- 公開日:2026/07/27
- 更新日:2026/07/27
2026年、ロート製薬が「Entry Meet」という新施策を開始して話題になっている。新卒採用のエントリーシートによる書類選考を廃止し、代わりに一次選考として、人事担当者が応募者と対面で会うことから始める仕組みである。その意図や成果についてロート製薬株式会社 人事総務部 兼 広報・CSV推進部 藤原結衣氏、人事総務部 鍵谷幸輝氏に伺った。
15分間を全力で互いを知り合うことに使った
学生が企業の新卒採用に応募する際は、最初にエントリーシートを提出する。それが長年、日本の就職活動の当たり前になってきた。ところが2026年、ロート製薬はその当たり前をやめ、その代わりに「Entry Meet」という独自の施策を開始して、大きな話題を呼んでいる。
どのような施策なのか。「私たちもこれまではエントリーシートで一次選考を行っていました。しかし、2027年卒の新卒採用からエントリーシートを廃止し、その代わりに人事担当者が応募者と15分の対話を行い、一次選考とすることにしました。それがEntry Meetです。
具体的には、2026年1~2月に全国8拠点、13日程でEntry Meetを開催しました。エントリーは事前予約制で、準備する枠に限りはありますが、早くご予約いただいた方から優先的にお会いする設計にしました」(藤原氏)
提出する書類が何もないわけではない。「最初に本人の基本情報と、これまでの人生の感情的な浮き沈みをフリーフォーマットで表現する『人生グラフ』を書いてもらい、この2種類の書類を提出した人だけが事前予約できる仕組みにしました。書類選考は一切しておらず、エントリーして会場に来てくれた全員と対話しました」(鍵谷氏)
なお当日は、学生たちが滞在する「待合ルーム」を設け、自社製品や会社紹介パンフレットなどを用意した。「さらに、有志の社員たちが、待合ルームで待つ学生たちとコミュニケーションをとってくれました。自社の紹介をしながら、雑談を交わして学生たちを和ませてくれたのです。総勢50人ほどの社員が、自ら手を挙げて関わってくれました」(藤原氏)
エントリーシート作成にAIを使う学生が増えて選考が難航
Entry Meetを始めた背景の1つに、エントリーシートで選考することへの限界感があったという。「私は2025年4月から新卒採用担当となり、すぐにインターンシップのために大量のエントリーシートを読み込みましたが、選考が難しいことに気づきました。なぜかというと、多くの学生がAIを活用しているためか、エントリーシートが似通っているからです。だからといって、AIを禁止するのは現実的ではありません。私たちはこの状況で、エントリーシート選考を続けることに限界を感じ始めていました」(鍵谷氏)
皮肉なことに、業績の好調ぶりがその状況に拍車をかけた。「最近、ロート製薬は目薬だけでなく、『肌ラボ』や『メラノCC』など学生にとっても身近なスキンケアブランドの認知が高まっており、それにともなって新卒採用の応募者もどんどん増えているのです。結果的にエントリーシートで判断するのがますます難しくなり、学生と十分に向き合えなくなる恐怖すら覚えるようになっていました」(藤原氏)
さらに、現状の新卒採用に対する疑問や違和感も、原動力になったという。「私たちも学生たちも効率化に突き進んでいる新卒採用の現状が、学生の皆さんにとって本当によいのか。大勢のなかから選考し、お互いを理解するための時間が減ることで、結果として辞退率が高まってしまうのではないか。私たちは従来の選考にさまざまな疑問や違和感を抱いていました。これらを解消する第一歩として、Entry Meetをやってみようという結論に達した側面もあります」(藤原氏)
Entry Meetのような大胆な施策を彼らがすぐに実現できたのは、社風に依るところも大きい。「ロート製薬は『生コミ(生の対面コミュニケーションの略)』という社内用語があるくらい、対面コミュニケーションを重視しています。とにかく日々、直に会って話し合う組織なのです。新卒採用でも最終面接はオフィス内のソファ席で、ざっくばらんに対話するスタイルで行っています。経営幹部や部門長が、社内のオープンスペースで、学生たちと近距離で気軽に雑談するように面接するのです。このような社風ということもあって、今回私たちがEntry Meetを実施したいと提案したところ、経営層含めて『面白いね!』と後押ししてくれました」(藤原氏)
Entry Meetによって一次選考の精度が高まった
実際にやってみて、どうだったのか。「Entry Meetによって一次選考の精度が明らかに高まりました。昨年よりも、ロート製薬の価値観や社風にフィットする人、長く楽しく働いてもらえそうな人を選ぶことができたと感じています」(藤原氏)
なぜなら、たった15分の対話でも、エントリーシートより有益な情報を得られるからだという。「Entry Meetでは、人生グラフをもとに質問を投げかけ、相手の考え方を深掘りしていきました。そうすると、短時間でも相手の芯の部分が見えてくるのです。また、面接官と価値観が異なる可能性もあるなかで、そうした相手であっても自分自身のことを分かりやすく伝えられるかどうかを見ています。これは仕事においても重要な力です。そして、面接担当者間で、私たちが仲間にしたい人材像のすり合わせを丁寧に行った上で、面接に臨んでいます。何より、対面で会ってお互いにフィットする感覚があるかどうかを大事にしました。偶然ポロッと出た一言から人柄がにじみ出ることもありますし、会話が弾んで意気投合するようなこともあります。こうした体験は、AI面接とは異なる、対面ならではの醍醐味だと思っています。15分でもお互いのいろいろなことが分かるのです」(鍵谷氏)
Entry Meetは、学生たちの反応も良いという。「終了後に『楽しかったです!』と笑顔で帰っていく学生が何人もいました。待合ルームでの社員との会話が心地よく、おかげでリラックスして臨めたなどの声も多く耳にしました。自分の言葉で伝える場があることで、たとえ次に進めなくても納得感があると話してくれた学生もいました」(鍵谷氏)
Entry Meetを実施するのは大変ではないかという質問には、「移動を含めると私たちの工数は増えましたが、選考精度は明確に高まっており、増えた工数分の価値は十分にあると考えています。それに、エントリーシート選考のときはこれで本当によいのかと悩んでいましたから、精神的負荷はかえって減っています」と藤原氏は答えてくれた。
【text:米川青馬 photo:角田貴美】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.82 特集2「新卒採用における採用CX(候補者体験)とは」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
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