9 就職みらい研究所(2024).「【2026年卒 インターンシップ・就職活動準備に関する調査】インターンシップ等のキャリア形成支援プログラムへの参加状況(9月時点)」.
*10 リクルートマネジメントソリューションズ(2025).「『採用CX(候補者体験)に関する意識調査(2025)』を発表」.
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.82 特集2「新卒採用における採用CX(候補者体験)とは」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
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執筆者

技術開発統括部
研究本部
測定技術研究所
研究員
甲斐 江里
SIer企業を経て2013年にリクルートキャリア(現リクルート)に入社。システム開発、商品プロモーション、アセスメント商品開発・運用保守に従事したのち、2023年より現職。

技術開発統括部
研究本部
測定技術研究所
マネジャー
渡辺 かおり
人材コンサルティング企業におけるアセスメントの開発・営業を経て、2007年リクルートマネジメントソリューションズに入社。アセスメント商品サービスの企画開発・メンテナンス業務、研究業務に従事。2023年より現職。
主に、個人と組織の適合、School to Work Transitionについての研究を行う。
立教大学現代心理学部兼任講師。
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