THEME マネジメント/リーダーシップ
リモート時代にマネジャーの時間の使い方はどう変わったのか

時間の使い方から見えるマネジャー業務のリアル
まず、時間配分の現状について確認しよう。今回、参加者には事前にアンケートに協力してもらった。マネジャーの主な役割といえる5種類の仕事に、それぞれどれくらいの時間を使っているかという質問に対する回答結果の平均値が図表1である。
<図表1>マネジャーの時間配分 平均値

5種類の仕事の分類には、先に弊社で実施した定量調査と同じ項目を使用している(「ミドル・マネジャーの役割に関する実態調査:時間配分の5タイプに見る管理職の役割変革 鍵となる組織サポート」)。
(1)業務マネジメント:業務の計画、割り当て、進捗管理、トラブル対応、問題解決など
(2)方針づくり:組織の方向性やビジョンを考え・提示する、戦略や戦術の決定や修正など
(3)部下マネジメント:方針や業務分担の意味を伝える、意欲や能力を高める、相談に乗るなど
(4)対外的活動:社内外のネットワーキング、情報収集、対外発信など
(5)プレイヤー業務
実態調査で601名が回答した結果の平均値はそれぞれ28.3%、16.5%、20.3%、12.3%、22.6%だった。傾向としては大きく異なっていないようだ。
ただし今回はあくまで16名のデータなので、ここからは、一人ひとり個別に見ていきたい。16名の回答を一覧にしたものが図表2である。時間配分はさまざまで、どの仕事に相対的に多くの時間を使っているかによって、5タイプに分類したものがグラフの左端に記したカテゴリである。
<図表2>マネジャーの時間配分 一覧

座談会当日、具体的な仕事内容を聞いたところ、このような時間配分になっている実情がよく分かった。簡単に仕事の内容を紹介しよう。
「(1)業務マネジメント」の割合が高かったのは、A(情報サービス/営業・サービス)、B(情報サービス/事業企画)、C(コンサルティング/コンサルタント)の3名である。Aさんは外資系勤務で各国に部下がいて、手続きの標準化などを行っている。Bさんは、部付企画部門のスタッフ業務で、専門性の高い部下が多いので、「(3)部下マネジメント」に使う時間は少ない。Cさんは、コンサルタントで日常的にプロジェクトベースで仕事をしている。
「(2)方針づくり」の割合が高かったのは、D(運輸/生産・物流企画)、E(通信・情報処理/商品企画)、F(教育・人材サービス/システム開発)、G(情報サービス/人材開発)の4名である。Dさんは専門性の高いメンバーと共に企画業務を進めている。Eさんは、着任して間もないため、方針を打ち出して思いを伝えながら関係構築をしているところだという。Fさんは新規事業の推進中、Gさんは新組織の立ち上げ途上とのことだ。
「(3)部下マネジメント」の割合が高かったのは、H(通信・情報処理/システム開発)、I(情報サービス/営業・サービス)、J(情報サービス/営業・サービス)の3名である。Hさんは自社、協力会社を合わせると70名くらいの組織をマネジメントしていて、「(1)業務マネジメント」も同率で高い。メンバーの心身の健康管理やコンディションのケアが大変とのこと。Iさんは着任したばかりで営業組織の職場づくりに注力、Jさんは若手が多い営業組織のためプレイングも含めた部下のバックアップが必要ということだった。
「(4)対外的活動」の割合が最も多かったのはK(素材/生産・物流企画)1名のみだった。Kさんは配下にチームを束ねるメンバーが数名いるため、実務上の専門領域はそのメンバーと部下たちに任せながら、職場内で各チームが自走する環境づくりや他部署との調整業務を行っている。
「(5)プレイヤー業務」の割合が高かったのは、L(コンサルティング/コンサルタント)、M(情報サービス/事業開発)、N(食品/事業開発)、O(機械/営業・サービス)、P(教育・人材サービス/事業開発)の5名だった。Lさんは顧客企業に常駐してのコンサルティング業務、Oさんは技術営業のプレイングマネジャーで、Mさん、Nさん、Pさんはいずれも新規事業開発をリードする立場である。
参加者の半数が増え、今後も増やしたいという「方針づくり」の時間
座談会の事前アンケートでは、新型コロナウイルス感染症拡大前と比較した時間配分の変化と、今後の希望についても聞いた(図表3)。
<図表3>マネジャーの時間配分 変化と今後の希望

以下、座談会当日に話された具体的なエピソードを交えながら、時間の使い方の変化と今後の希望について見ていきたい。
まず、「(1)業務マネジメント」の時間については、半数が増えていて、多くは今後も今のままでよいとの回答だった。テレワーク化にともなって業務フローの見直しや変更が発生したり、業務量が増加したりしたケースもあった。また、仕事相手が海外の会社である場合に、国によって好まれる通信手段が異なるなかで、コロナ禍で従来どおりのコミュニケーションができないことによる業務マネジメント難度の上昇などの話も聞かれた。今後の希望については特に明言されていなかったが、テレワークへの移行期における一過性の時間増だったり、業務遂行上は減らすことが難しかったりすることが推察される。
業務フローを変更しなくてはならない
海外の会社に対する業務マネジメント難度が上昇した
「(2)方針づくり」については、半数が以前と比べ増えた、今後も増やしたいということだった。新規事業、新組織立ち上げにあたって方針づくりの重要性をテレワーク下でいつも以上に感じ、すでに時間を割いている人もおり、また、これから注力していきたいという声もあった。方針づくりに時間を使えていない背景としては、コロナ禍で個別に判断することが増えたという業務マネジメントの増加や、同僚や上位者との方針・戦略に関する非公式な対話機会の減少などのエピソードが語られていた。
新規事業、新組織のため方針づくりの重要性を感じている
個別に判断することが増え、方針づくりに時間を使えていない
同僚や上位者と非公式な方針・戦略の話がしづらくなった
新規事業を担っているマネジャーからは、「(2)方針づくり」に加えて、「(4)対外的活動」についても共通したエピソードが複数聞かれた。平時以上に新規事業の立ち上げに際して、社内の既存事業との間の調整業務が増えてきているということだ。社内調整の時間を減らして、もっと顧客やマーケットの声に耳を傾けたいということだった。
新規事業と既存事業間での社内調整が増えている
また、コロナ禍で「(5)プレイヤー業務」が増加したというエピソードもあった。
プレイヤーとして業務が増加した
「部下マネジメント」は、約7割が増えたという実感
そして、16名のうち約7割にあたる11名は「(3)部下マネジメント」の時間が増えたと回答していた。時間が増加した感覚は、実際に部下のために使う物理的な時間が増えたということに加えて、目の前にいないことでいつも何かと気にかけていたり、部下の心身の健康に気を使ったりする心理的なものも反映されているようだ。
第1回レポートでも、テレワーク環境下における部下マネジメント上の課題について紹介したが、部下のコンディションの把握のしづらさ、背中を見せながらのOJTを実施することの難しさ、新規参入者の育成のケアなど、さまざまな不安・懸念事項が話されていた。そして、それらの課題を背景に、1on1などの対話機会を増やしたという声も複数聞かれた。リモートになったことで対話の時間が取れるようになったというエピソードもあった。また、物理的な会議室の制約がなくなったことによって、大人数での部会・朝会などの方針伝達、情報共有・交換する場をつくることができたというエピソードもあった。その半面、ちょっとした声掛けができないため、わざわざ会議設定をしなくてはいけないこともあり、部下との会議が隙間なく入ってしまって会議時間が増えたという話も複数名から聞かれた。
対話機会を増やした
直接の対話の機会を大切にしながら、それ以外の場でも、どうやって部下の悩みを解決するのかについても、意見交換された。部下同士のコミュニケーションで解決していく方法や、自主勉強会のようなお互い学び合う環境づくりなど、試行錯誤のプロセスについて共有があった。
部下の自律性・主体性についての意見交換
テレワーク環境下での部下マネジメントということでは、部下自身にもセルフマネジメントや自律的な職務遂行が求められる。弊社調査「テレワーク緊急実態調査【後編】:テレワークがあぶりだすマネジャー依存の限界と、自律・協働志向組織への転換」でも、自律支援型マネジメントが管理職の負担軽減、さらには自律・協働型組織への移行の鍵になることを明らかにしている。
本座談会でも、部下の自律性・主体性について日頃どう感じているか、それをどう促していくかについて、マネジャーの皆さんの生の声を聞いてみたいと考えた。当日意見交換されたなかから、いくつかエピソードを紹介したい。
リモートでプロセスを把握しづらいと、任せ方が難しい
自律的でモチベーションも高いが、チャレンジングな仕事の機会が減っているのが難しい
自律と管理のバランスが悩ましい
スキルや能力がともなった上での自律性・主体性なのではないか
本来の役割に集中するために、時間の使い方を変えるのはなかなか難しい
時間配分の希望について聞いてきたわけだが、どうしたら時間配分を変えていくことができるのか。それについても、いくつか意見が交わされた。上でも述べた、部下同士のコミュニケーションによる解決や部下の自律性などに加えて、そもそもマネジャーに求められていることは何かを上層部とすり合わせることが必要、制度や風土が変わらないと難しい、会社としても適正な採用・配置をしてほしいというような意見もあった。
経営からの期待とのすり合わせも必要。自分の意思だけで変えられるものではない
会社として適正な採用・配置を検討してほしい
この話をきっかけに、「パフォーマンスを出すために部下を育成をする、というのはどこまでがマネジャーの役割なのか」という悩みが共有された。「上司になったからなんとかしてと言われても結構困ることがある」という話や、外資系企業でのジョブ型雇用との違いにも触れながら、意見交換がされた。それに対して、「部下のスキル自体を自分に与えられたリソースだと捉えたときに、部下の何を伸ばすかという方向性と成長の角度について、上層部と合意を取り付けることがスタート。業務遂行に必要な力まで早く引き上げる、自分より優秀な人材を早くつくるという視点で考えておくのが育成なのではないか」というような考えも紹介されて、問題提起してくれた方からも、「育成と一言で言ってもいろいろあって、現場では短期、即戦力でないことに困っているのに、中長期の育成目標を問われることに疑問を感じていたので、自分の悩みがクリアになった」というような感想が交わされた。
座談会では、マネジャー同士が日頃思っていても口にできない悩みを共有でき、お互いに自分だったらこう考える、こうしているというような創発的な対話が多くなされていた。座談会に参加した感想としても、「マネジャーはできてあたり前という感じで、迷っていることやできていないことを話せる機会があまりなかった。内省して気づきが得られたよい機会になった」「自分が見えている範囲のなかでうまくやっているように思っていたが、いろいろな違った立場の人の話を聞いて、視点を変えることができた」「自分は論理的なゴール設定に偏っていたかもしれない。メンバーへの配慮や納得感などに今後はもう少し重きを置きたい」「目の前の対応に追われていたが、メンバーや事業の成長について考えていこうと思った」などと語っていただいた。
次回のレポートでは、第1回、第2回で紹介したマネジャーの課題感や実態の話をふまえて、リモート時代にマネジャーが役割遂行していく上での解決の糸口を提示していけたらと思っている。
マネジメントスタイルの変革についてはこちらの特集で詳しくご紹介しています。
バックナンバー第1回 リモート時代にマネジャーが直面している課題とは
- リモート時代にマネジャーの時間の使い方はどう変わったのか
- 時間の使い方から見えるマネジャー業務のリアル
- 参加者の半数が増え、今後も増やしたいという「方針づくり」の時間
- 「部下マネジメント」は、約7割が増えたという実感
- 部下の自律性・主体性についての意見交換
- 本来の役割に集中するために、時間の使い方を変えるのはなかなか難しい
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